２０１５年０６月０６日・始まりの日
９年ぶりに僕に届いた父親からの手紙に書いてあったのは、ただ「来い」の一文字だった。
１４才の誕生日に、僕は自分を捨てた父親に会いに行く・・・・僅かばかりの希望を持って。
（・・・父さんが呼んでくれた、父さんと一緒に暮らせるんだ！！）
（僕は、いらない子供じゃ無かったんだ・・・・）
（父さん、僕にあったら何て言ってくれるかなぁ。）
父の住む街へ向かうリニア・トレイン・・・・
青を基調にした内装の車両内には、少年の他に仕事先へと向かうビジネスマンや
親子連れ等の乗客が、７～８人乗っていた。
振動もなく走るリニアトレインが箱根トンネルに入る。
パッパッパッ・・・
光が瞬いたかと思うといきなり、車内の照明が消えた。
何か引っ掻くような音が聞こえる・・・・ギリギリガリ・・・
僕は悲鳴をあげていた。
「うわぁ～」
「耳が痛い・・・」
「頭が割れる！｝
まるで、歯の神経を削られる様な痛み・・・・
いきなり、眼に入る光芒・・・
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い・・・・・」
「眩しい・・・・・」
「あ・・・・」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」
人の声、喧噪・・・
ざわざわざわ。
口の中に違和感を感じる。
ジャリジャリジャリ・・・
口を開くと、熱気と乾燥した空気が入り込んでくる。
「ごほごほごほ・・・」
目に映ったのは、見知らぬ景色。
「ここ、何処？」
どんよりと曇った空。
中世風に見える様式の建物、尖塔が立ち並ぶ異国の風景。
呆然とする僕・・・
整然と整えられた石畳、石造りの建物・・・
しかし、僕の見慣れた鉄筋コンクリートの建物やアスファルトで舗装された道は
一つも見あたらない。
道を行くのは、馬車や馬、また様々な鎧みたいな物に身を包み、とても僕の手では
持ちあげる事すら出来ないような無骨な剣や棘の付いたハンマーらしき物を持った
筋肉の固まりの様な男達。
道行く人々の声が聞こえる。
「○￡▼※＊♂、×℃▼↑７∀∋たお≫∠した∂だぜ。」
道の隅に座り込んで、聞いていると何故か段々意味が分かってきた。
「俺なんか、今日はWere Tiger共の頭を５匹は潰してやったぜ。」
「なに言ってやがる、おれはなぁ・・・」
「・・・まあ待て、酒場に行ってからゆっくり話そうぜ。」
次々と、未だ血糊がベットリと付いた棍棒などを持った男達が通り過ぎて行く。
殺伐とした雰囲気、間近に感ずる戦いの気配。
風に乗って流れる、血と殺戮の臭い。
「・・・嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。」
「だれか、助けてよぉ・・・・」
「どこかに、逃げなきゃ・・・」
「・・・でも、何処に？」
僕は、其処から動きさえしなければ何とかなるかの様に蹲ったままブツブツと呟いていた。
いきなり、僕の上に影が差す。
頭を上げると其処には同じ紋章を刻んだ鎧を着込んだ二人の男。
「おい、小僧、鑑札をだしな。」
「冒険者ならば持っているはずだ。」
驚いて、声が震える。
「だ、だれ？」
「なに、惚けてやがる。」
「・・・おい、こいつどこからか入り込んできた浮浪児じゃないかぁ。」
「こんな、ひ弱な奴が冒険者のはずが無いだろ。」
「なんか、見慣れないが結構いい仕立ての服を着ているぜ？」
「盗んできたに決まっているだろ。」
僕は乱暴に少年を引き起こされた。
「おい、糞餓鬼・・・おめえらみたいな泥棒の浮浪児どものせいで俺たちゃ大忙しなんだよ。」
「・・・泥棒なんかじゃない。」
ドカ、バキ・・・
痛い、・・・・・口の中に血の味、頬に感じる冷たい石畳の感触・・・殴り倒されたんだ。
「おいおい、あまりやりすぎるなよ。」
「折角、鉱山に送っても直ぐダメになっちゃうぜ。」
「・・・どうせ、こんな餓鬼鉱山送りになっても三日と持つもんかよ。」
