Armored Core〜the case of Velord Rimdortlm〜
８th case　Falling down.

目覚めると病室だった。
覚えているのはエレベータに乗ったところまでだ。
そこから今まで眠り続けていたような感じで、何があったのかは覚えていない。
今朝、看護婦に聞いてもみたが、『検査した後病室に戻りました』とお茶を濁すだけで
何の検査だったのか、どうして俺の記憶が途切れているのかには答えようとしない。
夕べ一体何があったのか。
それはとても気になったが、一つ確かなのは、
一夜にして俺の体が全て元通りになっていたことだった。
骨折も外傷も全て完治し、即退院できる状態らしい。

大した手続きも説明もなく、半ば病院から放り出されるような形で退院した俺は、
病院の玄関に、夢に出てきたあの女、アヴェンジングローズの姿を見つけた。
俺の姿を認めると、女は話し掛けてきた。
「ハイ。元気？」
「・・・」
余り、聞きたくない声だった。
無視して通り過ぎようとする。
だが病院を出ても、女は俺の後をついてきた。
「ねぇちょっと、お茶でもどう？」
「あんたと話すことはない。」
会うまで気付かなかったが、
この前夢を見てから、この女に対する俺の印象はかなり悪くなったようだった。

『あなたには無理よ。諦めなさい。』

あの時俺を激昂させ、夢に見るほどであったこの女の言葉。
それは未だ心に強く残っていた。
「ヴェロード。あなた私達のこと誤解してるでしょ。」
「・・・」
「私達はあなたの敵じゃないの。味方なのよ。・・・ねえ、ちょっと聞いて。お願いよ。」
俺は狭い袋小路を見つけ、わざとそこに入った。
ここなら、一目にもつかないだろう・・。
「おい。」
振り向き、目の前にいる女の首に手を伸ばした。
"ドンッ！"
そのまま首を掴んで壁に押し付ける。
「かっ・・な、何・・」
「・・・なあ。どうして俺に付きまとうんだ？」
俺は、顔を伏せたまま、感情を消した声で震える女に尋ねた。
だが、答えを聞くつもりなどはない。
「私、は・・・あなた「あんたが俺にどんな用事があろうと、関係ないんだ。
俺の前に姿を現すな。」
───酷く自分勝手な理屈だ。
不思議なことに、醒めた目で冷静に『自分』を分析する自分がどこかにいた。
しかし、俺は止まらなかった。
顔を上げて、女の目をまっすぐに睨む。憎悪と嫌悪を込めて。
「いいか・・・今この場で、二度と俺には近付かないと誓え。
そうしないと・・・」
「・・怖いの？私が。」
首を締められながらも女は僅かに顎を上げ、見下すような口調で言った。
「なっ・・・」
押し寄せる感情の余りの強さに、俺は思わず首を絞める力を緩めてしまった。
それが誤りだった。
女は俺の手を振り払い、顔面に拳を打ち込んできた。
"バキッ"
不意をつかれた俺はもろに食らった。
指環でもはめていたのか鋭い痛みが走り、鼻の奥で血の味がした。
顔をおさえてよろめく。そこを新たな衝撃が襲った。
"ドスッ"
見えないが、前蹴りでも放ったのか、鳩尾に細い物を打ち込まれる感触。
「ぐは・・・ごほっ」
反対側の壁に激突したようだった。
膝に力が入らず、ずるずると崩れ落ちる。
顔から手をどけた時には、目の前に足が迫っていた。
"ガッ、ドゴッ"
右と左の顔面に、女のつま先がめり込む。
「ごほっ、ごほっ・・が・・はぁ・・はぁ・・・」
「あら、あら。綺麗なお顔が台無しじゃないの。」
顔を上げると、女が口を歪めて俺を見下ろしていた。
「ねえ坊や、さっきまでの勢いはどうしたの？」
"ゴッ！"
女は髪をつかんで、後頭部を壁にぶつけた。
「う・・ぐっ・・」
体に走る痛みと屈辱で声も出ない。
「人がちょっと下手に出て、やられてやってりゃ調子に乗って・・。
わかる？あんたは無力なの。レイヴンになって、たまたまちょっと人よりACの操縦が上手くて、
それで力を持ったつもりになってるだろうけど、勘違いもいい所ね。
所詮はこんなもんなのよ。で、」
女は懐に手を入れた。出てきたのは黒光りする拳銃だった。
撃鉄を起こした銃口を俺の額に押し付け、女は言った。
「私が今からちょっと指に力を入れるだけで、
バン、と、あんたはおしまい。
あんたがいたことを覚えてる人なんて、誰もいないわよ。
あんたの人生に意味なんてないの。復讐だけの人生に、意味なんてないのよ。」
浴びせかけられる言葉に、俺は黙って耳を傾けるほかなかった。
俺はこの女に負けた。
殴られ、蹴飛ばされ、踏みにじられた。
人生を否定された。
だがそれも、どうでもよくなっていた。
唐突に目前に迫った『死』を目の前にして、俺は限り無く何も感じなくなっていた。
「そうね・・・選びなさい。このまま惨めな死を遂げるか、私達に着いてくるか。」
「・・・。」
俺は虚ろな目をして、中空をぼんやり眺めていた。
もう、どちらでもよかった。
そもそも俺はあの時、死んでいてよかったはずなのだ。
死ぬのが少し遅れただけだ。
家族はもはやいない。生きる目的はハスラー・ワンへの復讐。
だが、それを終えればどうなる？
真人間に戻って一人のうのうと暮らしていくのか？
・・・そんな人生は、 いくら考えても俺の頭には浮かばなかった。
復讐を遂げたあとの俺。
うすうす考えていたことではあったが、同時に必死になって目を背けてもいた。
怖かったのだ。現実を直視することが。
それを目の前に突き付けられて、俺は果てしない虚無感に襲われていた。
「・・・ちっ、腑抜けめ。あんたなんて殺す価値もない。
どうせ死ぬならそのまま野垂れ死ぬのがいい。あんたにはそれがお似合いだわ。」
女は銃をしまい、俺の元から去った。

