悪魔に等しい存在　−第８話「意地と自信、部長の能力」−

「葛城さん！大丈夫なんですか！」



発令所に姿を現したミサトにいち早く気づいた日向が嬉しそうに声を掛ける。



「ええ。使徒は？」

場所を移すと、作戦部が調べた事を技術部から返って来た分析結果等を見せながら日向が説明する。



「攻守ともにほぼパーペキ。まさに空中要塞ね。で、問題のシールドは？」

「直径17.5メートルの巨大シールドがジオフロント内ネルフ本部に向かい穿孔中です。」

「敵はここ、NERV本部へ直接攻撃を仕掛けるつもりですね」

「しゃらくさい！！・・・で、到達予想時刻は？」

「明朝午前00時06分54秒。その時刻には22層全ての装甲防御を貫通してNERV本部へ到達するものと思われます」



「白旗でも上げますか？」

「その前にちょっちやってみたい事があるの」

ミサトは不適に笑う。

「目標のレンジ外、超長距離からの直接射撃かね？」

「そうです。目標のATフィールドを中和せず、高エネルギー収束体による一点突破しか方法はありません」

司令執務室。

復活したゲンドウの前に立ち、自身満々で作戦を述べるミサト。

「MAGIはどう言っている？」

「MAGIによる回答は、賛成2、条件付賛成１でした」

「勝算は8.7％か」

「最も高い数値です」

司令と副司令が視線を交わす。

サングラスで見えないゲンドウと違い、冬月の顔にははっきりと不安が見える。

契約違反にならないか心配なのだ。

特にゲンドウはやっと復活し、司令室に戻ったばかりである。つい先程まで味わっていた苦痛をもう一度とは思うまい。

だが他の方法も思いつかない。2人は軍人ではないのだ。その上ついさっきまでベッドの上だったし。



「･････････････反対する理由はない。やりたまえ、葛城一尉」



いつものポーズでゲンドウが決断を下す。

だが、間がいつもより長かったと思うのは気のせいだろうか？



「これが契約違反になったら、君の能力は作戦部長に相応しくないということだな」



冬月が呟く。ミサトの耳にも入る大きさだったが・・・

役職に恥じなければ契約違反にはならない＝苦痛はこない。とても明快な判断方法だ。



「そうだな」

ゲンドウも同意する。

途端に圧力が数倍に膨れ上がる。

言葉にするなら、「わかってるんだろうな」という脅しだろうか。



「はい！」



ゲンドウの迫力にも自信を湛えた笑みを浮かべて敬礼すると踵を返し部屋を出て行く。その度胸（自信？）は大した物だろう。



「いいのか？」

「駄目なら降格。先程の失態での減俸を増やす」

「そうだな」



どうやらミサトの減俸は確定しているようだ

「しかし、また無茶な作戦を立てたものね。葛城作戦部長さん」

格納庫の1つに向かう途中、リツコが無謀とも言えるミサトの作戦案に呆れた声を出す。

「無茶とは失礼ね。残り9時間以内で実現可能。おまけに最も確実な物よ？」

「これがねぇ･･･」

リツコの評に不満を持ってミサトが言い返すが、リツコに納得した様子は無い。

「死なないと良いわね」

「シンジ君大丈夫だったじゃない」

「あなたがよ」

リツコの言葉に訳がわからないと顔が言っている。

「契約よ。忘れたわけじゃないでしょ」

「だ〜いじょうぶよ！」

やはり自信満々なミサト。

リツコは何も言わない。見捨てたのだろうか？



壁面に固定された白い巨大な銃

リツコが呆れている間に目的地に着いていたらしい。

「ウチのポジトロンライフルじゃそんな大出力には耐えられないわよ？どうするの？」

「決まってるでしょう。借りるのよ」

今度はミサトが呆れたように言う。

「借りるって・・・まさか・・・」

「そ！戦自研のプロトタイプ」

楽しげに笑うミサト



“借りる”って言葉の意味わかってるのかしら？契約も・・・・死なないようにだけは祈っててあげるわ



リツコは既に何も言う気を無くしたらしい。

休憩所

ベンチに座る少年の顔にぶつかるほど鼻先を近づけている狼とその背を撫でるシンジ。

「・・・8.7％・・そんなに高いか・・あれが・・よくあれほど自信を持てる・・」

狼の口元に寄せいていた顔を上げると呟き

「そう思わない？」

隣に座る少女に尋ねる。

「ええ」

少女は短く頷き肯定する。



「あ、いたいた･････レイ〜！」

ミサトが小走りに駆け寄って来る。

「作戦は決まりましたか？」

「まあねぇ〜〜」

自信有り気に片目を瞑る。

「どうぞ」

「ちょっち待って。あたしこれから出掛けるのよ。レイ、一緒に来て。」

「はい」

ミサトの言葉にレイは無表情に返事をする。

「シンジ君、もうすぐ初号機の修理終わるって。チェックあるからよろしく〜」

ミサトは立ち上がったレイを引き連れてその場から離れる。

苦手意識でも持ったのだろうか？

シンジの足元で睨んでいる狼のせいでは無いだろう。

「レイ、後でね」

声を掛けられたレイは振り返り、コクンと頷くと歩き出す。

「･････以上の理由により、この自走陽電子砲は本日午後15時より特務機関NERVが徴発します」

徴発令状をつき付けられた戦自研の職員は絶句する。

大義名分があろうと、こう簡単に努力の結晶を取り上げられるとなれば当然だろう。しかも目の前の女性の自信に溢れた態度。微笑みさえ浮かべられて、納得しろという方が酷だ。



