Satan　Is　Charity　−第８話「災いのマモノ」Ｂパート−

輸送艦・アスカ

「あ〜ぁ、結局、逢えなかったな〜・・・」

私はＬＣＬの赤い水に浸り、横たわっているエヴァ弐号機の上に座っている。

「あの蛇女！逢えるとしたら今日だって言っておきながらいないじゃない！！」

もしかしたら、いや、やっぱり・・・そうよね、昔のアタシはアイツに自分勝手な事しかしてなかったし・・・

「わ〜♪弐号機って赤いんだ〜」

突然聞こえてきた能天気な声に私は咄嗟に身を屈めた。

って何でアタシが隠れるような真似、しなきゃなんないのよ！

「あれ？ミサトさんに聞いたんだけど惣流さんいないみたいだ」

ユウミとか言ってた女が弐号機を見ている。どうやら私には気付いていないみたい。

「・・・それにしても惣流さん、か・・・仲良く出来るかな？」

多分この世界のアイツなんだろう。ヘンな所がアイツに似ていて思い出してしまうから好きになれない。

「今度も大丈夫だよね。なんたって私にはシンジ君やミサトさんがついてるんだから！」

ふん、結局自分だけじゃ何にもできないって事じゃ、って、ん！？

「シンジ？」

「へ？惣流さん、いたの？ってキャッ！」

私が弐号機から飛び降りた所為で不安定な足場が揺れているが気にしない。

「そんな事より、アンタの言うシンジってどんな奴！？」

私は気付くと彼女に詰め寄っていた。

「あ、あのチルドレンのケアを担当している同年代の男の子で・・・そ、その、言っちゃったら悪いけど見た目は女の子みたいな感じで・・・優しい自慢の友達かな？」

アイツだ。

明確な理由は無いけど私にはそうとしか思えなかった。

ズドオォォォォン！

「な、なに！？」

「水中衝撃波、近いわ」

私達が甲板に出ると『何か』によって艦隊に爆発が起こっていた。

ふふ、こんな所は前と同じなのね。

「・・・使徒ね」

「ど、どうしよう？」

「取り敢えず、コレに着替えて」

私は彼女に私のプラグスーツを渡した。

前と違って今の私は『計画』の外にいる。
この世界を絶対にあんな最後にはさせない！。

空母・ブリッジ

海上からでは姿の見えない敵によって次々と僚艦が沈められていく。しかし、この空母の人間に絶望の色は見られない。

「全艦、目標にミサイルをたたき込みながら回避行動をとれ！人形はどうなっている！？」

「ただ今パイロットが搭乗したようです」

「よし！ネルフのレディはどうした？」

「まだ、来ていません、が艦内に鳴り響いた警報でこちらに向かっていると思われます」

「ちっ！戦闘は始まっているんだぞ！」

艦長は突然の使徒襲来に混乱した情報を纏め、命令を出していく。

「はぁ、はぁ、すみません、遅れました」

肩で息をしながらミサトがブリッジに入ってくる。

「葛城一尉、君が言っていた非常事態に何をやっているんだね？」

艦長の問いにミサトはニッコリ微笑みを浮かべ答える。

「戦闘中に民間人をブリッジに入れるわけにはいきませんでしょう？」

空母・加持の部屋

「こんな所で使徒と鉢合わせなんて聞いていませんよ？」

加持は面白そうに電話で誰かと話している。

《「その為の弐号機だ。予備のパイロットも追加してある。最悪の場合、君は荷物と予備を連れて脱出したまえ」》

『やれやれ、如何に冷酷無比な碇司令とは言え、やっぱり自分の娘には少し甘いのか？』

「そうしたいのはやまやまなんですが、この状況では無理です」

《「何故だ？」》

「戦闘が始まる前に御息女は弐号機を輸送している船に向かってしまったようですし、俺は葛城一尉から厄介事を押しつけられたんで・・・」

加持は受話器を片手に部屋の入り口側に目を向ける。

「あの〜、加持のおっちゃん、今の状況はどないなんですか？」

