リツコの研究室。そこでは誰かと電話で話す彼女がいる。

　　　デスクの上に置かれた灰皿にはぎっしり詰まった吸殻。

　　　「そう……居なくなったの、あの子」

　　　久しぶりにかかってきた実家からの電話。

　　　「……ええ多分ね。猫にだって寿命はあるわよ。もう泣かないでお婆ちゃん」

　　　飼っていた猫が突然姿を消した。そんな内容の電話。

　　　「時間が出来たら一度帰るわ。母さんの墓前にも、もう３年もたってないし。
　　　　今度は私から電話するから……じゃ、切るわよ」

　　　通話を切って、デスクに置かれた猫の置物を見る。

　　　「そう。あの子が死んだの……」

　　　「ロンギヌスの槍……そして初号機。何故使用した」

　　　使徒を貫いたロンギヌスの槍は、第一宇宙速度を突破して月軌道をゆっくりと回っている。

　　　「回収は我らの手では不可能だ」

　　　「エヴァシリーズ、まだ予定には揃っていないのだぞ」

　　　浮き上がるモノリス。「ＳＯＵＮＤ　ＯＮＬＹ」とかかれているそれは、人の声をしながら無機質そのものだ。

　　　その中心にはゲンドウ。

　　　「使徒殲滅を優先させました。止むを得ない事情です」

　　　「止むを得ない、か。言い訳にはもっと説得力を持たせたまえ！」

　　　「最近の君の行動には目に余るものがあるな」

　　　突然、ゲンドウのデスクから電話の呼び出し音が鳴り響く。

　　　「……冬月、審議中だぞ。……わかった」

　　　受話器を置く。

　　　「使徒が現在接近中です。続きはまた後ほど」

　　　「その時、君の席が残っていたらな」

　　　退席する間際に浴びせ掛けられる皮肉。

　　　ゲンドウは何も言わずに消えた。

　　　「碇。ゼーレを裏切る気か」

　　　０１とかかれたモノリス。その声は紛れも無くキール・ローレンツ。

　　　「ぅん……」

　　　目元をグシグシ擦りながら手元の時計を見る。

　　　時刻は朝の６：３０。何時もよりも早い時間。

　　　まだ眠りたいと思いつつ身を起こす。

　　　ぼりぼり……。

　　　頭をかいてからベッドから飛び降りた。

　　　「うーーーん……」

　　　両手を突き上げて思い切り背伸び。

　　　首を回すと間接がごきごき鳴る。

　　　身をほぐした後洗面所へ。

　　　ザーーーー。

　　　冷たい水で顔を洗うと一気に覚醒する。

　　　タオルで顔を拭きながら鏡に写る自分を見た。

　　　笑っているような締りの無い顔。

　　　……む。

　　　顔を引き締める。

　　　一瞬シリアスな顔になったとおもったが、すぐに笑顔に戻る。

　　　どうも……アレだ。

　　　自分は、幸せを感じているらしい。

　　　満たされている……というのか。　　　

　　　心の平穏。この世に生を受けてから始めての。

　　　使徒に心を侵されても。もう、大丈夫。

　　　そんな事がどうでもいいくらいに……今、幸せだから。

　　　この時間……まだ寝てるかな。

　　　急に寝顔が見たくなって足音を立てないよう、なお且つ高速でシンジの部屋に向かう。

　　　……居ない。ちぇ……もう起きてる。

　　　ダイニングではシンジが朝ご飯を作っていた。

　　　勿論こっちには気づいていない。

　　　…………ちゃーんす。

　　　そっと背後から忍び寄る。

　　　そしてびっくりさせようと息を大きく吸い込む。

　　　声を出そうとした瞬間……シンジが後ろを振り向いた。

　　　「……おはよう。何、してたの……？」

　　　――ぽむっ。

　　　真っ赤に染まる自分の顔。

　　　とてもとても顔が熱いから。

　　　「……え？手伝いに来た……？朝食の？」

　　　何とかごまかしてみる。

　　　「…………じゃあ。そこの皿を……」

　　　ピッと指差すその方向には、積まれた食器類。

　　　「…………」

　　　心配そうにこちらをチラチラ見るシンジ。

　　　……な、何よ。このくらいできるわよっ……。

　　　「…………………」

　　　暫くすると料理に専念するためか、コンロの方を向くシンジ。

　　　お皿を並べるとやる事が無くなる。

