Satan　Is　Charity　−第５話「心の向こう側」Ａパート−

第３新東京市・解体現場

「おっきぃ〜」

ユウミの目の前には先日倒した使徒の巨大な残骸が横たわっていた。

「ユウちゃん、ちょっと、ちょっと〜♪」

「なんですか？ミサトさん」

ユウミがミサト達のいる休憩所に入っていく。

「いや、ユウちゃんもコーヒーどうかな？と思って」

「いただきます♪」

ユウミはミサトからコーヒーを受け取るとリツコに話し掛ける。

「あの〜、リツコさん、一つ聞いてもいいですか？」

「いいわよ、なにかしら？」

「この前の戦闘で劣化ウラン弾っていうのを使いましたよね、被爆とか大丈夫なんですか？」

「気にしなくていいわよ。
塵と放射性物質を処理しているし、病院等の施設はより細かく検査してるわ。
最も完璧には無理だから、定期的に住民の健康状態をマギがチェックし、異常があれば治療もしているのよ」

「へぇ〜、すごいんですね」

「ふふ、そうね」

純粋に感心するユウミにリツコは微笑む。

「そんな事より敵さんの事、なんか分かったの？」

「見ての通りよ」

二人はディスプレイを覗き込む。

【６０１】

「これ、なんですか？」

「解析不能を示すコードナンバー・・・」

「つまり、ワケわかんないってコト。リツコ、動力については？」

「らしき物はあったけど、作動原理がわからないわ」

「世の中、わからないことばっかりね」

「けど、判った事もあるわ。使徒は粒子と波で構成されていて、しかも、人間の遺伝子と使徒の遺伝子が99.89％酷似してるって事がね・・・」

「99.89％！！それって・・・」

「そう・・・」

「「エヴァと同じ」」

ミサトは一息入れるためにコーヒーを飲む。

「あら？ユウちゃんがいないわ」

「？あら、あそこにいるじゃ、っ！」

「え、ど〜したってのよ？う、嘘でしょ？」

視線の先で、コアだけを壊された使徒に向かい作業員と話す髭面のサングラスの怪しい男にユウミが近づいく。

「お、お父さん、なにしてるの？」

「う、うむ、回収する物の指示を出していたのだ」

「そ、そうなんだ〜。あっ！その・・・、お父さんの手、大丈夫なの？」

ゲンドウが珍しく手袋を外していたので両掌の火傷が露になっている。

「も、問題ない」

『『ぶ、不気味だ』』

先程から恥ずかしそうに頬を赤くしているゲンドウに約二名を除いて作業場の人々の思いがひとつになる。

「よかったぁ。・・・そ、それじゃあ、お仕事、がんばってね」

「あ、ああ」

休憩所に戻っていくユウミを見送りながらゲンドウは自分の選択を思い返す。

『・・・冬月に事務を押しつけてよかったようだ』

ネルフ・司令室

「・・・と言うわけだ、引き受けてくれるかな？」

白髪の老人がシンジに仕事を持ちかける。

「構いません、司令」

「ぷっ、い、いや、すまない。これでも私は副司令でね、冬月というものだ。まぁ、好きに呼んでくれてかまわんよ」

「わかりました、冬月さん」

「では、君は皆に挨拶してきたまえ」

「はい、失礼します」

シュッ

「ふっふっふ、私が司令に見られるとはな。どうする？碇」

こちらも押し付けられたわりには上機嫌だった。

ネルフ・発令所

「今日からチルドレンのケアに就く、シンジです。皆さん、よろしくお願いします」

シンジは発令所の二段目にいた三人のオペレーターに挨拶した。

発令所の仕事は大まかに三つに分けられる。
最上段は監督、二段目は作業指示や情報の提示、その他は情報収集・解析が主な仕事である。
ちなみに、上の段に上がる毎に階級が上がるが仕事や責任の量も増える。

