Satan　Is　Charity　−第３話「疲れる一日」Ｂパート−

第一中学校・2-A教室

カタカタカタカタカタ

「二十世紀最後の年に、大質量隕石が南極に衝突、これにより、南極の氷は一瞬にして溶解し、海洋の水位は、20メートルも上昇しました。更に、地軸がずれ、日本では、夏以外の季節が無くなりました。これが世に言うセカンドインパクトです。」

普段なら、授業の余った時間に語れるセカンドインパクトの話など誰も聞いてないのに、今日は、なぜか生徒達は真剣な顔をしている。

カタカタカタカタカタ

『なぁ、転校生って、碇さんと仲良いよな、さらに、オオウミ先生とも一緒に住んでるんだよな〜』

『ああ、転校生は委員長とも仲良さそうだな・・・、委員長に、碇さん、さらにオオウミ先生、世の中、不公平だ』

『碇さん、可憐で、優しいから、守ってあげたくなるんだよな〜・・・』

『委員長は、好きな奴がいるらしいけど、家庭的で結構、可愛いんだよな〜・・・』

『オオウミ先生は、ぐいぐい引っ張っていってくれる、綺麗なお姉さんって感じなのに・・・』

『クソッ！、許せないな！転校生！』

以上、男子の守秘回線上でのチャットの結果。

カタカタカタカタカタ

『シンジ君って、かなり凄い環境にいるよね』

『けどさ、碇さんとは、お互いに、お友達って思ってそうじゃない？』

『わかる、わかる、それにオオウミ先生は、シンジ君が相手にしてない感じ〜』

『そう、そう、そして、ヒカリには、好きな人いるしね〜』

『なら、まだ誰にでも、チャンスがあるわけね！』

『そ〜ゆ〜こと！』

こちらが、女子の守秘回線上のチャットの結果。

「その後、それが原因で、世界恐慌に陥り、そして、数々の紛争や、食料不足に問題が発展していったのです」

『き、気付いてなかったけど、綾波、こっち睨んでるみたいだ』

普段から物静かなレイは、誰にも気付かれずに、シンジをジッと見続けていた。

カタカタカタカタカタ

ピッ

『メールが届きました』

『何？』

レイは、メールを訝しく思いながら開く。

『こんにちは、綾波さん、さっきから僕を見てるようだけど、なにか理由があるなら、教えてくれないかな？』・・・シンジ

カタカタカタカタカタ

ピロン

『メールが届きました』

『綾波は、どんな理由で僕を睨んでいるんだろう？』

シンジは、少し期待しながらメールを開く。

『別に、理由なんか無いわ』・・・レイ

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・結局、なんなんだ』

「今、皆さんが平和に暮らせているのは、皆さんのお父さんやお母さん達の努力あってのものなのです」

キーン、コーン、カーン、コーン

「今日の授業は、ここまででは、続きは、次回の授業で」

ガラッ

老教師が出ていくのと入れ違いに、黒いジャージの少年が入ってくる。

「なんや、えろぅ減ったみたいやなぁ」

その少年は、眼鏡を掛けている少年に、話し掛ける。

「まぁな、あんな事の後に、あんな音が聞こえたんなら、無理ないさ」

