Satan　Is　Charity　−第３話「疲れる一日」Ｄパート−

ネルフ・反省室

「わしら、どないなんにゃろ？」

あちこちに擦り傷を付けているトウジが弱々しく呟く。

「俺たち、子供だろ、きっと許してもらえるさ！」

トウジと同じように擦り傷を付けているが、強気に言うケンスケ。

「そんな簡単な事じゃ済まないと思う。あなた達が出なければ碇さんは、すぐに戦えたわけだし、私がいたから・・・」

自分のした事が恐くなり、声が小さくなるヒカリ。

「どないしたんや、もしかして、あいつになんかあったんか！？」

「わからない、ただ、あの後、ずっと苦しそうにしてて、戦いが終わると気をうしなって・・・」

「そ、それで、どうなったんや！」

シュン

「大丈夫よ、彼は、今、眠ってるわ」

反省室に入ってきたミサトがシンジの容体を伝える。

「そうですか、よかった、失礼ですけどあなたは？」

ヒカリは、かなり、ホッとした様子で尋ねる。

「私は、ネルフの作戦部長をしている、葛城 ミサトよ。これから、あなた達の処罰について話すわ」

「ち、ちょっと、待ってください！俺たち、子供なんですよ！処罰なんて・・・」

ケンスケは、処罰を受けるということに声を荒げる。

「あなた、罰受けないで済むと思ってるの」

「そんな！子供のイタズラ程度の事じゃないですか！？」

ケンスケの言葉にミサトがキレる。

「イタズラで済むレベルじゃないわ！あなた達の身勝手で二人の人間が、死にかけたのよ！いったいどんな理由があって外に出たの！言ってみなさい！」

「そ、それは・・・」

ケンスケが言い淀んでいると

「悪いけど、シェルターのカメラから調べさせてもらったわ。
洞木さん、あなたが、二人が心配してたのは、わかるわ。けど、外に出た時点であなたも悪いわ。
鈴原くん、街に人がいたら助けようと思って外に出たらしいわね。けど、外に出たら、君が助けられる側になるとは、思わなかったの。
最後に相田くん。君は、ただ本当の戦争が見たい。けど、一人で外に出る勇気もない。だから、鈴原くんまで巻き込んで外に出た。その結果は、一歩間違えれば、自分を、他の二人を、そして、私の家族を殺すところだったのよ！」

「すみません・・・」

「すんません！」

「もう一度、しっかり自分がした事を考えてみなさい。それがあなた達への今回の罰よ」

シュン

最後に論すように語り掛け、部屋を出ていく。

「なんだよ、あの態度！それに私の家族って誰だよ！？」

ケンスケは、横柄に思えるミサトの態度に憤る。

「・・・葛城さんの言ってた家族って碇さんの事かしら」

思いついた様にヒカリが呟く。

「な、なんで、碇はんが出てくるんや？」

「実は、あのロボットにパイロットとして乗ってたの、碇さんなの」

「ホントなのか！？すごいな！碇のヤツ」

知り合いがパイロットと知り、はしゃぐケンスケ。

バキッ！

トウジがケンスケを殴り飛ばし、床から胸ぐらを掴んで起こす。

「な、なにするんだよ！？トウジ！」

「アホか！！わいらは、碇はんの死ぬか、生きるかの戦いん中で、足、引っ張ったんやぞ！！そんな事しといて、碇はんがパイロットっちゅーことにわいらが喜んだらあかんやろ！！」