「あぁ〜、貴重な戦闘シーンがぁ〜」

そこには、入り口付近に設けられている窓から外の様子を見ている二人の少年がいた。

ミサトは加持にトウジとケンスケを強引に預けていったのである。

「後で答えるからもう少し静かにしててくれよ、な？・・・で、いかが致しましょうか？」

《「・・・君の考えられる最善を尽くしたまえ。但し荷物とそれに関する機密は守り通すんだ」》

「わかりました」

一瞬だけ眼光を鋭くさせた加持は受話器を置く。

「さぁて、これからどうしたもんか・・・」

しかし、次の瞬間にはニヤついた表情に戻り、外を見ていた二人に気付かれることはなかった。

輸送艦・弐号機

「ねぇ、やっぱり無理じゃない？ミサトさんに指示を貰ってからの方が・・・」

シートに座り赤いプラグスーツを着ているアスカにお揃いの物を着せられているユウミがシートの後ろから話し掛ける。

「大丈夫よ、許可なんて後で貰えばいいの♪」

先程とは違い、生き生きと話すアスカ。

『この状況、懐かしいわねぇ〜♪そうそう、シンクロをスタートさせる前に基本フォーマットをドイツ語から日本語に切り替えて、っと♪』

アスカは真剣な顔になり、誰に聞かせるでもなく呟く。

「弐号機、行くわよ」

太平洋・海上

「エヴァ弐号機、起動しました」

「よぉしっ！でも、アスカ、非常用電源で戦闘は無理よ、今そっちに向かうわ！艦長、お願いします」

「うむ、艦を輸送艦に寄せろ！」

「その必要は無いわ！」

外では弐号機が戦艦の甲板を足場にして跳んでくる。

「弐号機、この艦に着地するようです」

「な、なんだと！？総員、耐ショック用意！」

海上をジャンプしている弐号機の中ではユウミが目を回していた。

『そ、そうりゅうさん、ぜったい、いっしょにのってるわたしのことわすれてるでしょ〜？』

ズガァァン

空母は弐号機の着艦によりひどく傾き、それによって空母の甲板にあった戦闘機が海の藻屑となっていく。

『あっちゃ〜、今回もミスっちゃった。ま、人も死んでないと思うし、これは必要な犠牲よね？』

なんて事を考えながらアスカは弐号機にケーブルを接続させる。

「き、来てるよ、左側から！」

「まかせて！」

アスカが返事をするやいなや海中から巨大な魚の様な生物が飛び出してくる。

「結構大きいよ」

「大丈夫！」

弐号機は肩からカッターナイフ型のプログナイフを出し構える。

「コンノォォォォォォ！！」

弐号機は使徒の体当たりを躱し、擦れ違った際にプログナイフで使徒の表面を切り付ける。

「おぉ！凄い操縦テクニックだ！」

空母では艦長や船員が歓声を上げる。

『確かに凄いわ。けど、使徒相手にこんな攻撃じゃ、埒が明かないわね・・・』

ミサトは状況から使徒に対して有効な作戦を考える。

「アスカ、目標のコアを確認できた？」

使徒が空母の周りをサメが獲物を狙うかの様に回り始める。

「いえ、外部には確認できなかったわ。たぶん、体内に隠してあるんだと思う」
その動きに警戒を強めながらもアスカはミサトに答える。

『とすると使徒の体内に侵入してコアを発見し撃破するのが私が考えられるベストね。色々なリスクを度外視すればの話だけど・・・』
ミサトが新たな作戦を考えているとアスカから提案される。

「ミサト、このままじゃ埒が明かないから、これから敵の体内に侵入して殲滅するわ！」

「ダメよ！私も考えたけどそれは危険過ぎるわ！」

ミサトはアスカを制止し考える。

『どうする？あの巨体じゃ空母の上で戦うのは無理、艦隊の攻撃はＡＴフィールドによって防がれるし・・・「弐号機との通信切れました。海に潜るようです」それもダメね、海中戦用の装備をしていない弐号機じゃ自殺行為だわ』

