Satan　Is　Charity　−第７話「人の造りしケモノ」Ｃパート−

ネルフ・トレーニング・ルーム

二人の人間が竹刀を交えているのをタツミが見守っている。

「おっ！誰だか知らないけど良い音してるな」

青葉がトレーニング・ルームから聞こえる音に釣られて入ってくる。

「ええ♪ユウミさん、みんなを守るんだって言って一生懸命頑張ってるから♪」

「へぇ〜、あれってユウミちゃんなんだ。あれ？確か大海さん、今の時間帯、第一中の先生をしてるんじゃ・・・」

「ああ、学校は進路相談で午前中に終わったからこっちにいるのよ♪青葉君は？」

「俺？俺は休憩中ヒマだったんでブラブラしてただけだよ」

二人が視線を戻すと稽古が終わったのか竹刀を納めている。

「よし、今日はここまでにしよう」

「お疲れさまでした」

稽古をしていた二人が防具を外し片付け始める。

「ユウミさん、お疲れさま♪」

「タツミさん待っててくれたんですか！ありがとうございます」

タツミ達に気付いたユウミは駆け寄っていく。

「やぁ、お疲れさん」

「あっ、こんにちは、日向？さん」

「は、ははは、俺、青葉だけど・・・」

「す、すみません、青葉さん」

「ま、次に間違えなければいいから。そんな事よりユウミちゃんは武術の経験あるの？」

「なかったですよ。此処にきてリツコさんに、エヴァに乗るなら何か武芸を身に付けた方がいいわよ、って言われるまでしようとも思いませんでしたし・・・」

「う、嘘だろ、そんな短期間であんな動きができるようになったのかよ」

「残念ながら、ついこの間まで彼女が素人だったのは事実だよ。私が保障しよう」

先程までユウミの道具をしまっていた長身だがやや太り気味の男が話に加わる。

「あっ、すみません！片付けしてもらっちゃって・・・」

「かまわないよ。けど、次の稽古に私の分の片付けもやってもらうからね」

「はい！」


「や、山岸一尉、保安部の部長が何でチルドレンに稽古をつけてるんすか！」

「いやぁ〜、最近デスク・ワークばっかりで飽き飽きしてたところにこの話が来てね。他の希望者を上司という権力を使って無理矢理押さえ付けてやらせてもらってるのさ」

「そ、そうなんすか？」

とんでもない横暴をなんとも清々しい笑顔で語る山岸に青葉の顔が引きつる。

「そうだ！久々に君にも稽古を付けてやろう」

「えっ！いやいや自分は刃物を使うことはありませんので結構っす！」

ネルフは就職した時に一定の軍事訓練を受ける事が義務付けられている。
青葉が就職した時の教官は山岸だったので青葉は彼の稽古や訓練の厳しさを知っている。

「そうか。では射撃訓練だ！」

そう言うと山岸は青葉を凄い怪力で引っ張って行く。

「い、いや、自分にはまだ仕事が・・・」

「夜には終わるつもりだ、仕事なんてそれからすればいいだろう？」

「い、今、昼過ぎですよ。二人も黙って聞いてないで、この人止めてくれ！」

自分ではどうにも出来ないと判断した青葉は二人に助けを求める。

「青葉さん、ガンバって！」・「うふ、あなたが強くなった姿が、見・て・み・た・い・わ」

普通の人が見たらユウミの可愛い応援とタツミの挑発的な台詞にやる気を起こしただろう。

「こぉのぉ薄情者おぉぉぉ・・・」

しかし、青葉には拷問の始まりを告げる悪魔の声にしか聞こえなかった。

「ホ、ホントによかったんでしょうか？」

青葉が見えなくなる直前に言った最後の言葉にユウミは心配になったのかタツミに尋ねる。

「大丈夫よ♪あなただって耐えられたんだから、成人男性の青葉君だって耐えられるわ♪」

「そうですよね。それじゃ、わたしシャワーに行ってきます」

そう言ってユウミもトレーニング・ルームを出ていく。

『・・・ユウミの上達速度は、どのデータと比べても不自然だわ。これは才能だけで説明しきれない事象ね』

タツミはユウミが稽古をしていた場所をしばらく眺めると「ま♪面白いそうだからいっか♪」と楽しげに立ち去った。

そして、この数時間後、日向からユウミに出動命令が伝えられる。

旧東京・上空

エヴァを空輸するための輸送機の中でミサトと防護服を着ている時田からユウミが作戦を聞いている。

「今回の私達は約七分後に炉心融解の危機に瀕しているＪＡを止めるのが目的よ」

「もし、止められなかったらどうなるんですか？」

「この辺りが放射能に汚染されて人が住めなくなるでしょうね」

「・・・・・・それで、わたしは何をすればいいんですか？」

「単刀直入に言おう。君にはＪＡに追い付いてもらい私が乗り込むから、その間ＪＡを止めておいてもらいたいんだ」

「？わたし達は空から地上に下りて追い掛けるんですよね？」

「うん？そうだが、それがどうかしたかね」

「時田さんは耐えられるんですか？落下の衝撃とか走ってる間の振動に・・・」

「落下の衝撃はエヴァのＡＴフィールドで、上下の振動は君が意識して走ってくれる事で耐えられるレベルまで軽減できる、と赤木博士からは伺っているが、自信が無いのかね？」

「そんなの無茶です！」

ユウミが声を荒げたので時田は少し困った顔をしたがすぐに調子を取り戻す。

「君はこの下にある廃墟を見たかね？」

「・・・はい、見ました」

戦闘機の真下には半壊したビルや家が荒野に点々と立ち並んでいる。

「セカンド・インパクトの後の混乱の中なので原因はわからないが新型爆弾が東京に落ちてね。その後、政府は封地に指定して誰もいない事にしているが、こんな廃墟でもまだ大勢の人が今だに生活を続けている」

