「凄いわね……これは」

　　　ネルフ本部第二会議室では発令所のメンバーとパイロット達が集まっていた。

　　　机の上には何枚もの資料と、写真が散らばっている。

　　　「太平洋航行中、第六使徒と遭遇。B型装備のままエヴァ弐号機起動。……およそ一分で使徒殲滅」

　　　エヴァ弐号機の本部配置が決定し海路での輸送中、使徒に遭遇。

　　　セカンドチルドレンにより使徒殲滅……か。

　　　弐号機を写した写真もある。

　　　……赤いのか、弐号機って。

　　　「セカンドチルドレンは？」

　　　「現在、第三新東京市に向かっているそうです」

　　　「ま、シンジ君とレイの同僚になるわけねえ」

　　　セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー。

　　　日本人とのクォーター（四分の一）らしい。日本語も話せるそうで、１３歳にして大学卒業の天才。

　　　なんか……凄い人だな。

　　　それがシンジの率直な感想だった。

　　　「どんな……人なんですか？」

　　　「うーん……。な、なんともいえないわね」

　　　なんだよ……。聞いた意味無いし……。

　　　資料の中にはセカンドチルドレンの顔写真が全く無い事に気づく。

　　　「写真とか、無いんですか？」

　　　「ごめんなさい、手違いでアスカの写真が着てないのよ」

　　　「……そうですか」

　　　「気になるぅ？」

　　　「いえ……」

　　　「というわけで、折角召集かけたのに悪いけど、今日は帰っていいわ。御疲れ様」

　　　「ねえ……」

　　　本部内を歩くシンジとレイ。まだ昼下がりだが、学校を早退している為自宅に向かっている。

　　　「綾波は、セカンドチルドレンの事知ってる？」

　　　「……射撃技術A、格闘技術S、シンクロ率は常に８０％台をキープ……」

　　　８０……。僕の２倍以上か……。

　　　これだと、随分戦いが楽になるかも。

　　　「それと……」

　　　「うん？」

　　　「自己中心的な、性格と聞いているわ」

　　　「…………」

　　　「ほな、またパイロットが追加されたんか？」

　　　「……うん」

　　　「へぇ……ちなみに性別は？」

　　　「女の子らしいよ」

　　　次の日。今日は土曜日なので午前で授業は終了。

　　　トウジとケンスケに誘われて、シンジはゲームセンター行く事になった。

　　　「おお！どないや？顔は！？」

　　　「それが……まだ知らない」

　　　「あほゥ……それが一番大事やっちゅーのに」

　　　この世の終わりのように天を仰ぐトウジ。いくらなんでもオーバーアクションだと思う。

　　　「あれ……なんだろ？」

　　　ゲームセンターの入り口付近で、少女と数人の外人がなにやら睨み合っている。

　　　「☆□〇ッ！！」

　　　「――〇△□！！」

　　　英語での言い争いで、何を言っているのかは理解不能だ。

　　　じりじりとした緊迫感。少女が男達に囲まれていく。

　　　「あれ、やばいんちゃうか！？」

　　　……多分。でも女の子に多数なんて卑怯だな。

　　　ガンッ！

　　　「「「あ」」」

　　　三人の声が重なる。臆せずその少女は目の前にいた男を殴り倒した。

　　　他の男達が一斉に飛び掛る。だが、一人、二人と鮮やかに倒されていく。

　　　「か、顔に似合わず凶暴やな……」

　　　凶暴というか……強いというか。

　　　「あっ……！」

　　　後ろから男の一人が彼女を羽交い絞めにし、反抗できないようにする。

　　　バタバタと手足を激しく動かしているが、如何せん大人のような体格の男に捕まえられては華奢な子はどうする事も出来無い。

　　　別の男が……少女に殴りかかろうと、拳を振りかぶる。

　　　ヒュン……。

　　　「「え……！？」」

　　　トウジとケンスケは驚いた。さっきまで隣にいたシンジが恐ろしい速さで翔けていた。

　　　「――――ッ！！」

