悪魔に等しい存在　−第１２話「報酬」−

　『警戒中の巡洋艦「はるな」より入電。紀伊半島沖にて巨大な潜航物体を発見　データを送る』

　発令所に響く電子音声。オペレータ達は既に動き出している。

　「波長パターン青！使徒です！！」
　報告が響き渡る。
　「総員第一種戦闘配置」
　冬月が指示を出す。

　『エヴァパイロットは急いで！！出撃よ！！』

　館内に流れるミサトの怒声。

　
　「先の戦闘によって第3新東京の迎撃システムが受けたダメージは現在までに復旧率26％。実戦における稼働率はゼロと言っていいわ。従って今回の迎撃は上陸直前の目標を水際で迎え撃ちイッキにたたく！！」

　移動しながら作戦部長が今回の戦闘に関して説明する。水際で迎え撃ち以外の作戦らしい物がないのが不思議だ。
　そしてもう1つ、修理の終わっていない零号機が見えないのは当然として、空輸されているのが弐号機だけなのはなぜだろう？


　「接近戦でいくわよ。地上に出たら電源補給」

　『わかってるわよ！』

　海岸？というか迎撃ポイントに降り立った弐号機は直ぐに電源車からソケットを装備する。
　第3新東京市内ではない為電源車が必要なのだ。

　「シンジ君もすぐ来るから焦らないでよアスカ」

　『あたし1人で大丈夫よ！』

　自信満々に宣言する。



　海中から姿を現す使徒。
　使徒に向かってダッシュし飛び上がる弐号機。

　『でぇりゃぁぁぁ！！』

　アスカの雄叫びと共に弐号機が振り下ろした長刀が使徒を中心から真っ二つにする。

　『ふん！あたしにかかればこんなもんよ』

　モニターの中、得意気に言い放つアスカ。パイロットの心を表現しているかのように弐号機も胸を張っている。
　だがその背後で分断された使徒は各々が形を変え、そっくりな２体の使徒となる。

　「ぬわんてインチキッ！？」

　呆然とするアスカと、指揮車の中で叫ぶミサト。

　ネルフ本部内ブリーフィングルーム

　『本日午後3時58分15秒、第7使徒甲と乙の攻撃により、エヴァ弐号機活動停止。午後4時3分をもってネルフは作戦指揮権を断念、国連第2方面軍に移行』

　スクリーンに映されるのは地面から天を向いて“生えている”２本の赤い脚。
　弐号機だ。

　「無様だな」
　「申し訳ありません・・・」
　冬月の言葉に頭を下げるミサト。

　『4時5分　国連第2方面軍　新型ＮＮ爆雷により目標攻撃』

　アナウンスと共に画面が変わり円形に大きく抉られた陸地が高度から映し出される。

　「また地図を書き直さなきゃならんな」
　冬月が呟く。

　『これにより構成物質の28％の焼却に成功』

　続いて映し出されるたのは表面が焼け爛れたような２体の使徒。

　「死んでるんですか？これ」
　「足止めにすぎんよ。再度の進行は時間の問題だな」
　アスカの言葉に答える冬月。

　「・・・弐号機パイロット」
　ずっと黙っていたゲンドウが口を開く。

　「はい」

　「君の仕事は何かわかるか？」

　「エヴァの操縦です」

　「違う。使徒に勝つ事だ。こんな醜態をさらすために我々ネルフは存在しているワケではない」

　それだけ言い部屋を後にするゲンドウと冬月。
　２人がいなくなると不機嫌を顕にし憤慨するアスカ。対照的に、我関せずで出て行くシンジとレイ。

　部屋中に積まれた書類。
　「関係各省からの抗議文と被害報告書はそれで全部よ」
　黙っているミサトに軽く言うリツコ。

　「あとこれがＵＮからの請求書」
　楽しそうに別の封筒を差し出す。

　「エヴァの修復・・・どれ位掛かりそう？」
　封筒を背後に投げ捨てると尋ねる。

　「フルピッチで４日ってとこかしらね」
　「使徒は？」
　「現在自己修復中。第２波は５日後とＭＡＧＩは予測してるわ」
　「４日間はどっちも身動き出来ないって事ね。・・初号機が使えれば・・・」
　悔しそうに下唇を噛むミサト。
　初号機が出ていればどうなっていたと彼女は考えているのだろうか。