　　　まだ寝ていると思われるミサトを起こしに行く。

　　　「ふぁぁあああ……おはよう」

　　　そんな台詞が良く似合うミサトが今日は起きていた。

　　　しかも服まで着込んでいる。

　　　「……アスカ？おはよう」

　　　使徒戦の次の日。帰ってきたミサトに抱きしめられたのを思い出した。

　　　「良かったわね、アスカ」

　　　彼女には全部わかったのかもしれない。アスカが大丈夫だという事を。

　　　それはどういう事なのかというのを。

　　　「……シンジ君を呼んで来て。使徒よ」

　　　一瞬で非現実な世界に戻された。

　　　「まだ、来るんだ」

　　　弐号機は頭部破損のため戦闘には出れない。

　　　明日、ようやく部品が届いて修理……という話だった。

　　　すぐに着替えてミサトの車でネルフを目指す。

　　　窓から見える輪っかのような姿の使徒。

　　　「後１５分でそっちに着くわ。零号機を３２番から地上に射出」

　　　携帯を切りもう一度使徒を見る。

　　　「使徒を肉眼で確認……か。シンジ君も着いたらすぐに発進よ」

　　　「……はい」

　　　シンジの方を向く。さっきまでの緩やかな表情ではない。

　　　こんな……生活が、何時まで続くんだろう。

　　　使徒との戦い。そのたびに何かを傷つけていく。

　　　……もし、彼を失ってしまったら。

　　　そんなことを思って身震いした。

　　　「零号機発進。地上直接迎撃位置へ」

　　　射出され、その場で待機する零号機。

　　　「目標は大涌谷上空にて滞空。定形回転を続けています」

　　　拡大してみると二重螺旋のようになっている使徒をじっと見るレイ。

　　　「目標のＡ・Ｔ・フィールドは以前健在」

　　　「パターン青からオレンジへ……周期的に変化しています」

　　　「ＭＡＧＩは？」

　　　白衣のポケットに手を突っ込んだままのリツコがマヤに聞く。

　　　「回答不能を提示しています」

　　　……推測するまでのデータが足りないのね。

　　　「ただあの形が固定形態でないのは確かね」

　　　「……レイ、その場で待機。初号機が来るまでは、だ」

　　　不在のミサトの変わりに指示を出すゲンドウ。

　　　「いえ――――来ます」

　　　回転が止まる使徒。二重螺旋が一つに……重なった。

　　　ブツリと一部分が切れて棒状になり、零号機に向かってくる。

　　　「レイ、パレットライフルで応戦して」

　　　「だめです！間に合いません！」

　　　反撃する間を与えずに零号機の腹部に突撃する使徒。

　　　Ａ・Ｔ・フィールドでガードするがすぐに突破されてしまう。

　　　零号機の中に入り込んでくる使徒。接触していない部分を掴んでライフルを浴びせる。

　　　「くっ！」

　　　表面がＡ・Ｔ・フィールドで覆われているためなのか、ライフルの弾丸が弾かれる。

　　　「目標、零号機と物理的接触！」

　　　「使徒が一時的に接触を試みているの！？零号機と」

　　　太い血管が浮き出るようなそんな変化を遂げていく零号機。

　　　ソレを抜き取ろうと懸命にもがく。

　　　「くぅ……」

　　　そんな零号機と同じようにパイロットのレイにも変化が現れる。

　　　「危険です！零号機の生体部品が侵されていきます！」

　　　何……？この感じ。

　　　誰かを感じる……。

　　　「目標更に侵食！」

　　　「危険ね……すでに５％以上が生体融合されているわ」

　　　「初号機は？」

　　　太く響くようなゲンドウの声。

　　　「今パイロットが到着！エントリー準備に入りました！」

　　　私？エヴァの中の私？

　　　……いえ。私以外の誰かを感じる。

　　　あなた……誰？

　　　「使徒……私達が使徒呼んでいるヒト」

　　　――私と一つにならない？――

　　　「いいえ。私は私……あなたじゃ、ないもの」

　　　――そう？でもダメ。もう遅いわ――

　　　「…………」

　　　――私の心を分けてあげる。この気持ち、貴女にも分けてあげる――

　　　――イタイでしょ？ほら、心が痛いでしょ？――

　　　「痛い……いえ、違うわ。寂しい……」

