Satan　Is　Charity　−第７話「人の造りしケモノ」Ａパート−

ネルフ・病院・診察室

診察台に寝かされているシンジから機械が様々な身体データを採取し、ガラスで仕切られた先ではそのデータを見てリツコが感嘆する。

「ふふふ、原因不明の衰弱で倒れたのに身体に疲労が診られるだけだなんて、昨日の事もあってますます興味深いわ。あなたの身体は・・・」

リツコがマッドな雰囲気を漂わしニヤリと笑っているとマヤが部屋に入ってくる。

「せんぱ〜い♪頼まれてた書類を持って・・・・・・」

そんな妖しい光景を見たマヤは持っていた書類を落とし、口をパクパクしている。

「あら、どうしたの？マヤ」

無理もない。マヤから見れば、ガラス越しとはいえパンツ一枚で眠っている少年を見てニヤついている憧れの人を目撃したのだから・・・

「不潔です。先輩でも男の人の裸を見てニヤニヤするんですね・・・」

それだけ言うとマヤは落とした書類を踏ん付けて出ていく。

「はぁ？まったく何を訳の解らない事を言ってるのかしら、あの娘・・・」

しばらく茫然とした後にハッと気が付くリツコ。

「マ〜ヤ〜、頼んだ書類、どうしてくれるの！！」

コンフォート17・葛城宅

前回の使徒襲来から一週間たったある朝、制服姿の少女がテーブルに置かれた朝食を食べている。
メニューはトーストとサラダと牛乳で、テーブルの横でペンギンが焼き魚を食べていなければ一般的な朝の風景だろう。

「おふぁよ〜・・・」

そこにミサトが寝呆け眼でやってきて冷蔵庫を開ける。

「くぅ〜〜〜、やっぱ朝はこれに限るわ〜♪」

どうやら、だらしない格好の美女が朝からビールを飲むという非一般的な物がさらに加わったようだ。

「ミサトさん、起きてすぐにお酒飲まないでください」

どことなく冷めた態度で接するユウミ。

「なに言ってるの♪日本人の朝はご飯に味噌汁、そしてお酒って決まってるのよ」

「そんなのミサトさんだけですよ。今だに独り身の理由がわかった気がします」

「ぐっ、ユウちゃん、おねいさんをいぢめて楽しい？」

「ええ、とっても」

ユウミはニッコリと微笑み、後片付けをするために台所に立つ。

「ユウちゃんのイヂワル」

そう言いながら顔が笑っているミサト。

「今日の進路相談ですけど、来てもらっていいんですか？」

「えっ、今日だったっけ？」

「えっ！忘れてたんですか？」

「ウ・ソよ♪だから、お姉さんはちゃんと参加するわ」

何故かミサトに気合いの入っているとインターフォンのチャイムが鳴る。

「は〜い♪
　・・・あら♪いつも悪いわね。ユウミはもうすぐ出られると思うから、少し待ってもらえる？」

ミサトは先程と違い、落ち着いた声でインカムに話し掛けた。

ユウミは手提げタイプの鞄を持ち、玄関にパタパタと走っていく。

「それじゃ、行ってきます、ミサトさん、ペンペン」

「行ってらっしゃい♪」

ミサトは「みんな、おはよ」というユウミの声を聞きながらペンペンに話し掛ける

「ふふ、表情が柔らかくなってきたのは良い事ね♪ペンペン」

クヮァ〜♪

「くくっ、あぁ〜、学校でユウちゃんが驚く顔が目に浮かぶわ〜♪」

グ、グゥ〜？

今の悪戯をしている子供の様に笑うミサトを見た人は、誰もネルフの作戦部長とは思わないだろう。

第３新東京・通学路

サラリーマンや学生が行き交う道をユウミ達は会話を楽しみながら進んでいく。
第四使徒戦以来ユウミは、トウジ、ヒカリ、ケンスケの三人と一緒に登校するのが日課になっている。