　　　殴りかかろうとした男の後頭部を思い切り蹴り抜く。

　　　そいつが倒れるのも確認しないまま、羽交い絞めにしている男の横に回りこんで無防備なわき腹を強打。

　　　「……逃げるんだ！」

　　　自由になった少女の手を捕まえてわき目も振らず逃げ出した。

　　　慌てて追いかける男達。あっという間に誰も居なくなった。

　　　「行って……もうた……」

　　　「ああ……」

　　　ぽつんとトウジとケンスケだけが、その場には取り残されていた。

　　　「はぁ……はぁ……はぁ……」

　　　どれだけ走ったのか分からない。見たことの無い路地で漸く一息つく。

　　　無理して走らせたためか、少女の息も切れ切れになっている。

　　　……追ってはこない……大丈夫か……。

　　　「ハァ――悪かったわ、ね。たす、かったわ」

　　　「！」

　　　驚いた。日本語を話せるらしい。

　　　赤い髪に外人としか思えない白い肌。黄色のワンピースが良く似合う。

　　　「……いや、いい、んだ……」

　　　呼吸が上手く整わない。空気をどれだけ吸っても体が全然足りないといってるかのようで。

　　　「アンタ、強いわね」

　　　「……」

　　　……秘密だったんだけど、ね。

　　　トウジとケンスケに見られたか……。

　　　「何か言いなさいよ……」

　　　「なんで……絡まれてたの？」

　　　「すこーし肩がぶつかって、それで因縁つけられて……頭に来たから、まあ色々と」

　　　顔に似合わず……いや、顔は関係ないか。

　　　ともかく、短気な性格なんだろう。

　　　「……そっか」

　　　「あ、やばっ！こんな時間！もう行かなきゃ！……ほんとアリガトね。じゃ！」

　　　腕時計を見て慌てたように去っていく。

　　　時間……あ、まずい……今日、シンクロテストとセカンドチルドレンとの顔合わせだった……。

　　　走ってリニアに乗ればまだ、ギリギリ間に合うか。

　　　「……また走らないといけないのか……」

　　　うだるような熱さの中、リニアの発着場に向けて翔ける。

　　　なんとか……間に合った……。

　　　時計を見ると１４：４０分。集合時間は１５：００だったからまだ２０分余裕がある。

　　　ゲート前には綾波がいる。壁によりかかり誰かを待ってるように。

　　　こちらに気づいたのか、トコトコとやってきた。

　　　「汗……どうしたの？」

　　　開口一番の台詞はこれだ。

　　　まあ、ずっと走ってたからなのだが。

　　　「うん……ちょっと……」

　　　「そう……。じゃあ、行きましょう」

　　　「え？わ、わかった」

　　　誰かを待っているんじゃなかったのだろうか。

　　　待っていたのは、僕の事だったのか……。

　　　複雑な心境でゲートをくぐる。

　　　「どうして、待ってたの？」

　　　勇気をもって聞いてみることにした。

　　　「……待っていたかったから」

　　　「…………あ、ありがとう」

　　　はっきりとそういわれると――なんだか変な気分だ。

　　　着きもせず、離れもせず……不思議な二人の関係。

　　　沈黙したままで歩いて発令所を目指す。五分ほどで発令所につき、ミサトの姿を探す。

　　　「あ、シンちゃん……とレイ。ほぉ……これは……」

　　　何か企んでそうな顔でそう言う。

　　　「仲いいのね〜」

　　　「……別に、普通です」

　　　綾波は、何もいわなかったが。

　　　「アスカぁ〜、こっちこっち」

　　　別の方向を見て手を振るミサト。どうやらセカンドチルドレンはもう来て発令所の中にいるようだ。

　　　「今行くわよっ！大きな声出さなくても、聞こえてるわよ！」

　　　……あ、れ……？

　　　この声……さっきの女の子と似てる……？

　　　スタン、と風を切るように彼女が僕達の前に姿をあらわす。

　　　「紹介するわ。弐号機専属操縦者、セカンドチルドレン、惣流……」

