…………長い、沈黙の後。静かに口を開く。

　　　「最近、辛い事、ばかり、だね……」

　　　「ばかっ。辛いのはシンジでしょうが！」

　　　彼の胸を力なく叩くアスカ。

　　　「……」

　　　ぎゅっとアスカの肩を抱く。

　　　「でも……。だいじょう、ぶ」

　　　例えどんなに辛くても。

　　　例え胸が張り裂けそうでも。

　　　「生きなきゃ……」

　　　野原から見える風景を、静かに二人は見ていた。

　　　「綾波は死んでしまった……。でも。アスカは、死なせない。絶対に」

　　　どんな困難が待ち受けていようとも。

　　　この身が砕け散っても。

　　　――神聖な、誓い。

　　　「わ、わかってるわよっ」

　　　「うん。……そうだよね」

　　　「な、なんか……ぷ、プロポーズ……みたい」

　　　最後の方は口篭もって殆ど聞こえないような声だった。

　　　「そう……かな？」

　　　「…………うん」

　　　夕焼けに染まる第三新東京市。

　　　ぽっかりと湖が出来上がっているそこは、綺麗にオレンジ色に染まっている。

　　　……クラスの皆は、もう居ない。

　　　家を失ったクラスメイト達。ほとんど疎開してしまった。

　　　トウジはあれから暫くして治療のために別の所に移されている。

　　　……もう、３年生になってたんだよな……。

　　　何時の間にか、年はあけて。

　　　何時の間にか、学年は上がっていた。

　　　年が明けたのは……初号機にとりこまれたあたりだったか。

　　　学年が上がったのはアスカと初めてキスしたあたりだったか。

　　　学校にも全然行ってない。だからそういうのは曖昧。

　　　綾波のことは。もういい加減けじめをつけないと。

　　　この後悔はきっと死ぬまで引き摺るかもしれない。

　　　目の前で大切な人を失う。それは酷く心を蝕む。

　　　でもそれに押しつぶされて、自分を失うことは……できない。

　　　戻ってきた時の、あの気持ちに嘘だけはつきたくないから。

　　　そして……今度こそは。誰も死なせない。

　　　大切な人を。大好きな人を。――アスカを。

　　　遠くに映るは、零号機の破片……。夕焼けに照らされて。その墓標は落ちた天使のよう――。

　　　……鼻歌？

　　　聞いたことのあるメロディ。誰かの鼻歌が静かに聞こえてくる。

　　　そこには、長い髪を靡かせて夕日を見つめる少女。

　　　「歌はいいわね……。リリンの生み出した文化の極み。そう思わない？碇シンジ君？」

　　　真っ白な素肌に、銀色の髪。

　　　その髪の毛が夕焼けに照らされてキラキラと輝く。

　　　「僕の名前を……？」

　　　「知らない者はないわ。もっと自分の立場を知った方がいいわよ？」

　　　……立場。エヴァ初号機専属操縦者。

　　　少しは人と違う立場かもしれないけれど。

　　　「君は……？」

　　　「私？私はエヴァ４号機専属操縦者……渚カオル。フィフスチルドレン。零号機の代わりよ」

　　　……知らなかった。４号機、何時の間に。

　　　「よろしく……渚さん」

　　　「カオル、でいいわよ。碇君？」

　　　「……シンジでいいよ」

　　　「ふふっ」

　　　なんだか……普通に話せる。初対面なのに。

　　　不思議な、子だな。

　　　場所は変わり、ネルフ本部へ直行するカートレイン。それに積まれている車はミサトのルノーのみ。

　　　「フィフスチルドレンが今到着したそうです」

　　　「零号機の代わりの４号機。その専属操縦者……か」

　　　「これ、資料です。葛城さん」

　　　日向から資料を受け取るミサト。偶然本部まで行く途中だったので日向も同行している。

　　　「ありがと。……渚カオル。過去の経歴は……抹消済み？」

　　　レイと、同じ。

　　　「生年月日はセカンドインパクトと同一日になってます」

　　　あからさまに怪しいわね。

