悪魔に等しい存在　−第５話「命の価値は」−

綾波レイは
・碇シンジが休む日は平常通りに登校する
・始業ギリギリに登校する時は碇シンジと一緒である。

という事が衝撃の日から数日でクラスに定着した。
定着した以上普通に学校生活が送られていくのは当然である。


「転校生・・・・・・・ちょっと付き合ってもらおうか」

だがその日、久しぶりに登校した校則違反（ジャージ着用。制服のせの字も無い）少年がシンジに言った。

「何か用？」

「付き合えや」

それだけ言って歩き出す。
だがシンジは動かない。

「なんで来んのや！」
ついて来ないシンジに怒鳴る。

「いま？」
単語だけで尋ねる。

「そうや！」

ふ〜ん
席を立つと校則違反者の後を追いつこうともしないで歩く。
何を思っているのかはわからないが、興味が無い事だけは誰にでもわかった。

校舎裏に来ると校則違反者はシンジに殴りかかる。
が、
シンジが数歩下がる事でかすりもしなかった。

「何の用？」

何も無かった用に尋ねる。

「わしはお前を殴らなあかん。殴らんと気が済まんのや！」

怒鳴りながら再び殴り掛かる。

「殴られる趣味は無い」

「やかましい！」

避けられ続け苛立った少年がはシンジに向き直ると動きが止まる。

ウゥゥ

少年とシンジとの間には狼がいた（少年は大きな犬としか思わなかったが）。
狼は少年に向かって唸っている。とても機嫌がよろしいようには見えない。

「用は済んだみたいだね。おいで」

無視するのは大きすぎる犬に睨まれて動きの止まった少年から、勝手に判断すると狼と共に歩き出すシンジ。

「待たんか！」
校則違反者が怒鳴る。

「なに？」

振り返ったシンジに飛び掛ろうとするが狼が邪魔で出来ないようだ。

「悪いね。こないだの騒ぎであいつの妹さんが怪我しちゃってさ」

眼鏡の少年が出てくる。覗いてでもいたのだろう。

「だから？」

「お前のせいで妹が怪我したんじゃ！」

「なんで僕のせいになるのかな？」
怒鳴る少年に冷静に問い返す。

「パイロットなんだろ？」
眼鏡の少年の中では決定事項らしい。

「そうなってるらしいね。」

「やっぱりお前のせいやないか！」

校則違反者は怒りを増し、眼鏡の少年は嬉しそうに顔を輝かせる。

「それで？妹が怪我をした？死ななくて良かったね。それが僕に何の関係があるの？」

シンジの言葉にジャージの少年は顔を真っ赤にして睨みつける。

「聞くけど、なぜ僕が君の妹が怪我したからって殴られなきゃいけないの？」

「お前がもっとましな操縦しとれば妹は怪我せんかったんじゃ！味方が暴れんなや！！」

「味方？誰が？」
意外そうに、そして本当に不思議そうに問い掛けるシンジ。

「妹が怪我したのは味方が暴れたせいで、暴れたって言ってるのは僕が操縦したもの？それだと・・・・・味方って僕の事？」

「そうだろ」
眼鏡の少年が「当然」とでも言うように頷く。

「じゃあなに？君達は僕が君の妹を守らなきゃいけないとでも思ってるの？」

「俺達を守る為のロボットだろ？」
シンジの質問に驚いたように眼鏡の少年が（自分にとっての）“真実”を確認するように問い返す。
だが、

「そんなの知らないね。僕は契約だから乗っただけ。契約に君達を守れなんてなかった。当然そっちの人の妹もね。契約に無かった以上、僕には君達を守る義務も必要も無い。そっちの人の妹がいたなんて知らなかったけど、知ってても守らなかったよ。」

シンジは(彼等にとって）とんでもない事を平然と言う。
しかも本心らしく聞こえるのが恐ろしい。

「大体、君の妹が死のうが生きようが僕にはどうでもいいし、関係無いだろ。君が大事にしてるからってそれを僕に押しつけるな。迷惑だ。」

校則違反者に向かって言い放つ。

「どういう意味や」

「君の大事な物と僕の大事なものは違う。君の大事な物だからって、僕まで大事にしてやらなきゃいけない訳じゃない。そんな義務は無い。君にも僕にそれを大事にしろ、なんて命令する権利は無い。」

