ここは・・どこだ？
俺の部屋・・。
扉の開く音。
『ヴェロード。』
・・父さん？
『早く逃げろ。』
どうして。
『今ナインボールがここに向かっている。
　早くここから逃げるんだ。』
ナインボール？
奴が来るのか・・迎撃する。
そして殺す。
父さんは裏口から逃げて。
『ヴェロード・・』

外に出た。
俺の機体は、スターオブカラミティは、どこだ？
『ヴェロード。』
振り向くと、茶色の長い髪をした女性が目に入った。
姉さん。早く逃げて。
ここは俺が食い止めるから、その隙に。
街を見ると、火が赤々と燃えている。
奴が来る。もう時間がない。
『ヴェロード、もう駄目なの。』
何が駄目なの？
諦めちゃ駄目だよ。
普段の勝ち気な姉さんらしくないな。
それに、今の俺は・・
『私達はもう死んでしまったの。過去は変えられないのよ。
　それに・・』
振り向くと、姉さんの姿は消え、
黒い髪をした、母さんが立っていた。
しかし・・
"ハッキリ言うわ。あなたには無理よ。諦めなさい。"
声はあの女のものだった。
言葉が終わると同時に、母さんの姿をしたモノを
パルスガンの光が灼いた。
皮膚が爛れ、口から血を吐き、目は飛び出し・・・
・・・・。
叫んで暴れ出したい衝動を抑えつつ家を振り返る。

グレネードの爆発。
炎上崩壊する家。
叫び声。
父さんの。母さんの。姉さんの。
・・・俺の。

悪夢だった。

Armored Core〜the case of Velord Rimdortlm〜
７th case　Museion

目を開いた。
「・・・久しぶりだな。この夢を見るのは。」
白い天井が目に入った。俺の部屋ではない。
頭が覚醒していくにつれ、経緯も思い出されてくる。
（殺人狂の敵と戦ったんだ。最後は・・・ああ、そうか。
　それで俺はここに寝ているんだな。）
首だけを動かして周りを見ると、何本もの点滴が立て掛けられていて、
消毒液とリノリウムの匂いが鼻をつく。
病院だ。ネスト経営の。
常識を超えるスピードで地面に向かって突っ込んだのだ。
コックピット内はある程度アブソーバーが効いているが、
あの衝撃では入院しても仕方がないだろう。

暫くそのままでいると、医師と看護婦が部屋に入ってきた。
「お目覚めですか、ヴェロードさん。」
「ああ・・身体は動かないがな。どれくらいなんだ？」
今身体を拘束しているものは包帯だけだが、それより以前に動かすことができない。
無理に力を入れればますます悪化しそうな感じだ。
「肋骨を多数骨折。もう少しで肺に刺さるところでしたよ。
　左の肩甲骨も折れているし、内蔵にもかなり負担がかかっているので
　一ヶ月は退院できませんね。」
一ヶ月だって？
「ACにも乗れないのか？」
「当たり前です。状況を聞きましたが、本来なら死んでますよ。
　生きていたこと自体幸運なんです。」
相手をレイヴンと知ってか、かなりはっきり状態を伝えてくる。
それ自体はありがたいんだが・・・。
「ようやく上位アリーナに上がれたんだ。一ヶ月も休んでられないんだよ。
　何か手はないのか？もっと早く戻らないと・・。」
「・・・。
　・・そんな手段などありませんよ。限界なんです。
　我々としてできる限りの事はもうしました。後はあなたの身体次第。
　それにしたって一ヶ月は確実にかかります。大人しく寝ていて下さい。」
答えるまでに一瞬、間があった。何かありそうだが・・
「・・わかったよ。」

誰も見舞いに来ないしつまらないだろうと思っていたが、
入院生活はそれなりに退屈しないものとなった。
ガランが整備工仲間を連れて見舞いに来て、酒を置いていった。
これには些か呆れた。・・未成年の入院患者に酒を持ってくるというのは・・・
結局看護婦に一喝されて引き下がったが、
ガランはその後も暇を見つけては病室を訪れ、見舞いの品を置いていった。
そして、目覚めてからちょうど一週間後。

「失礼します。」
夜の９時を回った頃だった。
もうすぐ消灯だというのに、看護婦が一人入ってきた。
いつもの女ではなかった。
髪は金色だし、色眼鏡と前髪で顔はよく見えない。
何より声が違う。低い、しかしよく響く声だ。
どこか、寒気と共に聞き覚えのある声だった。
「いつもの人はどうしたんだ？」
「今夜は用事があるとかで、私が代わりに担当させて頂いてるんです。
女はベッドに手をかけた。
「今から精密検査をしに行きます。」
「検査？今からか？」
「はい。どうしても今日中でなければならないんです。
　今日は昼間は混み合ってましてね・・・行きますよ。」
病室を出て、エレベーターに乗った。
女は「下」を押した。
MRIやレントゲンの時は上だった。まだ何か他にあるのか・・？
「なぁ・・あんた、どこかで会ったか？」
「いいえ。初対面です。何か？」
余りにも、きっぱりとした即答だった。
やっぱり、何かおかしい・・？
「・・いいや。」
"チン"
エレベーターが停まった。
（そう言えば、何階を押したんだっけか・・？）
パネルには"B1"と表示されている。
「・・・。」
薄暗い廊下に出た。さっきから女は一言も喋っていない。
・・・だんだん嫌な予感がしてきた。
（今からじゃもう遅いな・・第一今の俺はまな板の上の鯉だ。）
やがて、ベッドは一番奥の扉の前で停まった。

