Armored Core〜the case of Velord Rimdortlm〜
5th case　Madness and Fury.

格納庫でACを降りると、話しかけてくる人物がいた。
「ヴェロード。」
女だ。ブロンドの髪に、全身黒のスーツで固めている。
中に着込んだワインレッドのシャツが妙に際立っている。
低い声からして、さっき戦ったやつではない。
「あんた誰だ？・・・その声、確か・・」
「会うのは初めてだったか。ラナ・ニールセンだ。
お前が下位アリーナを制覇すると聞いてな。観に来たんだ。」
「勝つとは限らなかった。」
「私は今回の相手の実力を知っている。お前なら勝てる相手だ。」
「・・そうか。昨日のことは済まなかった。急だったからな。
連絡するヒマがなかったんだ。」
メールでこっぴどく言われたが、一応は謝罪しておくことにした。
彼女は俺の目を真直ぐに見て言った。
「二度とするなよ。規則は規則だ。
ちなみに上位アリーナへの登録だが、やることは下位アリーナの時と同じだ。
今回は欠員を出せばいい。既に場所と日時は指定しておいた。
お前はそこに行って相手を倒せばいい。後でメールを確認しておけ。
最下位とはいえ上位アリーナ所属のレイヴンだ。油断すれば・・」
・・女の目が異様な色を帯びた。
「死ぬ。」
この女・・。かなりのやり手、などという単純な言葉では片付けられそうもない。
何かある。
そう思わせる何かがこいつにはある。
・・確かに、油断は出来ない。
「ところで、」
ラナは、不意に探るような目つきになって言った。
「お前、変わったな。
あの時・・ナインボールを目の前にして何もできなかったと嘆いていたお前と、
今のお前はまるで別人のようだ。
あの時お前に感じた・・怨念や、執念のようなものが、今のお前には感じられない。
何があった？」
「別に何もないさ。時間が経てば人は変わるもんだろう。
俺はハスラー・ワンに復讐する。それだけは変わらない。
あんたこそ、なぜそんなに俺に興味を持つ？
ただのオペレータが一介のレイヴンにそれほどこだわるのは珍しいんじゃないのか？」
「ハスラー・ワンに挑戦しようとするレイヴンの方が、余程珍しいだろう。
私はただそれに興味を持っているだけだ。大したことじゃない。」
俺は不思議と、この女と普通に話せる気分にはなれなかった。
何故かはわからない。だがこの女は・・異様だ。
「では私は失礼する。仕事があるのでな。」
「ああ。・・今後とも、よろしく頼む。」
ラナは去って行った。
・・疲れた・・・。
やっと解放された感じがした。
できれば、あの女とは余り面と向かって話したくない。
「あなた・・あんなのと付き合ってるの？」
こっちは聞き覚えのある声だ。
振り向くと、黒髪の女が立っていた。
俺と同じ、地味な作業服を着ている。まっすぐここに来たのだろう。
「今度は何だ・・？」
思わず本音が出た。
「何それ。嫌な感じ・・。」
「・・悪かったよ。で、何の用だ？」
一応素直に謝っておいた。さすがに、機嫌の悪いまま話をするのは気分が悪い。
「わかってるんでしょ？私を倒した子供がどんなのかって思って、見に来たのよ。」
・・何だこいつ・・・。
更に疲れそうな相手だ。
「じゃもう用は済んだだろ？疲れてるんで帰る。」
俺は控え室に荷物を取りに向かった。
「何よそれ・・ちょっと待ちなさいよ！」



ガレージに帰ると、ラナからメールが来ていた。
　
　「大まかなことはもう話したな。
　　相手は上位アリーナのレイヴン、スピニングホースだ。
　　場所はガルシティの廃工場。詳しい地図はメールに添付してある。
　　明日の午前１０時に指定しておいた。遅れずに向かえ。以上だ。」

もう一通、エランからメールが届いている。
　
　「エラン・キュービスです。
　　腕パーツについては申し訳ありませんでした。お話するのを忘れたんです。
　　ご存じとは思いますが、ブレードを右腕のスロットにも装着すれば、
　　一度に２つのブレードを使用することが可能になります。
　　その分エネルギー消費は激しくなりますが、あなたの機体なら、
　　ジェネレータをもう少し高級なものにすれば充分許容範囲でしょう。
　　メインコンピュータの方も少しいじらせてもらいましたので、
　　操作方法はいつも右腕武器を使用する時と同じになります。
　　あなたの腕なら、使いこなせるはずです。
　　ですが、まだネストには登録されていないパーツなので、
　　アリーナでの使用は不可能です。ミッションでのみ、使うようにして下さい。
　　それとハスラー・ワンについてはまだ調査中です。
　　何か分かり次第お伝えしますので、もうしばらく待って下さい。
　　それでは。」

