Satan　Is　Charity　−第７話「人の造りしケモノ」Ｂパート−

旧東京・ＪＡ披露会場・リツコ

「皆さん、本日はお忙しい中、ＪＡ完成披露記念パーティーにお集まり戴き、誠にありがとうございます」

パンフレットには時田 シロウと書かれているサラリーマン風の中年男がステージの上でなにか話している。

「あったく〜、大人気ないわね〜」

珍しく式典用の軍服を着て来ている親友はぶつぶつと愚痴っている。

「吊し上げたいんでしょ、このＪＡ計画に戦時は関わってないって事だけど、日本重化学工業にとってネルフが敵である事に変わりはないわ」

ネルフを知っている組織は、ネルフ総司令である碇 ゲンドウの強引な政治手腕やネルフが様々な特権を与えられているのが原因で大概嫌われている。
この会場の一番目立つ位置のテーブルに座らされいるのも嫌がらせのつもりだろう。

「それにしたって、他のテーブルには豪華な料理と冷えた飲み物、こっちはビールが二本だけ、やる事ちっちゃいわ〜」

「おかげで、周りから珍しいものでも観るように見られているしね」

まったく、こんな事ならシンジ君を観察してた方が何倍も面白いわ。そう、だって彼は格好の研究材料なんだから・・・

第四使徒戦後・ネルフ・リツコの部屋・リツコ

「悪いけど、もう一度説明してくれる？」

私は外面は平静を保っていたが彼が話す出来事に内心驚いていた。

「はぁ〜、もう一度言いますよ。
僕はこの街に来る前はある研究施設にいたんです。
その研究施設では、人を人工的に進化させる実験が行なわれていたみたいなんです。実験は順調に進んでたみたいですけど、最後の最後で僕が失敗させてしまったらしく、その所為で研究施設もなにもかも壊れてしまって気付いたらあそこに居ました。
その実験の所為か判りませんけど、僕はある力を使いこなせるようになったんです、って説明三度目ですよ？」

「そう？悪かったわね。けど、正直は三度までって言うでしょ？」


「そうですけど・・・」

普通の人が聞いたら単なる与太話だと言い、信じないだろう。しかし、私は未確認ながら彼が現われる前にネルフの上位組織である『人類補完委員会』の海底研究所が壊滅した情報を持っていたのでそれが真実に思えた。

「あなたが使えるようになった力ってどんなモノなの？」

「ＡＴフィールド。研究施設のみんなはそう呼んでました」

『ＡＴフィールド』、これを知っているだけで彼が一般人でない事がわかるし、彼の話を肯定する要因の一つになった。
『委員会』が行なった情報操作によって、『ＡＴフィールド』は一般人には単語すら知られていないのだから・・・

「・・・そう。じゃ、そのＡＴフィールドとやらを見せてくれる？」

必要ないかもしれないけど、一応はこちらの情報は伏せておく。

「はい、いいですよ」

彼は右手を私の向かって出し、手の平を天井に向けて眼をつぶる。

「これが・・・・・・」

ここまで近くで見るのは初めてだけど、彼自身を覆い、ぼやけさせている薄い光のヴェールの様な物がそれらしい。
後で詳しく聞くとこの時に展開していたＡＴフィールドはかなり微弱な物で、探知機に引っ掛からなかったらしい。


「・・・もう止めていいわ。　話は変わるけど、シンジ君、煙草吸っていいかしら？」

「いいですよ」

私は煙草に火を灯し、彼から聞き出した予想以上の情報をまとめながら肺に煙を送り込む。

彼の概ね真実だろう。此処に来たのも、たぶん偶然でスパイの可能性は低い。しかし、『委員会』が行なった実験とは一体どんな物だったんだろう？。

「ふ〜、で、あなた、これからどうしたいの？」

私の頭は正直に言うと、手に入れた情報やそれによって浮かんだ仮説等を整理するので一杯で彼の目的を考えてる余裕が無い。
今回、彼を呼び出したのは、彼がスパイであった場合の為に情報を掴んでいるという嘘をほのめかし釘を刺す程度だった。
あわよくば、とは思っていたけど、まさか彼がこんな面白い事を話してくれるとは思ってなかったから・・・