「・・・・いま、ぶち殺された方が幸せかも知れないぜ。」
「おいおい、死体の始末が面倒だろうが。」
朦朧とする意識の中で聞こえる声。
（あぁ、僕は死ぬのかな・・・・死にたくない・・・）
血だらけになって意識を失った少年をずるずると引きずっていく衛視達。
気が付くとそこは見知らぬ天井・・・
「知らない、天井だ・・・」
体を起こすと、据えたかび臭いにおいが籠もった部屋。
前に住んでいた所と同じくらいの６畳ほどの広さの部屋。
今まで寝ていたベッドを見ると硬い木で出来ていて上に藁束が積まれシーツが
敷かれている。
天井からは煤けたランプがぶら下がっていて、板で覆われた窓の側には
小さな書き物机が置いてある。
反対側には、扉が一つ。
ギィィィ
扉の開く音。
慌てて身構える僕の目に映ったのは、お盆を持った長身の青年。
２０才位の外見で、切れ長の瞳、なぜか耳が鋭角に尖っている。
「やあ、気が付いた様だね。」
「一応、手当はしたけれど」
「・・・あなたは、誰です？」
「此処は、何処です。」
「おや、覚えていないのかい？」
「ここは、私の家だ。まあ少し狭いけどそこは勘弁してくれないか。」
記憶の中で、微かに聞こえていた声。
・
「待ってくれないか、その子は私の知り合いでね。」
・
「来たばかりで此方の規則を良く知らなくてね。」
・
「まあまあ、これは酒代代わりだ。」
・
「良く言い聞かせておくから、今回は見逃してくれないかい。」
・
・
・
もしかして、助けてくれたんだ。
「あの・・・」
「なんだい？」
「有り難うございます・・・助けてくれて。」
「いやなに、礼には及ばないよ。」
「此方も君にちょっと興味があってね。」
「まあ、詳しい話は食事の後にしないかね。お腹が空いただろう？」
僕を助けてくれた青年はニッコリ笑って僕の前にお盆を差し出す。
乗っているのは、湯気を立てている白いポタージュみたいな物と硬く焼いたパン。
ぐぅぅぅ～
食事の臭いを嗅いだら忽ちお腹が鳴り出した。
なんだか、頭にも血が上ってきたみたいだ・・・
（でも、僕に興味があるって何のことだろう。）
食事の後に色々な話をした。
僕の名前が「碇シンジ」と言う事。
助けてくれた人の名前は「アーミット・レイズ」さんと言って、魔術師（Mage）をやっている。
魔術師・・・・まさか、本当にそんな人が居るなんて思ったこともなかった。
アーミットさんは、召還術とかいうものを研究しているといっていた。
なんでも召還に応えて、やって来たモノ（DemonとかAngelとか結構物騒な？連中を呼び出す？）
の気配に僕の気配がよく似ていたそうだ。
僕が異世界から来たらしい事を聞くと何か嬉しそうだった？
なんでも、これで研究が更に進むらしい。
（なんか、モルモットになったかの様な気分だけど、彼を頼るしかないのも事実だ。）
僕が、帰る方法はよく判からないそうだけれど・・・。
因みに彼は、Elfという種族だと言うことだ・・・やっぱり良く判らない。
２日目
この世界は、エセルナートというらしい。
この街は、リルガミンといって”トレボー”という王様に納められている城塞都市だ。
王様は、周辺諸国を片端から攻め滅ぼして一時は半島全土を統一するところまで
行ったそうだけど
腹心の魔導師が偉大なる力を秘めた”護符”を盗み出して地下に籠もってからは
戦争も降着状態だという事だ。
その情け容赦の無い遣り口に王様は”凶王”とか呼ばれている。
半島と言っても、インドより少し大きい位の面積があるみたいだ。
この街に住めるのは、街の住民か”護符”を取り戻すために各地から集まった
冒険者と呼ばれる人達だけで、その他は問答無用で南の鉱山に送られて
一生強制労働になるそうだ。
話を聞いて僕はぞっとした。
アーミットさんが助けてくれなければ今頃・・・・
その日の晩はずっと震えが止まらなかった。
３日目
話を聞いてみると、どう考えても中世のヨーロッパ風なのに魔法という要素があるために
僕らの世界の技術では出来ないことすら可能になっている。
