Satan　Is　Charity　−第２話「知らない天井」Ａパート−

？？？

周りが見えないほどの闇の中で会議が行なわれている。

「使徒再来か・・・・・・あまりに唐突だな」

「15年前と一緒だよ、前触れなく災いは訪れるものだ」

「幸いとも言える。我々の先行投資が無駄にならなかった点だけだが」

「左様。今やあれによって周知の事実となった。使徒の処理、情報操作、ネルフの対応は迅速にしなければならない」

「ご安心をその件に関しては対処済みです」

会議は、4人で進められていたが、ゲンドウが口を挾んだ事で様子が一変する。

「しかし、碇君、エヴァはもう少しうまく使える様にならんかね」

「零号機に続いて、先の戦闘の初号機、あれでは計画に差し支える」

「これでは、早期にセカンドをそちらに向かわせなくてはならない羽目になる」

「君は、人、金、時間、どれだけ使えば気が済むのかね」

「聞けば、君は、自分の娘を初号機に与えたそうじゃないか」

「一番、暴走の可能性が低かっただけの事です」

ゲンドウの理由を聞いて会議の流れがまた変わる。
「君の任務は人類補完計画だ。しかし、それ以外も考えてくれねばな」

今まで黙っていた赤いバイザーをかけた老人が口を開く。

「わかった、予算については許可しよう。しかし、碇、早期にエヴァの暴走原因の究明と対策をなんとかしたまえ、使徒襲来に置けるスケジュールを無駄にしないためにもな」

「後は、委員会の仕事だ。ご苦労だったな、碇君」

会議に参加していた四人が突然消える。

「碇、後戻りはできん、だが進みすぎることは許さんぞ」

そういうと最後に残ったバイザーの男も消える。

「わかっております。我々に残された時間は少ない。なら、進めることに、価値はありません」

自分の企みがうまく行ったからなのか、ゲンドウに笑みが零れる。

病院・病室

ユウミが目が覚めると、いま自分がいるのは初めて来た場所だというのに気付く。

「知らない天井ね」

「うん、そうだね」

「わたし、どうなったのかな？」

「キミは、自分が言った通りのことをしたんだよ」

「そっか、使徒とかいうのを倒したんだ。・・・でも、わたしは覚えてないんだよ？」

「大事なのは過程じゃないよ、僕は結果の方だと思うからね」

「うん、そうだよね、ありがとう・・・・・・・・・って何であなたが居るんですか！？出てって下さい！！」

シンジが一緒の部屋に居る事にユウミは気付き、追い出そうとする。

「何で？、今まで普通に話をしてたじゃないか？」

不満そうに話すシンジ。
「今は、お願いだから出てって下さい！準備ができたら出ますから！」

真っ赤になりながらユウミが頼むので、

「わかったよ、この部屋の前で待ってるから」

と言って出ていくシンジ。

シンジが部屋を出た後ユウミは身仕度をしながら呟く。

「シンジ君、わたしのお見舞いに来てくれてたのかな♪」

ユウミの顔が笑顔に変わる。

「でも、なんでわざわざ、わたしの寝起きに居るだろう？恥ずかしいな」

作業を続けながら思い出し、また赤くなるユウミだった。

病院・通路

「おっそいなぁ〜」

ユウミが自分の事を考えて遅くなっているとは知らないシンジ。

ガラガラガラガラガラガラガラガラ

空色の髪の小女がベッドに乗せられてこちらに運ばれて来る。

シンジと少女の赤い瞳が交差した瞬間、一瞬、時が止まる。

『・・・・・・・・・』・『あなた、誰？』

そして、また動きだす。

ガラガラガラガラガラガラガラガラ

「ごめんなさい、遅くなって」

ユウミが謝りながら部屋から出てくる。

「気にしなくていいよ」

シンジは、微笑みながら答える。

「あ、あの、その、なんていうか」

シンジの微笑みと先程の出来事を思い出し、また、真っ赤になるユウミ。

「それより、これからの事だけど、ロビーか何処かで誰かが迎えに来るのを待ってようよ」

先の事をシンジが話したので少し落ち着くユウミ。

「は、はい、けど、なんで迎えが来るってわかるんですか？」

「それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「それは？」

「なんとなくだよ・・・・・・・・・しいて言うなら電波を受信したからかな？」

「そ、そうですか」

さすがに「何処から受信してるんですか！？」とは言えないユウミだった。

第三新東京・使徒調査現場

「あっついわね〜」

ミサトは分厚い作業服をはだけさせ、右手のうちわをひらひらさせながら椅子に座る。

「今回の事件はＢ−17で処理するそうよ」

資料を片手にリツコは分厚い作業服を着たまま話し掛ける。

「あんなんで、ホントにいけるの？リツコ」

「さぁ、やってみないとわからないわ。でもシュミレーションなら87％の人が当てはまるわね」

《Ｂ−17とは情報操作の作戦名で、表向きには第三新東京市用の新型発電機が予想以上に電力を作り出し大爆発を起こしたと報道する。
裏では、遷都計画に反対派のテロなどいかにもな噂と、真実を知ったら黒服の男に連れ去られるという噂を大々的に流し、第三新東京市に置いては真実を公然の秘密にしたてあげるのである》