・・アリーナ以外なら使えるのか・・それなら、明日の戦闘には使えるってことだな。
電話をとった。
「ガラン。例の腕だけど、今日中につけといてくれ。
装備するブレードは今使ってるのと同じやつでいい。
あとジェネレータを交換だ。金が許す限り高級なやつにしてくれ。」
『わかった。料金はさっ引いとくぜ。』
「ああ、頼む。」
俺は受話器を置いた。
（一度、使ってみないことには不安だな・・相手は上位アリーナだし、
　明日時間があれば少し動かしてみるか・・それにしても、）
「疲れた・・。」
まともに人と話すことさえ久しぶりなのに、
話していてあんなに疲れる連中につき合わされたんじゃたまらない。
俺はベッドに倒れ込むと、すぐ眠りに落ちた。



翌日。
朝食を済ませると、すぐにACで二刀ブレードの試用に出た。
ガレージの近くには、AC用の試運転場がある。
再利用が見込めないために放置されている廃工場を勝手に使っているだけだが、
今回のような目的で使うにはうってつけの場所だった。
一番大きな部屋に入る。ここへ来るのは初めてだ。
辺りには廃棄されたMTや鉄クズが置かれている。
「・・始めるか。」
右腕武器のモードをブレードへと変更。
同時に、画面に表示されていたサイトも消えた。
トリガーを引いてみる。
"ブゥン"という音と共に右手のブレードが起動し、空中を斬った。
・・左手と同じだ。まあ、当然か・・。
次に両手のブレードを同時に起動してみた。途端にエネルギーの消費量が激しくなるが、
強化されたジェネレータのためか、瞬間的なエネルギーゲージの消費は、
全体の５分の１程度に抑えられている。それでもまだ相当な量だ。
回復に時間がかかるし、その後のブースト移動にも支障をきたしかねない。
消費を抑えるオプションパーツをつけるか、ブレードそのものを交換するか。
若しくはエランの研究所にある試作品に期待するしかない。
「一応、付けて行くか・・。」
『あら、面白い物持ってるじゃない？』
この声・・。
案の定、振り向くと赤い４脚ACがいた。
・・またあいつか。
「・・こんなところにまで押し掛けてくるのか。何なんだよ一体・・。
大体それ以前に、どうしてここにいることを知ってるんだ？」
『ガレージのおじさんよ。もう知り合いみたいなもんだから、すぐ教えてくれたわ。』
ガランか？・・全く・・ん、待てよ・・・。知り合い？・・・それってまさか。
「じゃ、この前訪ねてきた女ってのは・・」
『そ、あたしよ。
この前みたいに無視されるのも嫌だから、用件を先に言うわ。
あなた、ハスラー・ワンを追ってるんですってね？』
「・・この前から俺を追い掛け回してるのはそれが理由か？
もしそうだとして、それがあんたに何の関係がある？」
『ハッキリ言うわ。あなたには無理よ。諦めなさい。』

一瞬、何を言われたのかわからなかったが、
「・・・！！」
頭の中が怒りに染まった。
これほど感情が昂るのは久しぶりだった。
ナインボールへの復讐。
俺にとって、命を賭けるに値するもの。
それを真っ向から否定された。・・・
「・・昨日、殺しておくべきだったな。」
圧し殺した声に殺気が混じる。
『ちょ、ちょっと待って！話を「五月蝿い。」
ブースト全開で接近を開始。相手はまだ戦闘モードを起動していない。
両手のブレードを同時に起動して、まずは両腕を切り落とした。
そして頭、脚部を切断する。
支えを失ったコアが地面に落下した。
「速いな・・何だ、腕部の性能自体も上がってるじゃないか。」
感情を失くした声が、別人のように響く。
『・・ぐっ・・話を聞いて・・・お願いだから・・』
「死ね。」
両腕のブレードを揃えてコアに向け突き出そうとしたその時、
レーダーに映るもう一つの光点が目に入った。
色は赤。壁を挟んでほぼ真後ろの位置。
ディスプレイの隅には"Locked"の文字が表示されている。
「・・・狙われている？」
機体を右にそらしたが、間に合わなかった。
"ギィン！"という鋭い音と共に、
細い一本の光の線がスターオブカラミティの左肘を貫通する。
貫かれた部分は消失し、肘から先は地面へと落下した。
一瞬、呆然とした。何だこれは？
こんな威力の光線は見たことがない。
着弾と共に爆発するタイプならまだわかるが、ただ、蒸発させるだけ。
振り向こうとするが、
『おーっと、動くなよ？』
場に似つかわしくない、気の抜けた声が響いた。
同時に、青色の重量二脚ACが姿を現し、こちらに歩いてきた。。
右手には見たことのない形の白いライフルらしき物を持ち、こちらに向けている。
『・・・兄さん？どうしてここが・・。』
『さっき調査結果が俺んとこに来てなぁ。
こいつは危険だよ。お前の話はこいつには通じない。
そう言おーと思って、反応を頼りにして来てみたんだがな・・』
『遅いわよ・・あと少しでもう会えなくなっちゃうとこだったじゃない・・。』
涙声になっている。