　　　「委員会が直接送ってきた子よ。必ず何かあるわ」

　　　「マルドゥックの報告書もフィフスの件は非公開となっています」

　　　……非公開？いえ、知らないのね。

　　　マルドゥック機関。エヴァンゲリオン操縦者を選出するための機関。

　　　その正体はネルフそのもの……碇司令。

　　　「それもあって、ちょっと諜報部のデータに割り込みました」

　　　「あ、危ない事するわね……」

　　　「その甲斐はありましたよ。……リツコさんの居場所です」

　　　あれから行方不明になっているリツコ。

　　　おそらくはネルフ本部のどこかに拘束されている。

　　　「今日のシンクロテストどうします？」

　　　「ま、彼女の実力を見せてもらいましょ」

　　　――ネルフ本部内エスカレーター――　　　

　　　エスカレーターを登るレイ。着いた先にはカオル。

　　　「貴女がファーストチルドレンね。綾波レイ……。貴女は私と同じ。
お互いにこの星で生きていく体はリリンと同じ形に行き着いたのね」

　　　「……あなた、だれ？」

　　　くすっと笑うカオルに対して、訝しげにカオルを見るレイ。

　　　――パイロット専用女子更衣室――

　　　「惣流・アスカ・ラングレーさんね？」

　　　「……は？アンタ誰？」

　　　着替えをしている途中に突然入ってきた少女。

　　　同じ学校の制服を着ているが見たことも無い。

　　　固まるアスカに簡単に自己紹介するカオル。

　　　「へぇ……４号機のパイロットねぇ」

　　　「……くすっ」

　　　「何がおかしいのよ？」

　　　「ごめんなさい。気を悪くしたかしら？」

　　　……なんなの、この女。

　　　「何か用？」

　　　「そうね、宣戦布告というものかしら？」

　　　「……ハァ？」

　　　「碇シンジ君は、私が貰うわ」

　　　シンクロテストが終わった後。シンジを待つアスカ。

　　　そのご機嫌はナナメどころか直角になりつつある。

　　　理由は一つ。横に、カオルが居る。

　　　こ、この女……っ。ぬけぬけと！

　　　そ知らぬ顔で壁に寄りかかっているカオル。

　　　「何かしら？」

　　　「……」

　　　顔をそむけて完全に無視。

　　　「あらあら……。そんな調子だとシンジ君に棄てられるわよ？」

　　　すてられる。その言葉に思い切り反応するアスカ。

　　　「ばっかじゃないのっ！シンジはアタシを捨てたりなんかしないわっ！」

　　　「……くすっ」

　　　「っんの――――！」

　　　カオルの笑いは酷く癇に障る。殺意、というもの初めて感じた。

　　　ゲートが開いて一輪の風が二人を突き抜ける。

　　　「……？アスカ！？」

　　　アスカを……そしてカオルを視界に捕らえたシンジは驚いた。

　　　彼女がカオルに手を上げようとしていたからだ。

　　　「っ！帰るわよ！シンジ！」

　　　有無を言わさず、むんずとシンジの手を掴んでそのままスタスタとシンジを引き連れていく。

　　　……一体、どうしたんだ？

　　　訳もわからないままアスカに連行されるシンジ。

　　　仲が絶望的に悪い……みたい。

　　　「またね、シンジ君」

　　　「あ、ああ……」

　　　家に着くまでアスカは何も言わないままだった。

　　　ついたときの第一声。

　　　「い・い！あの女にはぜーーーーーーーったいに近づいたらダメ！」

　　　「……なんで？」

　　　「あの女はアンタを狙ってるからよ！」

　　　「カオルさんが？」

　　　その時、アスカの怒りはピークに達した。

　　　どうも先に接触されていたらしい。しかも名前で呼ばせている。

　　　あ、あ……あの女ッ！

　　　「……アスカ」

　　　「何よ！」

　　　「信じて」

　　　短いけどはっきりとしたシンジの台詞に急激に萎んでいく怒り。

　　　「…………う、ん」

　　　優しいシンジの顔。そして二人は久しぶりにキスをした。

