Satan　Is　Charity　−第４話「子供達の世界」Ａパート−

ネルフ・司令室

「どうなっている、赤木博士」

ゲンドウは自分が出張から戻ってくるとすぐに問題の追求をしなければならなくなったので機嫌が悪い。

「はい、二日前の使徒戦滅後、発令所が手薄になった時にマギがハッキングを受け、本部が自爆させられかけました」

リツコは内に秘めた激情を押し殺して事務的に報告する。

「で、マギと君を落とす程の犯人はわかったのかね？」

冬月も些か不機嫌なのか嫌味を混ぜて問い掛ける。

「はい、ハッキングは初号機が行なったようです。それで」

「待ちたまえ、初号機がそんな事をするのは、無理があるだろう？」

冬月がリツコの報告を止めて尋ねる。

「いえ、調べました所、初号機のコアの固有パターンが以前よりはっきりしていました。それにアレは神の遺したブラックボックスの塊、出来ないことなんてないのかもしれません」

「初号機の変化については正確なんだな？赤木博士」

今まで黙っていたゲンドウが確認する。

「間違いありません。それで先程の続きよろしいですか？」

「ああ、すまないな、説明を止めてしまって」

説明を止めてしまった事を謝罪する冬月。

「理由に関しては不明ですが、残されたファイルより、【昔よりも腕が落ちられたんじゃありません？赤木博士】という文章が発見されました」

『全く、恥を掻かせおって。ユイくん、前にも散々言ってきたが、イタズラの限度というものを考えてくれないかね？』

『くっ！なんて事よ！負けてしまった上に、母さんと比べられるなんて！碇博士、あなたが生きていられるのも私のおかげなのよ！』

『ユイ、相変わらずお茶目だな。だが、そんな所も・・・』

三人の様々な思惑が一瞬、交差する。

「赤木くん、悪いが、使徒の分析と並行してマギのプロテクトと迎撃プログラムを強化してくれ。」

冬月が今後について命令する。

「はい、わかりました。さっそく作業にかかります。では、失礼します」

冬月の命令に一瞬ニヤッとするリツコ。

「ああ、頑張ってくれたまえ」

シュゥン

リツコが出ていくと冬月は、ゲンドウに話し掛ける。

「目覚めるには早すぎるのではないか？」

「なにも問題は無い、予想されていた事態の一つだ」

「ふむ、確かにそうなのだが・・・・・・いや、お前がそう言うなら何も言わん・・・」

どこか煮え切らない雰囲気の冬月だがそれ以降その話題を追求する事は無かった。

「大丈夫だ」

冬月には聞こえないぐらいの大きさでゲンドウは空ろに呟く。

「食事を作り忘れたぐらい気にするな、ユイ」

ネルフ・病院・病室

「い、いやーーー！？」

「と、突然、どうしたのさ、母さん？」

「い、今、なんか嫌な寒気がしてね」

「じゃ、話を続けるよ。この世界で僕は肉親がいないって事にしてあるんだ。だから母さんもそれに合わせて欲しいんだ」

「あら、今なら私もいるんだし、親子でも通るわよ？」

「ダメだよ。この世界の碇 ユイさんと母さんは同一のモノだからね、姿や性別とかの違う僕と違って色々とややこしい事になるから」

魅力的な案だと思いつつもシンジは断り、ユイも難しい顔で何かを考えている。


「う〜ん・・・天使、神楽、どっちもあれなのよね〜」

「へ？あ、天使？に神楽？僕には母さんが何を言ってるかわからないよ」

ネガティブな気持ちの所に能天気に話し掛けられて理解できなくなるシンジ。

「あら、母さんの新しい名字に決まってるでしょう、シンジは何がいいの？」

「そうだなぁ〜、僕はそんなに神々しい名前は嫌だなぁ、って違うよ！」

「ちゃんと決めなさい、母さん、投げやりな態度は許しません！」

「僕のドコが投げやりなんだよ！」

「代案を出さずに否定するなんて物事を投げているか無能のする事よ！どっちも母さんは許しませんからね！！」

『母さん、なんか恐いよ・・・』

シンジは以前に感じた事のない恐怖を母から感じ、言い出せなかった。

第一中学校・2-A教室

「・・・・・・となるわけです。わかりましたか」

この前と違い数学の授業をしている老教師の話をちゃんと聞いている2-Aの教室。

「はい、それでは次・・・・・・」

そして、その様子を副担任のタツミは教室の後ろから授業風景を見ている。

『今日もシンジ君、来れないのかなぁ、あれから、相田くんも全然来ないし・・・』

ユウミは机を人差し指の腹ででノックしながら物思いに耽っていた。

「さて、この問題の答えは？碇さん」

「え！・・・す、すいません、解りません」

「まだ授業に追い付いてないのはわかりますが、しっかりするように。では・・・」

『ケンスケの奴、今日も来とらんな、なに考えとんのかは、わかるんやが・・・そうやった！忘れてたわ、転校生とこに行ってワビいれなアカンがな！やっぱ、委員長と碇はんは連れてけへんな〜』