「よろしく、俺は作戦課の日向 マコト。チルドレンはうちの管轄だからよく顔を合わせる事になるかもね」

黒髪をオールバックにし、眼鏡を掛けている青年が名乗る。

「俺は青葉 シゲル。中央作戦室の人間だから、チルドレン担当ならあんまり関係ないけど、よろしくな」

続いて黒髪の長髪の男が気さくに自己紹介した。

「ふふ、技術部の伊吹 マヤです。よろしくね♪」

最後に黒髪をショートカットにしている女性が答え、職務中だがシンジを含めた四人で雑談に興じる。

『前の時より話しやすい？やっぱり、年齢が近いからかな？』

シンジは三人のオペレーターと雑談しながら前を思い出す。

「どうかしたの？シンジ君」

ボーッとしていたシンジはマヤに覗き込まれて慌てる。

「い、いえ、皆さん、意外と若いなぁ〜って」

「そ、そんな・・・」

マヤは目に見えて落ち込む。

『えっ、なんで！？リツコさんとかミサトさんに言った時は嬉しがられたのに？』

「どうしました？僕、なにか気に障ること、言いましたか？」

「いや、なんでもないよ。それよりシンジ君はチルドレンに挨拶したのかい？」

「えっ？まだですけど・・・」

「レイちゃんが休憩所にいるみたいだから、行ってきたらどうだい？」

「はい、じゃあ、そうさせてもらいます」

シンジはマコトの勧めに従い発令所から出ていく。
「おいおい、彼は年齢より若く見える、って言ったんだから、なにも、泣くことないだろ」

「・・・先輩、私は子供なんですか。答えて下さい。お願いですから、嘘だといってください・・・」

青葉の声にも反応せず、マヤは泣きながら呟き続ける。

「駄目だ、どうする？マコト」

「ほっとけ、ほっとけ、俺たちの仕事には関係ないんだから」

「・・・お前って結構ドライなんだな」

「？なにがだよ？」

「いや、なんでもない」

そんなマコトの態度からシゲルは友人の意外な一面を知った。

ネルフ・リフレッシュルーム

自動販売機の前に置かれているベンチに腰掛けてるレイに話し掛けるシンジ。

「こんにちは、綾波さん、今日から僕がチルドレンのケアを担当することになったからよろしく」

「何故？」

「さあ？僕にはわからないよ、碇司令の考えた事だからね」

「あなたは碇司令が信じられないの？」

レイが立ち上がりシンジにかなり近づいたので、少し驚くシンジ。

「い、いや、信じる、信じられないの前に碇司令と話した事ないと思うけど？」

「私は信じてるわ、私がこの世で信じているのは碇司令だけ」

「・・・僕には綾波さんがわからないよ」

『なんで、挨拶からいきなりそんな話に入ってるんだろう？。あと近いよ、綾波さん』

どこをどうやってもそんな事は話題にならないのに話題にしてしまうレイにシンジは呆れていた。

「でも、あなたはどうなの？」

「えっ？」

「あなた、私と同じ感じがするわ。けど、違う気もする。あなた、誰？」

レイの赤い瞳にはニッコリと微笑むシンジがしっかりと写っていた。

第一中学校・グランド

『綾波 レイ、14歳、マルドゥック機関が選んだ最初の被験者ファースト・チルドレン、エヴァンゲリオン試作零号機の専属パイロット、過去の経歴は全て末梢済み、そして・・・』