　　　「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ！！」

　　　僕達の目の前に現れたのは、さっきの外人に絡まれてた女の子だった。

　　　「アンタ、さっきの！？」

　　　「ほえ？アスカ、シンジ君と知り合いなの？」

　　　「シンジ！？あ、あんたが噂のサード……！？」

　　　びっくりしたように目を大きく開く。

　　　噂……？どんな噂だよ……。

　　　「さっきちょっとあって……」

　　　「へぇ〜……」

　　　口篭もるアスカをミサトはおもちゃを見つけたような顔で見つめる。

　　　と、レイがアスカをじっと見ていることに気づく。

　　　……む、こ、これは……楽しい展開になりそうね！

　　　「ま、とりあえず紹介するわね。そっちの娘がファーストチルドレン、綾波レイよ」

　　　スタスタとレイの目の前に歩いていき、握手を求める。

　　　「宜しくね」

　　　「……………………宜しく」

　　　中に浮いたままのアスカの手。レイは握手を返そうとはしない。

　　　「ちょっと、仲良くやっていこうってんだから、握手くらいしなさいよっ！」

　　　「握手……わからない」

　　　「っ！！もういいわよっ！」

　　　「……はぁ……」

　　　そんな二人を見て、ばれないようにため息をつくシンジ。

　　　……二人の相性は破滅的に、悪いような……。

　　　「まあまあ二人ともそのくらいにしておいて。で、紹介の必要はないけど、こっちの子がサードチルドレン、碇シンジ君よ」

　　　「宜しく……惣流」

　　　「ん……こちらこそ」

　　　「さーて、気を取り直してシンクロテストにしましょ！」

　　　「おお！？相変わらず元気そうだなぁ」

　　　パン、と柏手を打ったミサトの動きが止まった。

　　　「な、な……」

　　　「よぉ、久しぶり」

　　　見たことが無い中年の男性が右手を上げて挨拶をした。

　　　「何であんたがここにっ！？」

　　　「加持さん！」

　　　アスカとミサトの対応は正反対である。

　　　「アスカの随伴さ。今度から本部配置になったんだ。宜しくな」

　　　「あああ……嘘よ……悪夢よ……」

　　　頭を抱えるミサト。アスカはお構いなしに加持の腕に抱きつく。

　　　なんだ……ミサトさんの知り合い？

　　　「お、これはこれは……。ネルフドイツ支部から転勤してきた加持だ。宜しくな、レイちゃんとシンジ君」

　　　「……」

　　　「はい」

　　　レイはじっと何者か見定めるように見ているだけで。

　　　その後のシンクロテストは何も問題なく。

　　　惣流は、噂通りに８０％以上のシンクロ率を叩き出していた。

　　　綾波は５０％付近で、僕はチルドレンの中で一番低い３０％後半……。

　　　まあ、いいんだけど。

　　　「シーンジ、あんたってシンクロ率一番低いんだ」

　　　「まあ……」

　　　「フフ……でもまあ、安心しなさいよ。これからはこのアタシが居るから」

　　　「……だね」

　　　「じゃあ、三人とも上がっていいわよ」

　　　テスト後の詳細報告も終わり、後は帰るだけなのだが……。

　　　「ふう……ま、シンクロ率が低いったってあんた生身で――」

　　　アスカが言い終わる前に素早く耳打ちする。

　　　（な、なによ）

　　　（……あれは秘密ってことで……）

　　　（別にいいじゃん、悪い事じゃないんだし）

　　　（…………お願い）

　　　（わかったわよ……）

　　　「碇君」

　　　「え、何？」

　　　びっくりしたように身を離す二人。

　　　「帰りましょう」

　　　「あ……わかった」

　　　アスカには見向きもせず部屋を出て行くレイ。

　　　「またね……惣流」

　　　そのレイを追っていくシンジ。

　　　……何よ、あの女。愛想無いわね……。

　　　元からレイが素っ気無いという事を知らないアスカは、レイに対して不信感を強めていた。