　　　「ふぅ……」

　　　ミサトのため息。色々疲れも溜まっている。

　　　加持の残した情報で真実を密かに探る。それに加えて謎のフィフス。

　　　「ただいまぁ」

　　　でも、そんな気苦労もここだけは無くなる。

　　　「おかえり〜」

　　　「おかえりなさい」

　　　出迎えてくれる二人。心底ほっとする場所。

　　　今日は。二人には伝えなければならないことがある。

　　　「シンジ君、アスカ。あの少女。フィフスには気をつけて」

　　　全力をあげてＭＡＧＩが調査したにもかかわらず未だ正体不明。

　　　４号機とのシンクロ率がほぼ１００％のフィフス。

　　　ゼーレが送り込んできた、彼女。

　　　「もちろんよ！」

　　　うんうんと頷くアスカ。

　　　……？何か、あったのかしら？

　　　ミサトの気をつけてという言葉。それをアスカは勘違いしているようだ。

　　　しかし、シンジは……厳しいミサトの表情をじっと見ていた。

　　　ヴゥン……。

　　　「ネルフ。我らゼーレの実行機関として結成された組織」

　　　「我らのシナリオを実践するために用意されたモノ」

　　　「だが……今は一個人の占有機関と成り果てている」

　　　「左様。我らの手に取り戻さねば」

　　　「約束の日の前に」

　　　「ネルフとエヴァシリーズを本来の姿にしておかなければならぬ」

　　　「碇。ゼーレへの背任。その責任は取ってもらうぞ」

　　　早朝。カオルは一人で第四芦ノ湖の辺に居た。

　　　「人は無から何も造れない。人は何かに縋らなければ何も出来ない……。人は神ではないですからね」

　　　ヴゥン……。

　　　カオルの目の前にモノリスが現れる。

　　　「だが、神に等しき力を手に入れようとしている男が居る」

　　　「我らの他に、再びパンドラの箱を開けようとしている男が居る」

　　　「そこにある希望が現れる前に、箱を閉じようとしている男が居る」

　　　「……希望？あれがリリンの希望ですか？」

　　　「希望の形は人の数ほど存在する」

　　　「希望は人の心の中にしか存在しないからだ」

　　　「だが……我らの希望は具象化されている」

　　　「それは偽りの継承者である黒き月よりの我らの人類。その始祖たるリリス」

　　　「そして正当な後継者たる白き月よりの使徒。その始祖たるアダム」

　　　「そのサルベージされた魂は君の中にしかない」

　　　「だが、再生された肉体はすでに碇の中にある」

　　　「シンジ君の父親。彼も私と同じ……」

　　　「だからこそお前に託す。我らの願いを」

　　　消え去るモノリス。暫し考え込んでいたカオルが口を開いた。

　　　「わかっています。そのために私はここに居るのですから」

　　　そんなカオルを監視している人が居る。

　　　超望遠双眼鏡でカオルを見るミサト。

　　　「だめだわ……ここからじゃ口の動きが見えない」

　　　後ろ向きのカオル。読唇術を知っているミサトは何か彼女の手がかりを探ろうとしていた。

　　　「それにしてもこんな朝っぱらから独り言を言うために散歩とはね……。危ない子」

　　　喋り終わった直後。カオルがこちらを見ぬいた。

　　　「……！？気づかれた…？まさかね」

　　　双眼鏡を外すミサト。彼女との距離は数十キロ以上離れている。

　　　「くすっ……。全てはリリンの流れのままに」

　　　ネルフ本部特殊拘束室。そこに彼女はいる。

　　　「よくこられたわね……」

　　　俯いたままのリツコ。

　　　「聞きたいことがあるの」

　　　「ここでの会話。録音されるわよ」

　　　「構わないわ。あの少女の、フィフスの正体は何？」

　　　「おそらく……最後の使者」

　　　――パイロット専用男子更衣室――

　　　「ふぅ……」

　　　今日も、テストか。

　　　続けられる訓練。そして続く使徒との戦い。

