俺は、どうすればいいんだろう。
・・・わからなくなった。

でも、ここには安息がある。

Armored Core〜the case of Velord Rimdortlm〜
10th case　Flat.

白い、白い世界だった。
建物の外観は、そんなことは微塵も感じさせない。
そこらにあるのと同じ、灰色の寂れたビル。
中に入ると、そこはもう違う世界だった。


そこに住む子供達はただ単に「家」と呼んでいた。
時代柄、戦災孤児や、そうでなくとも身寄りのない子供は多い。
そのような子供を引き取り育てる、孤児院とも呼べる施設。
そして、あの兄妹も、幼少期をここで過ごしたという。


内装からすると、病院のようでもあった。
とにかく、そこら中が白い。それだけに清潔感を感じさせるが、
何故か不自然な感じはしなかった。
その空間にいるだけで、安息が得られ不快なものは取り除かれるようだった。



アイザックシティ上層部にあるそんな場所に、ヴェロードは連れてこられた。
ヴェンジェンスは、彼に休養が必要であると考えたのだ。
「レイヴンである」という肩書きにも関係なく、ヴェロードはすんなりと受け入れられた。





「ねえ、あの子、どうしていつもあそこでじーっとしてるのかな？」
「えー？わかんないよ・・」
そんな会話が聞こえる。
俺はここに来て以来数日、ずっとこの窓際に座り、外を眺めている。
何があるというわけじゃない。ただ、何となくそうしたいだけ。
他の皆は楽しそうに遊んだり、勉強してる奴なんかもいる。
けれど俺は、そんな中に混じって過ごす気にはなれなかった。どうしてかはわからない。
一つ確かなのは、こうしていれば何もない、ということだ。
何も感じず、何も起こらない。
そういう時間が、欲しいのかも知れない。

ふと考えた。『俺は何故今ここにいて、こうしているんだろう？』
この数カ月、色々なことがあった。
家があいつに襲われて、復讐を誓って、レイヴンになって、アリーナで勝って。
何人か人にも会った。
あの女に色々やられて、死にそうになって絶望して、でも今はそれもどうでもよくなってる。
生きる目的を、否定されたのに。
復讐を誓って間もない頃は、少し否定されるだけでもキレてしまったが、いつかそんなこともなくなった。

『復讐だけの人生に、意味なんてないのよ』
あの女の言葉。
今考えると、正しいような気もする。
ただ単に冷めてしまっただけなのかも知れないが、確かに、その通りなのかも知れないと思えた。

そんなことを考えながらボーッとしていると、すぐ横で俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
見るといつの間にか、若い女の人がすぐ近くに立って俺を見下ろしている。
カレンさん。
わずかに青がかった長い黒髪の持ち主で、子供達の世話をしてくれている。
俺に遠慮なく話し掛けてくる、ここでは唯一の人だった。
不思議と彼女とは話ができた。
「何してるの？ヴェロードくん」
「別に・・ボーッとしてる。カレンさんは？」
「君がどうしてるのかなーと思って、見に来たの。」
そう言ってニコリと微笑んだ。綺麗な笑顔で。
「どうして・・俺に構ってくれるの？」
「んー、どうしてだと思う？」
「わかんないよそんなの・・」
話している間も、まだ頭はボーッとしている。何だか今日は上手く話せない・・。
「ヴェロ−ド君のことが気になるから、とか。」
「・・・何で気になるの？」
「レイヴンなんでしょ？だから・・」
「今はもう違うけど。どうしてレイヴンだと気になるの？」
「だって、まだ子供じゃない・・。」
「・・・どうしてとか、聞いてないんだ？」
少し以外だった。全部知ってて話してるんだと思っていたから。
「何が・・あったの？」
さすがに聞きにくそうに、カレンさんは尋ねた。
俺は事の顛末を正直に話した。抵抗もなく、自然に話せたのが不思議だった。
聞き終わったカレンさんは、ぽつりと「・・・そっか。」とだけ言った。慰めの言葉はなかったけれど、
そんなもの俺は別にいらなかったし、逆にありがたいような気がした。
「ねえ。じゃ、カレンさんは・・・」
・・少し、舌が滑らかになったような気がした。



その頃。





───アイザックシティ・大深部。

そこは、さながら地下の軍事基地のようであった。
倉庫には無数のＡＣが並び、全てがきちんと整備されている。
奇妙なのは、そのＡＣのカラーリングが全て同じで、パーツも同じ。
つまり、同一の、一種類のＡＣのみが無数に並んでいる、ということだった。
それだけではない。
そこには、人がいるためのスペースは全くないのである。
司令所と思しき部屋は存在するが、そこにもただ巨大なスーパー・コンピュータがぎっしりと並んでいるだけで、
人為的な操作を行う端末や操作盤などは一切存在していない。
甚だ奇妙な場所だった。

コンピュータの稼動する音のみが支配する、その奇妙な"静寂"を破る音が響き渡った。
"ピッ"
同時に、司令所の巨大なディスプレイにログが表示される。


"CALCULATION COMPLETED"

"CHECKING ALL SYSTEM COMPLETED"

"WHOLE SEQUENCE OF MISSION INPUTTED"

"VISUAL INFORMATION OF TARGET INPUTTED"

"FINAL SAFETY LOCK DISCHARGED"

"ELIMINATION SYSTEM ENGAGED"


たくさんある中の、一機のＡＣが動き出した。
無人のコックピットに声が響く。
『プログラムに不要なものは、排除する。』
ディスプレイには、一軒、灰色の寂れたビルが映っている。

久々の第１０話です。短いですが・・。
最近、この先どう物語を流して行くかに迷っています。
ここまで何も考えずに書いてきたツケが回ってきた、とでもいうか。
前回以来冷静にじっくり考えてみて、ようやくちょっと先が見えてきた感じです。
といっても今回は、とりあえず、とでも言いたげに内容がナイんですが・・（笑）
この先ペースが上がるかどうか分かりませんけれども、
ゆっくりでも少しずつでも、書いていきたいと思っています。
それでは、また次回に。

読んで下さっている方々、ありがとうございます。

心休まる日々は長くは続かないんですね。
繰り返される現実の前にヴェロードくんは何を思い、決断するのか？
次回の展開がどうなるかドキドキ…

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