「命令なんぞしとらん！」

「同じ事だろ。“君の大事な妹が怪我をした。だから殴らせろ”」

「なんで僕が君の妹を大事にしなきゃいけない？守ってあげなきゃいけない？怪我したからって殴られてあげなきゃいけない？僕にとって大事でもなんでもない、今日初めて会った君の妹を」

「冗談じゃない。君も、君の妹も、そっちのも、守る義務なんて無い。どうなろうと僕の知った事じゃない。」

「守って欲しいんなら、ネルフの司令部に“自分達を守る事を契約に入れて下さい”って頼めよ。契約にあれば守るよ。無ければ知らない。僕には君達の生死なんて興味無いんだから。」

言い捨てると呆気に取られる２人に構わず歩き出す。

シンジは苛立っていた。
特定の相手以外に縛られる事を嫌うシンジは、下らない事に時間を取られ過ぎたのに頭にきていた。だがそれ以上に、気を許してもいない相手に本心を語りすぎてしまった事に腹を立てていた。
殴られればすぐに終わったかもしれないが、そんな趣味は持ち合わせていない。
お陰でだらだらと時間を取られてしまった。
その為機嫌はかなり悪かった。
が、足を止める。

「どうしたの？」
「非常召集。副司令が呼んでるわ」
「わかった」

「総員第一種戦闘配置」

指示を出したの冬月の後ろにはシンジと（彼を連れて来た）レイがいる。

「用件はなんでしょう」

冬月はゲンドウと違い礼儀を無くしていなかった為シンジも礼儀を持って接している。問い方が丁寧だったのはその為だ。

「ＥＶＡに乗って欲しいのだが」

「乗るだけでいいんですか？」

「いや。使徒を倒してもらいたい」
ここで頷いてしまったら、本当に乗るだけで何もしないのは前回で立証済みだ。

「確認しましょう。ＥＶＡに乗って使徒を倒す。これでいいんですね？」
「そうだ」
報酬について話が纏まると、いつの間にか咥えていた羊皮紙を狼が差し出す。シンジが内容を記入して差し出し、冬月が署名してからシンジも署名する。
「契約成立」
署名し終わるとシンジが言うのもいつもの事だ。

「委員会からEVANGELIONの出動要請が来ています」
「うるさい奴らね。言われなくても出動させるわよ」
青葉の報告にミサトは腹立たしそうに言うとエントリーを済ませたシンジと通信回線を繋ぐ。
「シンジ君、出撃いいわね？」
『いいですよ』
「敵のＡＴフィールドを中和してパレットライフルの一斉射。練習通りにやればいいわ」


余談だが、
２週間の間に、ミサトはシンジの訓練に関する書類は読んでいる。作戦部の訓練が行われるようになったのはここ数日の間だが・・・
前日までに訓練内容を司令部に提出し、承認が下りた物だけが行われる。承認の無い物は絶対に行ってはならない。行った場合、なぜか直に司令部から止めるよう指示され、大概減俸もつく。
ミサトがどれ位減俸されたかは謎だが、司令部の業務がかなり滞っていたとだけは言っておこう。


『進行方向から外れた、近すぎない所に出して下さい』
ミサトの言葉に反応せず要求する。
「聞きなさい！出すから、敵のＡＴフィールドを中和してパレットライフルの一斉射よ！いいわね！！」

「か、かつらぎ、くん」

「はい！」

名を呼ばれ、張り切って見上げる。

「しんじくん、の、、じゆうに、させたまえ」

「ですが！」

「命令だ！！」
副司令にしては珍しく（というか初めて）声を荒げ怒鳴るように命令する。

「わかりました」
不満を（隠しているつもりかもしれないが）放ちながら不承不承承諾すると
「ＥＶＡ初号機、発進！」
気を取り直すように命令する。

命令を出した冬月は下から見えないように下がると胸を押さえていた。が、治まったのか肩で息をしていると連絡が入る。
見当をつけながらも受話器を取ると
「冬月、何があった」
予想通りの相手だった。
「葛城君だ」
「またか」
その声が怒りを含んでいたのは当然だろう。
「使徒殲滅だけで葛城君の指揮を入れていなかった。指示を強く出したらこれだ」
胸が痛み出した時、冬月は自分のミスを悟っていた。
最初、シンジが拘ったのが思い出される。これからは内容にもっと注意しなければ（身が持たない）と自分に念を押す。
「指示を出しそうになったら独房に入れてでも止めろ」
「わかった」
同意見だった。