・・・また、独りになった。
そのまま、俺の意識は遠のいていった。



「・・・これでは、もう使い物にならんな。」
それから一時間後、金髪の女がヴェロードの前に立っていた。
一目につかない袋小路なので、誰もヴェロードに気付かず一時間のあいだ放置されていたのだ。
金髪の女・・・ラナ・ニールセンは、足でヴェロードの顔を上げさせた。
ヴェロードは、目を開いていた。だが目には何も映していない。
口を半開きにして涎をたらし、虚ろな眼差しでいるだけだ。
（・・・あの女も余計なことをしてくれる。せっかくの道具が台無しになった。
　これは使えそうだったのに、な。
　しかしあの女、放っておくと厄介だな・・KARASAWAの所持者も。
　排除するか。）
ラナが足を降ろすと、ヴェロードは力なく頭を垂れた。
一つ溜息をついて、ラナはヴェロードから顔をそむけた。
「・・・お前は勝手に死ぬがいい。」
ラナは、ヴェロードの元から去っていった。



───その日の夜。
ヴェロードは未だそこにうずくまっていた。
「・・・」
"ガォォォン！！"
空気を切り裂く炸裂音が辺りに響き渡る。
街の一角が、戦火に包まれていた。



「兄さん！無事！？」
住居が炎に包まれるのを見ながら、赤い４脚AC・・・D・G・Hに乗るローズは叫んだ。
『ギリギリだ。危なかったな。』
「ええ・・いつでも出られるように準備しといて正解だったわ。」
ヴェロードの一件があってから、この兄妹は
敵の襲撃に対しいつでも迎撃できるよう準備をしていた。
そしてその日のうちに、敵はやってきたのだった。
『ラナ・ニールセンにとって、あいつの損失はやはり大きなものだった、ってことか？』
「知らないわよ、あんなやつ。もうとっくに巻き込まれて死んでるわ。」
『おいおいそりゃあないだろ。俺達にとってもヴェロードは必要な人材だったんだぜ？』
「あんな歪んだやつ、まっぴらごめんよ！」
『良い意味でも悪い意味でもあいつはまだ子供なんだ。まだ矯正は利くだろ。』
「・・兄さん、どうしてそんなにあいつにこだわるの？」
『・・・』
一瞬の沈黙。
そして二人のコックピットで、同時に警告音が響いた。
『どうやら見つかったみたいだな。』
「・・で、どうするの？」
『おまえ一人で相手しててくれ。俺は他にやらなきゃならんことがある。』
「兄さん！？」
『今日のあれは、まだLシリーズじゃない。量産機だ。一人でも何とかなるだろ？』
「・・あいつを助けに行くわけ？」
『・・・じゃ、頼む。」
レーダーに映るACのうちの一機が、急速に離れていく。
「ちょっと！・・・もう。」
"ギシュンッ！！"
グレネードの発射音。
ローズは４足の高速機動を生かし、爆風を回避した。
「電子回路でできた人工知能ごときに、私は倒せないわよ！」
中空に浮かぶ赤い二脚ACに向かって、ローズはグレネードを放った。



「さて・・どこだったかな、と。」
男はMAPを呼び出し、あらかじめ入力しておいた少年のいる場所を確認した。
「あそこか。」
幸いなことに、その袋小路の近くに戦火は届いていなかった。
ACを着陸させた。ワイヤーをつたってコックピットから降り、男は袋小路に入っていった。
「・・お。いたいた。」
そこには、生きる目的をなくしてうずくまる少年の姿があった。

ちょっと飛び過ぎかな・・という感じはするんですけど、こんな風になりました。
アリ−ナ参戦までは、行けませんでした・・（笑）
予告したのに・・。残念です。
設定とかも色々ぐちゃぐちゃしてきたので、一回整理する必要があるのかなぁ・・と。
この先どうなることやら。
「こんな展開じゃダメだ！」とか「こんなふうにした方がいいよ！」
とかいう意見も、メール頂けるとありがたいです（笑）
それでは。
ここまで読んで下さってる方、ありがとうございます。

レイヴンも、ＡＣから降りればただの人。
軍人あがりならともかく、ヴェロードくんの生い立ちを考えると
白兵戦のスキルが育ってないのも仕方ないとは思いますが…弱い。（＾＾；）
心が揺れ動いている状況じゃ、どーにもならないかもしれないけど。

さて…ローズのお兄さんはなにやら思うところがあるようなので、
傷心のヴェロードくんのフォローは彼に期待！です。

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