――時に、西暦２０１５年。

　　　ズヴゥン……ズヴゥン……。

　　　山の向こうから現れる謎の生物。

　　　第三の使徒、サキエル襲来。

　　　ＵＮの空軍がバルカンやミサイルで攻撃する。だが……。

　　　使徒に対する通常兵器の効果は認められず。

　　　国連軍は作戦の遂行を断念。

　　　全指揮権を特務機関「ネルフ」へ委譲。

　　　同深夜。使徒、ネルフ本部直上へ到達。

　　　当日、接収された……三人目の適格者（サードチルドレン）碇シンジ、搭乗を承諾。

　　　エヴァンゲリオン初号機、初出撃。

　　　ネルフ、初の実戦を経験。「第一次直上会戦」

　　　使徒の光のパイルが初号機を貫く。

　　　エヴァ初号機、頭部破損。制御不能。

　　　――完全に沈黙。

　　　「ウオオオオオオオオオオオオ！」

　　　暴走――。

　　　第三使徒及び、初号機におけるＡ・Ｔ・フィールドの発生を確認。

　　　初号機、目標のＡ・Ｔ・フィールドを浸食。

　　　使徒のコアを集中的に攻撃する初号機。コアに亀裂が確認されたと同時に、使徒の自爆。

　　　使徒、殲滅。

　　　迎撃施設、一部破損。エヴァ初号機中破。

　　　同事件における民間人の被害者の数は公表されず。

　　　そして、第四の使徒シャムシェル、襲来。

　　　当時、対空迎撃システム稼働率４８．２％。

　　　第三新東京市、戦闘形態への移行率９６．８％。

　　　使徒、第三新東京市上空へ到達。「第二次直上会戦」

　　　積極的に近距離攻撃を仕掛けるものの失敗。

　　　外部電源断線のアクシデントに見舞われるものの――使徒殲滅。

　　　ネルフ、原型を留めた使徒のサンプルを入手。

　　　だが、分析結果の最終報告は未だ提出されず。

　　　第五の使徒、ラミエル襲来。

　　　難攻不落の目標に対し、葛城一尉、ヤシマ作戦を提唱、承認される。

　　　最初の適格者（ファーストチルドレン）綾波レイ。

　　　凍結解除されたエヴァ零号機にて、初出撃。

　　　同深夜。使徒の一部、ジオフロントへ侵入。

　　　ネルフ、ヤシマ作戦を断行。

　　　防御用の盾が１７秒持つはずであったが１２秒ほどしか持たず、

　　　アクシデントが発生したものの――使徒、殲滅。

　　　エヴァ零号機、大破。だがパイロットは無事生還。

　　　第六の使徒、ガギエル。エヴァ弐号機輸送中に遭遇。

　　　「シナリオから少し離れた事件だな」

　　　「しかし結果は予測範囲内です。修正は効きます」

　　　太平洋艦隊の攻撃も効果は見られず。

　　　二番目の適格者（セカンドチルドレン）、惣流・アスカ・ラングレー。

　　　エヴァ弐号機にて初出撃。

　　　Ｂ型装備による海上戦闘。

　　　戦闘時間５８秒という短期決戦にて――使徒、殲滅。　

　　　エヴァ弐号機、ほぼ無傷で帰還。

　　　長い訓練期間が成果に結びついたものと推測される。

　　　第七の使徒、イスラフェル襲来。

　　　初の分離・合体能力を有す。

　　　しかし、エヴァ初号機、同弐号機の二点同時過重攻撃にて――使徒、殲滅。

　　　第八の使徒、サンダルフォン、浅間山火口内にて発見。

　　　ネルフ、指令Ａ−１７を発令。

　　　全てに優先された状況下において、初の捕獲作戦を展開。

　　　電磁光波柵内へ一時的に拘束。

　　　だが――急激に成体へと成長し電磁膜を寸断、作戦は中断。

　　　即座に作戦目的は使徒殲滅へと変更される。

　　　エヴァ弐号機、作戦を遂行――使徒殲滅。

　　　エヴァ零号機、損傷復旧及び、改装作業終了……再就役。

　　　第九の使徒、マトリエル襲来。

　　　エヴァ三機による、初の同時展開作戦により――使徒殲滅。

　　　第十の使徒、サハクイエル襲来。

