Satan　Is　Charity　−第４話「子供達の世界」Ｃパート−

カタカタカタカタカタカタカタ

「ふぅ〜、結局、徹夜でやり続けてたわけか」

リツコは徹夜でプログラミングを続けていた。もっともそれが義務的に行なっていたか、趣味で行なっていたのかはわからないが。

「今日はここまでにして、仮眠をとろうかしら？」

疲れているのか、リツコはコーヒーを飲みながら珍しく独り言を呟く。

カチッ

「な、どういう事！彼、いないじゃない！」

何気なく開いた監視カメラの映像には誰もいない病室が映し出されていた。

ガチャッ

「どういう事！彼、シンジ君がいないじゃない！」

すぐに保安部に電話するリツコ。

《『申し訳ありません。朝になってカメラを確かめると何時の間にか誰もいなくなっていて・・・しかし、げんざ・・・』》

「厳重に監視しなさい、と命令したでしょう！何をしていたの！？」


《『我々諜報部はカメラ越しではありますが四六時中監視していましたから、彼が出ていけばすぐにわかります。
　しかし、昨夜にそのような事はありませんでした。巡回していた病院関係者やネルフ職員もそう証言しています』》

「わかったわ。すぐに捜索して私の所に連れてきて」

《『はっ！至急、連れてまいります！』》

ガチャ

『怪しいわね、彼。揺さ振って情報を引き出してみようかしら・・・』

シンジの病室のベット脇にある机の上に書き置きが残されていた。

『ネルフの皆さんへ、お陰様で体がだいぶよくなってきました、そこで学校に行ってきます。終わったら、帰ってきますので心配しないでください。
追伸、リツコさん働きすぎに気を付けてくださいね。
シンジより』