"TOP SECRET"

見るからに厳重そうなパスワードロック式の扉にはそう書かれていた。
「おい・・これは何だ？」
看護婦が上から見下ろして来た。
顔を覆っていたサングラスと前髪は、いつの間にか取り去られていた。
異様な光が、目に宿っている。
ようやく思い出した。この女が誰なのか。
「黙って寝ていろ。」
「・・・ラナ。お前、何のつもりだ？」
「黙れと言った。」
ラナの手が包帯で固定された俺の胸に置かれ、強い力で上から押さえ付けた。
「・・うぐぅああああっ！！」
痛い、などと言う言葉ではあらわしようもない痛み。
心臓と肺に本当に骨が刺さったかのようだった。
「ほう・・いい声で啼くのだな。」
「んぐうぅ・・・あっ・・・。」
「あの狂人にも聞かせてやりたかったが・・死んでしまったのでは仕方がない。」
おぼろげな視界に入ったラナは、笑みさえ浮かべていなかった。
「まぁいい。これで静かになっただろ？」
ラナは一歩進んでパスワードを打ち込み始めた。
「そう言えばまだ言っていなかったな。上位アリ−ナ進出おめでとう。
　しかし一ヶ月の休養というのは頂けんな。
　お前には今すぐにでもアリーナに参戦してもらわねば困る。」
キーを打つ音が止んだ。
「私が出向いたのはそのためだ。」
"カチャッ。ゴォォ・・・"
扉が開き始めたようだ。
痛みはまだ胸の中で暴れ回っている。
首が動かせないので見えないが、光が漏れてきているのはわかった。
「ふふっ・・ムセイオンへようこそ。」
「・・・ムセイ・・オン・・・？」
徐々に、大量の電子音が耳に入ってきた。
「そう。ムセイオン。研究所だ。」
「何・・の・・・？」
「人体改造。」
さらりとラナは言った。
（人体・・改造？人間の改造・・改造人間・・強化された・・プラス・・）
「まさかここがプラスの・・がぁっ！！」
今度は左腕を握り潰された。
先ほどではないにしろ、強烈な痛みだった。
「うるさいな・・お前はただ黙ってじっとしていればいいんだ。」
「・・何を・・・」
「お前は今からここで人体改造を受ける。」
何を受けるって？？
改造・・・？
「や・め・・ろ」
「嫌か？お前の家族を殺したハスラー・ワンと同じ体になるのが？」
その通りだった。俺はわずかだが首を縦に動かした。
「ふむ・・・。エラス！」
「はい。お呼びでしょうか？ラナ様。」
男の声がした後、近付いてくる足音が聞こえた。
この男も、どこか聞き覚えのある声をしていた。
「この男の状態は知っているな？」
「はい。全身を多数骨折。胸部が特にひどく損傷。自然修復には一ヶ月・・でしたね？」
「普通ならばそうだ。だがお前達ならできるだろう？
　今夜中にこいつを使えるようにしろ。明後日にはアリーナに参戦させる。」
「それはまた急な話ですねぇ・・・。」
男の口調が急にだらしなく、媚びたものになった。
「そうですねぇ・・それなりの報酬を用意して下されば・・・考えてもいいですよ？」
「ふん・・色狂め。欲しいのならいくらでもくれてやる。ただし処置が済んでからだ。」
「承知しました・・すぐに取りかかります。」
「ああ、それとプラスにはするな。」
「了解しました。報酬のこと・・くれぐれもよろしくお願いしますよ？」
「くどい。」
腕に何かを打ち込まれる感触。
直後、俺は意識を失った。



数時間後。
ラナとエラスが壁を隔てて、ベッドに横たわるヴェロードを見つめていた。
「術後の経過は。」
「順調です。人工臓器に拒絶反応もありませんし、損傷した部分の修復もほぼ終わっています。
　毎回のことですが、アリスやエウードの技術には驚かされますよ。」
「全くだ。」
「珍しく素直ですね？・・・やはり大切な『駒』だからですか？」
「奴はただの駒ではない。使える駒だ。だから生かし、育てる。それだけのことだ。」
「・・そして邪魔になったら切り捨てる、ですね？」
エラスの口調が変わった。ラナの耳もとで囁く。
ラナの顔が快感に歪んだ。
「・・・ああ。」
「では、報酬を頂きます。」
エラスの手が、豊満な曲線を描くラナの肢体へと伸びた。

初めてバトルが入りませんでしたね。
自分でもちょっと意外な感じなんですが、まぁ流れ上必然的でした。
今回から、自分の中ではちょっとは文章がきちんと書けるようになってきたなぁ、
という感じがしたんですが、どうでしょうか。
・・実はあんまり変わってないかなぁ？？
生ラナは２回目ですね。
まぁ、こういうことがあってもいいだろうと（笑）
あ。あと色々名前が出てきましたが、全部元ネタがあります。
分かる人には一瞬で分かっちゃうと思いますけど・・。
考えてみるのも、一興かと。

次回は上位アリーナに参戦するまでの過程・・っていうことになると思います。

ラナの看護婦姿♪（＾＾；）
ま、それはそれとして、ヴェロードくんも、途中の過程はともかく、
元気になって何よりでした。
今後の展開が楽しみですね。もう少し精進を積んで、ハスラー・ワンが
相手でも余裕を持って戦えるくらいにならないと…。
そのためにも上位アリーナで実力ＵＰ、がんばれ〜♪

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