「って！？ちょ、ちょっと待ちなさい！アスカ！！」

ミサトが声を上げた時には既に弐号機の赤いボディを海に沈めていた。

海中

弐号機はケーブルにより沈降が止まる。
海底にはセカンドインパクトの時に街の廃墟が広がっている。

「ねぇ、惣流さん、ミサトさんの命令聞かなくていいの？」

「いいの、いいの♪使徒を倒せばいいだけの話だから♪」

そう言われてもユウミは不安そうな顔をしている。

「倒せなかった時は？」

「大丈夫よ、そんな事ぜ〜ったいに無いから♪」

アスカはユウミを気を使って明るく言い切る。

『でも、よく考えたらやばいのよね〜。今のシンクロで噛み付かれたら私の身体が・・・』

しかし、本人も気付いてないだろうがアスカの口元が不敵に吊り上がる。

「来るよ！」

使徒は口を開けて弐号機に向かって凄い速さで突っ込んでくる。

「っ！！」

『嘘！口の中にコアが無い！前の時はあったのに！！』

アスカは驚きのあまり弐号機の操縦が遅れる。

『しまった！エヴァが噛まれなくてもケーブルが助からない！！』

ガギッ！

アスカが諦めかけた時に弐号機は使徒の口を支える。

「そ・・・惣流さん・・・これから・・・どうすれば・・・？」

シンクロしているアスカだけでなくユウミも辛そうな顔をしている。

「ア・・・アンタ・・・まさか・・・」

『直にシンクロしている私からエヴァのフィードバックを少しとはいえ奪ったの！？』

しかし、使徒と大きさの違う弐号機で支え切れるはずもなく、徐々に口が閉まり始める。

『くっ！このままじゃ殺られる。
今の弐号機に出来るかどうかわからないけどアレを一か八かやってみるしかない！！』

「ユウミ・・・少し・・・保たせて！」

「わか・・・ったわ！」

ユウミはより一層の苦悶に表情をさらに曇らせる。

『ヒトの心の光、心の壁、全てを拒絶するイメージ』

アスカの洋の東西を問わず美しいと評価できる程に整った顔が修羅の顔に変わっていく。

『殺してやる、殺してやる、
殺してやる、殺してやる、
殺してやる、殺してやる、
殺してやる、殺してやる、
殺してやる、殺してやる、
殺してやる、殺してやる、
殺してやる！！』

弐号機の目を覆っていた装甲が開き、表れた素体の目が輝く。

「アアアアアァァァァァァァァァァ！！」

ボヒュウゥゥゥン

使徒の体は内部から赤い光が漏れだすと粉々になり、弐号機を残して海へと消えていった。

『弐号機、ＡＴフィールドによって使徒を殲滅、か・・・』

アスカは海中から空をぼんやりと眺める。

「・・・ミサト、終わったからエヴァを引き上げて」

流石に疲れたのかアスカの声にいつもの元気がない。

《「アスカ！一体何考えてるの！？一歩間違えれば命を落としてたのよ！」》

「ごめん、次から気を付けるわ・・・」

《「まぁ、無事だったからいいわ。それじゃ、すぐに引き上げるから今度はおとなしくしていてね」》

通信が切れたのを確認するとアスカは脱力感と達成感を感じていた。

「アンタ、結構やるわね。初めて会った時は悪かったわ。改めて、ユウミ、これからよろしく」

アスカはシートの後方にいる仲間に振り返りながら話し掛ける。

「くぅ〜〜、くぅ〜〜」

普通の女子中学生だったユウミは幼い時から訓練を受けているアスカよりスタミナがないので既に眠りに落ちていた。

「なに呑気に寝てるのよ！なぁ〜んて言って昔のアタシだったら殴って起こしたんだろうけど・・・」

そう言うとアスカはユウミに向かって優しく微笑んだ。

空母・艦長室

「いやぁ〜、君には世話になった。あの資料を見なかったら相当被害が出ていた」

後処理を部下に任せて艦長は自室で誰かと話している。

「それは良かったです。こちらも収穫がありましたからね」

相手は銀髪と赤い瞳が印象的な少年である。

「ま、委員会が何を考えているかは知らんが新横須賀までゆっくりしていきたまえ。と言っても委員会から制限されていたか」

「わかっていますよ。それにその気持ちだけで結構です」

少年は紅い目を細め口元を吊り上げる。
そう、それは笑顔と呼ぶには冷た過ぎる表情だった。

特になし。

申し訳ありません。現在、感想文は準備中です。