　「碇司令カンカンだったし、今度しくじったらきっとクビね。」

　「ちょっとォ・・・やなことさらっと言わないでくれる？」
　リツコの言葉に夢想から現実へ戻るミサト。

　「貴女のクビがつながるいいアイデアがあるんだけど・・・いらない？」

　「いるいる！いるに決まってるじゃない。さすが赤木リツコ博士！」

　「残念。わたしが考えたアイデアじゃないんだけどね」
　にっこりと微笑む科学者。

　「え？じゃ誰が？」

　ミサトの目に入る「マイハニーへ」の文字。

　「加持くんよ」

　答えたリツコの顔には素敵な笑顔が浮かんでいる。

　「やっぱいらね」

　不機嫌にディスクを突き返すミサト。

　「・・・クビになってもいいのね？」

　にこやかなリツコ。何故そこまで楽しそうなのだろう。やはり他人の不幸は蜜の味、という事なのだろうか。

　『エヴァ初号機パイロット及び弐号機パイロットの両名は至急第２作戦室に集合してください。繰り返します───』

　「──呼んでるわ」
　「契約してないんだから関係無いよ」
　「そうね」

　シンジとレイ、それに狼が人気の無い休憩所で紅茶を飲んでいる。何処から持って来たのか手には高級そうなカップとソーサーが握られている。
　本部で用事が無い時、2人は大抵、人の来ない場所でこうして静かに過ごしている。

　「なんで来ないのよ！」

　怒鳴るミサトの前には連行されてきたシンジ。命令された保安部員が異様に怯えていたように見えたのは気のせいだろう。

　「ミサト、さっさと話してよ」
　文句を続けようとするミサトだがアスカの言葉に怒りを抑える。

　「コンピュータシュミレーションの結果、２つに分離した第７使徒はお互いがお互いを補っている事がわかったわ。つまり２身で一体ということね。第７使徒を倒すには２つの核に対して２点同時荷重攻撃しかないの。エヴァ２体によるタイミングを完璧に合わせた攻撃よ。そのためにはあなた達の協調、完璧なユニゾンが必要だわ」

　説明しながら入ったのはツインのベットルーム。

　「あなた達にはこれから5日間、ここで一緒に暮らしてもらいます」

　「え──っ！！」
　
　「お断りします」

　叫ぶアスカと冷静に断るシンジ。

　「時間が無いのよ。命令拒否は認めませんからね」
　笑顔のミサト。

　「困ります！5日間も２人で暮らせだなんて、私達男子と女子なんですよォ！」

　アスカは叫ぶがシンジは無表情だ。

　「なにうろたえてんのよ。これはね、次の作戦には必要不可欠なことなのよ。２人の息をぴったり合わせるにはお互いをよく知ることはもちろん、体内時間も合わせといた方がいいの。だから一緒に寝て、一緒に起きて、一緒に食べて、一緒にトレーニングするだけじゃない。深く考える事ないわよ。」

　「で、でもサードが私にムラムラきて夜中に襲ってきたらどうするんですか！？」

　「だーいじょうぶだって。じゃ必要な物は全部揃ってると思うけど、足りない物があったら内線で連絡して、明日の起床は６時よ。おやすみ〜」
　軽く言うとミサトは出て行く。

