Satan　Is　Charity　−第４話「子供達の世界」Ｂパート−

ネルフ・病院・病室

光ファイバーで外の光が送られてくるジオフロントが夕闇に包まれ始める。

「そないに深く考えんでええ。嫌やったら断ってくれてかまわへん。聞いてくれるか？」

依然としてトウジは必死の形相で話す。

「聞かせてもらうよ。断るか、引き受けるかは後で決めるから」

そんなトウジに気付いたシンジも真剣な顔になる。

「救けてもろた時、もう一人おったやろ？
　ソイツ、あれから学校に来おへんねん。理由はわかってるんや。ソイツはいっつもわしより大人な感じしとるけど、へんなとこが子供っぽくてな。オマエに謝りたいけど、意地張って謝りに来れへんことに悩んでると思うんや・・・」

「それで、僕にどうしてほしいの？」

やや、上を向きながら話すトウジにシンジは先を促す。

「・・・ただケンスケ、ああ、まだ知らんかったな、ソイツの名前や。・・・まぁ、ケンスケがオマエから話し掛けてやって許してるゆう事をゆうてくれへんか？」

トウジはそう言うとシンジの方に向き直る。

「確か、トウジがシェルターを出たのはケンスケ君に促されたからって聞いたけど？トウジはどうしてそこまでケンスケ君のことを気に掛けてるのさ？」

「確かにケンスケのせいでゆうとこもある。せやけど、結局外に出たのはわしの意思やしな。・・・それにダチが困ってる時は黙っとけへんやろ？」

最初は罰が悪そうに、最後は少し恥ずかしそうにトウジは話す。

「うん、そうだね」

シンジはその様子を見て微笑む。

「引き受けてくれるんか？」

「友達からの頼みだしね」

「お、オマエ、わしをダチにしてくれるんか？」

シンジの言葉に泣きそうになるトウジ。

「嫌かな？嫌ならやめるけど・・・」

シンジは残念そうに俯く。

「そ、そんなわけあるかい！確認や、確認。
んじゃ、これからは、よろしゅうな、シンジ」

トウジは笑顔で右手を出す。

「うん！これから、よろしくね、トウジ」

シンジも微笑みながら右手を出し、トウジと握手をした。

トウジが帰った後、シンジはどうやって病室から出るかを考えていた。

『どうしようかな？タツミさんが母さんを連れて出ていったから、あの手は使えないし・・・』

部屋の隅に設置されている監視カメラはシンジを写し続ける。

『強引に抜け出す、なんてのはダメだ。僕がリツコさんにモルモットにされる・・・』

マギがあらゆるセンサーの反応を観測している。

『そうだ！この前、初号機に乗ったんだからいけるかも？・・・』

シンジは眼をつぶって何かに意識を集中させる。

『頼むよ、僕に力を貸してくれないかな？』

キィーーーン

耳鳴りが大きくなったような音が鳴る。

「ありがと」

シンジはそう呟くと普通に病室から出ていった。

ネルフ・リツコの部屋

「ふぅ〜、疲れた。まったく余計な仕事を増やしてくれるわ」

タバコを吸うリツコ。

この部屋には不必要な物が殆ど置かれていない。唯一の例外は机の上のコーヒーメーカーと白と黒の二つの猫の小物だけ。

「彼は何してるかしら？」

リツコはパソコンのスクリーンを見る。

「あれから、おかしな所は・・・ない、か」

スクリーンの中にはおかしな所など無く、シンジがベットで寝ていた。

「さて、碇博士が突破できないようなプロテクトを作らいと」

草原のある山

『前の時はここにいたんだよな。けど一日前のことだし居ないかも・・・』

腰ぐらいまである草原を進むシンジ。

『うん？見つけてくれたの、ありがと』

シンジが見た方向にはテントと迷彩服の少年が火に向かっていた。

「手を挙げて、武器を捨てろ」

「す、すいません！もうあんな事しません！だ、だから・・・」

迷彩服の少年はシンジの脅しに慌てふためく。

「僕だよ、ケンスケ君」

「て、転校生・・・」

ケンスケが振り返るとシンジがにこやかに立っていた。

「シンジでいいよ。ここ、座るよ」

シンジは火を挟んでケンスケの正面に座る。

「シンジは何でこんなとこにきたんだ？」

ケンスケは目を合わせないように問い掛ける。

「君に会いに、君こそ何してるのさ？」

「お、俺はこれだよ」

ケンスケは傍にあったモデルガンを見せる。

「ふ〜ん、訓練でもしているの？」

「戦争ごっこだよ。本当の戦場でこんなの役に立つはず無いさ、この前、思い知らされたよ」

ケンスケが冷めた態度で言い切ると風で草が揺れる音だけが聞こえる。

「・・・なんで、なんで俺に会いにきたんだよ！あんな事を引き起こしたの俺なんだぞ！」

沈黙に堪えられなくなったケンスケは声を荒げる。

「ただ、トウジに頼まれたからかな。トウジは君の事を心配してたからね」

「トウジが？」

「うん。それに僕、シェルターから出たのは気にしてないから。
　戦争に詳しい君ならわかるだろうけど、戦場で誰も死ななかった、それが一番いいんだよ。
　だから、僕はこの結果に満足しているよ」