・・・。
・・・完全に醒めてしまった。
時計を見た。約束まであと１時間強だ。
向こうまで４０分はかかる。もう出なければいけない。
あのレーザーをどうにかしないと。
『怪我は大丈夫か？』
『・・・ふんっ。何よ・・このくらいで死にゃしないわよ・・。』
「おい。」
『ん？ああお前、妹をよくもこんな目に遭わせてくれたな。
それなりの代償は、覚悟してもらうぜ？』
「それはいいが、俺は忙しいんだ。さっさと済ませて行きたいんだが？」
言った瞬間、再び"Locked"の文字。
右へ避ける。今度は光の糸が左を通過した。
それと同時に攻撃へ転じた。奴との距離は先刻の時よりも短い。
その場で右手のブレードを起動し、できうる限りの最速で振り落ろした。
"ギャイィン！"
鈍い音と共に、奴の右手がライフルと共に地面へと落ちる。更に奴へと迫り、
今度こそコアの破壊を狙う。
『はえっ！何だよそれ！？』
外見の割には素早い動きで、俺の斬撃は躱された。
最大出力のブースターか・・。
『兄さん！！』
『大丈夫だ。・・さすがに冷やっとしたがな。』
あと一時間・・ここまでだな。
俺は奴の方を向いたまま、できる限りの速さで奴から離れた。
『待てよ。尻尾を巻いて逃げるのか・・？』
「負け犬が吠えてろ。俺は仕事があるんだ。相手は後からいくらでもしてやる！」
言った後、俺は通信機をオフにしてその場を後にした。
・・付き合うんじゃなかった。
左手は失くしたし、未知の相手と不利な条件下で戦わなくてはならない、というのはどうにも痛い。
でも、戦わなくてはならない。上位アリーナへ進むために。
追撃がないことに安心しつつ、ガルシティ郊外の廃工場へと俺は向かった。



・・・ヴェロードが去った後、
工場には床に転がった、手足と頭部を切断されて転がっている赤いコアと、
右腕を同じく切断され青い重量２脚ACが残された。
武装は、今は床に落ちているレーザーライフル、チェインガンと中型ミサイルである。
・・追撃しようと思えば、無理はあるにしろできたはずなのだ。
暫くの沈黙の後、女が口を開いた。
「追わないのね？」
「ま、これ以上は戦ったってお互い何の利益もないしなぁ。
　俺は今回お前を助けにきただけだ。」
「・・ホントにそれだけ？」
「ってわけでもないんだがな。まぁ最愛の妹の生命の危機に、
兄として黙っちゃいられなかった、ってのが主な理由だ。」
「そんな軽い調子で言われたって説得力ないわよ・・。」
「ん〜。まぁしかし、何だ、こっぴどくやられたもんだなぁ、ローズ。」
「・・・まぁね。あれ、ハンパじゃないわよ。私じゃ全く反応できない。
兄さんはスレスレで避けてたみたいだけど・・」
「ホントにスレスレだ。それでも腕斬られたしな。
キレるとああなるんだろ。手に負えん。そうでなくても充分できるが・・。」
「あいつがMOONLIGHTなんて持ったらどうなるのかしら？」
「このKARASAWAも同じ『Lシリーズ』だけど、
あんなのにMOONLIGHT使われたんじゃ、歯が立たないだろ。
対策考えないとなぁ・・。」
しかし内容に反して、男の口調にはどこか愉快な調子が交じっている。
「・・あれと戦う気？」
「今日の戦いに勝って、明日からあいつは上位アリーナに来るんだからな。
対策考えとかないとあっさり抜かれちまうかも知れん。」
ローズは、ため息を一つついて言った。
「せいぜい、殺されないようにすることね。」
「自分はボロボロのくせに一言多いんだよ。・・さーて帰るかな。腹減った。」
「あいつはどうするの？」
「好きなようにさせておくさ。どうせいずれ俺達は協力せざるを得なくなるんだ。」

第５話です。
戦闘シーンはどうやら毎回入りそう。これはもう宿命ですね・・って、
よく考えれば、いや考えなくても当たり前か（笑）
ローズと兄、ヴェロードとの会話は私的にはかなり微妙な感じなんですが・・。
変ですかね？でも、これ以外の形も思い浮かばないので(-_-;)
まぁ、その辺りのこともメールで忠告頂ければ嬉しいです。
面倒でなければ、誉めるなり罵倒するなり指摘するなりしてやってください。
次は上位アリ−ナ関連がメインになる予定です。
・・あ、それからオリジナル設定の補足を少し。
私個人で「これは異常に強いなぁ」と思った武器は本編で『Lシリーズ』として登場します。
会話でも出ましたが、ムーンライトやカラサワライフルがそうです。
LシリーズのLは"Legacy"です。「遺産」ですね。
物語にどう絡んでくるかはまだ未定ですが、それなりの形にはしようと思ってます。
この先オリジナルの設定が結構出てきますので、お楽しみに。
それでは。

軽量機が振るうブレードって脅威ですよね。
それにしても、ヴェロードくん、内に抱えた闇は濃いようで…。

でも読み終わった時の感想は実は･･･
「あ、生のラナ姉ちゃんだ♪」
でした。（＾＾）

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