Satan　Is　Charity　−第８話「災いのマモノ」Ａパート−

ネルフ・病室

《「調子はどう？本当に痛いところとかないの？」》

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、母さん」

シンジは電話越しに最近、少々過保護過ぎるユイに苦笑する。

《「そう？それならいいんだけど・・・」》

「うん。僕は大丈夫だよ・・・」

『そう、綾波の時だって堪えられたんだ、僕を知らないアスカが来たとしても僕は堪えられるはずなんだ・・・』

そう言うとシンジは窓の外に広がる森に目を向ける。

『はぁ〜、今の状態のどこが大丈夫なのよ？これじゃアスカちゃんの事なんか話せないわ』

そんな事を思いながらユイはシンジのどことなく憂いを帯びた声に母性本能が刺激される。

《「愛してるわよ、シンジ」》

「な、な、なに言ってるんだよ！母さん！！」

いきなりユイに告げられたシンジは真っ赤になってあたふたしてしまう。

《「シンジがどんなひどい事をしていたとしても、私はあなたを愛しているから・・・」》

「母さん・・・・・・」

シンジもユイの優しさに甘えようとした時。

「何しているの？」

「うわ！」

《「きゃっ！」》

突然掛けられた声にシンジは驚いて電話に向かって大声を掛けてしまう。

「あ！ご、ごめん、か、ユイさん。ど、どうして綾波さんがここにいるのさ！？」

「赤木博士があなたの様子が怪しいから様子を見てくるように頼まれたの」

「そ、そうなんだ（リツコさん、まだ疑ってるんだ・・・）」

ユイは頬を引きつらせているシンジとそれを睨み付けているレイを想像して、シンジに告げる。

《「シンジ、私、もう電話切るけど私以外の誰とでも甘えちゃダメよ」》

「ぼ、僕は親に甘える年じゃないよ！」

《「ふふ、レイちゃんもよろしく言っといてね」》

シンジは慌てて否定するが気にした様子もなく電話は切れた。

「で、誰と話していたの？」

いつもと変わらないレイの口調にどこか刺があるような気がする。

「さ、さぁ？誰とかな〜？」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・（気まずい）」

シンジはレイの無言の圧力を受け、病室の温度が絶対零度まで下がったように感じていた。

太平洋上空・ユウミ

海か・・・・・・初めて見たけど青くて綺麗だなぁ。

わたしはミサトさんに連れられてヘリに乗って太平洋上空を飛んでいる。
目的はドイツから海を越えてやってくるセカンドチルドレンさんを迎えに行く事らしい。

「ミル55Ｄ輸送ヘリ、こんな機会じゃなきゃ一生乗る事なかったよ♪」

「せやけど、ミサトさん、わしらまでついていってええんですか？」

そして今日たまたま遊びに来ていたトウジ君とケンスケ君も着いてきている。
洞木さんも遊びに来ていたけれど「悪いけど、お姉ちゃん達の昼ご飯の用意をしなくちゃならないの」と言って来なかった。