時田はユウミに話すためではなく、いつのまにか自分の決心を確かめるように話している。

「その命を私の作ったＪＡが奪ってしまう事に比べたら私が無茶をするぐらい軽いもんだよ」

「時田さん・・・」

ユウミの声に我を取り戻したのか時田はオホンと咳払いをする。

「時田博士、やはりそんな危険な方法なら訓練を受けた私がする方が成功率が高いのでは？」

ミサトの正論に時田は冗談混じりに返す。

「それは困りました。ここにいて生き残ってても処分されますし、あなたがＪＡを止めたとしてもたぶん処分されるでしょうからね」

「！わかりました。では、この娘をお願いしますね」

ミサトは裏事情を察するが、ユウミには理解できない。

「あの、ミサトさん達は一体なんの話をしてるんですか？」

「何でもないのよ、あなたが気にしなくて「いや、ＪＡの処理について話をしていたんだよ。それじゃ行こうか？パイロット君」

「・・・わたし、女です」

「冗談だよ、だが無駄な力は抜けただろう？」

ユウミは頬を膨らませるだけで返事を返さなかった。

「さぁ、気合いを入れていこう！」

しかし、時田はユウミがプラグに乗り込む時に「偶然を装って落としちゃおっかな？」と呟いたのを聞き慌てて謝った。

廃墟・ユウミ

《「よーし！ユウミ投下するわよ」》

「はい！」

《「では、エヴァ初号機、投下！」》

バシユュューーー・・・

わたしは輸送機の固定部から切り離され、風を切り裂きながら地面に向けて落ちていく。

今だ！

「ＡＴフィールド展開！」

ズジャャャン

わたしは周囲に建物が無い場所にうまく着地する事ができた。

よし、ＡＴフィールドの力で落下の衝撃をうまく無くせた。

「行きましょう！時田さん」

《「ああ！」》

わたしは時田さんを乗せている右手を揺らさないように気を付けながら走りだした。
そして、どんどんＪＡとわたしの距離が縮まっていく。

「捕まえた！」

ＪＡの背中にあった突起を握る。

「くっ、すごい力・・・」

ＪＡを止める事は出来たがどんどん足が地面にのめり込んでいくので長く保ちそうもない。

《「あそこにあるタラップに近付けてくれ」》

わたしは言われた通りに時田さんをＪＡにあるハシゴに近付ける。

《「君は、この後ＪＡを止めておいてくれ」》

「はいっ！」

《「もし、失敗した時は自分の安全を優先するように」》

「そんな事言わないでください！みんなで帰りましょう！！」

時田さんはわたしに頷くとＪＡの中に入っていった。

ＪＡ・時田

「こ、これは予想以上にまずいな」

ＪＡの内部は高熱と危険を示す赤いランプの光で満たされていた。

「急がないと外に被害が・・・」

私はＪＡの内部端末に向かって歩きだした。

思えばＪＡは私の子供の様なものかもしれない。
ＪＡはセカンド・インパクトの復興を助けるための大出力残骸撤去ロボットとして私が企画し、順調に完成へと近づけていった。
しかし、世界中で起こっていた紛争の所為で戦闘用ロボットに計画が切り替わってしまった。
それでも人の命を守れると思っていたからこそＪＡの開発を続けていたが、スポンサーの要望で未完成のまま発表する事になり、まさか自分の手で潰す事になるとは・・・