「本来、予定されてたのは誰かさんの大声でパーね」

「まぁね、本来の方が楽で効率よかったのにね」

「そんなどうでも良い事より、使徒の分析は・・・・・・・・・・・・無理そうね」

ミサトは本題を切り出したが、リツコの顔を見て、言い終わる前に気付く。

「えぇ、この熱さで腐敗が激しいのに、自爆でのダメージが痛かったわね。」

リツコが至極残念そうに答える。そこでミサトがある事に気付き尋ねる。

「何であんたは使徒の細胞が耐えられない暑さに、そんなもん着て涼しそうな顔してんのよ」

リツコは明後日の方向を見ながら話をはぐらかす。

「か、彼女が目覚めたわ、それに彼も一緒にいるそうよ」

たが追求を諦めないミサト。

「そう、それより、こっち見て答えなさいリツコ」

やはり、こちらを見ないリツコ。

「わ、私も行くわ、レイの体を診なくちゃいけないしね」

そう言いながら車に消えていくリツコ。

「何かあるってわけね、リツコはそんなに甘くないっか」

ミサトはリツコの後ろ姿にそう、投げ掛けた。

病院・ロビー

ロビーで誰か迎えが来るのを雑談しながら待つシンジとユウミ。

「シンジ君はこの街に住んでないの？」

「うん、2日前に来たばかりだしね」

「それじゃあ家族とかっているの？」

「う〜ん、前は二人と一匹いたかな？」

「家族がいるのって、羨ましいな、わたし、お父さんしか家族いないし・・・、お父さんは仕事が忙しいらしくて、わたしにかまってくれなかったんだ」

「そうなんだ」

「うん・・・どんな感じなの？家族って」

「安らげて、楽しくて、・・・辛いこともあったけど」

「ごめんなさい、わたし、そこまで気が回らなくて」
「まぁ、家族と言っても他人同士だったし、そんなに気にする事じゃないよ」

「ありがと・・・・・・・・・あれっ、お父さん？」

ユウミはゲンドウに気付くが、ゲンドウは気付かずにロビーを横切っていく。
「やっぱり、気付いてくれなかったのかな？」

「たぶんね。まぁ、こっちは向こうからは見えにくいし、気にする事ないよ」

「ありがと、なんか励まされてばかりだよね」

その時、ロビーにミサトの声が響く。

「やっほ〜♪元気してた〜ユウミちゃん♪って何でシンジ君もいるのよ？」

「私は、言ったわよ、ミサト。そんな事より、まだ名乗ってなかったわよね、私は赤木 リツコ、よろしく」

「シンジです。こちらこそよろしくお願いします」

「あら、あなた、なんで名字を名乗らないの？」

当然の疑問をするリツコにシンジが悲しそうに微笑みながら答える。

「僕の名字は亡くなったんです・・・名字は血族の絆 の証って僕は思うんですよ、僕はもう両親に逢うこともできません、だから僕には名字が無いんです」

見た者の心を捕らえる程の綺麗で、儚い微笑みと母性本能をくすぐる台詞に、三人が自分の世界に入る。

『くぅ〜、シンジ君って、かなりかわいいじゃない♪私と年が離れてるけど、まだイケるわ♪』
『シンジ君はそんなに辛い事があっても、それを乗り越えてきたんだ。かっこいいなぁ〜」
『そう、そんな事があったの、辛かったでしょうね・・・・・・、私の腕の中で・・・って、駄目よ！私は、ショタでもレズでも無いの！だから、来ないで、お願いだから！来ないで！』

最初は作戦部長、次はパイロット、最後は技術部主任の心の叫びだった。

病院・通路・病室前

「どうしようかな？この状況」

シンジは自分が気付かず作ってしまった状況に困っていた。何故なら目的の病室前まで来たが、三人があっちの世界から帰って来ない為、病室に入れないのだ。

「何故、此処に居る？」

突然、ゲンドウが病室から出てくる。

「あっ、こんにちは」

「こ、こんにちは、・・・もう一度聞く、何故、此処に居る？」

ゲンドウは思ってもいなかった相手の行動に、内心焦りながら再度尋ねる。

「さあ？何でもリツコさんが用があるらしいんですが・・・・・・・・・」

ゲンドウはシンジの答えであるリツコを見ると何やらぶつぶつと呟いている。

「何をしている？」

「良いのよ、シンジ君・・・・・・ハッ！し、司令！」

「わたしなんか、わたしなんか・・・・・・・・・えっ！お父さん？」

「母さん、馬鹿な事したわね、私、あんな娘、ほっておけば良かった、ロジックじゃないのね。ホント」

何が良いのかわからないミサトと、いつのまにか自己嫌悪に陥っていたユウミがゲンドウに気付くがリツコは変化が無い。

「赤木君・・・君は、本当に 「ハッ！し、司令、失礼しました」」

漸く正気を取り戻したリツコに三度尋ねる。

「何故、此処に居る？」

「レイの調子を見に来ました」

「そうか、では頼む」

話が終わるともう用が無いとばかりに去ろうとするゲンドウ。

「あっ、あの、」

「なんだ？」

「あの、その、えっとね」
「つまらん事で呼び止めるな」

「・・・・・・・・・ごめんなさい 」

今度こそ去っていくゲンドウに誰も声をかけられなかった。

「それじゃ、行きましょ」
リツコとミサトは目的の病室に入っていく。

「気にしない方がいいよ、いつかキミがあの人の態度の理由を見つけだせば良いと思うしね」

そう言ってユウミの肩をポンッと叩いてシンジはリツコに続いていく。
それだけでユウミは何故か心が軽くなっていくのを感じ、ヨシッと気合いを入れるとシンジに続いて病室に入っていった。

前回、ゲンドウが言った通り、委員会に初号機の声を報告されました。
それは、ある計画の要である初号機は人が制御しきれないものだと委員会にわからせ、原因究明や対策にかかる費用等の予算を余分に振ん取る為でした。そして、まだ他の思惑があります、けど、それは後でわかってくることでしょう。
最後でユウミが気合いを入れてますけど、それはこれから会う誰かの為じゃなく、生きることにです。

ではご意見・御感想ありましたらお送りください。

寝顔を見られてあわてるユウミちゃん…可愛いですね。
追い出す理由に気づかないあたり、シンジらしくて…（笑）