「まぁ、ええわ、そんなことより、この写真の男、知らんか？」

ジャージの少年が写真を見せる。

「ああ、そいつな「鈴原！なんで無断で一週間も休んでたの！？」

眼鏡の少年が答えようとするのを、遮ってヒカリが問い掛ける。

「妹のヤツがな・・・」

ヒカリと一緒にいた、ユウミも話に加わる。

「妹さんがどうかしたの？もしかして、この前の非常事態の時に？」

「ちょっとな、けど、怪我とかは、ないんや。ところであんた、誰や？」

「わたしは、五日前に転校してきた、碇 ユウミです。よろしくね」

ユウミが微笑みながら自己紹介したので、男子の白い目が向けられる。

「よ、よろしゅうな、わいは、鈴原 トウジ、ちゅうもんや、んで、こいつが・・・」

トウジは、そんな男子の視線など気にせず、少し赤面しながら答える。

「相田 ケンスケだ、よろしく」

ケンスケは、そこまで神経が図太くないので、簡潔に自己紹介する。

「そうだ！鈴原、もう一人、転校生がいるのよ」

「うん？どいつや？」

「彼よ」

ヒカリは、なにやら、難しい顔でノートパソコンに向かっているシンジを指差す。

「まさか、こんなとこで会えるなんてな・・・」

トウジは、急に真剣な顔になり、シンジに向かっていく。

バンッ！

「転校生！ちょっと、顔貸せや！」

トウジが、机に勢い良く手を突いた音で教室中が息を呑む。

「え、うん、別に良いよ」
シンジは、微笑みながら、軽く答えた。

第一中学校・校舎裏

「こんな所で、なにするの？」

心配そうなユウミ。

「私には、鈴原の考えてる事なんてわからないから・・・」

同じように心配そうだが、歯切れの悪いヒカリ。

「ここから、見張ろうってわけさ、なぁ、みんな」

なぜか、気楽そうなケンスケ。

「そうそう、鈴原が何するか気になるしな・・・」

気付くと2-Aのクラスメイトが全員、物陰に隠れている。

「い、いいのかな？」

「いいの、いいの、あっ！動きだしたわよ！」

少し居心地が悪そうなシンジを睨め付けているトウジ。

バキッ！

トウジがシンジを殴り、言い放つ。

「わいは、オマエを殴らなあかんのや！」

「なんで僕が君に殴られるのさ？」

シンジは、殴られた頬を撫でながら問い掛ける。

「妹が、顔に傷付けて、帰ってきてな、オマエの写真出して、探してくれ、言いよんねん」

「それで、どうして、僕が殴られるのさ？」

「妹に傷を付けた奴には、これくらい、しとかなあかんやろ！」

「僕は、そんなことしてない！」

「アイツが顔に傷付けて、オマエの写真、もっとったら、間違いないやろ！」

辺りに緊張が走り、沈黙が広がる。

「・・・それってさ、もしかして三週間前の非常事態宣言の日？」

「ああ、そうやが、それがどうかしたんか？」

突然、一人、納得したシンジと、なにが、どうなってるのか、わからないトウジ。

「君の、勘違いだよ。僕は、非常事態宣言の日、街で逃げ遅れた子がいたのを見つけたから、一緒のシェルターに避難させたんだ。その子は、たしか、小学二年生ぐらいで、名前は、ナツミちゃんって言ってたかな？」