　　　成層圏より飛来する目標に対し、エヴァ３機による直接要撃にて――使徒殲滅。

　　　なお、エヴァ弐号機、一時的にシンクロ率８８％を記録。

　　　第十一の使徒、襲来事実は、現在未確認。

　　　ネルフ本部へ直接侵入との流説あり。

　　　「いかんな……これは。早すぎる」

　　　「左様、使徒がネルフ本部に侵入するとは予定外だよ｣

　　　――人類補完委員会、特別召集会議――

　　　「ましてセントラルドグマへの侵入を許すとはな」

　　　「もし接触が起これば、全ての計画が水泡と化したところだ」　　　

　　　委員の視線がゲンドウに注目するが、ゲンドウは平然と答える。

　　　「委員会への報告は誤報。……使徒侵入の事実はありませんが？」

　　　「では碇。第十一使徒侵入の事実はないというのだな？」

　　　「……はい」

　　　「気をつけて喋りたまえ碇君。この席での偽証は死に値するぞ」

　　　「ＭＡＧＩのレコーダーを調べて頂いても結構です。その事実は記録されておりません」

　　　「笑わせるな。事実の隠蔽は君の十八番ではないか」

　　　「……タイムスケジュールは死海文書の記述通りに進んでおります」

　　　「――まあいい。今回の君の罪と責任は言及しない」

　　　突き上げを食らうゲンドウに見かねたのか、反対側に座るバイザーの男……キール・ローレンツが口を開く。

　　　「だが――君が新たなシナリオを作る必要は無い」

　　　「分かっております……全てはゼーレのシナリオ通りに……」

　　　山……重い山。時間をかけて変わるもの。

　　　空……青い空。目に見えないもの、目に見えるもの。

　　　太陽……一つしかないモノ。温かい。懐かしい……碇君。

　　　これは、イメージ。初号機の。

　　　真っ赤な火。赤い……赤い火。赤い色は嫌い。このイメージ、弐号機パイロット。

　　　青い海。……遠い、遠い海。このイメージ、私？

　　　エヴァ、人の作り出したもの。

　　　人は何？

　　　神様が作り出したもの。

　　　人は人が作り出したもの。

　　　私にあるものは命、心……。

　　　心の入れ物、エントリープラグ。

　　　それは魂の座。

　　　私でない誰かを感じる……碇君？

　　　貴方だれ？

　　　貴女だれ？

　　　……あなた、誰？

　　　「どうレイ？初めて乗った初号機は？」

　　　「碇君の……匂いがする」

　　　第一回機体相互互換試験、被験者「綾波レイ」

　　　「シンクロ率は……ほぼ零号機の時と変わらないわね」

　　　シンクログラフをマヤと見るリツコ。

　　　「パーソナルパターンも酷似してますからね。零号機と初号機」

　　　「だからこそシンクロ可能なのよ」

　　　二人から離れてミサトがまっすぐモニターを見つめている。

　　　モニターには青く塗装された零号機。今回の試験はレイが初号機、シンジが零号機に乗り、互換性に問題が無いか調べるものである。

　　　……大丈夫かしら、シンジ君。

　　　「誤差、±０．０３。ハーモニクスは正常です」

　　　「レイと初号機の互換性に問題点は検出されず。ではテスト終了。レイ、上がって良いわよ」

　　　「…………はい」

　　　第８７回機体連動試験、被験者「惣流・アスカ・ラングレー」

　　　「弐号機のデータバンク終了」

　　　「ハーモニクス、全て正常値」

　　　「パイロット異常無し」

　　　テストルームに固定された弐号機。

　　　連動試練とはあるが要するに、何時ものシンクロテストと余りやってることは然程変わらない。

　　　「……あったりまえでしょ」

　　　第一回機体相互互換試験、被験者「碇シンジ」

　　　「エントリープラグ挿入完了」