「可能な限り、原型を留めて返却するよう努めますので。では、御協力感謝します」



なら少しは態度で示せ！！

職員達の心は“当然”通じない。



「いいわよ、レイ。持っていって」

天上をこじ開けて現れる零号機。

「精密機械だから、そおっとね」

零号機に運び出される陽電子砲を見送るミサト。



「しかし、ATフィールドをも貫くエネルギー算出量は、最低1億８千万キロワット。それだけの電力をどこから集めてくるんです？」

書類を片手に日向が尋ねる。

「決まってるじゃない。日本中よ」

ミサトは事も無げに答える。

日の暮れた第3新東京ではライトアップされた使徒が穴掘りに勤しんでいる。

既に17層の装甲板が突破されつつある中、人々は目の前の仕事に集中する事で頭上に迫る危機を忘れようとしているのだろうか。



二子山、朝日滝付近の道路は電力車の列が続き、車と車の間には無数の電力供給ケーブルがある。



「それじゃあ、作戦の説明をするわよ」

仮設基地でライトを浴びながら腰に手を当てたミサトが宣言する。

「陽電子砲を用いた狙撃を行います。分担はシンジ君が初号機で砲手を担当。レイは防御。これは微妙な操作を必要とするためシンクロ率の高いシンジ君の方が砲手に向いてるからよ。」

ミサトが説明する。

「陽電子は地球の自転、磁場、重力に影響を受け、直進しません。常に誤差を修正しながら照準をあわせるように、それと1発撃つとヒューズの交換や銃身の冷却で次の発射まで20秒かかるからそのつもりで」