「ダレ、見とんのや？センセ、委員長か？綾波か？・・・まさか碇はんなんか！？ 」

うだるような日差しの中で男子はグランド、女子はプールに別れて体育をしている。そして当然暇な男子はプールの方を見ている。

「そんなに大声出すと後悔するよ、トウジ」

「なんのこ「キャー、シンジ君が覗いてるー♪」

「えっ、嘘でしょ！？」

「本当よ、鈴原も一緒みたいだし、誘われたんじゃない」

「キャー、なにそれ鈴原って変態じゃん」

「もう！なにやってるの！？アホトウジ！！」

「そんな！鈴原くん、信じてたのに！」

女子に気付かれ一斉に非難されるトウジ。

「な、なんでわしだけなんや、シンジもやっとるやんけ、それに委員長や碇はんまで・・・」

「だから言ってあげたのに」

「なぁ、本当は水着じゃなくて別のもん見てたんだろ？教えてくれよ」

ダメージの大きいトウジを無視して、持ち前の観察力からの疑問を尋ねるケンスケ。

「大した事ないよ。綾波さん、いつも一人だなって思っただけなんだから」

「そう言われれば、一年の時に転校してきてから一人だな。なんかあるのかも・・・」

「ケンスケ、調べるのも程々にね」

「わかってるよ。おっ！俺たちの番みたいだ、行こうぜ」

ケンスケに続いてグランドに出ていくシンジを赤い瞳が捕らえ続ける。

『どうして？あなたはそうしていられるの？・・・』

葛城宅・リビング

仕事帰りにミサトの家にお呼ばれしたリツコはミサトとテーブルに着いて雑談している。

「あら♪意外と片付いてるわね、ミサト」

「ぜ〜んぶ、ユウちゃんのお陰よ〜ん♪」

クワッ♪

「はぁ〜。ユウミさん、あなた、引っ越しなさい。こんな所にいたら人生を棒に振るわよ」

女性にとって自慢にもならない事を話す親友を見て、ユウミにリツコは溜め息混じりで引っ越しを勧める。

「だいじょぶですよ。家族って感じて楽しいですし♪」

ユウミは自分の分とリツコの分のカレーをテーブルに置きながら答える。

「はい、ペンペンの分。ミサトさん、これどうします？」

クワック♪

カレーの入った鍋を持ちながらミサトに連れてこられたシンジが台所から出てくる。

「ここに入れちゃって、もうドバーっと」

「はぁ〜、わかりました。後悔しないでくださいよ」

ミサトはカップラーメンを差し出し、そこにシンジがカレーを掛ける。

「最初から入ってる物じゃ、この味は出ないのよね〜♪」

上機嫌なミサトの言葉にリツコの顔は青くなっていく。

「ま、まさか、こ、これ、ミサトが作ったんじゃないわよね？」

「？違いますよ、リツコさん。わたしとシンジ君が作りましたから」

「それなら安心できるわ。あなた達もミサトの料理は絶対に食べない方がいいわ」

「なんでですか？」

ユウミの疑問に自分の分を取りに行っていたシンジが答える。

「僕も食べない方がいいと思うよ、理由は目の前にあるアレ」

シンジはミサトが食べているカレーの乗ったラーメンを指差す。

「あら♪シンちゃん、私の料理はとっても美味しいのよ。今度、食べてみる？」

「それだけは許して下さい」

「もう〜♪遠慮することないから、今度、ね？」

シンジが涙目でユウミに助けを求める。

「と、ところで、シンジ君は家に連絡しなくていいの？」

「（ありがと）なんか今日は連絡があるまで家に帰ってこないでね♪、ってタツミさんが、仕事かな？」

「そうそう、忘れてたわ、あなたのお仕事よ。学校帰りに、これ、お願いね」

リツコはバックからセキュリティーカードを取り出す。

「・・・はい、わかりました」

渋々受け取るシンジ。

「？なんでシンジ君に渡すんですか？それ、ネルフのカードですよね」

「彼はチルドレンのケア、簡単に言えばチルドレン関係の雑用に就いてもらったのよ」

「へぇ〜♪んじゃ、それ、レイの？」

「みたいですね。そういえば、彼女、なんかこの前まで大怪我してませんでした？」

ニヤニヤ笑うミサトを素っ気なく流し、リツコに尋ねるシンジ。

「その怪我は起動実験中に零号機が暴走した時のものよ。その時、レイを救けようとして碇司令も両掌に火傷をおったの」

「へぇ〜、お父さんが綾波さんを・・・
　で、暴走の原因はなんだったんですか？」

ユウミは自分も同じ目に合うかもしれないと考え少し怖くなる。

「あの時の暴走原因はレイの突発的な感情変化だから落ち着いていたら大丈夫よ」

そんな変化に気付いたリツコは最後にフォローを入れる。

「本気に綾波さんにそんなことが？」

レイの受け答えや行動から感情的なものが薄く感じているユウミはすぐに信じられない。

「いい娘だけど不器用なのよ、生きる事に・・・」

「人として生きる事に、か・・・」

シンジの呟きにリツコ以外は首を傾げた。

特になし。

前の頃と同じように見えて少しずつ違ってきてますね〜。
どうなることやら……。