　　　「零号機のパーソナルデータは？」

　　　「書き換えはすでに完了しています。現在、再確認中」

　　　特殊強化ガラスで仕切られた管制室。そこからミサトとレイが並んで零号機の様子を見ている。

　　　「被験者は？」

　　　「緊張状態が続いています……神経パターンも若干乱れてます」

　　　「まずいわね……」

　　　……初めての零号機。無理もないわね。

　　　「シーンジ」

　　　突然弐号機からプラグに通信が入る。

　　　「……何？」

　　　レバーを握る手が、少し震えていた。

　　　「気楽に行きなさいよ、気楽に」

　　　「わかって……る」

　　　気を使ってくれてるのか……。

　　　明るいアスカの声。一時期元気の無い時もあったが、いまでは前、というか出会ったときのようなアスカに戻っている。

　　　何があったのかは分からない。

　　　それでも元気になって、ほっとしている。

　　　「アスカ、ノイズが混じるから邪魔しないで」

　　　「ノイズってなによぉ！」

　　　……ふう……。

　　　なんだか、緊張がほぐれていく。

　　　気づかれないように通信越しにアスカの顔を覗く。

　　　ノイズといわれたのが気に食わないのか、リツコに食って掛かるアスカ。

　　　こちらには気づかない。別モニターを見ているのだろう。

　　　「被験者の様子は？」

　　　「大部落ち着いてきました……神経パターン安定」

　　　「ほーら、アタシのおかげじゃない」

　　　「まあまあアスカ。その辺にしておいてよ」

　　　今度はミサトからの通信。

　　　「わかったわよ……」

　　　渋々シンジとの通信を切る。

　　　「へへ〜ん……」

　　　「何よ」

　　　「心配してたんだぁ」

　　　ニヤニヤしながらアスカに話し掛ける。

　　　「……そうよ。あんな話、聞いた後じゃ……ね」

　　　小声で他の人には聞こえないように呟くアスカ。

　　　こうでもしないとミサトの絡みが終わらない。

　　　ある意味嘘ではないが、ある意味嘘をついておくことにした。

　　　「……そうね」

　　　「ところであの二人の機体相互互換テスト。アタシは参加しなくてもいいの？」

　　　「どーせアスカは他のエヴァに乗る気無いんでしょ？」

　　　「まあ……ね」

　　　心の中では初号機に乗ってみたいと思ってはいた……言葉で発する事は無かった。

　　　「エントリー、スタートしました」

　　　少し時間が遅れたがジンジと零号機との互換テストが開始される。

　　　「ＬＣＬ電荷」

　　　「第一次接続開始」

　　　……なんだか、何時も違う感じがする……。

　　　「どう、シンジ君？零号機のエントリープラグは」

　　　「……何か、変です」

　　　「違和感があるのかしら？」

　　　違和感……か。

　　　そう言われればそうであるかもしれないし、そうでないかもしれない。

　　　言葉で表すのは難しい。

　　　しっくりとピースがはまるようで、ギリギリはまらないような――着いたり離れたり、よくわからない。

　　　「いえ……」

　　　データには異常は見られない。

　　　そのため重大な問題はないとみて、テストは続行される。

　　　「データ受信、再確認」

　　　「パターングリーン」

　　　「主電源、接続完了」

　　　「了解。では相互互換テスト、セカンドステージへ移行」

　　　「零号機第二次コンタクトに入ります」

　　　モニターに零号機とシンジのシンクログラフが表示される。

　　　シンクロ率２９％。初号機よりは落ちる数字だ。

　　　「ハーモニクス、全て正常位置」

　　　シンクロ率は高くも無いが、起動するかしないかのギリギリでもない。

