悪魔に等しい存在　−第４話「契約と代償」−

転校初日（シンジが第三新東京市に来てから三日目）

初めての挨拶は

「碇シンジです」

それだけだった。
照れているようにも緊張しているようにも見えないにも関わらず、短過ぎる挨拶にクラスが呆気に取られている隙に少年は空いている席の1つに座った。
そこは綾波レイの後ろだった。
少年は席につくと端末を立ち上げはしたが窓を向き外を眺めていた。
前の席の少女と同じように。

「なあ、お前がロボットのパイロットってホントか？」

休み時間、眼鏡を掛けた少年が話し掛ける。

「何のこと？」

対するシンジはどうでもよさそうだ。

「この間怪物が出てロボットが倒したんだ。お前がそのロボットのパイロットなんだろ？」

眼鏡を掛けた少年は興奮して一気にまくし立てるが

「知らない」

応じたのは対称的な冷めた調子と目だった。

「隠さないで教えてくれよ。な？」

だが諦めない少年は拝むようにして頼む。

「知らない」

やはり素っ気無く言うと、話は終わり、とでも言うように窓を向く。
すげなくあしらわれた少年は「教えてくれたっていいじゃないか」などと呟きながら離れていく。注目していたクラスメートも元の話題に戻る。

はじめの内は話し掛ける者もいたが、どうでもいいと言わんばかりのただ返される返事にすぐにいなくなった。
シンジも教室移動だと言われれば素直に従ったが、やはり外を眺めるだけで誰とも打ち解けようとはしなかった。

「昼食にしよう」

変化は昼休みに起こった。
外を眺めるだけだったシンジが立ち上がり、話し掛けたのは綾波レイだった。しかも穏やかな笑顔つきで。
だがそれより衝撃だったのは

「ええ」

綾波レイが返事をし、一緒に教室を出て行った事だった。
呆然と2人を見送り、クラスは騒然となった。
2人の関係を詮索する者もいたが真実は当然わからない。問おうにも本人はいない。
騒ぎの原因が戻って来たのは教師が来る直前だった。
質問のメールは当然出されたが返事は無く、休み時間に直撃した者も満足できる答えは得られなかった。
2人はそんな周囲に構わず過ごし、一緒に帰った。

「このように、シンジ君が本来司令へ抱くはずだった感情は全てグノースと名乗る人物へ向かっていると思われます。」
シンジとの会話の映像を見せ終わったリツコが報告する。
「ならば引き離せ」
「手段がわかりません。グノースがどのような方法で現れているのかすら解明出来ていません。ケージや司令室にまで現れた事からも、現在では阻む事が出来ません。」
司令の言葉にリツコが応じる。
「シンジに吐かせろ」
「待て、シンジ君はこの人物を慕っている。そんな事を我々に教えてくれるはずがなかろう。」
冬月が正論を述べる。
「尋問でもすれば吐く。所詮は子供だ」
とんでもない事を言う親父である。
「そんな事をしてこの人物が敵に回ったらどうする。」
「その可能性は高いと思われます。」
リツコが冬月を支持する。
「なぜだ」
「シンジ君との会話を見る限りグノースもシンジ君を気に掛けていると思われます。あの狼がシンジ君を守っている事からも、その為に与えたと考えるのが妥当です。」
シンジを監視していた諜報部の者が狼に排除されているという報告は既に入っている。殺されてはいないが全員入院している。