　　　翌日、学校に惣流が転校してきた。それは突然の事で。

　　　確か大学を卒業していると思ったけど……。

　　　惣流は、美人だと思う。だから教室では大騒ぎだった。

　　　「しっかし、びっくりしたわ。先生、何か武術ならってたんか？」

　　　「……まあ。少し」

　　　「それにしても……猫も杓子も、アスカ、アスカか……」

　　　「顔はいいからのぉ……」

　　　それから二週間余り経過し、アスカの事は学校全体に広がっていた。

　　　アスカの写真を売りさばくケンスケ。かなり売上はいいらしい。

　　　学校ではすこぶる猫をかぶっているアスカ。女子生徒とも仲がよくもう何人か親しい友人も出来たようだ。

　　　でも、レイとは一度も会話はしていないが。

　　　学校でもシンジにアスカは良く話し掛けてくる。シンジはいつも通りの反応で返す。

　　　その反応はぶっきらぼうではあるが、アスカはあまり気にしていない。

　　　ちなみにトウジはジャージ、ケンスケはメガネと呼ばれているのは可愛そうな所ではあるが。

　　　その日、久しぶりに使徒が現れた。

　　　「先の戦闘によって第三新東京市の迎撃システムは大きなダメージを受け、現在までの復旧率は２０％。
　　　　実戦における稼働率はゼロと言っていいわ。従って今日は上陸直前の目標を水際で一気にたたく！
　　　　初号機並びに弐号機は交互に目標に対し波状攻撃」

　　　零号機は第五使徒戦の修理とカラーリングチェンジ、及び機体再調整のため出撃は出来ない。

　　　そのため、初号機と弐号機による殲滅作戦が決行される。

　　　「あーあ、日本でのデビュー戦なのにどーしてアタシ一人でやらせてくれないのかなぁ……」

　　　「……念には念を、ってやつ……かも」

　　　「ま、いいけど。シンジ、アタシの実力、見せてやるわ！」

　　　「わかった……」

　　　……格闘技術Sだったか……。それに第六使徒もあっという間に倒したんだし。

　　　出番、無いかも……。

　　　「んもう、アンタはなんでそんなに口数が少ないのよ！」

　　　「……悪い」

　　　「べらべら喋る男よりはマシかもしんないけどね」

　　　どっちだよ……。

　　　迎撃ポイントまでエヴァは飛行輸送機で移動。ポイントで切り離され地上に着地する。

　　　そこではすでに電源ソケットの用意や使徒対策本部が準備されていた。

　　　「使徒、来ます！」

　　　海中から水しぶきを上げて現れる使徒。

　　　「あたしから行くわ！援護よろしく！」

　　　「了解」

　　　パレットライフルで敵の動きを足止めする。ライフルによる使徒へのダメージはなさそうだ。

　　　使徒の動きは鈍く、足止めの効果もあってか殆ど棒立ち状態。

　　　それを見据えたアスカは空かさず特攻をかける。

　　　「いける！」

　　　ソニックグレイブを両手に持ち、最短距離で使徒に接近する。

　　　プログナイフと同じく粒子を光速の数十パーセントまで加速する刀身のため、切れ味は恐ろしく鋭い。

　　　「うわあああああああああっ！」

　　　空中から渾身の力で振り下ろす。綺麗に使徒は真っ二つに分かれた。

　　　「……凄い」

　　　一撃で勝負はついてしまった。

　　　やっぱり……出番無かったな……。

　　　「そーでしょ、アタシにかかればこんなもん……」

　　　「っ！惣流、後ろ！」

　　　「……え？」

　　　真っ二つになった使徒が、まるで脱皮するかのように二対の使徒に変化する。

　　　「な、なんてインイキっ！！」

　　　ミサトが持っていた電話の受話器がミシリ……と軋んだ。

　　　「……本日１０時５８分１５秒。二体に分離した目標甲の攻撃から離脱した弐号機は駿河湾沖合２キロの水上で活動停止。
　　　　１１時３分、状況不利のため初号機撤退。同時刻をもってネルフは作戦遂行を断念。国連第二方面軍に指揮権を譲渡。
　　　　この状況に対するＥ計画責任者のコメント」