　　　――寂しい？わからないわ――

　　　「一人で居るのがイヤなこと。私達は沢山居るのに、一人で居るのがイヤなこと。それが……寂しい」

　　　――そう。じゃああの人と一つになりたいのね？――

　　　「――――！？」

　　　「初号機発進準備完了！」

　　　「……出撃だ」

　　　ようやく発令所に到着するミサト。

　　　「遅いわよ！」

　　　「ゴメン！」

　　　打ち出される初号機。最終安全装置が解除され、自重で前に傾く。

　　　この感じ……何。

　　　懐かしいの……？

　　　――帰りたいでしょ。そう、帰りたいでしょ――

　　　「わからない……」

　　　――私はあなた。あなたは私。だからわかるの――

　　　「っ！」

　　　瞬間、現実に引き戻されるレイ。彼女の太股に水滴が落ちている。

　　　「これが……涙？何故、泣いてるの……私」

　　　零号機の背骨あたりが異様に変形していく。盛り上がっていく何か。

　　　天を掴むかのように。

　　　「シンジ君、Ａ・Ｔ・フィールド展開！レイの救出急いで！」

　　　「――ハイっ！」

　　　シンジのＡ・Ｔ・フィールドに反応するように使徒が動いた。

　　　「碇君っ！？」

　　　初号機に向かって伸びていく使徒。

　　　うねりながら移動してくるそれに標準を合わせられない。

　　　「……くっ」

　　　ライフルを投げ捨て使徒を両手で掴む。

　　　この使徒……自分にも侵食しようと……？

　　　そして、掴んだ手が狂う。

　　　――気持ちいいでしょ？ほら気持ちいいでしょ――

　　　「はぁっ……」

　　　――もっと気持ちよくなりたいでしょ？あの人を自分で埋め尽くしたいでしょ？――

　　　「わた……し、は……」

　　　「零号機を破棄！パイロット救出を最優先！プラグ射出信号送って！」

　　　「ミサトっ！？」

　　　「ダメです！零号機、信号拒絶！」

　　　「なんですって――！」

　　　……自分の手が変形していく。

　　　「――ふふふ、あははは――」

　　　あ、やな……み？

　　　ウェポンラックからプログナイフを取り出す。

　　　……綾波を助けないと！

　　　使徒をナイフごと地面に突き刺して動けないようにする。

　　　「アァァァアアアアアアアアアアアアア！」

　　　「……！！」

　　　吹き出る血。そして使徒の叫び声はレイにそっくりだった。

　　　く……っ！迷ってる、場合じゃない！

　　　零号機に駆け出すシンジ。

　　　――ほら、あの人がもうすぐくる。一つになれる――

　　　「わたし……の、心？」

　　　――そう。貴女の心。あの人を自分のモノにしたいって。メチャメチャになるくらい！――

　　　変形した零号機。それをシンジは呆然と見上げる。

　　　……ぷ、プラグは……。プラグは……何処だ！？

　　　その何処にレイの乗るエントリープラグがあるかわからない。

　　　変形した零号機の部分が……また、変形した。

　　　「……な！」

　　　手。それは無数の手。

「――碇君、碇君、碇君――」

　　　無数に伸びてくる手。

　　　……ぞっとした。身震いするほどの恐怖。

　　　初号機を、シンジを捕まえようと伸びてくる。

　　　「ミサト！弐号機出してッ！」

　　　「む、無理よアスカ！頭部の修復がまだッ！」

　　　……これじゃあ、あの時と正反対じゃない！

　　　ダンッ！

　　　歯がゆい想いに壁を叩く。

　　　「く……そっ！」

　　　何度も何度も避けつづけるシンジ。

　　　零号機から距離が離れていく。

　　　もう……避けきれない！

　　　いくら反応が良くても……。

　　　こんな埋め尽くすほどの。モニターを埋め尽くすほどの手を……避けきれるはずが無かった。

　　　捕まれる腕、足、体……。

　　　そして、彼女の、思いが流れ出してくる。

　　　碇君、碇君……。

　　　寂しい、寂しい……。

　　　一つに……一つに……。

　　　「だ……めっ！」

　　　「零号機、Ａ・Ｔ・フィールド反転！一気に侵食されます！」

　　　「使徒を押さえ込むつもり！？」

