悪魔に等しい存在　−第１１話「ネルフ（幹部）の長い１日　後編」−

　「あれは一体なによ！！」

　「どういう事か説明したまえ」


　それが始まりの合図だった。

　「何の事でしょうか？」

　尋ねたのは赤木リツコ。場所は司令室だ。

　「セカンドだ」

　必要最低限も話さない司令。
　当然リツコには通じない。

　「セカンドチルドレンの惣流君がレイのアパートに入ったんだよ」

　副司令が説明する。
　その言葉に驚いた顔をするリツコ。

　「知らなかったようだね」

　「はい」

　「直ぐに手を打て」

　「わかりました」

　返答すると退室するリツコ。

　「赤木君ではないとすると、一体誰がやったんだ？」

　「すぐにわかる」

　「・・・この忙しい時に・・誰よわたしの手間を増やしたのは・・・」

　呟きながら神技のような速度でキーボードを操作している女性。言うまでもないだろうが赤木リツコ博士である。その目のすわり具合といい、中々恐ろしい。
　彼女を敬愛する助手であり部下である女性は既に逃げ出している。

　「・・と、出た。・・・そう、ミサト、貴女なの」

　ディスプレイを見ながらにっこりと微笑むとそれをプリントアウトし部屋を後にする。

　「リツコ」
　「アスカ。どうしたのかしら？」

　とあるドアの前で鉢合わせしたのはセカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーと赤木リツコ博士だった。

　「ミサトに用があるのよ」

　「あら、わたしもよ」

　怒鳴るアスカと笑っていない目で微笑むリツコ。経験の分だけリツコの方が迫力がある。

　「そういえばアスカ、住居申請貴女とミサトの連名になっていたけど」
　思い出したようにリツコが尋ねる。

　「それよ！直ぐに入れるってミサトが言うから申請出したのに！なんなのよあれは！！」

　「書類に記入したのは貴女でしょう？」

　「ミサトに書けって言われたのよ！責任持って今日中に整えるからって」
　アスカの顔は怒りの為か真っ赤だ。

　「そう、やっぱりミサトに話を聞かなきゃ駄目みたいね」
　呟くと扉を開け中に入る。すぐに後を追うアスカ。

　「相変わらずね」

　目にしたゴミ（としか見えない）山に呆れるリツコ。

　「葛城一尉をわたしの部屋へ連れて来なさい」

　内線で指示を出すとさっさとゴミ捨て場を後にするリツコと後に続くアスカ。

　「なによリツコ〜」
　文句を言いながら入って来たのは葛城ミサト作戦部長。
　待っていたのは怒りに燃えるセカンドチルドレンと、すわった目と微笑を浮かべた技術部長だった。

　「忙しいみたいだから失礼するわ・・・」

　方向転換した扉は開かなかった。

　「無駄よ。ロックしたから」
　背中に掛けられたのはとても冷たい声だった。


　「あたしは知らないわよ！」
　アスカの住居について話を聞いた某作戦部長の第一声はそれだった。

　「んなわけないでしょ！！あたしはミサトに言われた通りにしたんだから！！！」
　それに怒りを顕にした少女が怒鳴る。

　「申請書はアスカと貴女の連名だし、総務へ送られた許可書と保安部への準備をするようにという命令書は貴女の名前よ。ミサト」
　冷静と取れなくも無いが嵐を内包したような声で言ったのは金髪の白衣の女性だった。

