あれから葛城さんとの生活は可も無く不可も無く、まあ極々平凡に続いている。

　　　炊事洗濯とか、そういう雑務をやらなければならないのはちょっと辛い。

　　　「……葛城さん、学校行ってきます」

　　　「ふぁあああ……。あー」

　　　襖の向こうで、ぼけーっとしてる彼女の姿が目に浮かぶ。

　　　「今日木曜日だっけ？燃えるごみお願いね〜」

　　　「……はい」

　　　言われなくても……わかってるよ……。

　　　大体……毎日のゴミ捨ても、僕がやってるんだから……。

　　　「いってらっしゃい〜〜」

　　　「はい」

　　　ゴミ袋を持って玄関に向かう。

　　　ズルズルズルズルズル……。

　　　な、何だ……この引き摺るような音……。

　　　後ろを振り向くと、掛け毛布が真後ろにある……ある、というか……。

　　　不自然に盛り上がった掛け毛布。毛布から出るのが面倒な彼女が、そのまま来たに違いない。

　　　「……はぁ……」

　　　何やってるんだ……この人は……。

　　　にょきりと毛布から這い出た白い手が、僕の腕をつかむ。

　　　「いってらっしゃい」

　　　……さっきも聞きましたけど……それ。

　　　「いっ・て・らっ・しゃ・い！」

　　　……なんだよ？

　　　ガバッ！

　　　「朝の挨拶〜〜〜〜〜〜〜！」

　　　ああ……そういう事か。

　　　「いってきます……」

　　　ため息交じりにつぶやくと、葛城さんは嬉しそうに微笑みながら部屋に戻っていく。

　　　……また、寝るのか……。

　　　「はぁ……」

　　　何度目になるか分からないため息をついて、僕は学校に向かった。

　　　「うう……うっさいわね……もう、だれよ」

　　　惰眠を貪ろうと毛布に引き篭もっていると、電話のベルがけたたましく鳴る。

　　　どうにも切れそうに無いので、諦めて受話器を取る。

　　　「ふぁい……葛城です。ああ……なんだ、リツコかぁ」

　　　「どう、彼とは上手く行ってる？」

　　　「彼……？」

　　　寝ぼけているのか、思考が定まってないようだ。

　　　「シンジ君よ」

　　　「ばっちり、ばっちり……」

　　　「ちょっと、ちゃんと聞いてるの？ミサト」

　　　「きいてるわよぉ……。まあ、転校して二週間。誰からも電話かかってこないのが、気になるけど」

　　　「電話？」

　　　パイロットの緊急連絡用に携帯電話を随分前に持たせた。

　　　……一度も使った形跡は無かったが。

　　　「携帯電話よ、非常用の」

　　　「まあ、シンジ君って友達を作るのに不向きな性格かもね」

　　　「あー、それはよくわかるけど……でも心配なのよ。
　　　　ずうっと一人でなんてダメよ。誰かと遊ぶ楽しさとか、そういうの分からないままじゃ」

　　　一応、シンジがここに来る前の様子等は書類で提出されていて、ミサトも目を通している。

　　　そういう友達らしきものは昔から無い。

　　　「へぇ……随分気にかけてるのね？」

　　　「あたりまえでしょ。保護者なんだし、そういう精神面でもフォローしてあげないと。特に彼みたいな性格の場合は」

　　　「そうね……」

　　　学校の生徒は日を追うごとに減っていく。

　　　あたりまえだよな……。あんな化け物が来たんだから。

　　　見渡すと、教室にいる生徒の数は、多くない。

　　　……ん、あの子……今日も早いな。

　　　頬杖をつきながら窓の外を向いている女の子。

　　　綾波レイ……だっけか。

　　　あれ以来、学校では勿論の事、ネルフの中でも一度も話していない。

　　　ファーストチルドレンとかで、僕がサードチルドレン、

　　　僕よりも先輩に当たるからエヴァの事とか、色々知ってそうだけど……。