「ミサトさんの声を聞くだけで一日がバラ色や〜！」
「トウジ君、どうしたんだろ？」

「まぁ、女の碇にはわからないかもしれないけど、ミサトさんって話してみるといい人だし美人だからな。男から見れば憧れの人ってやつなんだよ」

「ふ〜ん、ミサトさんってやっぱり美人なんだ♪」

こんな取り留めのない会話をしながら歩く四人。これもいつもになりつつある。

「いやいや、碇はんも「だめよ、ユウミさん、こんなのと話してたらバカになっちゃうわ」

トウジがユウミも誉めようとするとヒカリが割り込んで遮る。

「なんやと〜！」

「なによ〜！」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて・・・」

「う、碇はんが言うなら止めとくわ」

「本当、私ったら熱くなって、いつもごめんね」

俗っぽい事を言うトウジとそれと反りが合わないヒカリと口論になり、ユウミが止める。これもパターンになりつつあった。

「平和だなぁ〜」

やはり、一人余る事になるケンスケが哀愁を漂わせているが気付いてもらえなかった。

第一中学校・2-A教室

「ねぇねぇ、そっちは親来るの〜？」

「来るみたいだけど、うちの親、進路相談なのに気合い入ってるみたいでさ、ばっかみたいよね〜」

教室は今日行なわれる進路相談の話題で持ちきりになっている。
第一中学校では夏休みの前日に行なわれる進路相談で自由参加の保護者と共に進路を決めておき、二学期に行なわれる三者面談で保護者と生徒の生活ぶりなども含めて話し合うのである。

「？なんだろ、あれ？」

ユウミの視線の先では赤い物が凄い勢いで学校に向かってくる。

「う〜ん、あの危ない運転どこかで・・・あっ！」

学校の駐車スペースに赤のフェラーリがドリフトターンを決めて停止する。

「「「オオォ〜！！」」」

ドリフトによる爆音で、何事かと窓から見ていた生徒が車から降りた女性に歓声を上げる。

「っか〜！やっぱミサトさんはええなぁ〜♪」

車から降りて校舎に向かうミサトはトウジ達に気付き、Ｖサインと笑顔を向ける。

「うんうん、やっぱりミサトさんだとカメラに収めがいってものがあるよ♪」

ケンスケは嬉々とした感じでカメラをミサトに向けている。

「男子って、バッカな事しか考えてないんだから」

教室の廊下側で女子と雑談していたヒカリは呟いた。

『やっぱり、ミサトさんだ♪
　けど、どこからあの赤い車を持ってきたんだろう？
　まさか、この日のために買ったんじゃ・・・朝の気合いの入り様から見れば絶対にそうだ・・・うぅ、今月、キビシイのに〜』

ユウミが騒ぎの中で今月の家計の見直しを行ない始めていると、入り口から担任の老教師が入ってきて教室が静かになる。

「え〜、皆さん、これから進路相談を始めます」

静かになった教室がザワザワし始める。

「皆さん、わかってると思いますが、名前を呼ばれたら隣の教室に来てください。では、まず、相田君から・・・」

「ふぅ〜、終わった♪終わった♪」

十分後、ケンスケが解放感を露にして入って来る。

「次、綾波さん。
　・・・ああ、綾波さんは休みでしたね。では、次、碇さん、お願いします」

「はい、わかりました（綾波さん、ネルフの仕事も無いのにどうしたのかな？）」

ネルフ・病院・診察室

「あら、レイ、学校はどうしたの？」

シンジの身体データを映したモニターからレイに振り向いて尋ねる。

「問題ありません」

「そう」

レイの答えを聞くとリツコはすぐにモニターに向き直す。

「「・・・・・・・・・・・・」」

レイとリツコはお互いに気まずいので、お互いに黙り込む。

「・・・あの、赤木博士、彼は大丈夫なんですか？」

話を先に切り出したのはレイだった。

「？ああ、シンジ君？彼なら大丈夫よ、命の危険は無いわ」

「そうですか・・・」

「「・・・・・・・・・・・・」」

また沈黙する二人。

「レイ、この前の戦闘でミサトの命令に反抗してまで動いたのは何故なの？」

今度はリツコが自分が悩んでいる疑問の一つをレイにぶつけてみる。
何故疑問に思ったかというと、レイはシンジがあの場所にいるのは知らないはずだし、知っていたとしても命令に忠実なレイが命令に反抗してまで向かうとはリツコには思えなかったからである。