「シンジ君との契約に関してはお任せしたいのですがよろしいでしょうか」

「わかった。それはこちらでやろう」

「何の用です？」

リツコに呼び出され司令室へ来たシンジはリツコがいなくなると尋ねる。
全く臆した様子も無いシンジの脇には当然のように狼がいる。

「お前は今からサードチルドレンだ」

「嫌だね。断ったはずだ」

何を考えているのかわからないが断言した司令の言葉をあっさりと拒否する。

「拒否は許さん」

「あんたにそんな事言う権利はないよ」

司令の(不気味さという）迫力に全く臆していない。

「子供の駄々に付き合っている暇は無い」

「こっちも馬鹿な戯言に構う程酔狂じゃない」

「お前は黙って従っていればいい」

「契約しただろ。あんたは親としては僕に何も要求出来ないんだよ。他人から命令されるいわれも無い。これ以上の要求は契約違反だ。」

「それがどうした」
「なら勝手に苦しみな」

「どういう事だね。シンジ君」
平行線の会話に冬月が割って入る。

「契約違反には罰がつきものでしょう？」

口の端を吊り上げ、笑う。

「どんな罰なのか聞いてもいいかね？」
「死んだ方が遥かにましな苦しみを味わうだけですよ。その人がこれ以上何かを僕に要求すれば見れますよ。」
あっさりと語られる。

「下らん。貴様は既にサードとして登録されて」
　言葉が途切れる。
ゲンドウが心臓のあたりを押さえうめきだす。

「碇！」

冬月の前でゲンドウは椅子から落ち、床の上でのたうちまわっている。

「だから言ったでしょう？契約違反だ、って。」

楽しそうな声。
そこにはシンジが立っている。

「し、シンジ君。君がやっているのかね？」

「まさか。それは契約違反の罰です。僕達の契約書には予め違反時の罰則呪文が盛り込まれているんですよ。」

自分が署名しなくて良かった。
それがこの時の冬月の偽らざる本心だった。

「その人が親としての甘えから僕へ要求しようなんてしなければ発動しません。考えるのをやめれてしばらくすればおさまりますよ。」

「違反するとこうなるのか？」

冬月はゲンドウを見ないようにして尋ねる。

「そうです。違反をやめるまで続きます。やめないは会いは時間と共に苦しみが酷くなり、広がっていきます。全身に広がったらもう何をしても無駄です。そのまま苦しんで死にます。死ぬまでの期間は契約書によって違いますが、大体1日から半年の間ですね。」

説明を聞き、違反時の罰まで見ている者としては恐れずにはいられない。
しかもこれから契約を結ぼうとしている身としては尚更だ。

「おさまったみたいですね」

視線で示す先には起き上がったゲンドウがいた。
腰掛けたゲンドウと話をすると冬月はシンジと向き合う。

「シンジ君、君にサードチルドレンとしてパイロットになってもらいたいのだが。」
ゲンドウと違い丁寧に申し出る冬月。
「お断りします」
「強制徴兵した場合どうするかも赤木君から聞いている」
「そうですか」

「そこで、我々と契約してもらえないかね」

言いながら冬月は自分の身体が震えるのがわかった。
先程のゲンドウの姿がつらすきながらもその言葉を言えたのは自慢できるだろう。

「契約は対等な立場でするもの。それをわかっていて言っているんでしょうね？」

ゲンドウの姿がちらつく。
御伽噺の悪魔との契約が浮かぶ。

「もちろんだとも」

「内容は？」

「サードチルドレンに就任して欲しい。そちらの条件も出来る限りのもう」

「お断りします」

「なぜだね？」
迷う事無く返ってきた返事に問い返す。

「契約違反の罰は当然僕にも来ます。」

頷く。
そうでなければ一方的で対等ではない。

「その内容では当然僕への命令権があり、どんなに嫌な事でも、気に入らない事でもしなければならなくなります。極端な話、人体実験をさせろ。解剖させろ。と言われても拒否できません。失礼ですが、身を預けてもいいと思えるほど僕はここを信用していません。それに、僕は僕の許したもの以外に縛られるのは御免です。」

「人体実験や解剖などしないが」

「するかどうかは問題じゃありません。それが可能になると言ってるんです。可能になる以上承諾はしません。」

わかったつもりになっていたがまだまだ軽く見ていたと冬月は思った。罰を考えればそれだけ真剣に内容を考えて当然なのだ。
そして信用されていない事も。
まあ、考えれば信用しろという方が無理である。

