「ＥＶＡシリーズに生まれ出ははずの無いＳ２機関」

　　　「まさかかのような手段で自ら取り込むとは……」

　　　「我らゼーレのシナリオとは大きく違った出来事だよ」

　　　「この修正、容易ではないぞ」

　　　「碇ゲンドウ、あの男にネルフを与えたのがそのそもの間違いではないのかね？」

　　　「だがあの男でなければ全ての計画の遂行は出来なかった。……碇、何を考えている」

　　　「問題はエヴァ初号機だけではない」

　　　「左様……。大破した零号機と弐号機。被害は甚大だよ」

　　　「我々がどれほどの時と金を失ったのか見当もつかん」

　　　「これも碇の首に鈴を付けておかないからだ」

　　　「鈴は付いている。ただ鳴らなかっただけだ」

　　　「鳴らない鈴に意味は無い。今度は鈴に動いてもらおう」

　　　だだっ広いネルフ本部司令室。

　　　そこには何時ものゲンドウと冬月のほかに加持も居た。

　　　「いやはや、この展開は予想外ですなあ。委員会……いえ、ゼーレにはどういい訳つけるつもりですか？」

　　　「初号機は我々の制御下ではなかった。これは不慮の事故だよ」

　　　「よって初号機は凍結……委員会の別命あるまでは、だ」

　　　動揺すら微塵に見せない二人。いや、そういうシナリオなのかもしれない。彼らの。

　　　「……適切な処置です。が――ご子息を取り込まれたままですが？」

　　　ネルフ本部発令所。停止した初号機からエントリープラグを取り出す作業を行っていた。

　　　「やはりダメです。プラグ排出信号受け付けません」

　　　「予備と擬似信号は？」

　　　「拒絶されています。直轄回路も繋がりません」

　　　「プラグの映像回線繋がりました。主モニターに回します」

　　　モニターに現れるシンジの乗っていたエントリープラグ。

　　　だが……おかしい。何処にもシンジの姿は無い。

　　　「何よ、コレ！？」

　　　シンジの代わりにプラグスーツがシートに置き去りになっている。

　　　それも……おかしい。

　　　その時、シンジはプラグスーツを着ていただろうか……？

　　　混乱するミサト。

　　　「これがシンクロ率４００％の正体」

　　　「シンジ君はどうなったの！？」

　　　「エヴァ初号機に取り込まれてしまったわ」

　　　「何よソレ！エヴァって何なのよ！」

　　　振り向くミサトを冷静に見つめ返すリツコ。

　　　「人の造り出した、人に近い形をした物体としか言い様が無いわ」

　　　「人の造り出した……？あの時南極で拾った物をただコピーしただけじゃないの。オリジナルが聞いて呆れるわ」

　　　南極で拾った物。それはアダム。

　　　地下施設に厳重に保護されているのはリリスであり、ごく一部の人間以外はそれをアダムと思い込んでいる。

　　　初号機と零号機はリリスのコピーである。

　　　「ただのコピーとは違うわ……人の意思が込められてるもの」

　　　「これも誰かの意思だっていうの！？」

　　　「あるいは……エヴァの」

　　　「っ！」

　　　――――パンッ！

　　　思わず手を振り上げリツコを叩く。

　　　「なんとかなさいよ！あんたが造ったんでしょ！最後まで責任取りなさいよ！」

　　　赤く腫れるリツコの頬。叫び散らすミサトに彼女は目を合わせることが出来なかった。

　　　――二日目――

　　　白い部屋で彼女は目覚めた。

　　　「……まだ……生きてる」

　　　生きてるという事は、使徒が殲滅されたという事。

　　　あの時……Ｎ２爆雷は効かなかった、と思う。

　　　なら、弐号機パイロットが倒したのね……。

　　　体を起こしてみるが特に痛んで動けないという事は無い。

　　　患者着を着たままフラフラと部屋を出るレイ。

　　　……弐号機パイロットは、何処……。

　　　ソレはすぐに見つかった。自分の隣の病室に「惣流・アスカ・ラングレー」とある。

　　　ノックもせずにドアを開けて中に入った。

　　　心電図が表示される機械。人工呼吸器がつけられ、至る所に包帯が巻かれている。

　　　その包帯の数……自分よりも、酷い怪我で寝ているという事はすぐに分かった。

　　　特に右腕は酷い。肩の辺りまでギブスに覆われている。

　　　「……」

　　　観察するようにじっと眺めるレイ。

　　　やがて、彼女の瞳が開く。

　　　「……ファー……スト？」

　　　「ええ……」

