悪魔に等しい存在　−第７話「初めての契約」−

2人と一匹がのんびりと歩いている。

　足元に狼がいなければよくある下校風景だろう。



　「今日零号機の起動実験だっけ？」



　「ええ」



　「不安？」



　「なぜ？」

　本当に不思議そうに問い返す。



　「聞いてみただけだよ」

　楽しそうに微笑む。

実験場管制室

観測窓正面に立ったゲンドウは零号機を見つめている。



「零号機の再起動実験を行う」



実験開始の宣言

その為だけにいたのだろうか？



「第一次接続開始」

「主電源コンタクト」

「パイロット零号機と接続開始」

「回線開きます」

モニターに映るレイは無表情に目を閉じていた。

「パルス及びハーモニクス正常」

「シンクロ問題ありません」

「絶対境界線まで、あと2.5･･」

「1.7」

「1.2」

　：

「0.1」

　「ボーダーラインクリア。零号機起動しました」

安堵の溜息が漏れる。やはり一度暴走していただけに不安だったのだろう。



「引き続き連動試験に入ります」

弛んだ気持ちを引き締めるようにリツコが指示を出す。



「碇、未確認飛行物体がここに接近中だ。おそらく、第5の使徒だ。」

だが冬月が受けていた受話器を戻すと言う。

「実験中止。総員第一種警戒態勢」

警報が鳴り、慌しく動き出す。

「零号機は使わんのか？」

「まだ戦闘には耐えん。初号機は？」

「380秒で準備できます」

リツコが即座に答える。

「出撃だ」



「それは命令ですか？」



零号機へ回線を繋ごうとしていたゲンドウの背中に声が掛かる。

誰も気付かなかったが、シンジは初めから管制室の隅に居たのだ。



「なにをしている」



「先程のは命令ですか？」



驚いて振り返ったゲンドウに再び尋ねる。

緊急事態の筈なのにそう思えない空気を作り出すから不思議だ。



「そうに決まってるでしょ！」

「「っ！」」



苛立った女性が怒鳴った途端、司令と副司令が揃って前屈みになり胸を押さえる。



「司令！」



リツコの慌てた声に視線が集まる。

だが司令は胸を押さえ膝をついている。



「命令ではない」

「シンジくん、しれいしつに」

2人は胸を押さえたままゆっくりと立ち上がる。



「何をしている。仕事をしろ」

手を下ろし、通常通りの迫力を持って指示すると管制室を出ていく。

司令室

机に両肘を付く司令とその脇に立つ副司令。机の前に立つシンジと狼。

ここまでは日頃の契約通りである。

だが



「指揮をさせて下さい」



もう1人いた。

仕事に燃える作戦部長である。

なぜここにいるかといえば、親友の仕事の邪魔をしまくって手にした情報（の断片）の成果である。

「シンジ君いいかね？」

副司令が問い掛ける。

「EVAに乗り、葛城さんの指示に従う。ですか？」

「使徒殲滅だ」

司令が答える。

「どちらです？」

「どういう意味かね？」

「葛城さんの指示に従うか、使徒殲滅か。どちらかにして下さい。両方は拒否します。」

世間話のように、だが言っている事はきっぱりしている。

「なぜかね？」

「指示に従って倒せなければこちらの違反になります。違反は犯したくありません。」

その気持ちはとても良くわかるのだろう。

契約に慎重になるのも違反を思えば当然だ。

それが身に染みている2人は納得してしまう。納得出来ないのは未経験者だけだろう。



「葛城一尉」

「はい！」

「自信はあるのかね？」

「はい！」

返事に力が篭っている。



「葛城君の指示に従ってくれ」



彼女の立場を汲んだのだろう。



だが

「全面的には拒否します」

「なんですって！！」

場所も忘れて怒鳴る。

それでも軍人か？というより、上司の前で怒鳴るとは・・社会人としてもどうかと思うが。



「なぜだ？」

持ち前の威圧感でミサトを黙らせると司令が問う。



「全面的にだと、例えば『敵と共に自爆しろ』『動かず殺されろ』と言われても従わなければならないからです。」

「そんな事言うわけないでしょ！」



「可能になるだけで十分です。」

これはチルドレンの契約を結ぼうとした時に言われた言葉を思い起こさせた。

契約内容を吟味する、2人がまだ身に付けきっていない能力。



「ではどうすればいいのかね？」

力押しでは無駄な事は経験済みだ。

経験的にも契約違反の方が重いので尚更である。



「まず大前提として、僕はここ（ネルフ）に命を預けるつもりはありません。」

柔らかな口調。

同じ事は最初に言われている。



「ですから僕の命を危険に晒す指示など聞く気はありません。ここまではいいですね？」

同じ調子で続ける。だが譲る気は欠片も無いのだろう。だから頷くしかない。



「葛城さんの役職はなんですか？」



「作戦部長だが」



「では、その名に相応しい行いをして下さい。」



「どういう意味かね？」



「初めてEVAに乗った時、外に出たら『歩け』とか言われてたんですよ。確か。」

思い出すように天上に視線を向ける。

「あれが“作戦部長”に相応しい指示とは言えないでしょう？」

････････

「指示に従う以上そんなのは御免ですよ」

納得出来てしまうのが辛いところだろう。



「わかった。葛城一尉、いいな」



「はい」

司令の確認に堂々と答える。



「明らかに間違いだとわかる（役職に恥じる）指示や、僕の命を奪うような指示を出さない。命に関わる場合僕は指示に従わない。戦闘に関係の無い指示や命令は出さない。御二方は責任者なんですからしっかり監督してください。どうです？」