　　　変形した部分も、使徒すらも。無数の……手も。

　　　吸い込まれていく。膨れ上がった零号機のコアに。

　　　それはまるで妊娠したかのよう。

　　　「フィールド限界……これ以上はコアが維持できません！」

　　　「レイっ！機体は棄てて逃げて――――っっっ！！」

　　　「ダ……メ……。わた、しが居なくなったら。Ａ・Ｔ・フィールドが消えてしまう……」

　　　使徒を押さえ込んでいるＡ・Ｔ・フィールド。

　　　それがなくなれば、零号機を乗っ取る。そして……彼を食いつぶすだろう。絶対に。

　　　……私は、私。

　　　一緒になりたい……。

　　　でも、碇、君は……碇君。

　　　「だか、ら……だめ」

　　　エントリープラグの、レバーを引く。ＭＯＤＥ：Ｄ……それは自爆シーケンス。

　　　「レイ……死ぬ気……？」

　　　走った。走った、必死で走った。

　　　零号機からエントリープラグを取り出す。そして綾波を助ける！

　　　例え……間に合わないと。わかっていても――。

　　　「コアがつぶれます！臨界突破！」

　　　……ま、まって……！ああああああ！ま……って！

　　　そんな必死の願いも。

　　　つぶれていくコア。

　　　最後に、零号機は誰かを掴もうと……その手を伸ばす。

　　　「―――っ！？」

　　　不意に、温かい気配がして振り向くレイ。

　　　そこには……シンジが泣いていた。

　　　こぼれる涙。

　　　そして……爆発が、第三新東京市を飲み込んでいく。

　　　願いは、届いては……くれなかった。

　　　零号機の爆発跡。そこには芦ノ湖から流れる水で新しい湖が出来ていた。

　　　「第十六使徒の構成物質は未だ発見できず」

　　　その湖から少し離れた森林の中……。ネルフの職員が防護服を着てなにかの作業をしている。

　　　「赤木博士……」

　　　そこには、零号機のエントリープラグがある。

　　　中には、真っ黒に熱で炭化した……レイの姿。

　　　「このことは極秘とします。プラグは回収、関係部品は処分して」

　　　「了解。作業、急げ！」

　　　「ついに第十六の使徒までを倒した」

　　　「これでゼーレの死海文書に記述されている使徒は……あと一つ」

　　　「約束の時は近い。その道のりは長く、犠牲も大きかったが」

　　　「左様。ロンギヌスの槍につづき、エヴァ零号機の損失」

　　　「碇の解任には十分過ぎる理由だな」

　　　「冬月を無事に帰した意味のわからぬ男でもあるまい」

　　　「新たな人柱が必要ですな、碇に対する」

　　　「そして事実を知るものが必要だ」

　　　研究室で猫の置物を無心で見つめるリツコ。

　　　――ピッ。

　　　パソコンのキーを叩く。

　　　モニターには、若き日のゲンドウ。母親。そして若き日の自分が写る写真。

　　　それを見て彼女は何を思うのか。

　　　「うっ……ううっ……」

　　　聞こえるのは誰かの嗚咽。

　　　「シンジ……」

　　　腫れ物に触るように優しく頬を伝う涙をふき取るアスカ。

　　　「綾波は、僕を……守るために……」

　　　「……だから、ファーストの分まで生な、いと」

　　　「くうっ……あああっ……」

　　　悔しそうに無く彼を優しく抱きしめる。

　　　彼を慰める言葉が思いつかなくて、アスカは抱きしめる事しか出来なかった。

　　　そんな二人に近づくミサト。

　　　「シンジ君……。あなたは精一杯やったわ……。胸を、はって……いいわ」

　　　涙を流しながら頭を撫でる。

　　　――朝。

　　　「うる……さい……」

　　　けたたましく鳴る電話。

　　　机に突っ伏したまま寝ていたミサトが起き上がる。

　　　「はい……？……な、なんですって！」

　　　飛び上がってシンジの部屋に駆け込む。

　　　「シンジ君起きなさい！シンジ君！」

　　　泣きつかれて眠っている彼を揺さぶる。

　　　「……ぁ、さ……？」

　　　「シンジ君起きて！レイが、レイが！！」

　　　「！！」

　　　その言葉で、瞬間的に覚醒した。

　　　――ネルフ本部第一脳神経外科――