一番驚いたのは、死んでも寺院に行って莫大な寄付をすれば生き返る事も出来ると言うことだ。
死んだ母さんが此処にいたら、生き返って僕を抱きしめてくれただろうか・・・
父さんみたいに僕を捨てないで・・・・・
７日目
アーミットさんが調べてくれた結果、僕が帰れる方法は見つからないそうだ・・・
唯一可能性があるのは、魔導師（Werdnaとかいう人）が持ち去った”護符”の力を借りれば
或いは・・・・と、いう事だった。
なんでも、僕が此処にいるのは偶然じゃなくて何かの力が介在しているらしい。
確実ではないが、状況が進展する可能性があるのは”護符”しかないという事だ。
でも、その為には地下奥深く潜って色々な怪物と戦って、魔導師の元に
辿り着かなければいけない。
そんな事が僕に出来るんだろうか？
１０日目
僕は、冒険者になることにした。
帰って、父さんが本当に僕を捨てたのか聞かなきゃいけないから。
父さんの手紙は机の引き出しに大事に仕舞った。
「来い・・・」としか書いていない手紙、でも僕にはたった一つの僕がいた世界との絆だから。
アーミットさんは、
「今のままじゃ、冒険者として遣っていけるほど体力が無いから少し鍛えないとね。」と
にこやかにいった。
その日から、50ｍ位先の井戸に水汲みに行っていたのが、500ｍ先の井戸になった。
少しでも遅れると、また汲み直しになり、薪割りも僕の仕事になった。
１２日後
何度も血豆が出来て、その上からまた肉刺が出来る・・・
最初は手足の筋肉はパンパンに張って痛くてとても寝られなかった。
でも、アーミットさんの調合した薬を飲むと何故か朝には快復していた・・・
「薬に頼ると自然治癒力が落ちるから、あまり良くないんだけれどもね。」
「でも、あまり時間がない様な気がする。」と、彼は言っていた。
４５日後
水汲みの井戸が、10km離れた場所でも平気になり、毎日５千本の薪を割れる様になった頃。
アーミットさんがいきなり言った。
「そろそろ、良いかな？」
「まだ、不安だけれども基礎体力作りに余り時間を掛けても仕方がないし。」
「後は、実戦で鍛えるしかないね！」
「明日は、訓練場に行ってみるかい？」
僕は、答えた。
「はい、宜しくお願いします。」
訓練場と言うのは冒険者としての特性を調べて職業を決める所だ。
冒険者には、以下の職業（Classes）がある。
戦 士（Fighter） とにかく、潰して殴って斬る・・・破砕機
盗 賊（Thief） どんな罠でも一発解除、開けないモノは無い、完璧な七つ道具
僧 侶（Priest） 痛いの痛いの、飛んで行け～。死者すら起こす万能目覚まし
魔術師（Mage） 焼き尽くすのも凍らせるのも思いのまま、万能家電製品
君 主（Load） 斬るのも直すのも自由自在、万能十得
侍 （Samurai） 斬って、焼いて、グリルして一家に一台万能かまど
忍 者（Ninja） 如何なるモノも微塵切り、最凶の刃物
僧 正（Bishop） 全てのモノをも一発で見抜く、万能分析機
説明を僕なりに付けてみたら、何がなんだか解らなくなった？？
だけど、家事をするのにはどれがあっても便利そうだね。
SamuraiとかNinjaとかって何だろう？？？
何でも、東の方に”ヒノモト”とかいう島国があってそこから伝承したらしい？
この世界にも、日本みたいな国があるんだろうが？
４６日後
アーミットさんと訓練場に行った。
あれだけ鍛えたはずなのに未だ足りなかった様だ。
僕が選べるのは、ThiefとPriestだけだった・・・
アーミットさんがときたま魔法を使うのを見ていた僕は迷わず、魔法が使えるPriestを選んだ。
なんか、魔法が使えると便利そうだし、盗賊という語感が気に入らなかったから・・・
あとで、アーミットさんに話したら怒られた。
「どんな、職業であろうと生き残るために必要な大事なものなんだ。」・・・って。
でも、多少の怪我ならば自分で何とか出来てそこそこ戦えるPriestならば
そう悪くないって笑っていた。
その後、商店で買い物をした。