「まったく私達の12年は何だったんだろうな？ＪＡ」

私は端末に向かいプログラム抹消のパスワードを入力する。

【Password？:希望】

ピーーー！！

もう一度確認のために打ち込んでみる。

ピーーー！！

やはり駄目か、プログラムが完全に書き替えられている。

「ＪＡ、すまない、造り出しておきながら助けることが出来ないかもしれん」

私は無駄だとわかっていたが制御棒を力の限り押し込むがびくともしない。

「あの・・・パイロット君に・・・怪我が無いと・・・いいんだが・・・な」

プシュウーーーン

「な、なんだ！？」

警告ランプは正常を示す緑に戻り、制御棒が炉心に打ち込まれた。

《「やりましたね！ＪＡ、止まってくれたみたいですよ」》

私は彼女の元気な声に張り詰めていた緊張が切れて座り込んでしまった。

《「？どうしたんですか？変な音がしましたよ」》

「ははは、な〜に、安心して腰が抜けただけだよ。パイロット君」

《「もう！知りませんから！！」》

時田の防護服の無線からユウミの回線が切れる。

「聞こえていますか？葛城一尉」

《「ええ、聞こえているわ」》

「この無線を聞いてるのはあなただけですか？」

《「いいえ、うちの部下も聞いてるわ」》

「あなただけに話したい事があります」

《「・・・・・・日向君、お願い。
・・・・・・出来たわ」》

「実はＪＡに残された最後の希望は潰えていたんです」

葛城一尉が息を呑んでいるのが無線から伝わる。

「代わりに人の手によって奇跡が用意されていました」

《「・・・時田博士のおかげで少し隠し事に近付けた気がします」》

「そう言って戴けると幸いです。ところで速くここから出してもらえませんか？」

《「日向君、初号機と繋いで！
・・・・・・ユウちゃん、時田博士をＪＡからきちっと救出してあげて♪」》

ネルフ・司令室

ゲンドウとその横に立っている冬月に机を挟んでリツコが今日の結果を報告している。

「・・・・・・以上が今回の結果です」

「赤木博士、君に任せるのはまだ早いようだな」

「う〜む。そうだな、もう少し強引な手を使った方が良かっただろう」

二人の上司からの辛口なコメントにもリツコは表情を変えない。

「あのプロジェクトが完全廃棄されないなら、ＪＡ計画ごと時田博士をネルフに引き抜いてみたらどうかね？」

「それが時田博士はあの事件の後、行方がわからなくなっています」

「ふむ？少し引っ掛かるな。マギで行方を追いけておいてくれたまえ」

「はっ！それと葛城一尉、何か感付いてると思いますが如何なさいますか？」

「今は何もしなくていい」

「はい」

「ご苦労だったな。赤木君、下がってもかまわんよ」

「では、失礼します」

リツコが背を向けると話し声が聞こえてくる。

「本当にいいのか？ＪＡは旧東京に放置したままだが・・・」

「あの程度のおもちゃ、問題は無いさ」

リツコには世界がこの部屋を中心に動いている様に思えた。

特になし。

申し訳ありません。現在、感想文は準備中です。