　　　「はあ、はあ、はあ……。綾波ッ！」

　　　彼女が、生きていた。

　　　それを聞いてネルフの病院へ。

　　　窓からの風景を眺めていたレイがシンジに向き直る。

　　　「よ……よかった……い、生きてて……」

　　　うまく、しゃべれない。

　　　「何が？」

　　　「零号機で自爆して……も、もう……死んだ、のかと……思ってた」

　　　「そう……なの？」

　　　「覚えて――無いの？」

　　　「いいえ、知らないの。……多分、私は三人目だと思うから」

　　　――ネルフ本部司令室――

　　　「そうだ、ファーストチルドレンは現状維持だ。新たな拘束の必要は無い。
セカンド、サードに関しても同様だ。監視だけでいい」

　　　「しかし、レイが生きていると分かれば……キール議長らが五月蝿いぞ？」

　　　向かい合うゲンドウと冬月。

　　　「ゼーレの老人達には別のモノを差し出してある……心配無い」

　　　その、差し出した者。

　　　モノリスが浮かぶ中、全裸のリツコが居る。

　　　「我々も穏便にことは進めたい。君にこれ以上の陵辱……辛い思いはさせたくないのだ」

　　　ナンバー０１、キールのモノリスと向かい合う。

　　　「私は何の屈辱も感じていませんが」

　　　「気の強い女性だ。碇がそばに置きたがるのも分かる」

　　　「だが、君を我々に差し出したのは他でもない――碇君だよ」

　　　僅かに……リツコの繭がつりあがる。

　　　「零号機パイロットの尋問を拒否。代理人として君を寄越したのだよ。赤木博士」

　　　レイの代わりに……私が……？

　　　…………なんて、惨めなの。私は……。

　　　そこから返された後も、リツコは自問自答を繰り返す。

　　　……私は、だめなのね。

　　　なんて、なんて―――無様っ。

　　　暗い目。そこには、狂気が潜んでいた。

　　　――ミサトのマンション――

　　　「ファーストはどうだったのよ」

　　　「……」

　　　「シンジ？」

　　　……三人目、って……一体……。

　　　「……無事、だったよ」

　　　何かを言おうとしたアスカを遮るように電話のコールが鳴る。

　　　「……はい？」

　　　「そのまま聞いて。あなたのガードを解いたわ。今なら自由に外に出られるわ」

　　　「リツコさん……？」

　　　「レイの秘密、エヴァの真実を教えてあげるわ……。そうね、アスカも連れていらっしゃい」

　　　「…………わかり、ました」

　　　静かに受話器を戻す。

　　　「行こう……アスカ」

　　　「どこへ？」

　　　「……知るための、ところに」

　　　――ネルフ本部、ターミナルドグマ――

　　　カードスロットにパスコードを打ち込んで、スロットに自分のカードを通すリツコ。

　　　……？エラー？

　　　「無駄よ。私のパスが無いとね」

　　　撃鉄がおろされる音と、冷たい銃口の感触。

　　　「そう……加持君の仕業ね」

　　　「ここの秘密、見せてもらうわよ」

　　　「いいわ。ただし……この子達も一緒にね」

　　　「シンジ君、アスカ！？」

　　　壁の影から出てくるシンジとアスカ。

　　　シンジは厳しい表情で。アスカは複雑な表情で。

　　　「この子達も真実を知る権利があるわ……そうでしょ？」

　　　「……いいわ」

　　　――人工進化研究所　３号分室――

　　　長く深いエレベーターの先にそこはある。

　　　照明が点されると、塵の積もったベッド。そして何に使うか分からない機械。

　　　机の上に置かれたビーカーと錠剤。

　　　……ここは……。

　　　「綾波の、部屋……？」

　　　「綾波レイの部屋よ。彼女が生まれ育った部屋。
レイの深層心理を構成する光と水は……ここのイメージが強く残っているの」

　　　そう、牢獄みたいな、部屋。

　　　「リツコ。私はここを見に来たのじゃないのよ」

　　　「分かっているわ……」

　　　次の部屋は……だだっ広い部屋だった。

　　　そこには無数のエヴァのようなものがある。

　　　「エヴァ、なのこれ？」

　　　その光景に驚くアスカ。