　　　「ブサマね……」

　　　リツコの声が冷たく響く。作戦行動の経過についての説明中で、オペレーターがマヤ。

　　　臨時責任者に冬月と加持。そしてパイロットのシンジとアスカがいる。

　　　「まったく恥をかかせおって……」

　　　頭を抱えるように手をつく冬月。

　　　「同０５分。Ｎ２爆雷により目標を攻撃」

　　　「また地図を書き直さなきゃならんな」

　　　「構成物質の２８％を焼却に成功」

　　　モニターには表面がドロドロに熔けた使徒の姿が映っている。

　　　「やったの？」

　　　「足止めにすぎん……再度侵攻は時間の問題だ」

　　　期待したようなアスカの声を否定するかのように冬月が話す。

　　　「ま、立て直す時間が出来ただけでも儲けものっすよ」

　　　「いいか、君達。君達の仕事はなんだね？」

　　　「EVAの操縦」

　　　……使徒の殲滅。

　　　シンジとアスカの反応は別々。

　　　もっともシンジは言葉に出さなかったが。

　　　「違う！使徒に勝つことだ。こんな醜態を晒すためにネルフはあるわけではない。……次の作戦に期待する」

　　　演説するかのように力強く話し冬月は退室していく。

　　　アスカはうつむき加減で黙っている。

　　　……ショック、だったんだろうか……。

　　　加持とマヤも何時の間にか部屋から居なくなっていて、シンと静まり返っている。

　　　天井を見上げ、言葉を発しないアスカ。

　　　「次が……あるさ」

　　　「……ハッ、慰め？」

　　　吐き捨てるような台詞。

　　　「人の想像を超える相手、だから……。次、勝てればいいんだよ」

　　　「……」

　　　暫しの沈黙。そして思い切ったようにアスカが口を開いた。

　　　「悪かったわ……。八つ当たり、ね」

　　　「……いいさ」

　　　そういう時もあるよ……。

　　　「なんかダサいじゃない。シンジにあんな大口叩いておいて、さ」

　　　「――でも」

　　　「何……？」

　　　「……凄かったよ。嘘じゃなくって……本当にそう思ったから」

　　　やられてはしまったが、それまでの思い切りのよさとか、素早い動きとか。

　　　自分では無理な動きには、本当に驚いた。

　　　「……アリガト。あーあ……結局慰められちゃったかぁ……」

　　　「…………」

　　　青い瞳がこちらに向けられる。

　　　「アンタって、変わってるわね」

　　　そうなのか……？

　　　「エヴァパイロットは至急、葛城作戦部長室に集まってください。繰り返します……」
　　

　　　廊下のスピーカーから放送の声が聞こえる。

　　　「呼び出し……アイツを倒す作戦かな？」

　　　「……ともかく、行こう」

　　　「りょーかい」

　　　部長室に集められたパイロットに早速、第七使徒への新たな殲滅作戦が説明される。

　　　一つ、第七使徒の弱点、分離中のコアに対する二点同時の加重攻撃。

　　　一つ、そのためにエヴァ二機……すなわち初号機と弐号機の完璧な動きの協調が必要な事。

　　　一つ、使徒の再侵攻は７日後。それまでにユニゾンを完成させるためにパイロット両名は共同生活をしてもらうこと。

　　　そんなわけで、彼女と僕、そしてミサトさんの三人による生活が始まる事になった。

　　　「しっかし、シンジの奴どないしたんやろ」

　　　「学校を休んで、今日で三日か……」

　　　特に連絡も無く３日も休んでいるため、トウジとケンスケはお見舞いに向かう事にした。

　　　今はシンジの住んでいるエレベーターの中である。

　　　目的の階に止まり、エレベーターから降りると隣のエレベーターからヒカリが出てきた。

　　　「あれ？委員長やんか。なんでここにおるんや？」

　　　「惣流さんのお見舞い。貴方達は？」

　　　「碇君のお見舞い」

　　　シンジの部屋に向かう二人。何故かヒカリも一緒の方向である。

　　　「「「なんでここで止まるんだ（のよ）！？」」」

　　　何故か、一緒の部屋で止まる。

　　　インターフォンを同時に押す。すると中から返事が聞こえてエアー式のドアが開く。

　　　「ぺ、ペアルック！？」

　　　出てきたアスカとシンジは全く同じデザインで色だけが違う服を着ていた。

　　　「いやーんな感じ」

　　　「不潔よっ！二人とも！」

　　　ヒカリのヒステリックな声に慌ててアスカが弁明する。

　　　「ち、違うのよ。これはミサトが無理やり……」

　　　「……」