”ボルタック商店”といって武器や防具その他冒険に必要な物を一括して扱っている店で、
店主はズングリムックリしたビア樽の様な背の低い髭もじゃの中年男だった。
なんでも、Dwarfという種族らしい。
買い叩く時は安く、売り付ける時は高く・・・あんまり阿漕なので影で”ボッタクル商店”とか
呼ばれているらしい。
（でも、語呂合わせが日本語に聞こえるのだけどなぜだろう？？？）
その店で、武器と防具を揃えた・・・
訓練場で貰った支度金の金貨（100gp）を使おうとしたけれど、とても足りないだろうからって
アーミットさんが払ってくれた。
冒険者になったお祝いとの事だ。
たぶん、鍛えてなかったら今日買った防具だけでも一歩も動けなくなったと思う。
もっともっと、鍛えないと・・・・。
「逃げちゃ駄目だ・・・いや、逃げ出せる場所なんか無いんだ！」
「必ず、帰るんだ！！」
それと、お世話になりっぱなしで、いつかお礼が出来ると良いけれども。
その日、僕は駆け出しの冒険者になった。
Level.1 Priest 使用可能呪文：Dios（一寸だけ体力回復）
Kalki（祝福により一寸だけ敵の攻撃が当たり辛くなる）
Milwa（周りを一寸だけ明るくする）
Porfic（自分自身の周りに空気の盾を作って防御）
武 器・防 具 ：Mace（当たると痛い棘付き棍棒）
Breast Plate （やや、頑丈な胸当て）
Small Shield（小さな楯）
その他 ：Latumofis Posion×3（解毒薬の瓶）
Amulet of Jewels（現在位置が確認出来るお守り）
聖水（迷宮内で休む時に結界を張る水）
固形食料（携帯食料・Ｃレーヨンよりたぶん不味い）
マントや寝袋など
現 金 ：100gp（小金貨100枚）
第一話 Version 1.00
あああああ・・・電波が電波がぁ・・・・
ついに、書いてしまったWizardryネタ。
そ、そこの人石投げないで下さい。
全世界20億人のWizardry Fanの方も、”Blade Cusinart'”で切り刻むのはやめて～
設定は、WizardryⅠⅡⅢⅣⅤ及びウィザードリィTRPG＆真・ウィザードリィTRPGに
取りあえず準拠しています。
最も、10年以上に渡って続けたウィザードリィTRPGの悪影響で独自設定がゴロゴロしています。
作中で登場したNPCの「アーミット・レイズ」氏は優秀な魔術師で、当時第一期放送中だった
「美◎女□士セーラー○ーン」の熱烈なファンでした。
それに因んで名前を付けたとの事で「アミとレイ’ｓ」・・・二人だから複数形で「’ｓ」。
なかなか捻ったネーミングだと感心した覚えがあります。
最も、パーティの中に当番組が大嫌いな方もいたので、そのネーミングに付いては
かなり後まで教えてくれませんでした。
（気付いていた方もいたらしいが少なくとも作者は気付かなかった。）
こういう個人的な事情を書くのはどうかしているとも思いますが、最近めっきりTRPGに
足が遠のいているのでストレス解消に、つい書いてしまいました、
では、本来の目的を・・・・
ＹＯＫＯさん『40,000HIT』おめでとうございます。
こんなのに、なってしまいましたがダメでしょうか。 by Yanagan
Wizardry はSIR-TECH社の登録商標です。
ウィザードリィTRPGはASCII及びグループSNEの登録商標です。
次回予告・・・
第２話「罠、飛ばされた後」（未定）
Yanaganさん、ありがとー。
ウィザードリィってけっこう、遊びましたからね～。
初代は呪文をキー入力していたせいか、唱えてるって感じがしたんですよね。
シンジ君、かなり基礎体力作りに苦労してましたけど、まぁ中学生の体力じゃ
当然でしょう。なんにしても職業選択ができてよかったよかった。
第２話の題名、WIZファンなら真っ青な話。（笑）
石の中へ、石の中へ、行ってみたいと思いませんか～って。（＾＾；）
続きが楽しみです。Yanaganさん、続きを書いてくださ～い。