　　　「これであの計画。遂行できるわね」

　　　「ダミーシステムですか……。先輩の前ですけど、私はあまり」

　　　「感心しないのは分かるわ。でも人が生きていくためには何事にも備えが必要なのよ」

　　　「先輩を尊敬してますし、自分の仕事はします。でも……納得は出来ません」

　　　「……辛いわよ、潔癖症は。人の間で生きていくのが。汚れたと感じた時わかるわ――それが」

　　　リツコの表情は全く変わらない。それでもマヤはリツコの顔を見つづけることが出来なかった。

　　　「第三次、接続を開始！」

　　　零号機の顔がしっかりと前を向く。

　　　「セルフ心理グラフ、安定しています」

　　　「Ａ１０神経接続を開始」

　　　「……！？」

　　　瞬間、何か絶対的な違和感が。

　　　……な、なんだ？何か、頭に入ってくる……？

　　　直接……何か……なんだ？

　　　綾波――？

　　　この感じ……綾波？

　　　似てる、けど……。

　　　何処かが違う。あの時感じたナニかとは。

　　　これは――――違う！？

　　　綾波……じゃ、ない！？

　　　「グオオォォォォォオオオオオ！」

　　　突如唸り声を上げる零号機。固定版の軋む音が響き渡る。

　　　「どうしたの！？」

　　　「パイロットの神経パルスに異常発生」

　　　「パルス逆流、精神汚染が始まっています！」

　　　「まさか！このプラグ深度ではありえないわ」

　　　「プラグではありません、エヴァからの浸食です！」

　　　自分を縛る戒めから逃れようともがく零号機。

　　　固定版が破壊され制御不能に陥った零号機が、苦しいのか頭を抱える。

　　　「全回路遮断、電源をカット」

　　　外部電源がパージされ内部電源に切り替わる。

　　　「シンジ君は？」

　　　「回路断線！モニターできません！」

　　　ミサトの問いにモニターから目を離さず日向が答える。

　　　モニターには回路が次々と切断されていく様が写っている。

　　　「零号機がシンジ君を拒絶！？」

　　　「だめです、オートエジェクション作動しません！」

　　　……また同じなの！？あの時と。

　　　この状況は前に零号機が暴走した時と良く似ている。

　　　特殊強化ガラスを殴りつける零号機。エヴァのパワーに脆くも皹が入る。

　　　そこには零号機をじっと見つめるレイ。ガラスが割れようと、破片が飛んでこようと気にもしない。

　　　「レイ、下がって！レイっ！」

　　　今度は壁に頭を何度もぶつける。まるで誰かを頭の中から追い出したいように。

　　　何度も、何度も――。

　　　そして内臓電源が漸く切れ、零号機は完全に停止した。

　　　「パイロットの救出急いで！」

　　　まさか……レイを殺そうとしたの？零号機が？

　　　「はっ！？」

　　　目が醒めると、そこには見慣れた天井がある。

　　　……あの後……何があった？……覚えてない……。

　　　綾波じゃない誰かを感じた途端、頭が真っ白になって……。

　　　「シンジ？ようやく起きたのね」

　　　「アスカ……」

　　　電気はつけてないようで部屋は薄暗い。

　　　「何処もおかしくない？」

　　　「うん……」

　　　「そっか。ま、よかったわね」

　　　「……うん」

　　　「さっきからうんうんばっかりでさぁ、もっと別の台詞とかいいなさいよね」

　　　「そうだね」

　　　……部屋にはアスカだけで、綾波は居ない。

　　　当たり前か。あの二人仲が悪いから……一緒に居るなんて無いか。

　　　「何があったのよ」

　　　さっきまでの陽気な雰囲気は影を潜めて。今は真剣な眼差しでシンジを見ている。

　　　「あの時……綾波を感じたんだ。でも、それは彼女じゃなくて……」