第一中学校・2-A教室

「あれ？シンジ君、もう来ていいの？」

昨日、ベットに寝ていた人間が元気に教室にいたので、ユウミは不思議に思い、尋ねる。

「なにいってるのさ？僕は昨日、また明日ね、って言ってたと思うけど」

当然の事の様に言ってのけるシンジ。

「そうだったっけ？」

「しっかし、センセがようなって、わしも嬉しいわ」

トウジは自分の事の様に喜ぶ。

「ありがと、トウジ」

シンジもそんなトウジの様子を見て微笑む。

『やっぱり笑うと可愛い〜！！・・・どうして、こんな必要な時に相田がいないのよ！？』

教室にいた女生徒達がこの学校の迷カメラマンの不在に憤る。

ガラッ

「よっ！ケンスケ、久ぶりやな、元気やったか？」

少し俯き加減に入ってきた迷カメラマンにトウジは明るく声を掛ける。

「おはよう、ケンスケ」

微笑んだままシンジも声を掛ける。

「おはよ、相田君」

二人に続いて笑顔で挨拶をするユウミ。

「あ、ああ、おはよう・・・」

ケンスケも挨拶を返す。

「なんや、やっぱ元気ないの〜、よし！聞いたるからゆうてみ？」

歯切れの悪いケンスケの挨拶にトウジが先を促す。

「・・・あまり人に聞かれたくない話があるんだ。放課後、かまわないか？」

意を決した様に話すケンスケ。

「・・・わしはいつでもかまへんで」

意を決して話したケンスケに何を言いたいのかに気付き、真剣に答えるトウジ。

「いや、まぁ、トウジだけじゃないんだけど、・・・後でメールで知らせるよ」

トウジの返事にケンスケは曖昧に答える。

ガラッ！

黒いサングラスに黒のスーツ姿の男、通称『黒服』が息を切らせて教室に入ってくる。

「き・・・君が・・・シンジ君・・・だね？」

男はシンジに息を切らしたまま話し掛ける。

「？はい、そうですけど、そんなに急いで何か用ですか？」

「すまない、至急、君を連れてこいという命令でね、・・・赤木博士から」

息を整え、黒服が説明する。

「もう少し待ってもらえますか？久ぶりに授業を受けたいんですけど」

「そ、それは困る！こちらはあの赤木博士から命令されているんだ！私は命令された通りにやらなければ、や（改造）られてしまう！！」

自分が取り乱している事に気付いた黒服は深呼吸して、

「本当にすまない。私個人としても君に授業を受けてもらいたい。しかし、同時に私は死ぬより辛い目にもあいたくないと思っているんだ・・・」

黒服は果てしなく遠いなにかを見上げながら語る。

『う〜ん、リツコさんが僕に用事？それも保安部の人も焦るぐらいの・・・・・・！ま、まさか・・・』

「わ、わかりました。り、リツコさんの所へ、つ、つ、連れていって下さい！」

心なしかシンジの声が震え、最後はなにかを振り切るように言い放った。

「本当に腑甲斐ない私を許してくれ！」

黒服も本当にすまなさそうにシンジを連れていき、教室には微妙な空気だけが残される。

「あら？みんな、なにかあったの？」

花瓶の水変えから戻ってきたヒカリの呑気な声が教室に響く。

「う、ううん、気にしなくて良いと思う。・・・・・・やっぱりみんな忘れて・・・」

教室が唖然としている中でユウミだけが顔を引きつらせながら答えた。

ネルフ・リツコの部屋

「うふふ、『おねえさん』とお話しない？シンジ君」

男性ならドキッとしてしまうほど艶っぽくリツコは微笑む。

「な、なについてですか？」

もちろんシンジもドキッとする。違う意味で・・・

「あなたの正体についてよ」

「？僕の正体、ですか？」

『リツコさんの事だから訳の分からない物はすぐに解剖や人体実験で調べ上げると思ってたけど・・・』

シンジは、途端に拍子抜けしたような声を上げる。
「ええ、あなたについてよ。
　あなたはデータ上に存在しないのよ。ネルフがあらゆるデータを調べてもあなたは見つからなかったわ。
　セカンドインパクト直後に、当時赤ん坊だったあなたが一人で生きられない。だから育てた人間がいるはずなのよ。
　その記録がないのなら、軍隊等の閉鎖的な環境で育てられたか故意に消されたって考えるのが自然だと思わない？」