「いいの、いいの。いっつも山の中だと気がめいると思った私がデートに誘ったんだから♪」

「ほんまでっか！それなら今日のわしは両手に花やな♪これならこの帽子を買うたかいがあったわ♪」

わたしは思い浮かんだ疑問を帽子を自慢げに被り直すトウジに聞いてみた。

「？トウジ君、なんで両手に花なの？」

「そら、べっぴんさんのミサトさんと可愛らしい碇はんとデートできるちゅう事やからな」

「そ、そう・・・」

わたしってそんなに可愛かったかな？

舞い上がってるトウジ君とカメラを回し続けるケンスケ君を眺めていると・・・

「はぁ〜〜〜〜」

何故だろう？二人を見ていると不思議と溜め息が出てきてしまった。

「おっ♪見えてきたわよ、あれが今回のデート会場の豪華なお船よ♪」

「あ、あれが豪華なお船かいな」

「空母が５、戦艦が４の大艦隊だ！正にゴ〜ジャス！！」

ミサトさんが見ている方を見て、トウジ君は残念そうに、ケンスケ君は心底嬉しそうな声を出している。

わたしも見てみると言いようのない不安が心に沸き起こってくる。

「わたしもデート会場が軍艦なら残念だなぁ」

そんな不安を吹き飛ばそうとして冗談を言ってみた。

「ユウちゃんもわかってきたわね♪」

「い、碇はん・・・いや、これからは名前で呼んだ方が・・・・・・」

「なんだと〜！あの国連軍が誇る正規空母オーバー・ザ・レインボーのどこが気に入らない！！」

どうしたらいいんだろ？ミサトさんは満足気に頷いてるし、トウジ君は目をウルウルさせてこっちを見てるし、ケンスケ君は怒ってるし・・・

「もう、どうでもいいや」



空母・甲板

「やっと・・・・・・やっと逢えるね」

一人の少女が上空から降りてくるヘリを見ながら呟いた。

「すっごい♪すっごい♪すっごい♪すっご〜い♪」

カメラを片手に興奮しながらヘリから一番最初に降りるケンスケ。

「ま、待て！待たんか〜い！！」

続いて降りたトウジは、風に飛ばされた自分の帽子を追い掛けていく。

「ふわぁ〜〜あ」

次にユウミが無防備に欠伸をして降りた。

子供達の行動に和んだのか甲板にいた海兵隊員達が微笑んでいる。

『こ、この子達は場の雰囲気を読まないのかしら？』

最後に降りてきたミサトは周りからの好奇の視線に気まずそうに頭を掻く。

「あ、後少しや！捕れる！」

トウジの帽子はもう少しで持ち主に掴まれるというところで赤い靴に踏み付けられる。

「ヘロォ〜、ミサト♪元気してた？」

トウジの帽子を踏み付けている少女は何事も無かったようにミサトに話し掛ける。

「まっねぇ〜♪アスカも背、伸びたんじゃない？」

「ま、他の所もちゃ〜んと女らしくなってるわよ」

アスカと呼ばれた少女はユウミ達を見た後、蒼い瞳を鋭くすると亜麻色の髪をなびかせながらミサトに近づく。

「ミサト、サードチルドレンはどこ！？」

ミサトを通り越して少女はヘリの中を覗き込んでいる。

「あ、あの〜、アスカ、彼女がサードチルドレンの碇 ユウミちゃんよ」

ユウミは恥ずかしげにお辞儀をする。

「ユウミ、彼女は惣流・アスカ・ラングレー、セカンドチルドレンでエヴァ弐号機専属パイロットよ」

説明を聞いた後、ユウミはアスカに近付き握手を求めた。

「い、碇 ユウミです。惣流さんこれからよろしくお願いします」

「・・・そう、こちらこそよろしく」

しかし、アスカはユウミの手を握らず、どこか落胆した様子でブリッジに向かっていった。

空母・ブリッジ

「やれやれ、化け物退治は出来てもお嬢様を満足させる事は出来ないようだな」

この空母の艦長はミサトの後ろに並んでいる子供達を見ながら皮肉を放つ。

「ええ、残念ですが。しかし、私の本業が使徒殲滅である事をお忘れなく。では、艦長、これが非常用電源ソケットの仕様書です」

ミサトは艦長からの皮肉をさらりと躱し、用件を伝える。

「ふん、この海であの機械人形を動かす要請は聞いとらんが？」

艦長の視線の先には一隻の輸送艦がある。

「非常事態に備える為と考えてください。エヴァはスペック上ではＮ２地雷にも耐える事の出来る兵器ですから・・・」

「そうなると非常事態は使徒が現われた時か・・・」

艦長はしばらく考えると

「ふん、いいだろう、その件は君に任せよう。だが新横須賀に陸揚げするまで弐号機とそのパイロットは預かっているこちらの管轄だ」

