Satan　Is　Charity　−第１話「使徒襲来」Ｂパート−

ケイジ

真っ暗で何も見えない空間にシンジ達は着いた。

「暗いから、気を付けてね」

リツコの声が響き、明かりが灯る。
そして、そこには血の様に赤い水に浸り、顔だけをこちらに晒す紫の鬼がいた。

「お、大きな顔？」

「角がありますね」

自分の考えに自信が持てない疑問の声とツッコミどころがズレている声を無視し、

「これは人の造り出した究極の汎用決戦兵器！
人造人間エヴァンゲリオン
我々人類の切り札、これはその初号機よ・・・・・・」

どことなく嬉しそうなリツコの説明が終わった時、ケイジにユウミのなにかを見付ける声が放たれる。

「お父さん？」

初号機の後ろ上方の部屋から、ユウミに父と呼ばれた男がガラス越しにこちらを見下ろしている。

「あれは誰なんですか？」

シンジの間抜けな質問にミサトが頬を引きつらせながら答える。

「そういえば、シンジ君は、知らなかったわね。
あの人は、ネルフの総司令で、ユウミちゃんのお父さんでもある、碇 ゲンドウ司令よ」

そう言った後、ミサトは場に漂う親子の再会とは程遠い奇妙な雰囲気に飲まれ黙る。

「ユウミ、これに乗って使徒と戦え」

ゲンドウがユウミにいきなり命令する。

「えっ？しと？って何？」

横にいたリツコがユウミに教える。

「あなたが外で見た巨大な生物のことよ。そして、それを倒さなければ私たち人類は滅びてしまうと言われているわ」

ユウミが頷く。

「もう一度、言う。これに乗って使徒を倒せ」

再度放たれるゲンドウの命令に、ミサトが反対する。

「待ってください！レイでさえエヴァとシンクロするのに七ヵ月かかったのに、
今日、来たばかりのこの子では無理です！司令！」

二人のをケイジの人々が固唾を飲んで見守る中でシンジは、

『たぶん、今回もミサトさんは理攻めにされて引くしかなくなるんだろうな』

と考え、一人冷静だった。
が、しかし

「多くは、望まん」

ゲンドウの言葉の僅かな違いに気付き

『あれ？もしかして僕の時より期待してるの？やっぱり女の子にだけ優しいの？じゃあ、僕は本当に要らない子なの？
答えてよ、父さん、ねぇ、答えてよ！』

と一見、冷静に見える彼の思考はひどく混乱していた。

「でもっ！！」

尚も食い下がるミサトをリツコが切り捨てる。

「葛城一尉！今は使徒迎撃が最優先事項よ、
そのためには誰であれエヴァとシンクロ可能な人間を乗せるしか方法はないのよ、
それに他にいい方法があるとでもいうの？」

「ッ！・・・・・・・・・」

これには、ミサトも反論できない。

そして、父娘の会話は、周りを無視する様に始まる。

「わ、私がこれに乗るの？」

娘は父から否定の言葉が出るのを期待する。

「そうだ、他の人間には、無理だからな」

しかし、父親は肯定の言葉を出す。

「そっ、そんな事、できないよ！、わたしに死ねっていうの！」

自分の事など、どうでもいいような父の態度に、娘は叫んだ。

「乗るか・乗らないか、どちらかだけだ。どうするんだ？」

そんな娘の叫びは、父に届かなかった。

「今までほっといてこんなの・・・・・・こんなの無いよ」

そう言いながらユウミは泣き始める。
そして、ユウミの涙の理由の意味が重すぎて誰も動けない

「それで、本当にいいの？」

シンジの優しい声に、その場にいた全員がシンジを見る。

「キミが自分で選んだ答えなら、それで良いと僕は思う。
けど、キミは本当に、答えを選んだの？」

シンジの言葉にユウミは自分が了承も拒否も答えていないことに気付く。

「そう・・・だけど・・・わたしは・・・そんなこと・・・する為に・・・此処に・・・来たんじゃない」

ユウミは泣きながら答える。

「じゃあ、何の為に此処に来たの？」

シンジの静かで優しい質問に、ユウミは泣き止み考える。

『わたしは何の為に此処に来たんだろう。
・・・たしかに、お父さんと 暮らせるのかな？なんて考えもあった。
・・・・・・けど、本当は、いつも弱腰で人に判断を任せるわたしを変えようと考えて此処に来たんだ。
それなのに、また、わたしは判断を任せて逃げてたの？
そんなの駄目だよ！わたしは、わたしを変える為に此処に来たんだもの！！』