「確かにそうですね。それが一番妥当です」

シンジが楽しそうにし始めたのでリツコは睨みをきかせる。

「そして、あなたはエヴァのパイロットに接触してきているし、病室、いえ、病院からも監視の目を擦り抜けて抜け出したわ」

「リツコさんの考えすぎなんじゃないですか？」

「残念だけど、ネルフは疑わしきは罰せよ、って方針なの」

『う〜ん、どうしょうかな？もし僕が何でも出来るなんて思われたら・・・・・・・・・そうだ！』

「リツコさん、実は・・・・・・・・・」

リツコは気付かなかったが、シンジの目は初めて悪戯をする子供の様に輝いていた。

第一中学校・屋上・放課後
生徒の帰宅や部活が始まり、夕陽があたる屋上には四人の人影しか見えない。

「実はさ、三人に謝らなきゃいけない事があるんだ」」

真剣な顔のケンスケが話を切り出した。

「？わたしも？」

ケンスケから謝られなければならない事など無いと思っているユウミは聞き返した。

「ああ、嫌なら構わない、けど、できれば聞いてほしいと思ってる」

「わかった。話、聞かせてもらうよ」

「ありがとな」

ケンスケはヒカリの方を向いて頭を下げる。

「ごめん！委員長、俺達が抜け出さなかったら、巻き込まれなかった筈なんだ。本当、ごめん！」

「いいのよ、別に、私も同じ様に外に出たんだから・・・」

続いて、トウジに向き直り頭を下げる。

「トウジ、悪かった！俺が誘ったばっかりに悪者に引き込んじまった。悪かったよ」

「ええって、ええって、お陰でシンジとダチになれたし、・・・それに、わしも止めずに一緒に出ていったわけやからな」

最後にユウミに深く頭を下げる。

「すまない、命懸けの戦いを興味だけで邪魔して。絶対に、絶対に同じ失敗をしないように気を付けるから・・・・・・・・・・・・すまない」

消え入りそうな声になっていくケンスケに、ユウミが優しく微笑む。

「うん、なら別にいいよ。これからみんなが危ない事をしないなら、わたしはそれで気にしないから」

ユウミの微笑みは夕陽に照らされ輝くいた。

『綺麗・・・・・・・・・』

『やっぱ、碇はんはべっぴんさんやな〜』

「はは、やっぱり似てるな」

他の二人が見惚れているとケンスケが呟く。

「なにが？」

「シンジに似てるんだよ。言ってる事も、皆を安心させてくれるその顔も・・・」

「そや！シンジに謝ったんか！？朝いよったけど、アイツ、どっか行きよったやろ」

「シンジには昨日謝ったよ。トウジ、ありがとな、シンジはお前に頼まれたんだ、って言ってたから」

「そ、そうか？そら、よかったわ。そ、そや！みんな、そろそろ帰らへんと！」

照れ隠しなのかトウジはさっさと屋上から姿を消す。

「二人とも、行こっか？」
「ええ、行きましょ」

ユウミとヒカリも屋上から校舎への扉に姿が隠れる。

「ありがと、本当に、ありがとな。シンジ」

空に向かって確認するように声を出すケンスケ。

「おらー！ケンスケ、さっさと来いや！お前、待ってんねんぞ！」

「わかってるよ〜！今行く〜！」

ネルフ・司令室

机に向かって、ゲンドウと冬月はリツコの報告と提案を吟味する。

「・・・・・・となると思われます」

「なるほど、メリットは多いが、デメリットは少ないな」

冷静に利害を素早く判断する冬月。

「・・・反対する理由は無い。その件は君に任せる」

ゲンドウも即決する。

「はい、了解しました。では、失礼します」

シュッ

「いいのか？確かにデメリットは少ないが、老人の手の者ならまずいぞ」

「それはない。他の情報源からも彼について聞いている」

「お前が信頼するほどの情報源とはなんだ？」

「ふっ、それだけは冬月先生でも教えられませんよ」

『くっ！妖し過ぎる。
ああ私は、いったい、どこで人生を間違えたのだろうか？』

ゲンドウの不気味なニヤリ笑いに冬月は本気で過去の自分の選択を後悔した。

葛城宅・リビング

「ハ、ハクシュン！えへへ♪」

「あら、ユウちゃん、風邪？」

ミサトがビールを飲みながらユウミに話し掛ける。

「えへへ♪違いますよ」

「そう？そんな事より嬉しそうね♪なにかあったの？」

「ええ、ちょっと。今日は嬉しい事がいっぱいありましたから♪」

「どんなことがあったのか、お姉さんに教えてよ〜？」

「ダメです♪ミサトさんでも言えません」

「けっちね〜♪教えてよ〜」

「ダメです、ミサトさん。もう、わたし寝ますから、ビールは程々にしといてくださいね」

リビングからユウミは出ていく時にミサトに声を掛けられる。

「はいはい、ユウちゃん、おやすみ〜♪」

「おやすみなさい、ミサトさん」

葛城宅・ユウミの部屋

「ふふ♪友達、か」

ユウミは自分のベットに入り、帰り道の出来事を思い出す。

『私の事、名前で呼んでくれないかな？』

「えっ！どうしたの？洞木さん」

ユウミは突然のヒカリの提案に驚く。

「うん、碇さんとは友達でしょ？だから、もっと親しくしたいと思ったの、ダメかな？」

「だ、ダメじゃないよ！わたしの事も好きに呼んでいいよ」

慌てて弁解するユウミ。

「ふふ、よろしくね、ユウミさん」

「うん♪よろしく、ヒカリさん」

「おーい、なにやっとるんや、はよ、こいや〜」

「どうしたんだ〜、二人とも」

遠くから聞こえる催促に二人は微笑み合うと駆け出した。

すうすう

何時の間にか眠りつくユウミ。

スゥー

ユウミの部屋の襖が静かに開いた。

「ふふ、幸せそうな顔しちゃって♪」

ミサトは部屋の外から覗きながら呟く。

「・・・・・・・・・あなたは今、どんな夢を見てるのかしら？楽しい夢だといいわね・・・・・・」

ミサトの顔には慈愛と少しの後悔が入り混じっていた。

特になし。

リツコさんとシンジくん、なにやら内緒話に入りましたね。
どうなるのでしょう…。影響が楽しみです。