人類再建の要、ネルフ。
ここ、ジオフロントでは24時間体勢で人類の生き残りをかけた戦いを行っている。
「さて、今日の訓練は生身での戦い方についてよン！」
若き作戦部部長、葛城ミサト（「若いんじゃい！」歳）は3人のチルドレン −レイ、アスカ、シンジ −に対して説明を行った。
「でも、なんで生身でなんですか？ボク達はエヴァに乗って戦うのが仕事ですよね？」
シンクロ率も上がり、エヴァの操縦にも少し自信が出てきたシンジだが、生身での格闘についてはまったく自信がない。
それに対してはリツコが答えた。
「シンジ君。あなた達チルドレンは各国からみて喉から手が出るほどの価値があるの。判る？」
「と〜ぜんでしょ！なんせ世界に三人しかいないんだからね！」
アスカが腕を組み、勝ち誇るように叫ぶ。
ある種の特殊な趣味を持つ人たちなら「土下座して御美足で踏んでもらいたいっ！」と精神汚染を起こしそうな勢いである。
「つまり、最低限でも身を守れるようになってもらいたいんです。もちろん、保安部から護衛はついているんですけど・・・」
と、マヤがフォロー。
「それに、生身での格闘経験はエヴァの操縦にプラスになるわ。ほら、あきらめてさっさと着替える着替える！」
ミサトが、締めくくるように三人を追い立てた。
「はい・・・」「わかったわよぉ」「はい」
＊
・打撃
「さ、集まって。まず、素手相手について説明するわ」
カムカム、と日向を手招きして、自分の前に立たせるミサト。
「いい？まず、『パンチは射程が極めて短い』事に注意して。こう、手を伸ばして・・・」
ミサトが日向に右手を向ける。
「ね。手の長さ、つまり7〜80cmくらいしか射程がないの。まあ、最初は体当たりするつもりじゃないとあたらないわね」
と言いながら、伸ばした手を胸元につけ、右正拳突きを打った。
ここで、ミサト、というか日向には2つの不運が重なった。
1.廊下から加持が顔をだし、「お、葛城かっこいいなぁ」とヨタを飛ばしたこと
2.廊下がミサトから見て左側にあったこと
この結果・・・
「ぐぎげ」
ミサトが左を向いた拍子に「肩を入れ」て − つまり肩が前に出た分、おもいっきり威力の乗った正拳突きが日向にヒットしてしまった。
「げ、しまったぁ」「マ・マコト、大丈夫かっ！」「ざくろ・・・」「無様ね・・・」
日向マコト、退場（なんまんだぶ）。
だが、彼は意識をほとんど失いつつも『いいんですよ、あなたの為なら・・・』とつぶやいていたらしい。
人間、以外に丈夫にできているものである。
＊
・投げ
「投げ、はまずバランスを崩すこと、これにつきるわ」
「とか言って、葛城は投げ技が不得意じゃない？っつ〜か、バランスを崩さず、力で投げちゃうからなぁ・・・」
と、ミサトに茶々を入れる加持。
「う、実はあんまし得意じゃないのよね、確かに」
と、そのとき加治の後ろから冬月が現れた。
「私が教えようか？葛城一尉」
「え、でも大丈夫ですか？」
「そうッスよ。年寄りの冷や水って言うし・・・」
青葉の一言にカチン、ときたのか。
表情こそほとんど変わらないが、冬月は青葉に向かって手招きした。
「大丈夫、碇じゃないが『問題ない』。いいから来なさい」
「自分、一応、段、持っているっス」
「上等。来なさい」
ならば、と青葉が間合いを詰める。過重労働の恨みか、なかなかリキの入っている様子である｡
投げの間合いに入る直前、それまで自然体に構えていた冬月が一歩踏み出す。
その瞬間、青葉の体が垂直に「飛び上がり」そのまま天井に「叩きつけ」られた。
「うむ、若い。力が余っているようだな。大変高く上がった」
天地掌。
相手の持つ力を垂直方向に変え、地面ではなく天井に叩きつけると言う屋内専用の技｡
本来は落ちてくる相手を更に地面に叩きつけるという、冬月の絶招の一手であった。
青葉シゲル、退場。
後に、彼は電車では席を譲り、横断歩道では老人の手を引くという、敬老精神に目覚める。
もしかして、トラウマになったのかもしれない。
＊
・組み手
「さ、それじゃ実際にやってみましょう」
「はいは〜い！ シンジは私とね〜っ！」
「だめ。碇君とは私が組むの」
いきなり険悪な雰囲気のアスカとレイ。
「あ〜わかったわ・・・んじゃ、最初はレイとアスカで組んでちょうだい」