リツコが補足する。

「どうやってです？」

リツコの説明にシンジが平素通りの口調で尋ねる。

「テキスト通りにやって、真ん中のマークが揃ったらスイッチを押せば、後は機械がやってくれるわ」

「そうですか。外したらどうするんです？」

どうしてものんびりとした印象を受ける。

「零号機の持つ盾はスペースシャトルの低部の部品で本物の電磁コーティングしてあるから17秒は持ちます、」

「わたしはシンジ君を守ればいいのね」

「そうよ」

「わかりました」

無表情に答えるレイ

「質問が無いようなら山頂のデッキで待機して」

EVA昇降機のタラップの上で待機しているシンジとレイ。

座っているシンジの隣には狼が伏せている。



「きれいだね」

シンジの声につられるようにレイと狼も月を見上げる。

「皆がいればいいのに」

「僕等だけじゃ不満かい？」

「いいえ・・けど・・」

「冗談だよ。僕は君達と一緒に見れるのが嬉しい。けど、皆がいればもっと嬉しいし、楽しいだろうね」

「ええ」

シンジの言葉に頷く。

「今回は君が危険だね」

「シンジ君は守るわ」

毅然とした言葉。

「レイの事だよ」

「わたしは大丈夫」

「そうだね。君も大丈夫だよ。」

シンジの言葉にうっすらと微笑む。

NERVの職員がいたら目を疑っただろう。



「本当に綺麗だ。今度、皆で月見でもしようか」

「ええ」

そして2人はEVAに乗り込む。狼がどこかに消えていたが気付く者はいなかった。

『只今より、0時00分00秒をお知らせします』



「作戦スタートです！」

時報と共に日向が告げる。



「シンジ君、日本中のエネルギー、あなたに預けるわ！がんばってね！」

『わかりました』

ミサトの激励。だがシンジの返事は相変わらずだった。

指揮車の中は慌しくなる。



「最終安全装置解除！」

「撃鉄起こせ！」

伏射状態の初号機が指示に従い手動で撃鉄を上げる。

安全装置の表示が切り替わる。

初号機のプラグ内ではシンジの頭から目にかけて狙撃用のヘッドギアが被さり、内側のディスプレイには使徒と、合っていない照準が映っている。



「電圧発射点まで、あと0.2」

変圧器は火花を散らし、ケーブルは各所から煙を吹き上げる。

「第七次最終接続。全エネルギー、ポジトロンライフルへ！」

開始されるカウント。

「目標に高エネルギー反応！」

「何ですって！」

マヤの叫ぶような報告に反応したのは誰だったのか。

「発射！」

ミサトが叫ぶ。

ポジトロンライフルから発射されるビーム。使徒も同時に加粒子砲を放射する。

互いに干渉し、螺旋を描く光。

目標から外れた光は山腹に着弾し火柱を上げる。



「第2射、急いで！」



ミサトの叫びにヒューズをイジェクトして交換し、初号機を走らせ使徒の照準をずらすシンジ。

だが使徒の第２射の方が速かった。



光が初号機に向かう



直撃かと思われた

だが、

初号機の前に立ちはだかり光を受け止める零号機。



加粒子砲の熱で溶けていく零号機の盾



「盾がもたない！」

「まだなの！」

「あと10秒」

指揮車の中も焦りが見える。



『レイ、どいていいよ』

『だめ』

初号機からの通信に即答する。



盾が全て無くなった瞬間、零号機は両腕を広げ体で初号機を守ろうとする。

だが、そんな対応などされていないボディはすぐに溶けていく。



「そろった！発射！！」

ミサトが叫び、ポジトロンライフルが光を放つ。



発射された光線は使徒に命中し、巨体を貫いた。

「いしょっしゃあ！！」

ミサトがガッツポーズを取り、使徒は炎を上げながらゆっくりと落下していく。

初号機が倒れた零号機のエントリープラグを射出させ地面に置く。

同時にシンジは初号機から抜け出していた。



零号機のエントリープラグ表面は隆起していた。加粒子砲の威力を物語っている。



ハッチの前に立つシンジ。



その手には死神の持つような大鎌がある。

無造作に鎌が振られ、あっさりと切られていくプラグ。

「レイ！」

数回鎌が振られ穴が開くとシンジが飛び込む。



「レイ！大丈夫か？レイ！」



「シンジくん？」



「良かった･･･」

レイの声に安心して息を吐くシンジ。



「わたしが死なないのは分かっていたでしょう？」

不思議そうにレイが問い掛ける。



「分かってる。それでも心配するものなんだよ」

苦笑に近い物を浮かべて答える。

「なぜ？」

本当に不思議そうだ。

「なら、僕が大丈夫なのは分かってるのに、なぜレイは盾が溶けてもどかなかったの？」

「・・・わからない」

「考えてごらん」

「・・・いや・・・そう・・嫌だったから。大丈夫でも、シンジ君が苦しむのは嫌」

レイの答えにシンジが微笑む。

「僕もだよ、レイ。大丈夫だと分かっててもレイが苦しんだりするのは嫌だし、心配するんだよ。」

「・・・そう。わかったわ・・・・！」

いつの間に現れたのか、狼がレイの顔を舐める。

「ルーファも心配したんだよ」

シンジの言葉に狼は鼻を鳴らし同意する。

「・・ありがとう」

狼とシンジの顔を見ると微笑む。

「無事ならそれでいい。行こうか」

手を貸しレイを立たせる。

「・・・これ」

シンジが入って来た場所を初めて見たらしい。

「溶けててこの方が早そうだったからね」

1秒でも早く。その結果が新たな出入り口である。

リツコ辺りが何か言いそうだ。（何を使って切ったのか、とか）



「気持ち良いね」

プラグの中はやはり熱かったらしい。支えられ気持ちよさそうに目を細める少女。何も言わないが同意見のようだ。

「ルーファ」

シンジの呼びかけに巨大化した狼の背にはレイとシンジが乗っている。

「指揮車に向かえ」

呟くような声。

だが狼はゆっくりと歩き出す。

鉢合わせる前に元のサイズに戻った為、巨大化した狼の姿は向かっていた医療班の一部が目撃しただけだった。彼等が目の錯覚で処理したのは言うまでもない。



指揮車内で使徒殲滅の報告と同時にうずくまった女性がいたらしいが、パイロットより先に医療班に運ばれた。世界に３人しかいないはずのパイロットは随分軽く見られているようだ。

病院に運び込まれた女性の主治医となったのは某金髪の科学者だったらしい。診察する科学者の顔がとても嬉しそうだったというのは「あくまでも」噂である。

その女性がいつ退院したのかも謎である。



レイは自分の足で歩いていたが病院へ運ばれた。

だが、医者が診察する前にフードを被った黒衣の人物に連れて行かれた。訳が分からないという医者にリツコが説明に出向いたのは余談である。

ラミエル戦終了しました！
　リツコさん仕事山積みですね。好奇心も含めて。
　某科学者が主治医となった女性の御冥福をお祈りします･･･他所だと改造ですかね？
　ここだとどうなるかはわかりませんが
　リツコさんを是非マッドに！という意見が多ければ変わっていくでしょう。
　ということで感想ください〜

あぁ、ミサトさんの見せ場（＾＾）
エヴァの中で、数少ない活躍シーンですからね♪
初勝利を得たということで、後から襲ってきた激痛も
多少は緩和…されるわけがなさそう（笑）
なんにせよお疲れ様なのでした。

さ、続きが読みたいと思った人は感想メールで催促しましょう♪