　　　「……そう」

　　　やっぱり、他のエヴァは無理だ。

　　　僕には初号機だけで手一杯だから。

　　　体を起こす。ちょっと頭がクラっとしたが問題ない。

　　　「大丈夫？」

　　　「……うん。心配症なんだ、アスカって」

　　　「ま、まあ……そ、そうね」

　　　そっぽを向くアスカ。

　　　どうかしたのかな……？

　　　「…………初号機、大丈夫かな」

　　　零号機で暴走して……あれに今度乗った時、同じコトが無いか不安じゃないといえば嘘だ。

　　　「大丈夫よ。今までなんとも無かったんでしょ？」

　　　「まあ……」

　　　「じゃあ安心しなさいよっ！きっとこれからも大丈夫に決まってるじゃん」

　　　自信満々なアスカ。そんな彼女に触れていると……こっちもその気になってくるのだから不思議だ。

　　　パチリ……。将棋の駒が高らかに鳴る。

　　　ネルフ本部司令室では冬月が本を見ながら詰め将棋をしていた。

　　　「予定外の使徒侵入。それの事実を知った委員会の突き上げか……。
　　　 ただ文句を言うことだけが仕事のくだらない連中だがな」

　　　そのすぐ側。ゲンドウは口元を隠すかのようないつものポーズで居る。

　　　「切り札は全てこちらが擁している。彼らは何も出来んよ」

　　　「だからと言って焦らす事もあるまい？今――ゼーレが乗り出すと面倒だぞ……色々とな」

　　　「……全て、我々のシナリオ通りだ。問題は無い」

　　　「零号機の事故はどうなんだ？俺のシナリオにはないぞ、あれは」

　　　「支障は無い。レイと零号機の再シンクロは成功している」

　　　……レイに拘りすぎだな、碇。

　　　本から目を離して彼を見る。もちろんどこも変化は見られない。

　　　「アダム計画はどうなんだ？」

　　　「順調だ。２％も遅れていない」

　　　「ロンギヌスの槍は？」

　　　「予定通りだ。作業はレイが行っている」

　　　ネルフ本部の地下。成層圏より飛来した使徒戦の時、南極より回収したロンギヌスの槍。

　　　ターミナルドグマへと続く道を、その槍を持った零号機が歩いている。

　　　そこは、ただ零号機の足音だけが聞こえていた……。

　　　To be continued……

　　　後書き

　　　えー、きちんと挨拶するのは初めてですのでこの場を借りまして挨拶をさせて頂きます。

　　　初めまして（遅っ！）

　　　とりあえずこれで前半パートは終了です。

　　　次回からは怒涛の後半が始まるわけですが……やっぱり厳しい戦いが続きます。

　　　アスカがシンジに傾いていくのが早いかもしれませんが、まあ許して下さい（笑

　　　アスカの心の移り変わりを書いたつもりですが……どうでしたでしょうか？（汗

　　　上手く書けてるか心配ではあります。

　　　それとゼーレのシーンやゲンドウ＆冬月のシーンはかなりカットしてあります。

　　　次回予告でも触れていましたが（あれは遊びですが）ミサトやリツコのシーンもカットしてあるところが多々あります。

　　　本編とかぶるところが多いのが主な原因です（ＪＡなんて本編とかぶりまくりなので極カット）

　　　ゼーレとあの二人については……書いてもあんまり……。

　　　本編を見てる方々が殆どだと思いますので、カットのシーンは想像でお願いします（ヲイ）

　　　そんなわけで物足りない……と思われるかもしれませんが、応援していただければ本望です。

　　　次回は……拾伍話か弐拾話で挨拶いたします。

　　　それでは。

感謝の言葉：

アスカちゃんも、原作よりずいぶん、路線変更できてきたものですね（＾＾）

さ、続きが読みたいと思った人は感想メールで催促しましょう♪