　　　零号機は凍結中でシンクロテストは行われていないって話。なんでもここに僕が来る前に暴走したとかで。

　　　……やっぱり、危ない機械なんだってことを再認識したんだ。

　　　教室に先生が入ってきた。皆、雲を散らしたように自分の机に戻っていく。

　　　退屈な授業の始まり。と、端末に誰かからアクセスが来た。

　　　……？

　　　（碇君があのロボットのパイロットというのはホント？　Y/N）

　　　チラリとあたりを見回す。後ろの席で手を振っている女の子達が見えた。

　　　あの子達か……。

　　　（ホントなんでしょ？　：Y/N）

　　　……。

　　　少し考えた後、Nのボタンをタッチした。

　　　機密がどうのこうのとか有った気がしたし……。

　　　（ええ？こっそりでいいから教えてよ。ホントなんでしょ？　Y/N）

　　　結構、シツコイ。

　　　……。

　　　もう少し考えて、ある一文を入力して送信した。

　　　（秘密にしてよ？）

　　　（もちろん）

　　　（……一応、そういう事になってる）

　　　そしてエンターを押した。

　　　「「ええええええええええええええええええええええええええええええええっ！？」」

　　　クラスの殆どが立ち上がる。

　　　……ちょっと、待て……。

　　　「ちょっともう、みんな！まだ授業中でしょ！席についてください！」

　　　「あー、またそうやってすぐ仕切る〜」

　　　「いいじゃん、いいじゃん」

　　　「良くない！」

　　　皆……見てたのか……。

　　　最悪だ……。

　　　「ねぇねぇ、どうやって選ばれたの？」

　　　「テストとか有ったの？」

　　　「怖くなかった？」

　　　本当に……最悪だ……。

　　　「……細かい事は、機密だから」

　　　そう言って切り抜けるしかない。

　　　「じゃあ、名前とかは？」

　　　「エヴァ……」

　　　「必殺技とかは？」

　　　……あるのか？

　　　こっちが聞きたい気分だ。

　　　「で、ありますから・・・あぁ、では今日はこれまで」

　　　今までセカンドインパクトの話を永遠にしていた先生が、我に帰ったようだ。

　　　「起立、礼！……ちょっとみんな最後くらいちゃんと……」

　　　大はしゃぎするクラスメイト。僕を睨み付けるように見ている男子生徒には全く気づかなかった。

　　　「ぐっ……！」

　　　喋った事も名前も知らない男子に、いきなり校舎裏に呼ばれて殴られた。

　　　「スマンな、転校生。ワシはお前を殴らないかん。殴っとかな気がすまへんのや」

　　　……なんでだ。

　　　「悪いね。こないだの騒ぎであいつの妹さん怪我しちゃってさ。 まっ、そういう事だから」

　　　そ……っか。この間の騒ぎ……暴走したエヴァ。使徒は倒したけど、ビルとか凄い事になってた。

　　　民間人の被害は無いって話だったんだけどな……。

　　　「っ……」

　　　殴られた所がヒリヒリ痛む。ちょっと口の中で切ったらしく血の味もする。

　　　「なら……気が済むまで、殴ればいいよ……」

　　　「ぐっ！なら言葉どおりにさせてもらうわっ！」

　　　胸倉を掴まれてまた殴り倒される。

　　　……そうするしか、謝る方法が、無いじゃ……ないか。

　　　僕は何も出来なくて、それでエヴァが暴走。で、誰か怪我をしたんなら、それは――僕のせい。

　　　「……んっ？」

　　　空を見上げると、見知った顔が映る。

　　　「非常召集。先……行くから」

　　　無表情で、それだけを伝えて彼女は足早に去っていく。

　　　「ただいま東海地方を中心とした関東中部の全域に特別非常事態宣言が発令されました。
　　　　速やかに指定のシェルターへ避難して下さい。繰り返しお伝えいたします……」