　　　そう、惣流が渋々着て……僕は嫌がったんだけど……二人が無理やり……。

　　　（アタシがこんな恥ずかしいの着るんだから、シンジも我慢しなさいよねっ！）

　　　……というのはアスカの弁である。

　　　「あら、皆。いらっしゃい」

　　　三人の後ろからミサトの声がして、一斉にそちらを見る。

　　　その傍らにはレイもいて、なにやらメモ紙をじっくり読んでいた。

　　　「これは、どういうことなのかはっきり説明してください」

　　　場所を移して部屋の中。笑い声と共に何かの音が聞こえる。

　　　「そーやったんですか、それならそうと早よう言ゆうてくださいよ」

　　　「それでユニゾンは上手く行ってるんですか？」

　　　ひざの上に置いたペンペンと戯れながら、ヒカリが尋ねる。

　　　「それが……」

　　　アスカは自分勝手に動いてシンジには合わせない。

　　　シンジは必死でアスカの動きを追いかけるが、間に合わずそのたびに「ブー」という情けない音が出る。

　　　「んもう！シンジ、もっと早く動きなさいよ！」

　　　「……わかってるっ」

　　　元々シンジの反射神経は悪くは無いのだが……どうしてもズレてしまう。

　　　……あっちゃあ……根本的に理解してないわねえ……。

　　　そんな二人を見て天を仰ぐミサト。

　　　作戦を成功させるためには、二人の協調が必要なのだ。何も動きだけ合わせればいいというモノではない。

　　　相手がどのような動きをしても自分も合わせられる……それが必要なのだ。

　　　「ハイハイ。そこまで。アスカ、もう少しシンジ君に合わせてみなさい」

　　　「なによっ、素早く完璧に出来なきゃダメじゃないのっ！？」

　　　怒り心頭で食って掛かるアスカ。

　　　「はぁ……理解してないわねえ……。仕方ない。レイ、アスカと交代してみて」

　　　なによ……アタシが出来なかったのにイキナリ来たあの女にできっこないわよ！

　　　その想いとは裏腹に、二人は一指乱さず完璧なユニゾンを披露した。

　　　う……嘘……。

　　　「零号機が出撃できたら、間違いなくそうするわねぇ……」

　　　ミサトのその一言で、アスカは弾けた。

　　　「だったら弐号機にでも乗せて放り出せばいいじゃない！」

　　　そう叫んで駆け出していくアスカ。

　　　「鬼の目ぇにも涙やな……」

　　　「い〜か〜り〜く〜ん！」

　　　「…………」

　　　……なんだよ。

　　　「追いかけてっ！」

　　　何で……僕なんだ。

　　　それになんて、声かけたら……いいんだ……。

　　　「女の子を泣かせたのよ！責任取りなさいよ！」

　　　考えがまとまらないままヘッドホンを床において玄関へと向かう。

　　　なんとかアスカの怒りを爆発させないように治める台詞を考えながらシンジは歩いていた。

　　　どう……言おう。下手な慰めなんて、逆効果だし。

　　　……参ったな……。

　　　途方にくれる。大体まだアスカとシンジは出会って日が浅い。

　　　お互いの事も余り知らないのだから無理はないのかもしれないが。

　　　……どう、しよう……。

　　　本当に、どうしよう……。

　　　日が傾き始めた空を呆然と見詰めるしかなかった。

　　　――完全に日が落ちた夜。

　　　「ただいまぁ」

　　　アスカはそう言ってマンションに帰ってきた。

　　　皆はもう帰ったのだろう。部屋は静かだ。

　　　「おかえり、アスカ。あれ……？シンちゃんは？」

　　　「はあ？」

　　　「まったく、なんでアタシがシンジを探さなきゃならないのよっ！」

　　　ぶちぶち文句をいいながら道路を歩く。

　　　アタシを追いかけていった奴が行方不明になるなんてどーいうことよ！

　　　シンジはアスカを追いかけていったっきり戻ってきてないらしい。

　　　コンビニ等、色々回ってみるがシンジの姿は何処にも無い。

　　　アイツ、何処ほっつき歩いてんのよ！

　　　そうして……どのくらい歩いたろうか？

　　　街灯が静かに燃える公園で、彼を見つけた。

　　　――いたっ！……って、何してんの、アイツ――

　　　シンジは何もせずただ遠くのほうを見ながら突っ立っている。

　　　……わけ、わかんな過ぎ……。

　　　ため息を付ながらシンジに声をかける。

　　　「アンタ……何してんの？」

　　　びっくりしたように振り返る。

　　　「惣流……？」

　　　「そーよ、まったくミイラ取りがミイラになったら世話ないじゃん」