　「悪夢のような現実・・・いくら使徒に勝つためとはいえ・・・」
　アスカは嘆くがシンジは無反応で目を向けもしない。

　と、突然扉が開き黒服の男が入ってくる。

　「出ていいですね？」
　口を開いたシンジの質問のような言葉は確認だった。

　「もちろんだ」
　返答を聞き歩き出すシンジ。

　「サードチルドレン。司令がお呼びだ」
　別の男が言う。

　「わかりました。行きましょう。」

　呆気に取られるアスカを他所に、シンジと３人の黒服、何時の間にか現れていた狼と廊下にいたレイが歩いていく。

　「何の用ですか？」
　
　相変わらず薄暗い司令室。
　司令の机の前に立つとシンジは軽く尋ねる。

　「使徒を倒してくれ」

　「報酬を承諾するんですね？」

　「初号機だけで倒せんのだから別にしろ」
　ゲンドウが通用しないプレッシャーを掛けながら言う。

　「初号機だけで倒せる。だから報酬は変えない」

　「出来もせん事を」
　ゲンドウと冬月はＭＡＧＩの分析結果を知っているため強気だ。

　「出来る。報酬を呑まないのなら契約はしない。精々頑張って下さい。」
　踵を返そうとするシンジ。

　「待ってくれ！」
　冬月が慌てて声を掛ける。
　今回の作戦にはシンジにも加わってもらわなければならない以上、このまま帰られては困るのだ。
　副司令、苦労人である。

　「なにか？」

　「初号機だけで倒せるというのならやってみせろ」
　司令は喧嘩を売っているのだろうか。

　「待て、碇。シンジ君、そこまで言うのなら初号機だけで使徒を殲滅してくれ。但し出来なければこちらの作戦に参加してもらうし、報酬は変えてくれ」

　「面白い。良いでしょう。」
　唇の端を吊り上げたシンジの言葉にニヤリと笑うゲンドウ。

　「但し単独で倒したら報酬は変えずに貰いますよ。」

　「いいだろう」
　そして契約が交わされた。


　なにやら揉めていた報酬だが、話は弐号機出撃時まで遡る。
　使徒の発見と出撃準備に忙しいネルフ司令室ではシンジと副司令が向き合っていた。司令がいないのは不在の為だ。
　「シンジ君、初号機に乗り使徒を倒して欲しい」
　「報酬次第です」
　契約を交わす時の報酬は後から決める時もあれば前もって決める時もある。だから冬月は尋ねた「何がいいのか」と。
　そこからが普段と違った。

　『その少女をもらおう』

　突然割り込んだ声。
　シンジの隣にはグノースが立っていた。

　「その少女とは誰だね？」
　グノースの出現に驚きながらも尋ねる。伊達に歳は食っていない。

　『この娘よ』
　グノースが示したのはシンジの隣に立つ蒼銀の髪の少女、綾波レイだった。

　「先生レイの事気に入ってますもんね」

　「どういう事だね？」
　シンジの言葉に尋ねる冬月。

　「いくら怪我してたって気に入らない相手を先生が治すはずないじゃないですか」
　何を当然の事を、とでも言うようにシンジが答える。

　『その通りじゃ』
　そしてグノースも肯定する。

　「シンジ君、報酬を決めるのは君だ。報酬は何がいいのかね」
　シンジに問い掛ける冬月。
　得体の知れないグノースよりシンジに期待を掛けたのだろうが、それはあっさりと裏切られる。

　「僕が先生の言葉を無視するはずがないじゃないですか。レイをもらいますよ。」
　シンジのこの一言によって。

　「だ、だが、それは倫理的、人道的にも問題が──」

　「なんですそれ」
　『そんなもの知らん。わし等には関係無いでの』
　冬月の反論は子弟コンビに一蹴される。
　そして、

　「問題ありません」

　当人である綾波レイが口を開く。

　「レイ・・・」

　「使徒の殲滅が現在最重要です。わたしがシンジ君のものになってそれが成されるのなら問題ありません」
　あっさりと言われる言葉。
　だがそれを呑む訳にはいかない訳がある。無視するには『シンジとの契約』は重すぎるのだから。

