Armored Core〜the case of Velord Rimdortlm〜
9th case　His intermission.

D・G・Hとナインボールの戦闘による戦火に包まれる街の一角に、一機のACが停まっていた。
その青い重量二脚機体の名称はライトニングバロン。
パイロットは、レイヴンズネスト所属の上位アリ−ナ７位、登録名ヴェンジェンス。
世界でも数少ない、過去の遺産 "Lシリーズ" の一つである通称『KARASAWA』の所持者であった。
そのACの前にある建物の間には小さな裏びれた袋小路があり、そこに、そのACのパイロットと、
一人の少年がいた。




男は微笑み浮かべてヴェロードに話し掛けた。
「よう。元気か？」
反応はない。
「こっぴどくやられたもんだ。あいつはキレると見境なくなっちまうから気をつけろ。
下手に格闘技なんて習ってたもんだから、余計たちが悪いんだよ──はは」
ACの戦闘音が辺りに響いている。ヴェロードはまだ顔を伏せたまま。
「──今、あいつはナインボールと戦ってる。お前はここにいていいのか？」
ヴェロードの体が、少し震えた。



ローズは苦戦していた。
人工知能とは言え、相手は全てのレイヴンのトップに立つナインボールである。
放つミサイルはことごとく躱され、相手のパルスライフルが装甲を削り取っていく。
何しろ相手はほとんど常に空中を飛び回っているのだ。それだけでも弾が当たりにくいのに、
それに加えて強化ブースターによる高機動。
ときたま命中するマシンガンの弾も、相手の機動力を奪うことすらできていなかった。
頼みの綱であるグレネードも全く当たらずに、逆に相手のグレネードは直撃こそしないものの、
ローズを確実に追い込んでいく。
──何故兄さんは私にこの場を預けたんだろう。二人で戦えば倒せるはずなのに。
パルスライフルの光が瞬く。
追い詰められた状況とは裏腹に、彼女は別のことを考えていた。
──そんなにあいつが大事なのかな。


「お───」
「あいつがお前に何を言ったか、俺は知らない」
男は続けた。
「だがこのままここにいれば、お前は確実に死ぬ」
ヴェロードが、ゆっくりと顔を上げた。目はまだ暗く濁っていた。
「このまま死ぬつもりなのか。死んでもいいのか？」
「死ぬ。──みんな」
「そうだ。このままじゃあいつも危ない」
ヴェロードは頭を手で抱えた。
「死ぬ・・みんな・・・父さん・・母さん・・・」
「ヴェロード」
「嫌だ・・死にたくない・・・」
「ならどうする。お前の欲しい物は何だ？」
男はは思わず、そんなことを口にした。考えて言ったことではないが、
今は何故か、それを聞きたいような気がした。
「たすけて・・・」
「──いいだろう。俺と来い。」
ヴェロードが、のろのろと立ち上がった。目はまだ濁ったままだったが。
「俺の名前はヴェンジェンスだ。よろしくな、ヴェロード。」



「兄さん。──まだなの！？」
コックピットには警告音。画面には"Armor Low"の表示が出ている。
ナインボールはほとんど装甲を削られていないのに対し、D・G・Hは行動不能寸前。
攻撃は全てパルスライフルと、回避しきれず直撃した数発のミサイルによる物だが、
文字どおり機械のように正確なパルスライフルの射撃を食らい続け、装甲は融解しきっていた。
一撃でもグレネードを食らえば、爆風のみでさえ、死ぬ。
そして。
パルスライフルを撃ち尽くしたナインボールが、空中でグレネードを構えるのが見えた。
ローズは思わず目を閉じた。
「──兄さん」
鋭い音が響いた。
ローズは目を見開いた。ナインボールの構えていたグレネードが、なくなっている。
「今のはKARASAWA・・」
『よう。待たせたな』