　「知らないわよ！大体、あたしはアスカとそんな話した覚えないわよ！！」
　必死に叫ぶ赤いジャンパーを着た黒髪の女性。

　「酔ってたからって忘れんじゃないわよ！あたしは覚えてるんだからね！！」
　少女が顔を真っ赤にして怒鳴る。

　「アスカ、その話をした時ミサト酔ってたの？」

　「そーよ！あのきったない部屋でビール呑んでたわよ！」

　「勤務中の飲酒。貴女、クビになりたいの？」

　「んなわけないじゃない！あたしは飲んでないわよ！！」

　「なら貴女の部屋調べましょうか。当然ビールなんて出てこないわよね？」

　「そ、それは・・・」
　途端に言葉に詰まるミサト。

　「今回の事は酔ったミサトの独断みたいね」

　「あたしは知らないわよ」
　その言葉に力は無かった。
　そして当然のように無視される。

　「あたしはどうなるの？」

　「本部の部屋へ戻るか別の部屋でしょうね」

　「地下はもう嫌よ。外に部屋ない？」

　「調べないとわからないわ」

　「あたしが引き取るわ！」

　突然割り込んだ声。

　「何よミサト」
　リツコの声は冷たい。
　突然の呼び出しと仕事に取られた時間の分+α怒っているのだ。

　「あたしがアスカを引き取るわ。部屋ならあるし」
　名案とばかりに笑顔で言うミサト。

　「ですって。アスカどうする？」

　「・・・・・」
　僅かに俯いて考え込んでいるアスカ。彼女の頭に浮かんでいるのは何だろうか？もしかしたら先程の作戦部長執務室かもしれない・・・

　「遠慮しなくていいわよ〜　ってことで決まり！リツコ、手続きよろしく〜」

　そしてミサトに引き摺られて行くアスカ。

　「・・・報告は以上です」

　司令室
　司令、副司令を前にリツコが報告を終わる。

　「葛城君の仕業だったのか。しかも酔っていたとは」
　溜息を吐く冬月。

　「減俸半年とボーナスカットだ」
　「それが妥当だろうな」

　司令の言葉に副司令が頷き決定事項になった。

　「結局惣流君は葛城君が引き取ったのかね？」

　「はい。ですが苦情が来ています」
　リツコが疲れたように報告する。

　「なんだね？」

　「汚くて部屋に入りたくないそうです。葛城一尉は家事全般が壊滅的ですから。」

　リツコの説明に溜息を吐く冬月。

　「隣に移すなり同居にするなり好きにさせろ」
　ゲンドウの言葉。
　そして目に悪そうな場所での会話は終わった。

追記
　セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーは葛城一尉の隣で暮らす事になった。

　クスクスクス・・・

　「うまくいったね」
　「ええ」
　控え目に笑うのは蒼銀の髪の少女。
　と少女の目の前に浮かんでいる小さな妖精。
　「ありがとう　ミュー」
　レイの言葉に妖精は微笑むと肩へと移動し座る。そこは彼女のお気に入りらしい。
　と、周りを幾つもの淡い光が囲む。
　「トゥーラ達もありがとう」
　レイの隣にいた少年が礼を言うとパチパチという音と共に光が僅かに強くなり２人の周囲を動き回る。どうやら喜んでいるようだ。

　この少年、名を碇シンジという。
　シンジが礼を言ったトゥーラとは──パチパチと音をたてて周囲を飛びまわっている光のことで──『電子妖精』ともいう。電気と共にあり、化身とも言える妖精達だ。電気の存在する何処にでも入り、操る事が出来る。

　蒼銀の髪の少女の名は綾波レイという。
　彼女が礼をした『ミュー』とは、彼女の肩に座っている妖精の名だ。眠りの妖精の一種で催眠術のようなものを掛ける事が出来る。

　この２人が何故妖精達に感謝しているのか。


　種明かしをしてしまえば「セカンドチルドレンの住居問題とその後」である。

　セカンドチルドレン　惣流・アスカ・ラングレーの住居に関しての遣り取りで正しい事を言っていたのは「葛城ミサト」唯１人だ。
　アスカはミサトと住居に関しての話などしていないし、当然書類も書いていない。それどころか作戦部長執務室に入った事も無かった。リツコと共に入ったのが初めてだ。
　そしてミサトも住居に関する申請はしていないし、総務や保安部へ命令書を出してなどいない。ビールを飲んでいた事に関しては定かではない。本人の手によって執務室に置かれているのは事実であるが。

　では何故アスカはミサトと話し、申請をした記憶があるのか？
　リツコのチェックした監視カメラの映像にアスカの言葉通りの遣り取りが残っていたのか？


　全ては『ミュー』と『トゥーラ』の──頼んだレイとシンジの──した事


　アスカをレイと同じ境遇にしよう。というシンジの思いつきの為に。
　そして自分達に疑いが掛からないように・・・

掃除人のいない葛城邸を見てアスカが同居するか？
　僕の考えから・・・『拒否』にしました。っていうか、選択肢があれば拒否するでしょう。普通。
　全ての罪をミサトに被せたのは・・・適任（罪をなすりつけやすい）と２人に思われたのと、何かと命令してくるのを鬱陶しく思われていた腹いせです。
　今回の最も気の毒だったのはミサトさんという事ですね。
　まあ、子供の些細な悪戯という事で許して頂きましょう！

悪戯に対して、説得力のある反論ができなかった時点で、
ミサトさんに勝機はなかったでしょうね（笑）
やはり、人間、大切なのは日頃の行いです。

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