腕を組みながら椅子の上で踏ん反り返ってるトウジも考え事をしていた様だ。

「おや？珍しく起きてる鈴原、答えてください」

「男がワビいれるところは、女には見せられんやろ！」

トウジは、突然話し掛けられたので考えていた事を答えてしまう。

「なかなか面白い冗談をいいますね。しかし、授業もしっかり受けるように」

辺りから聞こえる笑い声の中でトウジは、

「せんせぇ、うまい！」

と称賛を送った。

「それでは・・・」

ヒカリは黒板に書かれている事を自分のパソコンに打ち込んでいるがどこか上の空の様だ。

『はぁ〜、今日もシンジ君に謝れなかったなぁ、・・・そうよ！お見舞いに行けばいいのよ！あれ、けど、ドコに入院しているんだろう？』

「洞木さん、答えてみてください」

「え！、・・・その、すいません、聞いてませんでした」

「あなたが授業を聞いていないとは珍しいですね。どうも答えが出ないようなので私が・・・・・・」

『はぁ〜、三人の悩ませてる原因の一つは自分の親に戦慄させられてるんだもんねぇ〜』

そんな様子を見ていたタツミは手元の端末から三人にメールを送る。

キーン、コーン、カーン、コーン

「今日はここまで。出来なかった問題は宿題にしますのでやってきてください」

ネルフ・病院・病室

「赤月なんて、どう？」

「どうでもいいよ、僕には関係ないから」

あれからぶっ続けで名字について相談され続けられてうんざりしているシンジ。

「関係あるわよ〜♪シンジに気に入ってもらいたいっていう親心じゃない」

「じゃあ、僕が決めてもいいんだね？」

『かかった！』

「いいわよ、ちゃんとしたのを考えてね♪」

一瞬ユイの目が鋭く光ったが、すぐに笑顔に戻ったのでシンジは気付かなかった。

「そうだな〜・・・」

コンコン

「開いてますから、ご自由にお入りくださいね」

ガチャ

「なんで、あなたが答えるのよ？シンジ君の病室でしょ」

『この親馬鹿！』

「あら、シンジは考え事してたから、代わりに私が答えさせてもらったのよ」

『嫉妬してるの？案外、まだまだね』

タツミは病室に入るなり、先に居た女性と火花を散らす。

「こんにち、！な、なにこれ？シンジ君！なんなの！？」

ユウミは始めてみる修羅場に混乱し、シンジに説明を求める。

「あれ？キミも来てくれたんだ、嬉しいよ」

しかし、シンジは修羅場になってる事すら気付いていないので平然と話す。

「どうしたの？碇さん・・・・・・ひっ！」

ヒカリは修羅場を見て、巨大な白い少女に見つめられた少年の様に悲鳴をあげる。

「ありがと、洞木さんまで来てくれたんだ」

何度も言うがシンジは修羅場に気付いていない。

「よっ！転校生、邪魔させてもらうで、って誰や、このべっぴんさんは？」

トウジは、シンジと同じように修羅場に気付かず、茶色のショートカットの女性を指差す。

「？ああ、この女の人は僕が小さい時に保護者をしてた人で名前は・・・・・・望月 ユイさん」

「皆さん、シンジがいつもお世話になってます♪」

タツミはシンジの説明とユイの挨拶を聞くなり切れ長の目を細め、にこやかに、

「みんな、悪いけど、この人と話があるから」

ユイを病室から連れ出した。

「では、皆さん、ゆっくりしていってくださいね」

こちらもにこやかに病室から連れ出される。

ガチャ

「？どうしたの？二人とも」

「？委員長なんか、顔真っ青やで」

「ち、ちょっとね・・・」