シンジが話している間もケンスケは顔を合わそうとしない。

「で、でも、あんな事しなければ・・・」

「僕達はまだ子供なんだ。大事なのはこれからで失敗した事はこれからしなければ良いんだよ」

ケンスケはハッと顔を上げる。

「そうか、そうなんだよな、俺たちに大事なのはこれからなんだよな」

納得するとケンスケは重荷をおろしたかのように話し始める。

「・・・実はさっき言ったここにいた理由、嘘なんだ」

「どんな？」

「ホントはどんな顔でシンジやみんなに会えばいいのか、怖くて考えてたんだ。
それを知られるのが恥ずかしくてさ、嘘ついたんだ」

罰の悪そうに笑うケンスケにシンジも微笑む。

「そうなんだ。でも、もう大丈夫そうだね」

「ああ、シンジのおかげさ。ホントに来てくれてありがとな」

ケンスケは、初めてシンジに笑顔を見せる。

「明日、トウジにも感謝しないとね。トウジが頼まなかったら、僕は来なかったから」

そう言うとシンジは立ち上がる。

「わかってるさ。けど、もう帰るのか？シンジ」

残念そうにケンスケは尋ねる。

「悪いね、これから星を見に行こうと思ってるんだ」

こちらも残念そうに話すシンジ。

「そうか。なら、この山の頂上に行ってみると結構いい感じだぜ」

「ありがと。ケンスケ、今日は話せてよかったよ」

シンジは右手を出す。

「俺も話せてよかった。明日、学校に行ってみるよ」

ケンスケも右手を出し握手をする。

「じゃ、また明日ね」

にこやかに去っていくシンジに、

「またな、シンジ」

ケンスケはそう声を掛けながらこう思ったた。

『ほんとお前いいヤツだよ。シンジ、学校で会おうな』

草原のある山・山頂

シンジはちょうどいい場所にあった岩の上に座る。

「ほんっとに、綺麗だね」

辺りには木々が茂り、街の光が届かないので空には欠けた月とたくさんの星が煌めく。

「・・・ねぇ、僕って、ここに来てよかったのかな？」

今にも泣きそうなシンジが一人問い掛ける。

「わかってるよ。けど、僕の失敗で、またみんなを壊してしまうかもしれないって考えると・・・」

シンジの言葉を月と星とが聞いている。

「怖くてさ、逃げたくなる、そして、そんな自分が嫌になるんだ」

シンジは星を見上げる。

「ありがと、そうだね。僕は、もう一人じゃない、なんとかできるはずだ」

頬を涙が伝っていく。

「あ、あれ、僕、泣いてる？・・・・・・・・・涙、止まらないや」

一陣の風がシンジの頬を撫でる。

「ごめん、今だけは泣かせてくれないかな・・・」

そう言うとシンジは月と星に見守られながら膝を抱えて泣き始めた。

『泣きたければ気が済むまで泣けばいい。それまで一緒にいてやる。私の半身』

シンジ以外に誰もいない頂きで闇の声が聞こえた気がした。

？？？

どこかの薄暗い部屋で会議が行なわれる。

「碇くん、いったいどうゆう事かね？」

「そうだ、マギにハッキングされ、本部の自爆までされかけるとはな」