　　　「目標を光学で捕捉。領海内に進入しました」

　　　「総員第一種戦闘配置！」

　　　シンジの父、ゲンドウが不在のため副司令の冬月が指揮をとる。

　　　「了解、対空迎撃戦用意」

　　　主要ビルがジオフロントに収納されて、対空武器がスタンバイされる。

　　　「碇司令の居ぬ間に第4の使徒襲来、意外と早かったわね」

　　　「前は15年のブランク、今回はたったの3週間ですからね」

　　　メインモニタに写る使徒の姿を見ながら話し合う日向とミサト。

　　　今回の使徒も滑稽なデザインで、その姿は変色した烏賊に昆虫の足をくっ付けたようなものだろうか。

　　　ＵＮが通常兵器で攻撃を仕掛けるが、やはり効果は皆無。侵攻を止める事も、傷をつけることも出来ない。

　　　「税金の無駄遣いだな」

　　　意味の無い攻撃でどれだけ税金が消費されていくのか……。呆れたように冬月は呟いた。

　　　「委員会から再びエヴァンゲリオンの出動要請が来ています」

　　　「五月蝿い奴等ね、言われなくても出撃させるわよ」

　　　「エントリースタート。続いてLCL電化」

　　　初出撃の時よりもスピーディに準備作業が進む。

　　　……最初は、あの子の身代わりのつもりで乗ったんだ。

　　　――悪いね。こないだの騒ぎであいつの妹さん怪我しちゃってさ。 まっ、そういう事だから――

　　　今度は、今からは。

　　　――すまんなぁ転校生。ワシはお前を殴らないかん。殴っとかな気がすまへんのや――

　　　誰も、傷つけない。

　　　誰も……。

　　　「シンジ君、出撃……いいわね？」

　　　「はい」

　　　「良くって。敵のATフィールドを中和しつつパレットの一斉射撃」

　　　あれから何度も訓練してきたパレットライフルでの中距離攻撃。

　　　最悪、極近距離でのプログレッシヴナイフの格闘戦。

　　　自信は……無い。けど、零号機が出れない以上、僕しか居ない。

　　　――そう、やるしかないんだ。なんとしても。

　　　「発進！」

　　　射出用ソケットから地上に出る。

　　　「初号機A・T・フィールドを展開」

　　　撃つ！

　　　ババババババババババ！

　　　激しい弾頭の嵐。使徒の姿が爆煙で消えてなくなる。

　　　「馬鹿！爆煙で敵が見えない！」

　　　……っ！しまったっ！

　　　こうなったら……。

　　　「初号機、プログナイフ装備！」

　　　ライフルを投げ捨てウェポンラックからナイフを取り出し握る。

　　　「ちょっと、シンジ君！」

　　　「いきます」

　　　そのまま、一直線で爆煙の中に突っ込む。

　　　「良い判断ね」

　　　ちょっと驚いたようにリツコがモニタに向かって呟く。

　　　姿が見えないのは向こうも同じ。その爆煙を逆手に取ってこちらから仕掛ける。

　　　ズブッ！

　　　「くっ！」

　　　姿が見えないから正確な狙いをつけれない。使徒の体には刺す事が出来たが致命的ではない。

　　　あわよくばコアを……というのがシンジの狙いだった。

　　　ヒュンヒュン！

　　　爆煙を切り裂くように光の鞭が飛んでくる。

　　　「うわっ！」

　　　「アンビリカルケーブル断線！」

　　　「エヴァ、内臓電源に切り替わりました」

　　　「活動限界まで後4分53秒」

　　　通常、エヴァは有線での電力供給で稼動する。ケーブルが無い方が行動範囲や機動性は向上するが、

　　　稼働時間が大幅に減少してしまう。電力が切れればエヴァは動かない。

　　　なおも続く使徒の容赦ない攻撃。

　　　……は、早い！

　　　ともかく情けない姿だろうと何だろうと、とにかく避ける。

　　　「うわっ！」

　　　避け損ねた！

　　　鞭の先端がエヴァの足首を捕らえ……そのまま放り投げた。

　　　「ぐ……げほっ……」