ユウミは決意を固めゲンドウを見つめる。

「どうするんだ？」

ゲンドウの問い掛けに、ケイジ中が息を詰める。

「わたしは、うまくできないと思う・・・・・・けど」

最初は弱々しかったユウミの声が、最後にはっきりと力強くケイジに響く。

「けど、わたしに、遣らせて下さい！」

ユウミの声にケイジが動きだす。

「発進準備、急げ」

ゲンドウはそう命令すると、ケイジから姿が見えなくなる。

「ユウミさん、こっちに来て頂戴、操縦の基本操作を説明するから」

「は、はい」

リツコとユウミもケイジから出ていく。

「ミサトさん、僕はどうしましょう？」

取り残されかけたシンジがミサトに問い掛ける。

「そうね〜、ちょっと、あなた！」

ミサトは休憩中の女性作業員の一人を呼ぶ。

「はい、なんですか？葛城作戦部長」

作業服の女性がミサトに尋ねる。

「彼を指定のシェルターに連れていってあげて」

「彼・・・ですか？了解しました」

「じゃっ、シンジ君、ちゃんと彼女について行ってね」

そう言うと、ミサトもケイジから出ていく。

「それでは、行きましょうか？」

彼女はシンジにそう話し掛け、二人は歩き始める。

「・・・あっ、はい！そうですね」

シンジは、どうやってユウミの戦いを見ようかを考えていたので、返事が遅れる。

「クスッ♪、どうやって彼女の戦いを見ようか考えてるの？」

彼女は長い黒髪を翻らしながら振り返り、笑顔でシンジの考えている事を言い当てる。

「そんな事を考えるわけ無いじゃないですか」

シンジは相手を警戒し、驚きを隠す。

「そう♪なら、それも良いわね、あなたと二人でいられるしね♪」

サラっと言う彼女だったがシンジは警戒を解かない。

「何で僕と一緒だと嬉しいんですか？
僕、あなたと会うの初めてですよね」

彼女はシンジの言葉に一瞬キョトンとするが、あぁ、そうだったわねと、納得し、また笑顔で答える。

「あなたは、私を知らないけれど、私はあなたを知っているわ」

気付くと、シンジ達は人気の無い通路にいた。

「『碇 シンジ君』」

彼女がそう続けたのをシンジは確かに聞いた。

ネルフ・発令所

初号機の発進準備を進めながらリツコがミサトに話し掛ける。

「彼、何者かしらね？」

「シンジ君の事？何かあるの？」

ミサトは訝しげに問い返す。

「当たり前でしょ、あんな状態になった彼女を説得するなんて、興味深いわね」

少し感心した様なリツコ。

「そうね、彼がいなかったら、彼女、無理矢理、乗ることになってたわね」

ミサトは自分達が行うだろう事を冷たく答える。

「ＬＣＬ注水開始！」

モニターの中のユウミから慌てる声が聞こえる。

「な、何なんですか！この水！」

「大丈夫よ、さっき説明した通り、肺がその水で満たされれば直接酸素を取り込んでくれるわ」

先程と違い、感情の込もらない声で説明するリツコ。

「我慢してね、慣れるまでの辛抱よ！」

リツコとは、まるで対極の声で励ますミサト。

「はい、わかりました」

ユウミが二人の声に頷く。

二人の話が戻る。

「で、彼は今、何処に？」
「彼はあんたん所の髪の長い娘にシェルターに連れて行くように任したけど？」
軽く言うミサトに、

「変ね」

リツコが不審がる。

「何が？」

ミサトが先を促す。

「だって技術部は長髪禁止だもの」

リツコが深く考え込もうとすると、

「Ａ10神経接続異状なし、
初期コンタクトすべて問題なし、
双方回線開きます」！

リツコは頭をその事から切り替えた。

ケイジ・初号機・ユウミ

「双方回線開きます！」

その声が聞こえると、わたしは二つの不思議な感覚を感じた。
一つ目は、自分の体が大きくなる感覚。
二つ目は、暖かく、優しくなにかに抱かれている様な、まるで・・・

「お母さん？」

わたしは自分も気付かないうちに呟いていた。

ネルフ・発令所

「お母さん？」

ユウミの呟きに気付いたものはいなかった。

何故なら、

「し、シンクロ率50.4％です！」

オペレーターが叫ぶ。

「本当なの！？そのデータは」

リツコも驚きを隠せない。

「どうしたの！？、どこか問題が見つかったの！？」
滅多に見ない親友の驚きにミサトが問う。

「いえ、何もないわ。ただ予想の最大シンクロ率を7％も 上回っていただけよ。
いけるわ、ミサト」

リツコの発進可の報告を聞き、

「わかったわ、
司令、よろしいんですね？」

ミサトがゲンドウに最後の確認をする。

「もちろんだ、使徒を倒さぬ限り我々に未来はない」
自分の娘が死ぬかもしれない命令を、眉一つ動かさずにゲンドウは許可する。

「いいのか？碇」

隣にいた白髪の老人の問い掛けにも、

「ああ・・・・・・」

としか答えないゲンドウ。

全ての準備が整い、ミサトがユウミを戦場に送り出す。

「エヴァンゲリオン・初号機・発進！！」

バシュッ！

「くっ！」

ユウミの顔が圧力で歪む。

ユウミがリニアで登る途中ミサトが呟く。

「あたしが絶対にあなたを死なせないわ、ユウミちゃん」

今回、話が盛り上がって行く良い所で切って申し訳ないなと思ってる遇善です。
では、今回の補足へ

今回の題は一応シンジです。
前の世界でシンジが決意を最初に固めていたら・・・という、もしもの考えと、それを実行するもう一人の自分・・・。その状況をシンジからすると、こう感じとれる事もあるわけです。
次に技術部は長髪禁止についてです。
皆さん、思い出してください。リツコも某童顔オペレーターも某ばーさん（ファンの方すみません）も髪を長く伸ばしていないじゃないですか。
ただ、そこから思いついた設定です。
最後にとりのミサトの言葉ですが、仮にも自分が指示を出すのに「死なないでね」じゃ駄目でしょと思い変えてみました。

では、ご意見・御感想ありましたらお送りください。

経験者は語るっ！　ということでシンジ君のフォロー、Ｇｏｏｄです。
ただ、経験からズレはじめた時に、シンジがどう動けるのか。
そこに今から期待したいと思います（＾＾）