「一応告げておきますが、有事の際にはネルフの指揮権が優先されます」

「わかっている。預かり物は好きに使いたまえ。だが艦隊の指揮は私がとる」

「艦長のご協力に感謝します」

ミサトと艦長の対談は上手くまとまったようだ。

「かっこええなぁ〜」

「まるでリツコさんみたい・・・」

「ブリッジまで入れるなんて凄過ぎる〜♪」

「相変わらず凜々しいな」
「あ、加持さん」

ミサトに対するそれぞれの評価を口に出す。

「加持君、君をブリッジに招待した覚えはないが」

げぇっと顔をしかめたミサトを面白そうに不精髭を生やした男が見ていた。

空母・食堂

「今、付き合ってる奴いるの？」

「それがアナタにどんな関係があるって言うの？」

「あれ？つれないなぁ〜」

一同は用が済んだのでブリッジを出て、食堂に集まっている。

「あ、あの〜、惣流さん先程はありがとうございます」

「何が？」

ユウミは食堂へ向かう際にエレベーターに乗ろうとした時にアスカから一緒に階段で行くように言われた。

「あのままエレベーターに乗っていたら、ギュウギュウ詰めになって大変な事になってたと思うから・・・」

「まぁ、わかってたからね」

「そう、ですよね。少し考えればわかりますよね・・・」

浮かない顔をしているアスカを見てユウミも落ち込んでいく。

「君が碇 ユウミちゃんだね？俺は加持 リョウジ、アスカのボディーガードみたいな事をやってるんだが、いやぁ、可愛い娘で良かった」

暗い雰囲気を感じたのか加持は男臭く笑いながらユウミに話し掛ける。

「よ、よろしくお願いします。あれ？どうしてわたしの名前を知っているんですか？」

少し頬を赤らめながらも尋ねるユウミ。

「そりゃ知ってるさ、この世界じゃ君は有名だからね。何の訓練もなしにエヴァを実戦で動かしたサードチルドレンってね、しかも既に３体も使徒を倒している」

「そんな・・・偶然エヴァが倒してくれたんです」

ユウミは話ながら俯いていく。

「偶然だったとしても君が倒した事に変わりはないさ。才能なんだよ、君の」

加持の励ましに俯いていたユウミが顔を上げて加持を見つめる。

「（ほぉ、こいつは将来が楽しみだな）そういえば、君は葛城の所に住んでいるんだろ？こいつの寝相の悪さ、治ってる？」

加持はユウミの性格を知る為に爆弾を落としてみる。

「「ええぇぇー！」」・「な、な、な、」・「はぁ〜・・・」

トウジとケンスケとミサトは驚きに固まる。しかし、アスカの反応が薄い。

「ええ、たまに部屋まで起こしに行くと凄い「子供の前でなんて事言うのよ！」

顔を真っ赤にして抗議の声を上げるミサト。

「ははは、それも相変わらずか。んじゃ、仕事があるんで俺は抜けるけどまた後でな、マイハニーも♪」

終始男臭く笑いながら加持は食堂を出ていく。

「あの〜・・・ミサトさん？」

「なに？ユウちゃん」

恐る恐る尋ねてくるユウミにミサトは久々に逢った元彼による疲労感を隠さずに先を促す。

「さっきの話は何で子供の前じゃしちゃダメなんですか？」

子供なユウミにミサトの思考はフリーズしてしまった。

空母・艦尾

加持は自室で荷物の確認をした後、空母の最高尾で煙草を吸っていた。

「あの冗談を眉一つ動かさずに流せるとは顔は似てなくても碇司令の娘、そして『サタン』と噂されるエヴァ初号機のパイロットだな」

本部ではあまり知られていないが、過去２回暴走状態で使徒を倒してきたエヴァ初号機は他の支部で『天使を殺す制御できない物』という皮肉を込めて『サタン』のニックネームをつけられていた。
もっとも、とある組織が他支部の本部への対抗意識を刺激する為に暴走の情報を各支部に流したのだが・・・。

『アスカの様子が変だな。ここ数日浮かれていたと思ったら食堂では何かに落胆していた様子だった』

加持は肺に送り込んだ煙を吐き出す。

「ふ〜。ま、アスカは言っちゃ悪いが、昔から得体の知れないところがあったからな・・・」

『あれは何時だったっけな？幸せになりきれない少女と運命に弄ばれた少年の奇妙な物語をアスカから聞いた事があった。
　確か、それの最後の一説は・・・いつかまた青い空と海の間で逢いましょう、だったっな・・・』

「くくっ、まるで俺と葛城の事を言ってるみたいだな」

加持の顔は笑っていたが泣いているようにも感じられた。

特になし。

申し訳ありません。現在、感想文は準備中です。