　「・・・碇抜きで、わたしの一存で決められる事ではない。碇が戻ってから話してくれ」

　だから冬月にはそう言うのが精一杯だった。

　「では契約はそれからですね」
　あっさりと言い放つシンジ。

　「使徒を倒してはもらえんのかね」

　「契約もしてないのに、しかも報酬を拒否しそうなのに動くはず無いでしょう。契約は司令が帰って来てからですし、それまでは本部にいますよ。」

　そして弐号機のみでの出撃となった。
　弐号機が使徒を倒してくれる事を冬月は期待していたが、そうならなかったのは周知の事実である。

本部内の何処か
　「──何を考えているの」

　「ん？このままじゃちょっと辛いかな、と」

　「そう。──わたしの事はいいから無理はしないで」

　「大丈夫」
　
　──使いたくなかったけど──

　音となり大気を振るわせる事の無かった呟きを聞いた者は当然ながらいなかった。

　初号機ケージ
　プラグスーツに着替えたシンジが狼を従え入ってくる。

　「どうしたんです？先生」

　見上げた視線の先にはグノースが浮いていた。

　『わしの言い出した事だし少し協力してやろうと思っての』

　だがグノースの協力は契約書にも書かれている。『ヌシ等にとって大事そうな娘をもらうんじゃ、わしも手を貸してやろう』と契約時にゲンドウ達に言った為だ。

　「ありがとうございます」
　それをおくびにも出さずシンジは頭を下げる。

　『これに乗るのか』
　初号機を見るグノース。

　『力を阻む異物が入っておるな・・・人間か・・・どうする？』
　グノースの言葉に慌てるリツコ。
　だがシンジは
　「削除してください」
　あっさりと言った。

　『わかった。では砕くか──』

　「待て！！」

　マイクを通して大声を出された為響く響く。
　シンジとグノース、そして動転していたリツコ以外は耳を抑えている。

　『なんじゃ』

　「危害を加える事は許さん！！」
　力を込めて言ったのはゲンドウだった。何かを予感したのだろうか？常に無いほど感情的になっている。

　『どうする？』
　だがグノースはシンジに尋ねる。

　「シンジ！砕くなど許さん！！」
　命令を発した事により契約違反を受けているはずだが全く変化は無い。精神が痛みを凌駕しているのだろうか。

　「あれが煩いから消すのは止めて出しといて下さい。」
　僅かに眉をひそめて言う。

　『気にする事もなかろう』

　「そうですね。───そういえば、戦闘での損傷以外は元通りにしておくって契約になってませんでしたっけ？」

　『そうだったの』

　そしてグノースが腕を振ると初号機の胸部装甲が消え、現れたのは（少なくとも見た目には）使徒の光球と同じ物。
　息を呑む者達に構わずグノースは光球に向けて腕を伸ばす。

　盛り上がっていく光球。
　違う。
　光球から球状の何かが出てくる。
　それはＬＣＬを薄くしたような赤い半透明の球体だった。
　中に人間が入っている。
　全てが光球から出るとグノースは腕を下ろす。
　半透明の球体はそのままＬＣＬの中に落ち、水音が響く。
　再びグノースが腕を振ると胸部装甲は元通りになっていた。