「え？」

「何を驚いているの？、普通こんな話を聞いたらあなたが何をしたいかも知りたいと思わない？」

あの人の計画に邪魔になるようなら如何なる手段を使ってでも彼を排除しなければならない。

「そうですねぇ・・・・・・」

しかし、そうでなければ彼を保護して研究するのも『委員会』の考えを知るのに得策だろう。

「僕はこの街に住めればいいです。ネルフやこの街の人には優しくしてもらえましたから・・・」

そんな純粋に物事を考えられる世間知らずかこちらを油断させる嘘ね。
まぁ、彼の希望を叶えるとこちらは監視しやすくなるから彼が不審な動きをしてもすぐに対処できる、ってＡＴフィールドを張れるけど、こんな子供にここまで警戒するなんて・・・

「無様ね」

「うぅっ、世間知らずでバカなのは自分でもわかってますよ」

「ふふ」

「わ、笑わなくてもいいじゃないですか」

「ふふ、ごめんなさいね、別にあなたの事じゃないのよ」

しかし、なぜだろう？このシンジという少年は一度警戒を解くと一気に大学時代からの二人の友人の様に私の力を抜いてくれる。

ＪＡ完成披露会・リツコ

「・・・では、質問等がありましたら、どうぞ」

考えに没頭している間に挨拶とスペック説明を終えていた様ね。

「はい」

「こ、これは特務機関ネルフの作戦部長をなさっている、葛城一尉、どうぞ？」

私が質問すると思っていた時田氏はミサトが手を上げたので少し驚いてるようね。

本来なら私がするんだけど、まぁ、こういうのは一つの事に没頭するタイプの私よりも頭の切り替えの速いミサトの方が案外向いているかもしれないし。

「原子炉を搭載しながらも近接戦闘を目的とし、無線によって遠隔操作する、とありますが、一体何を考えているんですか？」

「と言われますのは？」

「まず遠隔操作で動いているならタイム・ラグが生じて満足に格闘戦なんか出来ません、それに回避にも支障が出てすぐにダメージを受けます」

「そんな事は実際に行なってみないとわかりません。それに、あなた達ネルフの兵器だってパイロットのコントロールを離れるという心配があるでしょう？」

「ですが、少しのダメージで放射能汚染を起こす兵器と暴走しても敵を倒す兵器、どちらが優秀な兵器か考えるまでもありません」

「だが暴走してこちらに被害が無いわけでは無いでしょう。あなた達ネルフがエヴァが暴走させた時、あれは敵生命体以外気にも止めていなかった。そんな状態でパイロットや民間人が被害を受ける事が無いとは言い切れません」

