Satan　Is　Charity　−第６話「月夜の決戦」Ａパート−

「またテストで満点を取るなんてユウミちゃんは賢いね」

「ありがとう、叔父さん」

「まったくよ、本当の子供にしたい位だわ」

「そんな・・・うれしいです、叔母さん」

六歳くらいの女の子が中年の男女に誉められて微笑んでいる。会話から中年の男女は夫婦で、女の子とは親子でない事が判断できた。

「なんだよ、お父さんもお母さんも！たかがテストじゃないか！」

「だがな、お前はユウミちゃんより20点も低いんだぞ。そいうことはユウミちゃんに追い付いてから言いなさい」

「そうよ、あなたもユウミちゃんを見習って頑張りなさい」

どうやら夫婦には女の子と同い年の男の子がいるようだ。

「なに見てるんだよ！こっち見るな！！」

「ご、ごめんなさい・・・」

男の子は自分が両親に誉めらてもらえないのが気に入らなので女の子に突っ掛かっていた。



それは雨が降り続く、陰気な日の出来事だった。

「どうしてこんな事したの！？あなたにはちゃんと買ってあげたでしょう！？」

男の子が自転車を盗んだというので警察から連絡が来たのだ。

「まったく、お前という奴は・・・・・・。
私が出て良いと言うまで庭の物置で反省していなさい」

片方はヒステリックに、片方は教師という職業柄か静かにだが、男の子を夫婦は厳しく叱った。

「いやだよ！だいたいお父さんもお母さんも僕にかまってくれないのがいけないんじゃないか！？」

「そんな事ありません！私たちはいつもあなたの事を考えているわ！」

「うそだ！あの子がいるから僕にかまってくれないんだ！！」

「関係ない！」

今までどんな事があっても怒鳴る事の無かった男の子の父が怒鳴った。

「お前が罪を犯した理由がどんなに正当な物だったとしても、お前が罪を犯した事実は変わらないんだ。そこの所をちゃんと物置で考えていなさい」

それだけ言うと男の子の父親は、男の子をしきりに気にしている自分の妻を連れて部屋を出ていく。

「なんだよ・・・・・・なにが言いたいのかわからないよ！ウワアァァアァァァァン！」

男の子は泣きだしてしまった。
まだ小学校二年生くらいの子供に世間の摂理の一つを突き付けても分かるはずがなかったから・・・

『あんなに泣いてる。なんとかしてあげなくちゃダメだ。でも・・・・・・』

その様子を見ていた女の子は悩んだ。男の子が泣いているのをなんとかしてあげたい、でも彼はわたしの事が嫌いだからもっと泣いてしまうかもしれない、と。

「だい、じょうぶ？・・・・・・」

女の子は『やっぱり、自分の目の前で悲しんでいる人を助けてあげたい！』と思い、怖ず怖ずと声を掛けた。

「なにを・・・・・・」

「えっ？」

「なにを言ってるんだ！お父さんもお母さんも僕から奪ったくせに！オマエが家に来なければずっと僕だけを誉めてくれたんだ！オマエなんていなければいい！！」

しかし、男の子は泣きながら自分の思うままに言葉をぶつけ、女の子を傷付けていく。

「そ、そんな・・・」

「要らない、オマエなんか誰も要らないんだ！」

女の子は『要らない』という言葉に、身近などこかからガラスに罅が入ったような音を聞いた。

「・・・・・・そう、ごめんなさい」

女の子は凍える声でそれだけ言うと、自分の部屋に籠もった。

『私は誰からも必要とされてないんだね。お父さんには放っておかれて、叔父さん達には必要どころかたぶん迷惑掛けてる、あの子には要らないって言われちゃった・・・・・・。
　寒い、寒いよ、お母さん・・・・・・もしお母さんが生きていたら、わたしを必要としてくれたのかな？・・・』