「あっ、そうか、す、すまない、そんな事も気付かなかったなんて・・・」

ケンスケは、なにも考えずに自分が言っていたことを恥ずかしく思い、謝ってしまう。

「わかったら、ええわ」

トウジは、掴んでいたケンスケの胸ぐらを離す。

「シンジ君、大丈夫かな？」

「なんでさっきから、転校生が出てくるんだ。あいつは、シェルターに居たんだろ？」

「あぁ、そういや、ケンスケ、オマエは、気絶しとったから、知らんやろうけど、あの後、あいつが来て、動けへんわしらを、命懸けで助けてくれたんや」

「その時にかなりの無茶をしたらしくて、気を失って、今は、寝ているって葛城さんが言ってたわ」

説明を聞き、ケンスケは、自虐的に笑いながら呟いた。

「そうか、俺の身勝手な行動でいろんな人に迷惑掛けたんだな・・・」

二人は、そんなケンスケを励ます言葉を持っていなくて、ただ黙って見守ることしかできなかった。

ネルフ・反省室前の通路

ミサトは、反省室から出ると、

「ミサトさん、あの三人どうしたんですか？」

ユウミが尋ねてきた。

「とりあえずの罰だけど、厳重注意の後、しっかり反省することよ♪」

ミサトは、笑顔で答える。

「なにか、あったんですか？浮かない顔をして・・・」

「はぁ〜、わかる？」

一転してミサトの顔が勝れなくなる。

「わかりますよ、そ、その、家族じゃないですか」

恥ずかしそうに微笑むユウミ。

「実はさ、カッとなってね、心に傷が残りそうな事、言っちゃったのよ」

「どんなことで、カッとなったんですか？」

「・・・家族が死にかけたのをイタズラで済まそうとする態度にね。けど、彼は、なにも知らなかったわ」

「大丈夫ですよ、三人は、自分のした事の意味とミサトさんが優しい事もこれから知りますから」

「私を優しいと思うの？」

「当たり前です、だってあれだけの事をしたんだから禁固刑になってもおかしくないですよ」

ユウミは、微笑み、ミサトの顔に笑顔が戻る。

「よしっ！じゃ、私、仕事に戻るから。ユウミ、今日は、ご苦労さま、ゆっくり休みなさい♪」

ミサトは、ユウミに背を向けて歩きながら考える。

『ふふ、ユウミと話すと心が軽くなる気がするわ。・・・そんな風に感じられるから家族なのかもね』

？？？

全てが闇と静寂に包まれた空間。

「ねぇ、あなた、私と一つにならない？」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「そうよ。それに、ここから出られるわ。だから、ね」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「私だけ？けど、あなたは、それで良いの？」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「そう考えているのなら、何もいわないわ。・・・じゃ、始めさせてもらうわよ」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「わかってるわ。あ、そうそう、あれについては、私の好きなようにしていいわよね？」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「違うわよ、はっきり言って嫌いだわ！」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「なら問題無いわね。今度こそ始めるわ」