なんかも〜投げ出す感じで指示をだすミサト。
「それじゃあ、ボクは・・・」
シンジがミサトを見ると、ミサトは「にっこし」笑って自分を指していた。
「ふ、冬月先生にお願いしよう、かな？はは」
「なによぉ、シンちゃん。私とじゃイヤなの？」
「だって、ミサトさんとじゃ、ボク、壊されちゃいますよぉ！」
シーン・・・
一瞬、妙に道場が静まった｡
各人、何を想像したかはまったくの謎である｡
＊
「そういえば冬月先生」
結局、シンジは冬月と組んで、投げ技を教授してもらうこととなった｡
「ん、なにかね？シンジ君」
どうも、冬月は「先生」と呼ばれると妙に上機嫌のようである｡
「父さんって、こういう格闘技とか強かったんですか？」
「う〜む・・・碇か・・・」
大学の頃のゲンドウを思い出す冬月。
「結構体格が良いからなぁ、碇のヤツは。力は強いし、頑丈だった。」
シンジがふむふむ、と頷く。
「なによりシツコイ。おまけに悪知恵はきくは勝つまでやめないわ・・・誰も一度は喧嘩を吹っかけるが、二度は相手にされない。そんなヤツだったよ」
「父さん・・・・」
ルルルー、と涙するシンジ。
「いつだったか、酒場で喧嘩売られたときは頭を下げて謝ったか、と思ったら相手に七味唐辛子をぶっかけおった｡しかも散々ぶちのめしてから相手の財布を取り出し、火をつけたときは・・・いやはや・・・」
冬月による、父の悪行の告白は当分終わりそうもなかった。
＊
さて、こちらはレイvsアスカ。
アスカの「あんたもちゃんと見ておきなさい！」の一言で、シンジも観戦モードである｡
「いっくわよっ！ファースト！」
いきなり右回し蹴り。
レイ、避ける！
「避けたわね・・・」
「私と碇君の絆・・・邪魔をするのは敵。敵は殲滅する。問題ないわ・・・」
「邪魔は！」ブン！「そっち！」ブン！「だぁっ！」ブン！
アスカの連続蹴りをレイは軽やかにかわす。
「セカンド・・・サル・・・アカゲザルは足癖が悪い・・・」
「ぬわんですってぇ〜っ！！」
頭に血が上ったか、とたんに攻撃が荒くなるアスカ。
それを見てか、レイも時折攻撃を行う｡
レイの手刀は鋭く、時にアスカの胴着をも切り裂く。
攻撃の一瞬、レイの手刀がオレンジ色に輝くように見えるのは・・・気の性だろう｡
「な、なんか凄いね・・・」
「加持さん、止めなくていいんですか？」
「シ、シンジ君だったら止められるんじゃないか？」
だれも止めようとしない。
沸騰したお湯に手を突っ込めば火傷する。
人間、「ちゃれんじ」しなくても「判る」事は多いのである｡
＊
戦い済んで、日が暮れて・・・
「いゃあ、みんな良い顔になったわね〜」
ははは〜、とナンの悩みもない笑顔のミサト。
レイ：左腕に引っかき傷。他、打ち身少々。
無表情だが『アカゲザルは殲滅・・・』とかぶつぶつ言っているのがデンジャラス。
アスカ：右ほほに湿布。胴着の所々がレイの手刀で裂かれている。
こちらは怒りの赤いオーラがメラメラと立ち上っていた｡
気力140、ハイパーオーラ切りＯＫ、な感じである｡
シンジ：両ほほに拳跡。後は・・・
「ミサトさん、ひどいですよ・・・」
背中に足跡。
これは、ミサトが「男だったら体はって止めてこ〜いっ」と笑いながら蹴った跡である｡
後に、彼はこの時のことを「動いている洗濯機に顔を突っ込むような」と表現したという・・・
魅振三十郎です。
ほぼテレビ版のエヴァと同じ設定です。
本編より少し、レイとアスカがシンジを取り合い気味のような気がしますが｡
題は気にしないでください｡某バンチ連載からなんとなく取ってきただけです(笑)
時期的にはアスカが来たちょい後、というところでしょうか｡
もう少しこのタイプの短編を書いたら、次は少し長めのものを描いてみたいと思います｡
なんとも賑やか、シンちゃんにとっては危険極まりない訓練でしたね。
この後、訓練が続いたのかが興味津々。
シンちゃんが実力をUPするのが先か、レイｖｓアスカのとばっちりを受けて
Ｇｉｖｅ Ｕｐするのか？ 『人間、「ちゃれんじ」しなくても「判る」ことは多い。』・・・ですが
シンちゃん、やっぱ、無謀に「ちゃれんじ」させられちゃうんでしょう。（笑）
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