　　　弱弱しく聞こえる彼女の声。何時もの覇気は感じられない。

　　　「初号機は……シンジは、どうなったの……？」

　　　「え……？貴女が使徒を倒したのではないの……？」

　　　「アタシ……ダメだったんだ。勝てなかった……でも、シンジが来てくれて、私生きてる……」

　　　碇君が、どこかに居る。

　　　守るべき人が。

　　　「……碇君、何処？」

　　　――７日後――

　　　初号機ケージ。そこには素体が剥き出しの部分を包帯でまかれたエヴァが居る。

　　　剥き出しの赤い球体……あれは、使徒のコアに良く似ている。

　　　剥き出しの歯、そして緑の気色悪い目。

　　　そんなエヴァを……アスカはぼうっと見ている。

　　　「アスカ……またここに居たの？」

　　　アスカの後ろからミサトの声がする。

　　　そちらには振り返らずに彼女は答えた。

　　　「うん」

　　　「全く……まだ貴女は安静にしてなきゃ……」

　　　「わかってる……」

　　　初号機に取り込まれたシンジ。

　　　化学変化を起こしたＬＣＬ。そして彼の魂と呼べる物もまだあるらしい。

　　　今、ネルフでは彼を再構成するサルベージ計画が急ピッチで進んでいる。

　　　帰ってきたシンジ。でもそのために彼は……。

　　　……ごめん、ごめんね、シンジ……やっぱり、アタシ。アンタが居ないとダメみたいね……。

　　　結局負けたアスカ。その胸に宿る物は、後悔か、懺悔か、悲しみか。

　　　そっとアスカの肩に手を置くミサト。

　　　「大丈夫。シンジ君は帰ってくるわ」

　　　「……そうよね。帰る場所があるんだから」

　　　同居人。他人の三人。

　　　だけど今は……本当の、家族のように。

　　　あとは黙って初号機を見上げる二人。

　　　アスカが初号機を訪れるのは、サルベージの日まで続けられて……彼女の日課となった。

　　　……早く帰ってきて。

　　　そんな願いを込めて。

　　　……何処だ、ここ。

　　　浮いているのか、沈んでいるのか。

　　　立っているのかそれとも宙を浮いているのか良く分からない。

　　　エントリープラグ……？初号機の？

　　　見覚えがあるその風景。確かにエントリープラグだ。

　　　だが……何処にも自分が居ない。

　　　自分の体が……無い。

　　　なんだろう……このイメージ。

　　　頭に流れ込んでくる謎だらけの映像の羅列。

　　　戦う自分。チェロを弾く自分。笑う自分。そして怒る自分。

　　　自分を構成する、情報の集まり。

　　　それがあって自分が成り立っている。

　　　自分の体は無いのに、不安感というものが全く無い。

　　　……そう、だ。後悔したくなくてエヴァに、初号機に乗って使徒と戦って……それから……。

　　　動かないエヴァ。２桁を切るシンクロ率。

　　　結局、僕は無意味だった。

　　　帰ってきても、エヴァは動かせず、ただ使徒にやられていただけで。

　　　もう――――役には立たない、自分。

　　　――シンジの、帰る場所はあるんだから。何時でも――

　　　誰かの台詞。誰かのコトバ。

　　　誰からの言葉だったのか、もうよく思い出せない。

　　　引っかかる。とても。

　　　だから思い出そうと懸命に――。

　　　「ほら、アンタの居場所はここなんだから。そんな事思い出さなくてもいいのよ」

　　　目の前に現れるアスカ。

　　　「そう……だったっけ」

　　　「ここには辛い事も、悲しい事も無いの。ただ快楽だけの世界。だから、ずっとここにいましょ」

　　　……温かく包まれる。

　　　「ほら……私と一つになろ？」

　　　突き抜ける快楽。

　　　「あ……ああ……」

　　　「気持ちイイでしょ？ねえ？もっと気持ちよくなろうよぉ」

　　　何も、考えられなくなっていく。

　　　意識が濁る。濁る。濁るのは自分。

　　　「あす……かっ」

　　　「もっと、心を開いて――」

　　　ココロ。心を？

　　　「もっと、心を解き放って――」

　　　なんだか……疲れて、来た。

　　　もう、このまま。

　　　眠って、しまい、たい。

　　　――ユイは……お前達に明るい未来を見せるためだと、言っていた――

　　　ごめん、なさい。

　　　母さん……僕は、ダメだった。

　　　消えていく自分。終わる自分。

　　　――楽しいことの裏返しは辛い事。その二つがあってこそ成り立っているものだ――