「では、どういう条件ならいいのかね」

だがここで諦めるわけにはいかないのだ。

「ここに所属するのは嫌だし・・・ではこうしましょう。僕にやって欲しい事が出来る毎に契約しましょう。」

「どういう意味かね」

「例えば、あの使徒とやらが来て僕にあれに乗って欲しいなら、その時乗る事を契約するんです。」

「実験などにも参加してもらえるのかね？」

「実験内容によりますね。条件があえば契約して参加します。嫌だと思えば契約はしない。当然参加もしません。どうです？」

「わかった。そうしよう。」

契約の手間は掛かるが、リスク（罰など）を考えると丁度良い。
信用の無さから考えてもこちらに確保できるのだから問題無い。

その後契約やその他について細かく話し合い、
　・狼が本部内でも側にいる事を許可する
　・契約に無い命令や強制はしない
という契約を結んだ。

後者を契約しなければならないほど信用が無かったともいえる。ちなみに契約者は碇ゲンドウ、冬月コウゾウだった。
終わるとシンジは赤木博士の所へＩＤカードを発行してもらいに行った（ゲンドウの手紙と共に送られて来たカードは捨ててしまっていた為）。

ＩＤカードには碇シンジはサードチルドレンと書かれている。だが実体はＮＥＲＶに所属してもいない。当然給料も無い。それでは所属した事になるとシンジが拒んだからだ。
対外的な名目だけの所属
これがシンジの立場だ。

翌日、学校を休みネルフへ来たシンジは契約後、初号機の起動実験と連動試験を行った。
ぶっつけ本番で起動したとはいえ、再び起動できるかという問題はあったし、高シンクロのデータは貴重だからだ。
それも終わった時

「シンジ君、そのままインダクションモードの練習するわよ」

突然入って来た女性がのたまった。
「乗ってるんだから丁度良いじゃない。日向君、準備して」
リツコが止めるが聞く耳を持たない。

「お断りします。出して下さい」

「黙って言う通りにしなさい！」

シンジからの通信に怒鳴り返しインダクションモードへ移行させる。
仮想空間が広がり指示が出るがシンジは何もしない。
その態度に女性は憤る。

その頃
とある暗く広い場所では2人の年配者が胸を押さえていた。

「ミサト、司令からよ」

何もしないシンジに怒鳴る女性にリツコが受話器を差し出す。

「え、・・はい・・ですが！・・・・・はい・・・わかりました」

電話を切った顔は不機嫌そのものだ。

「日向君もういいわ」
怒気満面で指示を出す。
「着替えたらわたしの部屋に来てちょうだい。」
リツコもシンジにあがるように言う。

「あんたが告げ口したの？」
「なんのこと？司令から電話があったのよ。シンジ君は今何をしてるのか、って」
「なによそれ。突然親馬鹿にでもなったわけ？」
不機嫌なまま噛みつく。
「わたしに言わないでよ。司令の方は知らないけど、シンジ君は契約にない事はしないだけよ。」
「なによそれ！」
「書類読みなさい」
それだけ言って部屋へ向かう。
後ろで何やら喚いている親友は無視だ。
リツコは本当は司令の事情も知っている。昨日のうちにシンジ本人から聞いていたからだ。すぐに電話が掛かってきた事といい、苦しそうな声だった事といい、契約というものが空恐ろしくなる。

その日1日で、とある年配者2名は契約した事を悔やんでいた。
仕事に燃えるとある女性のおかげである。

1日ろくに仕事に手がつかなかった2人は通達を新たに出し、書類を読まない女性に警告と減俸を言い渡した。

トウジ君出て来ませんでした。
　前回学校の事を出し、ネルフに所属していない以上、学校に行かないと駄目だろう。
　と思いまして・・・・
　ものすご〜くいい加減になってしまいました・・・・すいません
　とりあえず、契約成立です。
　これでシンジ君はエヴァに乗る事になります！

　次回こそ、トウジ君登場！かな？第4使徒は出ます。

対人関係初歩の初歩。レイちゃんもこれから、ですね。
今の状況は、依存する対象が、ゲンドウからシンジに変わっただけですから。
これから少しずつ心を育んで貰いたいです（＾＾）

さて、指揮官なのに指揮ができないミサト。
しかし、冷静になればサキエル戦における内容について考えるはず。

指揮に従わないシンジ、操縦せずとも勝利してしまう初号機。
今後が楽しみです（ニヤリ）

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