「ち、ちゅ〜ことは、転校生、オマエは、妹を傷付けたんじゃなくて・・・」

「たぶん、助けてあげた、って言えると思うけど・・・」

『気絶してたから、タツミさんに預けて、僕は、街に行ってたから、助けた、なんて言えないかもしれないけど・・・』

「そ、そんな・・・」

シンジの説明を聞き、地面が崩れていく様な感覚を味わうトウジ。

ピピピピピ！

「あっ！ご、ごめんなさいわたしの携帯だ」

ユウミは、ネルフから連絡用に渡された携帯を取り出す。

ピッ！

「もしもし、はい、そうです、・・・・・・はい、それでみんなは？・・・・・・はい、わかりました」

ピッ！

「ごめん、ちょっと、わたし、行ってくるね！」

「えっ、碇さん、どこ行くの？」

駆け出したユウミが見えなくなると、警報が鳴り始める。

ウウウウウウウウゥゥゥゥゥ・・・・・・！

「−ただいま東海地方を中心とした関東中部全域に特別非常事態宣言が発令されました。
速やかに指定のシェルターへ避難してください。
くり返します−」

「みんな！避難訓練を思い出しながら、シェルターへ避難して！」

ヒカリの声に、皆は、避難し始めるが、トウジは、跪いたままだった。

「なにしてるの！鈴原！」
「ほら、速く避難しないと」

「あ、ああ、そうやな」

ヒカリとシンジの声に、漸くふらふらと避難し始めるトウジ。



ネルフ・発令所

「目標を光学で捕促！領海内に侵入しました」

「総員、第一種戦闘用意っ！」

長髪のオペレーターの報告を聞き、ミサトが凜とした声で命令すると、街が武装ビルを残して地下に潜っていく。

「ユウミ、用意は、いい？」

ミサトは、ユウミに通信を繋ぐ。

「はい！いつでも良いですよ、ミサトさん！」

「戦闘中は、私の指示に出来るだけ従って！けど、何かあった時は、自分で判断して頑張ってね、なんたって」

ミサトの声にユウミが合わせる。

「「私は、ボクシングのセコンドみたいなもんだから」」

「でしょ？」

ミサトとユウミの顔が緩む。

「イエース、じゃ、お互い、頑張っていきましょ」

「はい！」

ユウミは、そう言うと眼を瞑り、集中する。

「あなたが、そんな事、言うなんてね」

リツコは、ミサトにしか聞こえないぐらいの大きさで話し掛ける。

「まぁ、チョッチね」

「どうかしたの？」

「べっつに〜、関係ないでしょ♪」

「なに、隠してるのよ」

緩んでいたミサトの顔が真剣になる。

「そんなことより、碇司令の留守中に第四使徒襲来か・・・・・・」

「そうね、思ったより早かったわ」

「前は、15年のブランク、今回は、たった３週間で、こっちの都合は、おかまいなし、女性に嫌われるタイプだわ」

「バカ言ってないで、スクリーンを見なさい、国連軍の攻撃が始まるわよ」

スクリーンの中では、エイの様な頭蓋の下に紅い珠があり、胴体は、茄子のような赤紫色の巨大生物が、街の上空を進んでいる。

シュバ、シュバ、シュバ

ズガァン！ズガァン！ズガァン！

国連軍の発射したミサイルが命中していく。

「税金の無駄使いだな」

副司令の呟きを表わすかの様に、無傷で爆煙から使徒が現れる。

「委員会から、エヴァンゲリオンの出撃要請が来ています！」

「まずいわね、敵を、少しでも調べられたらよかったんだけど・・・」

シェルター

『あの二人が、出ていかないように見張らないとな』

「ここは♪総床面積2000平方メートル、最大収容人数250名、最大の特徴は・・・」

真剣なシンジの横でタツミの能天気なガイドが聞こえてくる。

「タツミさん、一体、なんなんですか？」

「ふふ♪旅行気分を出そうと思ってね♪どうかな？」
「シェルターで、旅行気分とかって湧かないと思うんですけど・・・」

シンジがタツミに気を取られている隙に、物語は、進む。

「あぁ〜、また文字ばっかりだ。やっぱ、民間人には、なにも見せてくれないんだよな」

かなり残念そうに話すケンスケと、さっきの出来事が効いていて元気の無いトウジ。

「それは、しゃあないやろ」

「なぁ、トウジ、外へ出てみないか？」

「あほか、外、出たら死んでまうで」

キラーン

ケンスケの眼鏡が光る。

「なぁ、ここにいたって、なにもわからないしさ、もし、まだ外に人がいたら助けなきゃいけないだろ」

「そ、それは、そうやけど、わいらが行ってもな」

ここだ！とばかりに畳み掛けるケンスケ。

「転校生に出来たんだ、俺たちにだって出来るさ」

「そや、そやな！よし、行くで、ケンスケ」

まんまとケンスケの策略にトウジは、乗ってしまう。

「そうこなきゃな、あっ！委員長、俺たち、トイレね！」

ケンスケは、いなくなった事がバレないように、ヒカリに声を掛ける。

「もう、そんなの、済ませときなさいよ！」

ヒカリは、ケンスケ達がそんな事を企んでいるとは、思いもしないので、深く考えずに答える。

タッタッタッタ

「こっちの扉だ、トウジ」

「外出るんやったら、こっちやないんか？」

「普通の出口は、ロックされているから、こっちの非常出口から出ていくだよ」

頑丈な扉の前で互いに確認をとる二人。

「ほな、ケンスケ、行くでぇ！」

トウジは、正義を胸に・・・

「ああ、そうだな！」

ケンスケは、好奇心で・・・
ガチャ！

シュッ！

天使と鬼の戦場への扉を開ける。

特になし。

勘違いの末に、拳で騙ったトウジ君。
心が広いシンジの配慮で、なんとかなりそう…かな？