『わかったわ！この二人は、鈍感だから大丈夫なのね！わたしは絶対に同類にならないように気を付けなきゃ！』

口をパクパクさせているヒカリと違って、辛うじて答えられたユウミは気付いていない。
自分も話せる程度は意識が残ってることに、それは天使と戦ってついた度胸からなのか、はたまた根が鈍感なだけなのかは、わからない。

挨拶を交えた雑談で四人が打ち解け始めた頃。

「洞木さん、あれのこと、話さなくていいの？」

なかなか、話しださないヒカリにユウミが促す。

「うん、・・・あの、シンジ君、ごめんなさい、私が外に出なければ、こんな事にならなかったわ、本当にごめんなさい！」

ヒカリがあまりに一生懸命に謝るのに驚きながらシンジは言葉を返す。

「気にしなくていいよ。結果はそうなったけど、誰も死ななかったからね。僕はこの結果に満足してるよ」

シンジはヒカリを安心させるように優しく微笑んだ。

「・・・う、うん、ありがと」

ヒカリは俯き頬を赤くしながら答えた。

「わしもほんまに感謝しとるで転校生」

トウジも話に加わる。

「その転校生っていうのやめてよ、さっき言ったように名字が無いから好きに呼んでよ」

やや不機嫌そうにシンジが答える。

「そら、すまんかったな。ほな、よろしゅうな、シンジ」

「こちらこそ、よろしく」

それから、四人は学校の話で盛り上がった。

「そういえば、僕、担任の先生の名前、知らないんだけど教えてくれない？」

「ああ、根府川先生のことね」

「根府川っていう名前だったの？あのおじいさん」

「ちゃうで、碇はん、それはあだ名や。あのせんせぇ、ようセカンドインパクトの話、やりまっしゃろ、で、きまって最後には「その頃、私は、根府川に住んでいましてねぇ」ゆいよんにゃ、せやから、根府川せんせぇゆうて呼ばれてますねん」

ユウミに教えるのが嬉しのかトウジは自慢げに説明する。

「あの先生の本名は私を含めて学校の生徒は誰も覚えてないって噂があるの」

少し恥ずかしそうに付け加えるヒカリ。

「あ！もうこんな時間だ、みんな、そろそろ帰らない？」

ユウミは時計を見ると五時になろうとしていた。
ここから地上に出るのに結構時間がかかるので、夕食を作る側の者はそろそろ帰らなければならない。

「そうね、帰って夕飯、作らないといけないし・・・」
「すまん、わしはシンジにもう少し話さなあかんことがあんねん、先、帰ってくれへんか？」

「わかったわ。行こっか、洞木さん。またね、シンジ君」

「今日は楽しかったわ、さようなら、また会いましょう」

「うん、また明日ね」

二人はシンジに声を掛けると病室から出ていく。

ガチャ

二人が出ていってから、しばらくして、真剣な顔をしたトウジが口を開く。

「すまん！妹を助けてもろたのに殴ったり、わしらを救けるために無理してもろて、ほんまにすまんかった！」

「別に気にしてなくて良いっていってるじゃないか、僕は、この結果に満足してるんだから」

「いや、これはけじめや、わしが反省しとることをオマエには知っといてほしいんや、だから、ほんま、すまんかった！」

「わかったよ。・・・で、こんな事を言うために二人に帰ってもらったの？」

苦笑しながらシンジが尋ねる。

「それもあるんやが、実は頼みがあんねん、聞いてくれるか？」

そう言った時のトウジの顔は真剣を通り越して必死に見えた。

特になし。

誰も本名を知らない謎の担任…、あ、怪し過ぎる（＾＾；）