女の子は寒そうに自分の体を抱き、自分の部屋で電気も点けずに一晩中啜り泣いていた。

ネルフ・作戦会議室

「これまで採取したデータによりますと、目標は一定距離内の外敵を自動排除するものと推測されます」

日向は報告書を見ながらミサトに情報を伝える。

「エリア侵入と同時に加粒子砲で100％狙い撃ち、ＡＴフィールド中和可能なエヴァによる近接戦闘は無理というわけね・・・・・・」

スクリーンにパレットガンを構えたダミーバルーンが使徒に狙撃される映像が映る。

「敵のＡＴフィールドは？」

「相転移空間を肉眼で確認できるほど強力なものが展開されています」

次の映像では自走砲撃機が使徒に攻撃を仕掛けるがＡＴフィールドに弾かれ、逆に加粒子砲での反撃で消滅させられる。

「攻守共にパーペキ、まさに難攻不落の要塞ね。
　で、問題のボーリング・マシンは？」

そう、最大の問題は凄まじい攻撃でも鉄壁の防御でもなく使徒から出てきたドリルの様な物だった。

「直径17.5Mの巨大なドリル・プレートがネルフ本部に穿孔中。現在、第２装甲板まで到達しています」

「本部への到着予想時刻は？」

「明日午前0時6分54秒です。その時間には全22層の装甲防御壁を貫通してネルフ本部へ到達するものと思われます」

「あと10時間足らずか・・・。赤木博士、初号機の状況は？」

ミサトはパネルを操作し、ケイジにいるリツコに連絡をとる。

《「胸部第３装甲まで見事に融解しているわ。でも機能中枢がやられいないみたいだし、換装作業が終了する３時間後には出撃できるわ」》

「そう、零号機は？」

《「再起動に問題は無いけど、フィードバックにまだ誤差が残っているから実践は無理よ」》

ケイジとの回線を切り、ミサトは日向達に向き直る。

「ユウミ・・・・・・コホンッ!初号機パイロットの容態は？」

心配していたミサトは会議中なのに普段通りに呼んでしまい、必要も無いのに言い直す。

「今は薬で眠っていますが身体に異状はありません。神経パルスは若干不安定ですが許容範囲内です」

そんなミサトを微笑ましく思いながらも日向はあくまで第三者的に報告する。

「状況は芳しくないわねぇ」

「白旗でもあげますか？」

溜め息混じりに呟くミサトに作戦部の一人が冗談混じりの作戦を出す。

「ナイス・アイディア！でもその前にやれる事はやっとかないとね！」

答えたミサトの瞳に火が灯り、不適に笑う姿には名刀の様な鋭い魅力が漂っていた。

ユウミ

わたしは誰もいないスタジオにパイプ椅子に座って、昔のわたしを観ている。

『あの時からわたしは自分から人と触れ合わなくなったのよ・・・』

「・・・・・・・・・！！」

突然どこかで聞いたことがある声が聞こえて、声に言われた事を考えてみると当たっていた。
あの後、叔父さんを「先生」と他人行儀で呼んで、やっかまれないようにあの子よりテストで良い点をとらないようにしたから・・・。