「・・・・・・使徒の攻撃を受けた彼の力が消えそうになっていきました。それが・・・私にはあの感じが嫌で気付いたら彼の前で盾を構え耐えていました」

レイは診察台で眠っているシンジを見つめながらガラスに右手を添えて答える。

「やはり、あなたには彼があそこに居たのがわかっていたのね？」

「はい・・・」

「では、彼があなたに近い存在であることも？」

「どこが・・・という事は分かりませんが、彼は同じだと思います」

「そう、わかったわ。ありがとう、レイ」

リツコはモニターに反射して写っているレイの横顔を見ながら礼を言った。

「いえ・・・」

レイはそんなリツコの態度など気にせずシンジを見つめ続ける。

『ありがとう、か。レイとは長い付き合いだけど、こんなの言ったの初めてね・・・』

第一中学校・教室

「お久しぶりです、先生」

ミサトは教室に入るなり老教師に笑顔で頭を下げた。

「ああ、葛城さん、久しぶりですね。私が根府川の中学校に行く前ですから・・・十七年ぶりになりますか。どうです？お父さんとは仲直りできましたか？」

少し目を細めながら間を空けずに答える老教師。

「いえ、父は仲違いしたまま亡くなりましたので・・・。それより今日はこの娘の事なんですが・・・」

ほんの一瞬、能面の様な表情になったミサトだが、すぐに笑顔が戻る。

「そうでしたね・・・。では、まずはお座りください」

老教師も一瞬だけ残念そうな表情になるが、すぐ普段の表情に戻る。

「失礼します」

ユウミは老教師と向かい合うように座り、その隣にミサトが座る。

「では、これを見てください」

老教師はそう言って、ミサトにプリントを差し出す。

「え〜っと、高等学校はどのような所に行きたいですか？・・・まだ決めてません。
　どんな職業に就きたいですか？・・・わかりません。
　あなたは将来どうなっていたいですか？・・・考えられません。
　何コレ？」

どこか愕然とした顔で呟くミサト。

「あ、あはは、は」

罰の悪そうに笑うユウミ。

「困った事にあの時のあなたと同じで将来に対することだけが書かれていないんです」

「ははは、はぁ〜、申し訳ありません、先生」

ミサトも罰の悪そうに笑った後、溜め息を吐く。

「いえいえ、構いませんよ。それで碇さん、どうして先の事が書けないんですか？」

「考えられないんです」

「ふ〜む？考えられないとはどういう事ですか？」

「今が楽しいから考えられないんです。ミサトさんっていう家族ができたし、学校には友達がいるし、精一杯に今を生きてる感じがして先の事なんて考えられないんです」

ユウミは微笑みながら今の自分の気持ちを話した。

「そうですか。そういう理由なら何も心配いりませんね。しかし、将来の事も少し考えてみて下さいね？」

「はい、わかりました」

「では、これで碇さんの進路相談を終わります」

そう言うと老教師はニッコリと微笑んだ。

深夜・葛城宅・ミサトの部屋

住人が寝静まった葛城宅にミサトの携帯電話の呼び出し音が鳴りだす。

「もしもし〜？、何だリツコ〜」

布団からもぞもぞ這い出して電話に出る下着姿のミサト。

《「何だじゃないわ、一応確認するけど明日の出張、忘れてないわよね？」》

「わ、忘れてないわ」

ミサトは内心『なんだっけ？』と思いながら急速に頭を回転させる。

《「はぁ〜、やっぱり忘れてたの、まったくこっちは明日の事で忙しいってのに」》

「そ、そんなに怒らないでよ〜、アレってそんなに大した事じゃないでしょ」

このままではリツコに説教されてしまうのでミサトは話題を替えようと試みる。

《「ッ！私はあなたみたいに暇じゃないのよ！！」》

説教はされなかったがリツコの機嫌を損ねてしまい怒鳴り声と共に一方的に電話を切られた。

「へ？一体どーしたってのよ？・・・」

暗い部屋の中でミサトはいつもと違う親友に一人問い掛けた。

特になし。

申し訳ありません。現在、感想文は準備中です。