　　　思い切り山に激突。背中を強打して上手く呼吸が出来ない。

　　　「シンジ君！大丈夫！？シンジ君？……ダメージは？」

　　　「初号機及びパイロット問題無し、大丈夫です」

　　　起き上がろうとした時に、エヴァの指の間に何かが見える。

　　　……なんだ？

　　　拡大してみると、そこには涙目でこちらを見上げる二人の少年。

　　　つい、先ほどシンジと一悶着あった、あの二人だった。

　　　な、なんでこんなところに！

　　　「シンジ君のクラスメイト？」

　　　「何故こんな所に！」

　　　発令所に回された顔のデータから、彼らの個人情報がすぐに照会される。

　　　「はっ！？」

　　　気づいた時には、使徒が自分の真上にいる。この使徒は空中も飛べるのだ。

　　　振り下ろされる光の鞭。なんとかそれを掴んで抑える。

　　　「ぐううううううううう……」

　　　両手が焼けるように熱い。

　　　どうする……！もう、エヴァの活動時間も３分半を切った！

　　　「シンジ君、そこの二人を操縦席へ！二人を回収した後一次退却。出直すわよ」

　　　「許可の無い民間人をエントリープラグに入れられると思ってるの？」

　　　「……私が許可します」

　　　「越権行為よ、葛城一尉！」

　　　「っ！どうするんですか、葛城さん……っ！」

　　　堪りかねて叫ぶ。

　　　喧嘩なんか、している場合じゃ……！

　　　「エヴァは現行命令でホールド、その間にエントリープラグ排出。急いで！」

　　　光の鞭を掴んだまま、プラグが排出される。

　　　「そこの二人、乗って！早く！」

　　　「なんや、水やないか」

　　　「カメラ……カメラが……ゲフッ、ゲフッ……」

　　　LCLに戸惑う二人。だが、現状の状態は悪化していく。

　　　「神経系統に異常発生！シンクロ率低下！」

　　　「異物を二つもプラグに挿入したからよ。神経パルスにノイズが混じってるわ」

　　　鞭を引っ張って使徒を思い切り投げ飛ばす。

　　　「くっ……なんとか起動数値以上はキープしてるわ。今よ、後退して！」

　　　「転校生、逃げろ言うとるで！転校生！」

　　　ここで逃げたら、また被害が増えるんじゃ、ないか？

　　　後、電源は１分くらいは持つ……。

　　　……だめなんだ。もう、逃げちゃ。

　　　今度は、自分で倒す。また、暴走させるわけには――いかない。

　　　「初号機、予備のプログレッシヴナイフ、装備！」

　　　「シンジ君、命令を聞きなさい。退却よ！シンジ君！」

　　　「あああああああああああああああああああああああああああっ！」

　　　斜面を飛ぶように駆け下り、使徒に特攻する。

　　　無防備な初号機の腹部に光の鞭が突き刺さり、焼けるような痛みが走った。

　　　これで、逆に使徒はもう攻撃できない。

　　　渾身の力を込めて、ナイフをコアに突き刺した。

　　　ギギギギギ……！

　　　鉄を削るような音と光が飛び散る。

　　　「初号機活動限界まで後30秒、28、27、26、25……」

　　　くそっ！まだ、まだ倒せないのか！

　　　そんなシンジの鬼気迫る様子を、二人は眺めるしかなかった。

　　　「14、13、12、11、10……」

　　　電源が限界を迎え始め、エヴァ内部のモニタが次々と死んでいく。

　　　「8、7、6、5、4、3、2、1……」

　　　ガラスが砕けるような音。それと同時にエヴァの活動は停止した。

　　　「目標は完全に沈黙しました」

　　　「はぁ……はぁ……はぁ……」

　　　肩で息をするシンジを見つめるトウジ。

　　　ワシは……ワシは……。

　　　殴りつけた拳より、心が痛かった。

　　　「今日でもう三日か……」

　　　外は生憎の雨。そんな雨の様子を眺めながらトウジは呟く。

　　　「俺達がコッテリと叱られてから？」