『あの子を倒すんだ。好きにやって良いよ』
その言葉を最後にプラグ内のモニターが途絶える。
発令所からは観客の立場でしか初号機を見る事しか出来なくなる。

地上に出た初号機は使徒に向かって走ると光の鞭のようなものが初号機へ向かって伸びる。

「初号機の手にＡＴフィールドが収束していきます！」

報告とほぼ同時、
身体に接触する寸前で初号機は鞭を掴み、そのまま引き千切るように本体を蹴り飛ばす。その蹴りがヤクザキックに見えたのは言ってはならない事だろう。
引き千切った鞭で使徒を切りつけると（コアは外れたが傷はついた）、腰を落とし、開いた距離を突進しタックルのように肩を当てる。
短いながらも亜音速でＡＴフィールドを纏った体当たりに弾き飛ばされる使徒。

「人がいます！」

報告と同時に、弾き飛ばされ丘に叩きつけられた使徒の脇に(腰でも抜かしたのか）へたり込んでいる２人の少年が拡大されスクリーンに映される。

使徒に向かって行く初号機。

「シンジ君待ちなさい！」

「拒否します」

モニターは映らなかったが音声は通じていたらしい。

速度を全く落とさず──むしろ上げると──初号機は使徒のコアへ抜き手を放つ。速度を殺さずコアを貫いた腕は丘に刺さり、コアのあった場所には初号機の肩があった。
２人の少年は初号機のスピード等による衝撃で飛ばされていた。発見はされるだろうし、されなければ不運を呪ってもらおう。

「パターン青消滅！使徒、殲滅しました！」

「どうしてわたしの命令を無視したの！」

ケージへ戻った初号機から降りたシンジにミサトが怒鳴る。
わざわざ文句を言いに来たらしい。
仕事をしていなかったとはいえ戦闘後である。作戦部などは忙しいはずなのだが。

「なぜ従わないといけないんです？」

不思議そうに問い返すシンジにミサトのボルテージは上がる。

「あなたはわたしの命令に従う義務があるのよ！」

「そんなものありません」

ミサトの怒りもどこ吹く風とあっさりと返す。

「そんな訳ないでしょ！あなたはチルドレンなのよ！！」

「知りません。僕は契約通りにするだけですから」

「ならなんであの２人を助けなかったの」

「契約に在りませんから。僕の大事な者でもないのにわざわざ助ける義務はありません。僕は契約を守りました。貴女に文句を言われる筋合いはありません」

「あなたのクラスメートだったのよ！」

「だからなんです？」

「葛城一尉、一緒に来て頂きます」

何か言おうとするミサトより先に声が乱入する。
見ると、黒服を着た体格の良い男が数人いる。

「なによあんた達」

「保安部の者です。副司令の命令です。一緒に来て頂きます。」

武力行使に移ろうとする、有無を言わさぬ様子にミサトは大人しく付いて行く。
やっと開放されたシンジはミサトの事を気にすること無く更衣室へ向かった。


※葛城一尉は日頃の遅刻と仕事の遅れ（特に事務仕事）と勤務中の飲酒、通勤時の交通違反などについて注意され、減俸と、今回の戦闘に関する物も含めた仕事が終わるまでの特別室（独房とも言う）での勤務を言い渡された。
特別室へ書類を運ぶのは保安部員だった為、ミサトは部下に手伝ってもらう事も出来なかったらしい

終わりました！
　トウジ君登場！けど名前も出ませんでした・・・
　そしてさようなら！もう碌に出ないでしょう
　ミサトさん、指揮取れませんでしたね。取れるとしたら次ぐらいですかね？
　今回特別室まで用意されてしまいましたから・・クビにならないように頑張って下さい！

時と場合を考えずにヒューマニズムを振りかざす指揮官…。
そういう人はとっとと軍人を辞めて、平和活動団体にでも入ったほうが
世のため、人のため、本人のためと思っちゃいました（＾＾；）

哀れミサト、このまま、周囲から「無能」の烙印を押されたまま
お払い箱コースか？（笑）

そして、作戦部をこれだけ干して、それを当然とする上層部（冬月、ゲンドウ）は
さぞかし、部下達から恨まれていることでしょうね。

あぁ、不協和音が心地良い…（ニヤリ）

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