そう、そこまで情報が漏れてるの・・・・・・相変わらず彼もマメね。

私の脳裏にいつも飄々と男臭く笑っていた大学以来の友人が思い浮かぶ。

「ですが、何と言われようとＪＡは使徒に触れる事すら出来ずに負けます」

「ＡＴフィールドですか？それこそ時間の問題です。何時までもネルフの時代ではありませんよ」

「なら、ＡＴフィールドの対抗策はいつ完成する予定ですか？」

「問題ありません、解明は順調に進めています」

「解明？してどうなるんですか？。それに解明できたとしても、ＡＴフィールドをなんとかできるんですか？」

無理ね。

「それについては、ネルフが関わる問題では無いと思われますが・・・」

「・・・そうでしたね、私達が口出しする事ではありません。失礼しました」

二人の論争は引き分けだろう。しかし、ミサトから折れた事によって周りの人間にネルフが独裁的な組織でない事をアピールできた分こちらの勝ちだろう。

「この後、休憩を挟んでＪＡの運動実験を行ないます、どうぞ御覧ください」

ＪＡ完成披露会場・控え室・リツコ

「ふふ、あなたが質問してくれて良かったわ。私だったら熱くなって笑い者にされていたと思うから」

さっき調べたけれど、監視や盗聴がされていない。やはり、民間企業だとそこまでしないのだろうか。いや、責任者である時田氏が止めさせているのかもしれない。

「そう？役に立ったと思うなら、一つ教えてくれない？」

ミサトは鋭い目付きで私を見ている。

「答えられる事ならね」

「子供でありながらネルフに出入りしてるシンジ君って何者？」

「なにをバカな事を言ってるの、チルドレンだって出入りしてるでしょ」

「けど彼はチルドレンじゃない。チルドレンのケアなんて役職がとってつけた物だってわかるわ」

やっぱりチルドレンが十年前に発見されたのに今頃作ったのは無理があったか。

「ふふ、モルモットよ。迂闊に職員やチルドレンで実験できないから私的の、ね」

「・・・程々にしときなさいね。知り合いが死んだらユウちゃんが悲しむから・・・」

何よ、その哀れむ様な視線は！

「なに言ってるのよ！冗談に決まってるじゃない！」

「わかってる、わかってる。んじゃ悪いけど、ちょっと出てくるわ」

そう言ってミサトは部屋を出ていく。

しかし、ミサトのあの態度、何かあったのかしら？

旧東京・実験観測所・リツコ

「これからＪＡを起動します。あちらを御覧ください」

ビルだと思っていた建物が縦に割れ、そこにエヴァを意識して作った様な薄い肌色の巨大なおもちゃが立っている。

「ＪＡ、微速前進！左足前へ！」

この部屋の一番奥にいる時田氏の号令で、外のおもちゃがゆっくりと左足を上げ前に進めていく。

「「おおぉ〜〜！」」

「よし、このまま連続歩行テストに移る」

あの大きさの物が動くのが珍しいのだろう、見物人に歓声が上がり、スタッフも気合いが入る。

「ちゃんと動いてるわね？」

「どうしたの？ミサト」

「もし、ネルフが・・・いえ、司令が何かするつもりなら大勢の人が観ている時だと思ったから・・・」

本当鋭いわね。

「あら、司令ならもっと強引に叩き潰すと思うけど？」

「そうね・・・」

こんな嘘じゃ誤魔化しきれないわね。

私はこれから起こる厄介ごとから目を逸らすように視線を天井に向けた。

「し、主任！変です！ＪＡのリアクターの内圧と一時冷却水の温度が高まっています！」

「何！？バルブ解放して、減速剤注入しろ」

「駄目です！ポンプの出力が上がりません！」

製作者が対処できない間に外のおもちゃはこちらに向かって歩いて来る。

「いかん！動力閉鎖、緊急停止！」

「停止信号の発信を確認しましたが、ＪＡは受け付けません！」

「無線回路も不通です！！」

「そんな馬鹿な、ＪＡが制御不能だと！」

ズゴオォォォォン！

「「う、うあぁぁぁぁぁぁ！！」」

おもちゃは私達のいる部屋の天井を踏み抜き、見物に来ていた人達に恐怖を与えながらも進んで行く。

あの時マヤがちゃんと仕事をしていたらもっと念入りにプログラムできて、こんな目にも遭わなかったのに！

「エホッエホッ、まったく、散々だわ」

ミサトが驚いた表情で私を見ている。

「何？ミサト、私なんか変な事でも言った？」

「あ、いや、なんでもないのよ」

ＪＡのデータが表示されてると思われるパネルを見ながら時田氏は誰に聞かせるでもなく呟いている。

「信じられん。ＪＡはあらゆる事態を想定してプログラムを組まれている、このような事態はありえないはずだ・・・」

そう、普通ならね。

「でも、現に起きているし、炉心融解の危機にもさらされているわ」

「・・・そうだな」

「で、解決策は？」

「こうなってはＪＡが自然に止まるのを期待するのは望み薄でしょう」

時田氏の表情が険しくなる

「すみませんが葛城一尉、私達にエヴァの力を貸してもらえますか？」

「構いませんが、一体何を？」

「私に残された最後の『希望』に賭けてみたいと思います」

ふぅ〜、ミサトが厄介ごとを持ち込まれているみたいだけど私の役目は終わったわね。ま、時田氏がどんな事をするか興味はあるけど私には関係ないわ。

私は他の見物人と一緒に部屋を出た。

特になし。

申し訳ありません。現在、感想文は準備中です。