　　　「最初のね。失敗作よ。十年前に破棄されたわ。ここはただのゴミ棄て場よ。そして……」

　　　「シンジ君……アナタのお母さんが消えた所でもあるのよ？覚えているでしょ？死んだお母さんの最後を」

　　　「――――っ！？」

　　　脳裏をよぎる、記憶。

　　　過去の記憶。最後の母は、笑っていた。

　　　そんな記憶。

　　　「リツコっ！」

　　　「ふっ……」

　　　拳銃を構えるミサトをあざ笑うリツコ。

　　　震える手を、温かい手が握り締めた。

　　　……アスカ。

　　　次の部屋……そこは心臓の音のようなものが聞こえる所だった。

　　　「これがダミープラグの元なの？」

　　　「真実を見せてあげるわ……」

　　　周りが明るくなる。

　　　そこには、無数の少女が漂っている。

　　　「ふ、ファースト！？」「綾波、レイ！？」

　　　シンジとアスカの台詞が重なる。

　　　途端、そこにいる全てのレイが二人を見た。

　　　「ま、まさかっ！エヴァのダミープラグは！」

　　　「そう……ダミーシステムのコアとなる者。その生産工場」

　　　「これが……」

　　　「ここにあるのはダミー。そしてレイのためのただのパーツに過ぎないわ。
　　　　人は神様を拾ったので喜んで手に入れようとした。だからバチがあたったの。それが１６年前。
　　　　折角拾った神様も消えてしまった。」

　　　セカンド、インパクト。

　　　「でも今度は神様を自分達で復活させようとしたの。それがアダム。
　　　　そしてアダムから神様に似せて人間を造った。それがエヴァ」

　　　……アダムの分身？

　　　「本来魂の無いエヴァには人の魂が宿らせてあるもの。皆サルベージされたものなの。
　　　　初号機には碇ユイ。そして弐号機にはキョウコ・ツェペリン」

　　　「なっ！！」

　　　「そ、そんな！」

　　　「シンジ君？お母さんの遺体は見た？無かったでしょうソンナモノ！」

　　　じゃ、じゃあ……初号機にいたのは、本物の……！？

　　　「アスカ。貴女のお母さんが狂ったのは、エヴァとの接触後じゃなかった？狂ったのは弐号機に魂をむしりとられたからよ！」

　　　……う、嘘っ……。

　　　「り、リツコ―――ッ！！」

　　　「殺したいならころしなさい。まだ、話は終わってないわ。その後にして頂戴……ふふっ」

　　　狂っているようなワライを零す。

　　　「綾波レイ。彼女の体は沢山ある……だけど魂は一つ。
　　　　だから肉体が滅んでも魂は受け継がれる。記憶なんてほとんど残らないけどね」

　　　……だから、おぼえていなかった？

　　　「レイはね、リリスとそしてシンジ君。あなたのお母さんから出来ているのよ。
　　　　だからあの子は彼方に好意をもっていたんでしょうね。
　　　　母親が、子供を愛するかのように――――！」

　　　そ、ん、な……。

　　　あの時、感じた。あれは……母親を、感じていたのか！？

　　　「――人を！心を！もてあそんで、何が――ッ！」

　　　「アハハハ……とても愉快だわ。私が憎い？私も狂うほど憎いのよ！だから全部壊すの！」

　　　スイッチの後に、彼女達は崩壊していく。

　　　「あんた、何してるのかわかってるの！」　

　　　「もういいの。どうでも。私は勝てなかった……こんな玩具に。あの人のことを考えるだけでどんな陵辱にも耐えられた！
馬鹿なのよ、私は。親子揃って、大馬鹿者だわっ……」

　　　――ガンッ！

　　　壁を殴りつける。綾波レイは、生きているが……死んでしまった。

　　　生きていたと騙されて。そして突き落とされる。

　　　取り戻せない、半身。

　　　永遠に戻らない、半身。

　　　もう……涙しか、出なかった。

To be continued……

　　　次回予告

　　　悪魔が、顔を擡げるようにやってくる。

　　　死神が、彼を刈り取ろうとやってくる。

　　　新世紀EVANGELION・Another 第拾九話「最後のシ者」

感謝の言葉：

喪われた人の大切さは、失うまでわからない…。
壊れていく日常、そして…。

さ、続きが読みたいと思った人は感想メールで催促しましょう♪