提案され、



「それでいい」



司令が承諾する。



そして狼が羊皮紙を差し出す。

「僕の命が危なくなれば彼が動きます。彼が動いたら完璧に契約違反です。わかりやすいでしょう？」

羊皮紙を受け取り、狼を撫でながら言う。



「ああ、確認が1つ」

内容を書き込んでいる手を止める。

「なんだ」

司令が威圧するように（本人はしているつもりなのだろうが）口を開く。

「葛城さん、貴女の戦闘開始はいつですか？」

それを全く気にせず尋ねる。シンジには一度も通用していないのだからいい加減無駄を悟れば良いものを。

「なによそれ？」

司令威圧を受けていたミサトがシンジの質問に問い返す。

「EVAを外に出した時を戦争の始まりと思うんですか？それとも外でロックを外した時からですか？」

「そんなの同じじゃない」

そんな訳ないだろう。

「なら、外に出る時が戦闘開始でいいですね。」

「いいわ」

即答。

自分の領分なのだからもう少し考えろ！

副司令（最も契約を結んでいる人物）は心の中で怒鳴っていた。嫌な予感でもしたのだろうか。



戦闘開始についても書き込まれた。よっぽど信用されていないのだろう。

珍しく報酬は後で相談する事になった。

だが、無視した場合違反と明記された。



「葛城さんも署名してください」



司令副司令が署名するとシンジが言った。

目の前の意外な光景と雰囲気に目を見張っていたミサトは驚く。



「なぜだね？」

副司令が尋ねる。



「葛城さんは指示を出すんですから責任も負ってもらいます。当然でしょう。」



その答えに納得し、ミサトも署名する（こちらは命令だったが）。

お前も苦しめ

という気持ちが2人の心の中に在ったのかもしれないが、それは謎である。



3人が署名し、シンジが署名する。

「契約成立」

署名が終わると宣言のように呟くのも同じだった。



「葛城さん、僕はどうしますか？」



ミサトに向き直ると尋ねる。

「EVAに乗りなさいよ！」

「了解」



「さっさと行きなさい！」

出て行くシンジに怒鳴ると自分も出て行く。走っているのだろう。





「碇、大丈夫か？」

ミサトがいなくなると冬月が問い掛ける。

「駄目なら2度と指揮はさせん」

「シンジ君の無事を祈ろう」

ゲンドウの返事に冬月が呟く。

「なぜだ？」

「葛城君の指揮でシンジ君が死んだら我々も死ぬぞ。あの状態で」

どうやらゲンドウがいない時の分も積み重ねた結果、内容についてよく考えるようにはなってきているらしい。

契約前にここまで考えるまでには至ってないが。



「冬月先生・・・間違ったのでしょうか？」



「聞くな」



部屋の暗さも追加され、嫌な沈黙がその場を支配していた。

気合十分でミサトが発令所に飛び込むとシンジの搭乗も終わっていた。



「シンジ君いいわね？」



意気込んで声を掛ける。



『指示を「発進！！」



聞いちゃいなかった・・・



部長の指示に従い初号機が射出される。

同時にミサトは胸を押さえた。

同じ時、別の場所でも同じ動作をした者がいたのは当然である。



「目標内部に高エネルギー反応！！」

オペレーターの青葉が叫ぶ。



「・・・・・・」

だがミサトは上体を屈め胸を押さえている。俯いた顔は苦しげに歪み、報告が聞こえていたのかも怪しい。



「円周部を加速！収束していきます」

「まさか」

リツコは何か思い当たったのだろうか。

隣で苦しむ友人を無視している当たりがさすがだ。



地上に姿を現す初号機。

第５使徒から発射された光線は瞬時にビルを貫きEVAの胸部に命中する。



『　　　　　　ク！！！！』



一気にLCLの温度が跳ね上がりプラグ内に気泡が立ち上る。

シンジは険しい表情で歯を食い縛っている。



「戻しなさい！早く！」