　「行きますか」

　「待ちなさい！そのまま乗り込んだらエヴァに取り込まれてしまうわ！」
　はっとしたようにリツコが叫ぶ。

　『それは困るの』
　グノースが腕を振るとシンジの左耳に何かが付いていた。それは細い金と銀の鎖で繋がれたイヤーカフとピアスだった。

　『乗る時はそれをつけておれ』

　「わかりました」

　返事をするとシンジはプラグに入る。
　呆気に取られ誰も操作をしていなかったがプラグは挿入され、初号機は起動した。

　「シンクロ率250％　ハーモニクスも問題ありません！」

　発令所から悲鳴のような報告が入る。

　『送ってやろう』

　グノースの言葉と共に初号機はケージから姿を消す。

　「初号機をどこへやったの！」

　『使徒とやらの前じゃ。発令所とやらで見れるのじゃろう？見んでよいのか？』

　グノースの言葉に発令所へリツコが走ったのは言うまでもない。

　自己修復中だったはずだが突然現れた初号機に動き出す2体の使徒。
　当然何の準備もされていなかった為、電源車もケーブルも付けていない。

　「内部電源だけじゃすぐ動けなくなるわ」

　「先輩　電源が」

　伊吹マヤの報告に目を向けると初号機の電源は全く減っていなかった。

　「どういう事なの・・」

　『動力切れなぞない。弟子を殺す気は無いでの』

　何時の間にか隣に立っていたグノースが言う。
　マヤは驚き怯えていたがリツコは構わなかった。既に慣れてしまっているのだろう。

　「プラグ内モニター出来る？」
　「はい！」
　マヤはすぐに操作をはじめる。何か作業をすることで怪人物の事を意識から追い出したいのだろう。
　「映像入ります」

　モニターに映ったのは目を閉じているシンジだ。
　その顔には恐れも気負いも見えない。

　『さあ、君の力を武器に・・』

　音声が入る。

　「初号機の右手にＡＴフィールドが収束していきます」

　初号機の右手に赤い光が集まり

　『そう・・これが僕の武器・・・同じように・・』

　シンジの言葉にあわせるように形を変えていく。

　「そんな・・・」
　「・・鎌？」

　そして現れたのは初号機の背よりも高い柄を持つ大鎌。

　『・・さあ・・行こう・・・』
　シンジの呟きを合図にするように初号機が動き出す。



　既に動き始めていた使徒に向かい初号機が駆ける。
　前方にいた使徒の腕を無造作に振るった鎌が落とすが直に修復される。


　「ユニゾン以外無理よ」
　吐き捨てたミサトの顔には愉悦が浮かんでいた。


　一体が腕を修復する隙を突くように、霞むようなスピードで使徒の横──といっても多少距離を置いた位置──へと移動する初号機。
　無傷の使徒が振り返るが攻撃する事無く鎌に（そう表現するのが正しいのなら）手足を落とされる。初号機の腕が動く度に解体され、そして修復される使徒。
　初号機は時折高速で移動して使徒と決して正面から向き合わず解体を続けている。


　「やはり無理なようだな」
　発令所上部では安堵したような老人の呟き。何時もなら隣に座る男の姿は見えない。
　そして下では
　「何が狙いなの？」
　「どういう意味ですか先輩」
　科学者の呟きを耳にした部下が尋ねる。
　「初号機はただ攻撃してる。けどシンジ君は意味の無い事をする子じゃないわ。」
　「１人じゃ無理なんですよ」
　「いいえ。それならとっくに止めてるわ。あれには何か意味があるはず・・」
　問い掛けた部下は半信半疑だったが、シンジの性格についてネルフの大人の中では最も詳しい科学者はそれを確信していた。

　『・・・そろった』

　シンジの声が聞こえた瞬間、２体の使徒のコアは初号機の鎌の柄に貫かれていた。
　見ていた者達にも何が起こったのかわからない程一瞬の間に。

　技術部長の指示の元即座に解析がなされる。
　そして示されたのは単純な事実。
　攻撃をかわし、手足を切り落としながらコアには決して手を触れず弾くようにして使徒の位置を調節していた初号機が、２体の使徒のコアが直線上に重なった一瞬を逃さずに刃とは反対側の柄を突き出した。ただそれだけだった。
　そのスピードは、スロー再生でも辛うじて見てとれるだけの速さであったが。