　　　「あいつ……転校生が学校に来んようになってからや。あれから……どないしとんのやろ」

　　　「心配なの？」

　　　「まぁ……そうやな……」

　　　結局、あの後もトウジ達はシンジと会話することなく連行された。

　　　何も言えないままで。

　　　「じゃあ行って見る？転校生の家に」

　　　「住所しっとんのか？」

　　　「まあね」

　　　「よっしゃ。なら学校終わったら行くで」

　　　拳を振り上げてそう言う。

　　　「謝りにでもいくの？」

　　　「せや……。誰のおかげでこうしてワシらは生きとんのか。転校生のおかげや」

　　　「また妹さんに説教でもされたの？」

　　　「ぐ……。それもある。あるが……オマエも見たろ？転校生の必死で戦う姿。
　　　　あれ見とったら……このまま何もせんのは、気に食わん」

　　　気に食わないというのは、勿論自分にだが。

　　　「……ま、俺も行くよ。トウジだけだと心配だしな」

　　　「うっさいわ」

　　　「ここか……？」

　　　「そのはず、だけど」

　　　ケンスケが入手したデータによればここで間違いない。だが、表札には「葛城」とある。

　　　「ま、違ってたらそん時はそん時や」

　　　覚悟を決めてインターフォンを押した。

　　　「はい……？」

　　　……見たことが無い人だった。

　　　女性。しかも、かなりの美人。

　　　「ハッ……ええと」

　　　「碇君と同じクラスの相田と鈴原と申します」

　　　どもるトウジをケンスケがフォローする。

　　　「相田君と、鈴原君？　……あ、この前初号機のプラグに乗った？」

　　　「はい！その節はとんだご迷惑おかけしました」

　　　「実は……」

　　　ケンスケが先を言おうとすると、トウジが慌てたように喋る。

　　　「実は！あれから碇君がずっと休んでいらっしゃるので気になって見に寄らせてもらったんですが」

　　　「あ……そうなんだ。でもシンジ君、今は居ないの」

　　　「何所かへ行ってもうたんですか？」

　　　なんだか、目の前女性の表情が冴えない。

　　　「……まあ、ちょっち、ね。そうだ、今から迎えにいくんだけど、貴方達も来る？」

　　　「「お供させて頂きます」」

　　　直角に頭を下げる二人を見て、ミサトは苦笑した。

　　　「はぁ……謹慎、ですか」

　　　滑るように道路を滑走するルノーの車内。

　　　「一応命令違反ってことだけど、ね」

　　　あの後、シンジは命令違反で３日の独房入りが決定したため学校にこれなかったのだ。

　　　「やっぱりワシらのせいでしょうか？」

　　　「まさか！そんなことないわよん」

　　　見た目は陽気に見えても、実際は複雑な心境のミサト。

　　　ミサトは二人にシンジとどういう関係なのかを聞いていた。

　　　シンジを殴った事も。何故殴ってしまったのかも。

　　　だから、シンジ君あんな事を……。

　　　さかのぼる事２日前――。

　　　第四使徒戦の後、ミサトはシンジにどうして命令違反を犯したのか問いただしていた。

　　　「どうして私の命令を無視したの？あなたの作戦責任者は私でしょ？」

　　　「……すみません」

　　　「あなたには私の命令に従う義務があるの。分かるわね？」

　　　「……」

　　　「シンジ君？」

　　　「わかってます……でも……」

　　　「でも？」

　　　「今度は、自分で勝ちたかったから……です」

　　　……あの子……。自分に責任、感じてたのね。

　　　１４歳の子供にかける重圧……か。本当なら、本当の１４歳なら、そんなコト考えなくても、いいのに……ね。

　　　普通の１４歳だったら人類の命運をかける所になんて居るはずが無い。

　　　馬鹿ね、私。そんな事も、わかってあげられなかったなんて。

　　　「ところで葛城さん。僕達、ネルフに入っても大丈夫なんですか？」