胸を押さえいつの間にかうずくまってしまっているミサトに代わりリツコが指示を出す。

「パイロット無事です！」

日向が叫ぶように報告する。



「あ！」



それは誰の声だったか。

モニターの中、操縦席に固定されているシンジを守るように覆い被さっている犬。

考えるまでもない。

何時もシンジと共に居る狼だ。

「パイロット、心拍・脳波共に正常に戻りつつあります。」

目の前の情報を読み取り報告する。

！

狼が動き遮られていたシンジの顔がモニターに映る。

初めて見る険しい表情。

その目に射抜かれ発令所の者は(若干名を除く)息を呑む。

もしかしたら怒っているし、もしかしなくても機嫌はよろしくない。



「プラグ緊急排除、急いで！」

いち早く現実に戻ったリツコの指示に動き出す。

「LCL緊急排出」

プラグの四方からLCLが勢い良く飛び出す。



プラグからはまず狼が現れその場に居た者を追い払い、その後シンジがゆっくりとアンビリカルブリッジに降り立った。

整備員や医療班の者が近付こうとするが牙を剥く狼が寄せ付けない。



「シンジ君大丈夫なの？」

「おや赤木博士」

唇の端を吊り上げる。

その顔に浮かんでいるのは嘲りだろうか。怒りの方が濃いだろうが。

足元で唸る護衛を見れば良くわかる。

「検査するわ。着いて来て」



≪その必要はない≫



シンジの隣に浮いている影。



「久しぶりね」



≪そうじゃな≫



グノースが現れるのは第3使徒襲来時以来だ。



「何の御用かしら？」



≪予想はついておろう？こやつはわしが診る。ヌシ等には任せんよ≫



やはり信用は失ったらしい。

リツコは心の中で嘆息する。



≪こやつが休む場所を今すぐ用意するのと、契約した者達を今すぐ殺すのと、どちらがいいかの？≫



とんでもない事を言う。

だが本気だろうし止めても火に油を注ぐだけだろう。

端末を操作し、休む用意を整え場所を告げる。



一回り以上大きくなった狼が背に横になったシンジを乗せグノースの身体に飛び込むようにして消える。まるで扉に飛び込んだように。



≪検査とやらは、あやつと契約した者にするがいい≫



リツコにそう告げるとグノースも姿を消した。

周囲の者達は驚き目を見張っていたが、あまり驚いていない自分がリツコは不思議だった。



少し考えただけでもやる事は山積みだったが、とりあえず言われた通りにする為歩き出す。契約違反の代償という物にも興味があった。





病院には、司令･副司令･作戦部長が既に運ばれていた。

３人共胸を、正確には心臓の位置を押さえうめいていた。動くことも大声を上げることも出来ないらしい。

初号機も戻り、最初の違反から多少の時間は経っているがまだ苦しんでいる。

痛み止めを投与したらしいが全く効いた様子はない。

これほど長引く物だとは、興味深い。

長年の親友も愛する男もいる筈なのに、やけに冷静な自分も興味深かった。





シンジと初号機以外で最も被害を受けたのは職員達だろう。



使徒襲来という非常事態なのに指示を出す者がいないのだから。

司令･副司令･作戦部長は“原因不明”で病院へ運ばれ、残った幹部は３人を診ている。

指示を仰ぐべき存在が揃って不在なのだ。

最も動揺を誘ったのは殺しても死にそうにない不気味さを持つ上役の“原因不明”の不在だろう。

副官や補佐の立場の者達は下の者から指示を求められ奮闘した。



何もしなければ人類滅亡なのだから

　EVA初号機が湖の上を進んで行く。銃を構える仕草をすると、放たれた光によって一瞬で消滅し後方で水柱が上がった。

　消滅したのは初号機を模したバルーンだった。



　トンネルから引き出された自走砲が狙いを定めレーザーを発射する。目標に到達したかに見えた光線は直前で弾かれ、その奇跡を辿るように放たれた光に自走砲は周りの大地ごと火柱に変わる。