「・・・はぁ・・」
遅いわよ、と言おうとして、ハッとなってナインボールを見た。
奴はまだ死んだわけではなかった。ブースターを全開にしてこちらに接近してくるのが見える。
「く・・・」
気付いて移動を開始した時、奴はもう目の前まで迫っていた。ブレードを展開して斬り掛かってくる。
間にライトニングバロンが割って入り、ブレードで受け止めた。
プラズマガスが干渉して激しい火花が飛び散る。
『俺が来たからにはそう好き勝手させないぜ』
「兄さん。あいつは──」
『その話は、こいつを片付けてからだ！』
重量級のパワーを生かしてナインボールを押し返すと同時に、KARASAWAを構えた。
『あばよポンコツっ！』
Y字型の白いライフルから光線が放たれ、赤黒いACのコアを貫いた。
中枢を破壊され、ナインボールは地面に落下して動かなくなった。

『ふう・・しかし間一髪だったなぁ』
「来るのが遅いわよ・・それで、あいつは？」
『俺と一緒にコックピットにいるが、ダメだな』
「ダメ、って・・」
『実際に見た方が早いだろ。降りて来いよ。俺も行く』



ローズはACのシステムを終了させてからコックピットを開き、ワイヤーを伝って降りて行った。
辺りを見回すと、さすがにあれだけ暴れ回ったとあって辺りは瓦礫の山と化している。
いつガードが来てもおかしくない状況だが、今はまだ辺りは静まりかえっている。
幾つかの建物は倒壊を免れて建っていたが、その一つの壁に背中を預けて、ヴェロードはうずくまっていた。
横には、煙草をくわえながら壁にもたれてヴェンジェンスが立っている。
「これ・・・」
「お前にこっぴどくやられて腑抜けになっちまったかな」
「・・・」
ローズは押し黙った。ヴェロ−ドの目は相変わらず虚ろで、
時折「助けて」とか「死にたくない」などと小声で呟いて、完全に壊れてしまっているように見える。
あの時はキレて思わずぶちのめしてしまったが、こんなことになるとは思っていなかった。
こんな様子を見ていると、自分が酷いことをしてしまったような気持ちさえしてくる。
「ま、今どう考えたってこうなっちまったもんは仕方ないだろ。
昼間からずっとこんな様子だったみたいだし、どうすれば元に戻るか見当もつかん」
「・・・ねえ、あんた──」
ローズはヴェロードに向かって手を差し出した。
しかしその手が触れて、顔を上げたヴェロードの目にローズの姿が映った瞬間、
「うわあぁっ！！」
ヴェロードはローズの手を振り払い、顔に恐怖の色を浮かべて後ずさった。
「助けて・・死にたくない・・・助けて・・」
ローズは驚いた。
このような激しい拒絶を示されるとは思っていなかった。
「・・な？こいつはもうダメなんだよ。生きる目的を見失って、ただ死の恐怖に脅えて何もしないだけだ。
今までそんなもんとは無縁に生きてきた坊やじゃ、しょうがない」
ACに乗っていても死の危険にさらされることはあるが、それはやはり自分とは別のところにあるもの。
リアルな恐怖として自分自身に襲い掛かってくることはヴェロードの場合、なかった。
否、逃げ続けていただけなのかも知れない。
「だからってこのまま放っておくわけにもいかん。”あそこ”に預けておこう。
時間があればまた見に行けばいい」
「兄さん・・」
項垂れたまま、呟くように力なくローズは言った。
「どうしてそれほどこいつにこだわるの？どこにでもいる戦災孤児じゃない。放っておけば──」
「・・お前、本気でそう思ってるのか？」
ローズは震えた。
兄の、この声。本気で怒っている時の声。なのに、何の気持ちもこもっていない、機械のような声だ。
何故？
兄さんは・・・
・・そうか・・・。
「ごめん」
「・・・ああ」
ふっ、とヴェンジェンスの口調は和らいだ。
そしてヴェロードに歩み寄り、手を差し出した。
「行こう。お前には休息が必要なんだ。」

第９話です。
今回は短いですね・・。
書き難さを感じる今日この頃。
乗り越えねば。
メールが来ない分（爆）プレッシャーもないので、
気楽に書かせてもらってます。
次はどうなるんだろう？
はぁ・・予測もつかない。（笑）

復讐以外に何もない…そんな現実を認識してしまった…。
ヴェロードが再び歩き始めるその時を待ちたいと思います。

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