　　　「……ごめん」

　　　「つーか……何してたのよ？」

　　　「………………ずっと、考えてた」

　　　「何をよ？」

　　　「なんて、惣流に……声かけたらいいんだろう……って」

　　　「は……？」

　　　「同情とか……そういうのは、多分ダメだろうし……」

　　　「――――。」

　　　こいつ…………そんなコト――――。

　　　「それでずっと考えてて時間が過ぎ去ったってワケ？」

　　　「……」

　　　コクリと頷くシンジ。

　　　……アンタって……。

　　　「と・も・か・く！帰って特訓よ！なんとしてもレイとアスカを見返してやるのよ！」

　　　アンタって、ホント、変わってる……。

　　　どんな些細な事でも――真面目に、真剣に考えてくれる人を。

　　　「さ、帰るわよ！」

　　　アスカは初めて見つけたのかも、しれない。

　　　それからの訓練は順調で、もう完璧に近い形にまで二人のユニゾンは到達していた。

　　　明日が決戦の日でありリベンジの日でもある。

　　　ミサトは明日が決戦のため、準備で帰って来れないそうだ。

　　　……今日は、シンジと二人っきりってコトか。

　　　シンジは床に座り、背中を柱に預けながら音楽を聴いている。

　　　「今日は二人っきりね」

　　　「……」

　　　「む……聞いてる？」

　　　「……」

　　　「オーイ……」

　　　シンジは……そのままの体勢で眠っているようだ。

　　　ちょっと位、意識しなさいよ……こんな可愛い子と二人っきりなんだから。

　　　無防備な寝顔を見ながら、少し悪態をつく。

　　　「ばか……」

　　　暫く寝顔を見つづけたアスカは、起こさないようにシンジを床に寝せて布団をかけてやる。

　　　……ホント、馬鹿。

　　　電気を消して、自分の部屋に戻る。

　　　そして、使徒再侵攻の日。

　　　打ち出された初号機と弐号機は華麗なユニゾンで使徒を圧倒する。

　　　最後に、流星のような二人の攻撃が使徒のコアを直撃。

　　　激しい爆発……そしてモニターには二機のエヴァが映る。

　　　爆発の中心部でエヴァは重なるように倒れていた。

　　　「着地、失敗したわね」

　　　「……でも、勝てた」

　　　「そうね。勝てたわね」

　　　色々ここに来てから変わったのかもしれない。

　　　「ふう……アリガト、シンジ」

　　　「え？」

　　　コイツに感謝の言葉ばっかりかけてるわね、アタシ。

　　　最後の感謝は、もちろん追いかけてきてくれたコトに――――。

　　　To be continued……

　　　次回予告

　　　苦節何ヶ月（話の中で）……。

　　　耐え難きを耐え、忍び難きを忍び……漸く出番が来た。

　　　ペンペン「……クアッ！（やった！）」

　　　ミサト「……ようやく名前が出てきたのね……」

　　　ペンペン「クアクアッ！（うんうん（涙））」

　　　ミサト「そしてこれでもう出番は無し……っと」

　　　ペンペン「クアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー！」

　　　冬月「ふむ……話が長かったな」

　　　リツコ「仕方ありませんわ……なにせ作者が書きたかった場面が多々あったわけですから」

　　　冬月「そうか。しかし意外だな。シンジ君に武術の心得があったとは」

　　　リツコ「それらしい描写は第四使徒戦でもありましたけどね……」

　　　冬月「これでシンジ君のこともまた一つわかったわけだね？」

　　　リツコ「たった一つですけどね」

　　　冬月「ところで……赤木君と葛城君が見ていた何かのグラフはなんなのかね？」

　　　リツコ「それはもう少ししてからおわかりになるかと」

　　　冬月「ふむ……期待してよう」

　　　リツコ「次回、新世紀EVANGELION・Another 第六話「ASUKA �U」よ。見なさいね」

　　　ミサト「レイ、レイときて、アスカ、アスカと続くのーーーー！？また出番がーーーー！」　　　

　　　ゲンドウ「フッ……そもそも脇役」

　　　ミサト「アンタにいわれたくないわっ！」

感謝の言葉：

アスカとの出会いもいい感じになったようで♪
多弁というわけでもなく、違いはただ、少しだけ前向きなこと。
それに、真摯な気持ち…。
レイとアスカの関係はあまり変化なしなようですが、
今後の展開が楽しみです（＾＾）

さ、続きが読みたいと思った人は感想メールで催促しましょう♪