　　　普通、関係者は立ち入り禁止のはずである。部外者である自分達が一緒に行けるのか大きな疑問では有った。

　　　「だ、大丈夫よ。おほほ」

　　　肝心な事をすっかり忘れていたのである。

　　　「出たまえ。謹慎処分は解かれた」

　　　黒服の男に誘導されて禁固室を後にする。

　　　ここから地下駐車場に行けばミサトが迎えに来る、そう聞いている。

　　　……着そうにも無いな。あんな勝手な事したんだから。

　　　トボトボと通路を歩いてエレベーターに乗った。

　　　ゆっくりと階を刻む標識。それを見ながらぼおっとする。

　　　着いたか……。

　　　地下駐車場を利用する車は少ない。

　　　殆どの関係者は電車で出勤しているため、駐車場はその広さに割にがらんとしている。

　　　「碇！」

　　　驚いて声のする方を見る。

　　　あの、二人だった。

　　　「トウジ……ほらっ、喋れよ」

　　　「い、碇。この前は二発もどついて悪かった。ワシの事もどついてくれ」

　　　「え……それは」

　　　あれは、やっぱり自分が悪い。殴られて当然だと思う。だから、そんな事は出来ない。

　　　「頼む。せやないとワシの気がすまん」

　　　「こういう恥ずかしい奴なんだよ。まっ、それで丸く収まるんなら殴ったら？」

　　　彼の表情は真剣そのもので。

　　　「じゃあ……一発だけ」

　　　それで、気が晴れるなら。

　　　「よっしゃ、こんかい！手加減無しやで！」

　　　「わかった……」

　　　弾けるような音が響く。

　　　「痛そうな音……」

　　　自分が殴られたわけでもないのに、その音を聞いただけでケンスケはそう思う。

　　　「…………ふっ」

　　　三人の表情が、砕ける。

　　　「でも、どうしてここに……？」

　　　「ああ、葛城さんに連れてきてもらったんだ」

　　　そっか……そうだよな。

　　　……顔、合わせ難いな……。

　　　「ほんじゃあ碇、かえ……ぐは！」

　　　トウジのわき腹をケンスケの肘うちが直撃する。

　　　「俺らはちょっと喉渇いたからジュースでも飲んでくるよ。トウジもな」

　　　「あ……？ああ」

　　　こういう地下には必ず自動販売機が何台か設置されている。

　　　気を、きかせてくれた……のか？

　　　まばらに車しかないから目立つルノーはすぐに見つけることが出来た。

　　　ドアに腰掛けてじっとしてるミサトの姿も。

　　　「「あ……」」

　　　こちらに気づいて……視線が、絡む。

　　　「……おかえりなさい」

　　　「た……ただいま……」

　　　シンジの表情は、いつもより……ずっと穏やかに、見えた。

To be continued……

　　　次回予告

　　　ミサト「ぱおーん、ぱおーん」

　　　リツコ「謎過ぎ」

　　　レイ「……登場行数がとても少ない……何故」

　　　ミサト「ま、次はいっぱいよ。ところでさ、リツコ」

　　　リツコ「何よ？」

　　　ミサト「人が生きるために必要なのは？」

　　　リツコ「食事？」

　　　ミサト「はい、ダメー。正解は、愛よ！愛！」

　　　リツコ「……」

　　　レイ「……」

　　　ミサト「つーわけで、次回、新世紀EVANGELION・Another 第参話「愛のある部屋」よ、お楽しみに〜」

　　　リツコ「そ、そんなタイトルだったかしら……＃」

　　　ミサト「はいっ！次回も？」

　　　レイ「サービス……サービス（棒読み）」

　　　ミサト「うわ、やる気無っ！」

感謝の言葉：

少しだけ自分の心情を伝えられるシンジくん。
それによって生まれる微妙な差異。
小さな違いは何を産むのか…。

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