　これらは作戦部主体に行われた。

　部長無し（ついでに命令も無し）でも(自発的に)情報を集める彼等は優秀である。己の職務を理解しているのだろう。

　もしかしたら部長が居ない方が優秀なのかもしれない・・・

　部下達が懸命に仕事をしている頃



　「シンジ君、もういいの？」



　検査結果を見ながら追加の検査や調査項目を考えていた女性が顔を上げる。



　「ええ。少し疲れてますが身体は何ともありません。」

　入って来たのは見慣れた大きさに戻った狼を連れたシンジだ。



　「そちらはどうですか？」

　視線の先にはベッドの上で苦しんでいる3人。

　だが向けられた目には心配の欠片も無い。



　「見た通りよ。痛み止めも効果は無いみたいね。」



　「あるはず無いでしょう」

　言うと薄っすらと笑う。

　酷薄な背筋の寒くなるような笑い。



　「やっぱり契約違反なのかしら？」



　「そうですよ」



　「何時治るのかしら？」



　「さあ？」

　人事のように返す。実際人事だが。



　「罰は違反者が違反を止めるまで続きます。今回のような場合は違反者が違反を認め思い直すまでは続きますね。それと、最低でも違反によって相手の被った被害と同程度の苦しみも味わいます。僕は釜茹でされてさすがに苦しかったですしね。彼等が居なければ死んでましたし。先生がいなければまだ寝こんでますから。どれ位苦しむんでしょうね。」



　最低でも釜茹でされる苦しみは味わう。

　そう言っているのを理解したリツコは息を呑む。同時に、自分が契約していない事に感謝した。



　「おや、反省が早かったですね」

　目線の先、副司令の呼吸が落ち着き始めている。

　ここにいる者の中では最も多く違反の罰を受けているのだ。やはり経験の差だろうか。

　だが年配者には辛いだろう。



　後は反省を知らなそうな残りがどれ位掛かるかだ。



　「ここは」



　「病室です」

起き上がりはしないがはっきりと回復した冬月にリツコが説明する。

今回は今までにない苦しみだった冬月がその事を言うとシンジは先程リツコに説明した事を話す。



「シンジ君、倒してくれるかね」

使徒が健在である事を知ると尋ねる。



「出来ません」

だが返答は無情である。

「契約は先程乗った時、ではなく今回の使徒に対して、としています。そうなっている以上、葛城さんの指示無く動くとこちらの契約違反になります。」



「では破棄して新たに契約する事は出来るかね？」

さすが雑用を多くこなしてきているだけはある。



「出来ます。契約の破棄には契約者全員の同意と血が必要ですが。」



考える。

残りの時間で葛城一尉が同意するとは思えないし、説得する時間も惜しい。第一、自分以外の2人は今それどころではない（まだ違反の罰を受けている）。

無理だ。

では少なくとも指示を出す者に起きてもらわなくてはならない。



「シンジ君。葛城君がこれでは何も出来ん。一時的にでも葛城君を起こし、指揮を取らせる事は出来るかね？」



「出来ますけど、かなりリスクは大きいですよ。」

心配するように、又は反応を窺うように言う。



契約だけでも十分リスクは高いがこんな反応は見た事が無い。

冬月が冷や汗をかくにはそれだけで十分だった。

だがここで引くわけにはいかない。このまま彼女が復活するのを待っていては手遅れになってしまうかもしれない。



「一時的に罰を受けていない状態にする事は出来ます。その代わり、状態の維持を止めた場合、受けていなかった分の苦痛も倍になって襲います。罰を無効にしている間に違反を犯した場合に関しては、その場で受けるか、後から倍で受けるかの選択が必要です。」