　！！

　閃光がモニターと発令所を支配する。

　「なにがあったの！？」

　「使徒が爆発したもようです！」
　日向が報告する。

　「初号機は！」

　「無事です！」
　「映像回復します」

　モニターには悠然と佇む初号機が映し出される。

　「パターン青消滅。使徒殲滅しました」
　呆然としたような報告がされる。

　『戻してよいかの？』

　「・・・ええ。いいわ」

　存在を忘れていたグノースに突然話し掛けられ身体を強張らせながらもリツコは返事をする。

　「初号機消えました！」
　突然姿の消えた初号機に慌てる発令所。
　「ケージにいます！」
　報告と何時の間にか消えていたグノースに再びケージへ走るリツコ。

　──運動しようかしら
　彼女がそう思ったのは秘密である。

　「ユイ！ユイ！！」

　ケージではＬＣＬから何時の間にか引き上げられた直径が己の背ほどもある球体に縋りついて叫んでいる髭面の男がいた。

　「シンジ君は？」
　それを一瞥しただけでグノースに問い掛けるリツコ。
　『水を浴びに行っておる』
　返事は簡潔だった。

　「何をしたのか説明してもらえるのかしら？」
　リツコが口を開く。
　が、今までの経験から無理だろうとも思っているところが面白い。

　『わしは力を出すのを邪魔していた物を取り除き、動力切れせんように力を送っていただけじゃ』

　「送っていた？ならもう電力無しでは動けないのかしら？」

　『ぬし等はそう作ったのであろう？それでも動いた事があるらしいがの』

　「・・それじゃあＡＴフィールドを武器にしたのはシンジ君がやったと思っていいのかしら？」

　一瞬詰まるも話を変えつつ質問するリツコ。その精神力というかタフさはどうやって鍛えたのだろうか？

　『そうじゃ。戦ったのはあやつよ』

　「お待たせしました。おや、赤木博士もいらっしゃったんですか。」
　着替えたシンジが２人の元に来る。

　「先生ありがとうございました。」
　シンジはグノースに頭を下げる。

　『わしは大した事はしとらん』

　「ケーブル無しで動けたのは凄く楽でした。邪魔なのも取り除いてもらいましたし」
　シンジはにっこりと笑う。

　「邪魔な物って・・・アレのことかしら」
　リツコは視線だけで騒がしい一角を示す。

　「ええ。ですが今は止めておきましょう。煩すぎますし、貴女もそんな気分では無いようだ。」

　「そうね」
　自分の心を見透かされていたリツコは力無く肯定した。

　「それに僕はとても疲れている。」

　「そういえば顔色悪いわね」

　気付くのが遅い。
　だが事実シンジの顔には血の気が無かった。

　「ええ。なので僕はさっさと帰って休みます。あの人達に伝えておいて下さい。『契約は完了した。報酬はもらって行く』と。先生、申し訳ありませんが送ってもらえますか？」

　『断るはずが無かろう』

　その言葉にグノースに歩み寄るシンジ。その足元には狼。そして隣には何時の間に来ていたのか綾波レイがいる。

　「シンジ君、報酬は何だったのかしら？」
　リツコは尋ねた。
　最初に「学費兼生活費」と言って数億を持って行ったシンジだが、それ以後は『村正』『グングニール』『ホープダイヤ』『ネクロノミコン』『童子切安綱』『八尺の勾玉』『無祀呪祭書』・・・　など、知らなかったりで調べてみると妖しい物ばかりだったので自然と聞かなくなっていった問い。
　気が向いたとしか思えなかったが気付いた時には尋ねていた。

　グノースのローブに包まれるように立っていたシンジは顔だけ振り返り

　「綾波レイ」

　一言を残し消えた。




数分後
　『忘れていた。契約は果たさねばの』
　例の如く突然姿を現したグノースはそう言うと半透明の球体を初号機の光球に戻し、消えた。

　髭面の男が何やら凄い形相で怒鳴っていたらしいが、それはあくまでも噂である。

グノースとシンジ君、妖しさ爆発になってしまいました。（今更と言わないで下さい・・・
　副司令、やはり苦労人ですね。この話の中での苦労人＝常識のありそうな人になっているような気がします。現在のネルフの苦労人のNo.1・2は文句無しでリツコさんと副司令ですね。どっちが一番かはわかりませんが。けどリツコさんはその分好奇心を刺激されて楽しんでるから良いのかな？
　なんか、ミサトさんの道化率が上がってしまったような気も・・・気のせいですね！

ゲ、ゲンドウ…哀れ（＾＾；）
まぁそれも契約ですから、守らなくては…（ニヤリ）

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