「あれは試験です。事前にお知らせできなかったのは完全に情報を規制する為です」

ゲンドウは少しも動じずに答える。

「あれが試験だと言うのか？」

「当たり前です。第一、起動してない初号機からのハッキングなどできるはずがありません」

「しかしな、あれは第四使徒戦でもパイロットの制御を離れたそうじゃないか？」

「ハッキング元の探索結果はマギのミス、とでも言うつもりかね？」

「さよう、あれが人の手に余るものだというのはこちらもわかっているのだよ」

「その暴走こそ、計測機の誤認です。暴走の原因は解消されました。今回、使徒を倒した後、なにも起こる事無く回収できた事が証拠です」

眉一つ動かさずに嘘八百を並べるゲンドウ。

「しかしな・・・」

「もうよい」

バイザーの男が遂に口を開ける。

「碇、なぜこんな試験をしたのだ？」

「これから使徒との戦闘は激しさを極めます。それで脱落者を早急に見極める必要がありました」

「我々を裏切るつもりは無いのだな」

「ありません。それに今回の件は私の仕事を増やして睡眠時間を奪っただけで、私に得がありません」

「確かにそのようだ、ご苦労、碇」

バイザーの男はゲンドウの本音が出たことを見破ったのか、いち早く姿が消える。

「順調なる計画の遂行を願うよ」

「ふん、あまりいい気にならんようにな」

「計画以外の仕事もきっちりとこなしてほしいものだ」

「碇くん、君の働きに期待しているよ」

それぞれ一言ずつ話すと姿が消える。

暫らくゲンドウはいつもの机の上に肘をつき両手を顔の前で組むポーズで動かない。

「ユイは夢の中だ、今はそれでいい」

ゲンドウは薄暗い部屋の中で眠りにすでに堕ちていた。

鈴原宅

「おーい、ナツミ！今日、すごいヤツとダチになったんや！」

トウジは、黒髪の小学二年生ぐらいの少女に話し掛ける。

「ふーん」

また始まったと、いつもトウジの自慢ぐせを知ってるナツミは気の無い返事を返す。

「なんとな！オマエから探してくれゆうて頼まれてたヤツとダチになったんや！」

話してるうちに思い出し、自然と笑顔になるトウジ。

「えっ！ほんまに！？なぁ、うちにも紹介してぇなぁ」

先程と違い、話題に食い付いたナツミ。

「そのうちしたるわ、しっかし、シンジはほんまにええやっちゃで」

「そんなん知ってるわ！なんたってうちを助けてくれたんやから」

こちらもなにか思い出したのか、ナツミは、日に焼けた肌を赤く染める。

「なんや、オマエ、顔あかぁなっとんぞ、大丈夫か？」

「う、うるさいなぁ！おにぃには関係ないわぁ！」

「こらっ！おまえら、夜なんやから静かにせんかい！」

「ご、ごめん、おじぃ」

「今から、きぃつけるわ」

そう答えたものの鈴原家からは兄妹の楽しげな声が夜遅くまで聞こえていた。

特になし。

ゲンドウに煙に巻かれるゼーレの皆さん。
さてさて、いつまでゲンちゃんのシナリオ通りに進むんでしょう…？