カッ！

物凄い光が辺りに広がり、話し掛けた方が光の中に浮かび上がる。

ネルフ・病院・病室

「！母さん！？」

「なぁに？」

「なんだ、夢だったのか・・・、まぁ、母さんに久しぶりに会えたと思って・・・」

「きゃ♪母さん、嬉しいわ♪そんなにシンジに思ってもらえたなんて・・・」

シンジは、ぼんやりしていて、話相手が誰かという疑問に気付かない。

「なに、言ってるんだよ。親子なんだから、当たり前じゃないか、ちゃんと父さんの事も考えてるし・・・」

何故か、部屋の温度が下がっていく。

「そう、あの人の事も・・・・・・
じゃ、母さん、行くところができたから。ちゃんと寝てるのよ」

「わかったよ、母さん」

ガチャ

「あれ？僕、今、母さんと話してなかった？・・・・・・・・・夢？・・・」

しばらく、シンジは、考えた後、疲れていたので二度目の眠りに堕ちていく。

ネルフ・病院・通路

「あなた、どう落とし前つける気ですか？」

タツミが、シンジの病室から出てきた女性に声を掛ける。

「あら、何に対しての？」

「あなたが此処にいる事について」

「なんで、そんな事に落とし前をつけなきゃならないの？」

「あの人の為に、事を出来るだけ穏やかにしておきたいの」

「なるほど、私がここにいることを隠しておきたいわけね？」

「そう。あなたが、此処に来るまでのカメラのデータは、消したわ。けど、人の記憶までは、消せないわ」

「う〜ん、そうねぇ、なんで、シンジの為になるのか、わからないけど、やっぱり隠しといたほうがいいの？」

「ええ、もちろん」

誰もいない通路で二人の女性が火花を散らす。

「じゃあ、貴女も手伝ってくださる？」

「当たり前よ。あなたは、嫌いだけど、あの人の為なら協力するわ」

「は、はっきり言うわね」

「これでも、まだマシよ。前であの人は、あなたの事をよく考えてたみたいだから、あの人に好意を抱いた人は、みんな、少なからずあなたを憎んでいたわ」

女性は、難しい顔で話を聞いていたが、

『きゃ〜♪シンジって、モテモテだったのねぇ♪そんな中で母さんの事、考えてくれてたのね♪』

なんてことを考えていた。

「で、どうするんですか？」

タツミの冷ややかな声に現実に戻る。

「人の記憶なんて、たいしたことないわ、まずは・・・・・・」

ネルフ・発令所・リツコ

皆が事後処理に行った為、今、発令所には、私と彼女・・・

「先輩、バルタザールが何者かにハッキングを受けています」

後輩兼悩みの種の伊吹 マヤしかいない。

「大丈夫よ。一流のハッカーでもマギのプロテクトに引っ掛かって、逆ハックされるわ」

「それが、どんどんプロテクトを突破しています！」

「本当なの？」

私は、コンソールに向かう。

速いわ！こんなの人間業じゃない！なら、マギの処理能力を利用しているはず！

「ロジック・モードのレベルを最大まで落としてみて」

「わかりました！・・・・・・・・・ロジック・モード、レベルダウン確認！」

ふぅ〜、これでなんとか時間を作り出す事ができるはず・・・・・・

「せ、先輩、ハッキング速度、変わりません！」

「なんですって！？」

「ば、バルタザール、乗っ取られます！」

スクリーンには、乗っ取られた所が赤く表示される。

《バルタザールより、本部の自爆が提訴されました。1対2、否決します》

しまった！このアナウンスで本部内で混乱が生まれてしまうわ！

「ほ、本部の自爆！？どうします、先輩！！」

く、マヤ、煩いわよ！

「こちらで自爆の取り消しは、出来ないの！？」

「ダメです！コントロール、受け付けません！
メルキオールまで乗っ取られました！」

《本部の自爆が提訴されました。2対1、保留します》

本部内が先程より大きな混乱に包まれる。

「っ、マヤ！カスパーのプロテクトを増やして！私は、侵入者をなんとかするわ！」

なんて速さなの！私とカスパーでやっても、かなわないなんて・・・。

「先輩！カスパー、乗っ取られます！」

《本部の自爆を3対0で可決します。》

本部内の全ての人が死を覚悟したとき。

無駄だというのは、わかってるわ。結局、私もロジックじゃないのね。

カタッ

ビュゥゥゥン

スクリーンの赤い部分が一気に青に変わる。

《本部の自爆を取り消します》

本部にいる者は、その抑揚の無い、マシンボイスのアナウンスに安堵する。

「やりましたね！やっぱり、先輩は、すごいです！」
「マヤ、ハッキング先をすぐに調べて！」

「は、はい、わかりました！先輩！」

あの程度プログラムでは、あれ程のクラッカーは、撃退できないわ。それが、できた。つまり、なにか理由があって退いてくれたと考えるべきね。

「せ、先輩！？ハッキング元は、ケイジの初号機です！！」

「あ、ありえないわ！？」

「しかし、残された手掛かりからは・・・」

こ、これは！

「そう、わかったわ。私は、少し休むわ、あなたも、休んで良いわよ」

「はい！わかりました！」

ふふ、もう目覚めてるのかしら？以外と面白い事してくれるわね、碇博士。

？？？

「これで、皆の記憶は、だいたい本部の自爆だけを、赤木博士は、初号機に関心が移ったわ」

「人の心をよくわかってるのね？」

「伊達で、あんな奴と一緒になってたわけじゃないわ」

『こ、この母子は・・・
はぁ〜、今日は、本当に疲れたわ』


第三話
「疲れる一日」
終了

さてさて、ケンスケも、これで懲りてくれればいいんですが（＾＾；）