『そう、あの時からわたしは誰にも心を打ち明けれなくなり、自分から他人と親しい関係を作れなくなったのよ』

もう一度声が聞こえて、わたしは怖くなってきた。
何故なら、この声はわたしの事をわたし以上に知っていたように思えたから。

「そ、そんな事、ない・・・・・・違う」

『違わない。何故なら、わたしは自分以外の人が嫌いだからよ』

「違う！わたしは・・・わたしは！」

わたしは必死に否定したけれど、声は無視して話を進める。

『まぁ、あれだけひどい目にあわされてきたんだから当然だと思うけど』

「みんなは・・・・・・みんなは優しくしてくれるもの」

色々な思いが渦巻いていたわたしは辛うじてそれだけ言い返す事が出来た。

『優しくしてもらってるのは仮面のわたしで本当のわたしじゃないでしょ？』

確かに、わたしは相手に迷惑を掛けないように自分の意志を出した事はなかったと思う。

『それにわたしは優しくしてくれた人に好意を持っているの？』

優しくされても、心の何処かで嫌われるかもしれないという不安を感じて怖がってた気がする。

『そんなに拒絶されるのが怖いなら、みんなと一つになってみない？』

それって？

『拒絶や嫉妬の無い誰とでもわかりあえる夢の世界、天使が与えてくれる最後の楽園よ』

行ってみたい・・・・・・行ってみたいな、そんな世界に・・・・・・。

「逃げちゃ駄目だ！」

声の魅力的な世界への誘惑にまどろみかけていたわたしに彼の声が聞こえてきた。

「今、嫌いだからって諦めるのは早いよ。人の気持ちは僕にもわからない。だけど話し合うことでわかりあえるかもしれないんだよ」

ああ、これは学校でお父さんの事で悩んでいたわたしを励ましてくれた時のだ。

「だから、逃げちゃ駄目だよ。逃げた先は妥協した結果、曖昧な答えしか見つからないからね」

そう、逃げちゃダメなんだ。

「僕でよかったらいつでも相談にのるよ」

あの時は恥ずかしくて言えなかったけど・・・

「シンジ君、あなたが友達でよかった、本当に嬉しい」

ネルフ・病院・病室

「う、う〜ん、ここ何処？」

「・・・・・・ジオ・フロント内にある病院の個室よ」

ユウミが目を覚ますと文庫本を読んでいたレイがこちらを見ていた。

「へ？綾波さん！？」

「目が覚めたら食べるように・・・・・・・・・って」

ユウミの失礼な驚き方もさして気にした様子もなくレイは食事の準備をし始める。

「悪いんだけど、何も食べたくない気分なの・・・」

「食べておいた方がいいと思うわ。60分後には出発だから」

レイはユウミの訴えなど関係なしに準備を進めていく。

「それって、使徒を倒すために？」

「ええ、そうよ」

レイが手帳から作戦のスケジュールを淡々と読み上げる中、ユウミは寝起きのぼんやりした頭で状況を整理し始めた。

『そういえば、わたし、使徒にやられちゃったんだっけ？それでここに寝かされてたんだ・・・。
　あれ？綾波さん、昨日は返事してくれなかったのに今日はしてくれてる。なんでだろ？
・・・・・・あ！綾波さんにも寝起きを見られちゃった！どうしよう〜！！あんな夢見てたから変な寝言を言ってなきゃいいけど・・・』

「以上がヤシマ作戦のスケジュールよ」

ユウミが一人百面相をしている間もレイは説明していたらしく手帳を閉じた。

「え！あ、うん、ありがと、綾波さん」

全然聞いてなかったユウミは羞恥心と罰の悪さで顔を俯ける。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

ユウミが俯き、レイがそれを見つめたまま病室が気まずい沈黙に包まれる。

「怖いのなら、やめればいいわ」

「えっ！」

「初号機には私が乗る。パーソナル・データの書き換えなんてすぐだもの」

どうやらレイはユウミの様子から怖がっていると考えたようだ。

「・・・・・・じゃ、60分後に、また」

そう言いながらレイは病室から出ていこうとした。

「綾波さん、もしかして・・・？」

ユウミは振り向き気味のレイの表情を見て厳しい言葉の意味に気付く。

「食事・・・ちゃんと食べてね」

しかし、レイはユウミの問い掛けに答える事なくドアの向こう側に消えていった。

『もしかして・・・気遣ってくれたの？
・・・きっとそうだよ、言葉は厳しいけど心配してくれてるのがわかる気がするもん。
綾波さんって案外、優しいのかもしれない・・・』

この60分後、第一中2-A組の生徒３名に２体の巨人が夕日の中で連れ立って出撃しているのが目撃された。

特になし。

申し訳ありません。現在、感想文は準備中です。