　　　それは。

　　　いったい、誰の言葉だったろうか。

　　　――ねえねえ、他に何かレパートリーないの？――

　　　――あるんでしょ？それで埋め合わせでいいからさ――

　　　…………。

　　　――と・も・か・く！帰って特訓よ！なんとしてもレイとアスカを見返してやるのよ！――

　　　――さ、帰るわよ！――

　　　…………このまま。

　　　――ばかばかばかっ！ミイラ取りが……ミイラに……ううっ――

　　　……このまま。

　　　――あ、あんたが……居なくても……あ、あたしが居るから心配、しないで――

　　　このまま……終わっても、いいのだろうか。

　　　「どうして？」

　　　――……あ、綾波……あす、か……――

　　　――このまま、彼女達を喪うのか――

　　　本当に……。

　　　――後悔、しないように――

　　　本当に、消えても、いいのだろうか？

　　　「ここがシンジの居場所なのよ」

　　　――まあ、そのうち見つかるさ。自分の好きなこと、楽しい事、自分の居場所を――

　　　――じゃあ、ばいばい。シンジが帰ってくるまで、あそこはアタシが守るから――

　　　自分を、僕を、待っている人が。

　　　帰る場所が。

　　　「もうエヴァは動かせないわよ？」

　　　役に立たない自分。

　　　でも……。

　　　エヴァに乗れなくても。

　　　待っている人が居る。

　　　居場所なんてそこら中にあるんじゃ、ないだろうか。

　　　ただそれに気づかないだけで。

　　　誰のために、彼女達は戦ったのだろうか。

　　　「忘れた方が、楽だよ？快楽だけの、ここに居ようよぉ」

　　　誰のために、自分は戦ったのだろうか。

　　　「それは……嘘だ」

　　　「えっ……？」

　　　「快楽だけの世界なんて、ありえない」

　　　「……」

　　　辛い事があるから、楽しいって感じられるんだと。

　　　漸く、自分の言葉を思い出した。

　　　「どんなに……辛いことがあっても。帰るんだ。あそこに」

　　　彼女の――アスカの元へ。

　　　――ここは貴方の家でもあるのよ――

　　　家族。

　　　――これが使徒迎撃戦用要塞都市第3新東京市、私たちの町よ。そして……――

　　　――あなたが守った町よ――

　　　今こそ、それが実感になる。

　　　「もうエヴァに乗れないとしても……」

　　　「……やぁっとわかったのね、シンジ」

　　　「……自分を、見失わない」

　　　「そう。その強い意志があれば。大丈夫」

　　　「うん」

　　　――シンジの、帰る場所はあるんだから。何時でも……待ってる――

　　　「さあ、帰りなさい。彼方の家に。彼方を待っている人のところに」

　　　「――！？あ、貴女は……！？」

　　　歪む世界。消えていく、誰か。

「生きていれば、何処だって天国なんだから」

……母さん。

　　　サルベージ中、プラグがイクジットされＬＣＬが流れ出す。

　　　多くの関係者が見守る中、サルベージは失敗する。

　　　「おかえりなさい、シンジ君」

　　　「ただいま……ミサトさん」

　　　「お……おかえりっ。シンジっ」

　　　「アスカ……ただいま」

　　　だが……。

　　　碇シンジ。無事、帰還。

　　　帰る場所があるのだから……。

To be continued……

　　　次回予告

　　　ミサト「……（真っ赤）」

　　　マヤ「……（真っ赤）」

　　　アスカ「……（極超真っ赤）」

　　　リツコ「……（やや赤面）」

　　　レイ「…………＃」

　　　ミサト「ちょっとヤヴァイんじゃないの？」

　　　リツコ「まあ、ギリギリよ」

　　　ミサト「ギリギリかい……」

　　　リツコ「ふう……しかしまた見事に出番が投げ捨てられたわ＃」

　　　ミサト「わ、私はあったからいいもん。次もあるし」

　　　リツコ「おのれ……＃」

　　　ミサト「お願いだから呪いは勘弁してっ！」

　　　冬月「次回、新世紀EVANGELION・Another 第拾七話「せめて、自分らしく」

　　　ゲンドウ「勝負の時だな」

　　　冬月「ああ」

感謝の言葉：

シンジは現世に戻り、時は進む。
それは誰のシナリオなのか…。

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