あの苦痛の倍

考えたくもない状態である。

治まったはずの心臓の痛みを冬月は感じた。

だが



「2人にそれを聞いてくれんかね」



放っておくわけにはいかないのだ。せめて使徒をどうにかするまで。



冬月の選択を聞くとシンジは狼を見る。

「ルーファ」

判っていたかのように、いや、判っているのだろう、狼は羊皮紙を差し出す。

シンジが受け取ると影が盛り上がり人形をとる。

グノースだ。

グノースはシンジから羊皮紙を受け取ると苦しんでいる2人の間に移動する。

何をしたようにも見えないが羊皮紙を開くと丸めていた身体が伸ばされる。

訳もわからず上半身を起こした2人に、冬月が話をする。契約に関してはシンジが補足していたが。



「あんたが邪魔したのね！」



自分を襲った苦痛が契約違反による物だと理解したミサトが激高し、シンジに掴み掛かろうとしたが他の人間に止められた。



≪して、どうする？ヌシは後は治まるのを待つだけだったようじゃが≫



グノースはゲンドウを見て言う。

それが本当ならもう暫く耐えていれば元に戻る。だが、選択によっては倍の苦痛を受けなければならない。



「何もしなくていい」



≪では耐えよ≫



言葉と共にグノースが離れ、ゲンドウは胸を押さえベッドに倒れ込む。

初めて目にする事態にミサトは目を見張る。



≪どうする？ヌシは罰の最中らしいがの≫



ミサトを見る。

罰の最中。全く反省していなかったという事だろうか。



「どういうことよ！」



今回初めて契約しただけで、何もわかっていないミサトは怪しい人物（と判断した相手）に怒鳴る。

そこで冬月とシンジが契約とその違反と罰について説明する。



「あたしがなにしたって言うのよ！」

“あの”自分に指揮をとれなくした苦痛が契約違反のせいだと知ってミサトは激高する。

違反事態をわかっていなければ反省や謝意など持つはずも無い。何時までも苦痛が治まらないはずだ。



「なんの指示も無く僕を出したでしょう。指示に従うとなっている以上、何の指示も無く戦場に放り出すのは誤りです。外に出たら戦争は始まってるんですよ。」

いつ戦争開始か。

これは契約書にも書かれている。



「それが違反か」

冬月が呟く。

何が違反だったのかは判っていなかったらしい。それでも最も早く回復したのだから経験は伊達ではない。



「そして何の指示もないまま出されて僕は釜茹でです。その時にも何の指示もありませんでした。指揮官なら何らかの指示を出すものでしょう？」



「苦しくてそれどころじゃなかったのよ！」



「そんなのは関係ありません。するべき事をしなかった。契約で見られるのは結果だけです。」

反論を切って捨てる。



「武器による攻撃をさせたかったのであれば武器の種類、格闘させたかったのであれば相手の情報を寄越すものです。」



「わからなかったのよ！」



「では能力調査ですか？なんにしろ目的くらいは前もって言うものでしょう？作戦部長さん？貴女は何一つせずに僕を出したんです。違反になるのは当然でしょう。」



シンジも頭にはきているらしい。

強制的に全身熱湯につかればそれも当然だが。



≪それくらいにしておくがいい≫



続きそうな会話に水を差す。



≪オヌシはどうするのじゃ？罰を受けて横になっておるのか？≫



グノースが尋ねる。

その選択の為にミサトは起き上がれるのである。そうでなければのた打ち回る事すら出来ないのだから。



すっかり頭から抜け落ちていたミサトにリツコが説明する。

「あたしは指揮をとるわ！」

きっぱりはっきり怒鳴る。



≪では使徒とやらを倒すまで違反の履行は延期とする。延期中に違反した場合はどうする？その場で罰を受けるか。延期終了後にまとめて受けるか。どちらにするんじゃ？≫



「あたしはミスなんてしないわよ！」



怒鳴ったミサトだったがリツコの言葉を受け（言いくるめられたともいう）選択した。

ミサトさんの見せ場第１弾です！

ああ！石投げないで下さい〜（御本人がいたら銃で撃たれそうですが）

長くなったので別けました。

ミサトさんの指揮もまだ続きますから許してください〜〜〜〜

ミサトさん…見せ…見せ場？（笑）
まぁ、それでもあの激痛に耐えて（というかそれを怒りで無視して）
喚き散らす意志の強さには脱帽です。
その元気が、指揮官としての手腕のほうに向けばいいのに（＾＾；）

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