　　　……いったい、何時になったら、終わりがあるんだろうか。

　　　そんな事を考えていると、ドアの開く音がする。

　　　……ん？変だな……。

　　　男性のパイロットはトウジを除いてシンジしかいない。

　　　そのトウジはここにはいない。だからシンジ以外ここを使う者も、またあける者も居ないのだ。

　　　それに……ドアにはロックがしてあったと思ったけど……。

　　　内側からかけられたはずのロック。外からは外部コンピュータからしかロックは解除できない。

　　　それから解除できるのは二尉以上のクラスのみ。

　　　「シンジ君」

　　　「カオルさん……？」

　　　まっすぐに立つカオル。

　　　閉まるドア。

　　　半分裸のシンジ。その彼に向かってトツトツと近寄る。

　　　「……？どうしたの？」

　　　ぼうっとするシンジを彼女はふっと笑いながら押し倒した。

　　　「――――っ！？」

　　　少し頭を打って視界が途絶える。

　　　……なんだ！？

　　　視界が戻ると、そこにはいっぱいになった彼女の顔。

　　　「――んぐぅッ！」

　　　強引な、キス。

　　　「やめろっ！」

　　　力いっぱいに振り払うシンジ。

　　　「ふふっ……。アスカさんに操を立ててるの？」

　　　――しゅるっ……――

　　　布擦れの音。リボンを解いて服を脱ぎ捨てる。

　　　「なッ！」

　　　「好きだよ……シンジ君。だから、ね」

　　　抱きついてくる彼女。

　　　「んぐッ……！」

　　　強引な二度目のキス。ねじ込まれる舌。ねじ込まれる唾液。

　　　「んーーっ！んーーっ！」

　　　跳ね飛ばそうとするが、首元までがっしり抱きつかれてはがせない。

　　　とろっ……。

　　　引き抜かれる舌。

　　　「ほら……私、凄く興奮してるの……」

　　　手を捕まれ、その胸のふくらみに。

　　　すぐに手を打ち払って彼女から逃げるように距離を稼ぐ。

　　　「あら……？リリンだったら普通は……」

　　　「なんの……つもり？」

　　　「女が男の部屋に来る……。一つしか理由がないでしょ？」

　　　「……」

　　　わからない……理性ではわからない。

　　　でも、本能では敵だと。

　　　「予想していたより、意思が固いのね」

　　　「……君は……」

　　　「簡単に手に入るのだと思っていたけれど、難しいわね。リリンは」

　　　……彼に取り入って、そして彼自身で、私と決別する……。

　　　心に絶対的なダメージを与える。それが私の使命。

　　　その手段は厭わないと。だからこういう手を使ったのに……。

　　　「うん……本当に、好きになっちゃうわね」

　　　ゼーレのシナリオ。そのためには彼には壊れてもらわなければならない。

　　　強固な彼を崩すには、男を崩すにはコレが一番はずであった。

　　　人は、リリンは欲望に弱い。

　　　すぐに黒く……闇に染まってしまう。

　　　なのに……彼は純粋だった。

　　　「……追いかけてきてね、シンジ君。じゃないと、皆死ぬわよ？」

　　　フッと、彼女は靄のように部屋から出て行く。

　　　――エヴァ４号機ケイジ――

　　　白金色のボディをもつ４号機の前に彼女はいた。

　　　「さあ、行くわよ。おいでアダムの分身。そしてリリンの僕……」

　　　ブリッジから冷却液の海に歩いていくカオル。

　　　足場はないはずなのに……落ちない。

　　　そして徐々に体が浮き上がる。彼女の漆黒だった瞳の色が真っ赤に変わる……そう綾波レイのように。

　　　背後にあった４号機の目が軋んだように閃いた。

　　　「エヴァ４号機起動！」

　　　「――なッ！！あの子が乗ってるの！？」

　　　「無人です。４号機にエントリープラグは挿入されていません！」

　　　……誰も居ない？フィフスの少女ではないの？

　　　「セントラルドグマにＡ・Ｔ・フィールドの発生を確認！」

　　　「４号機！？」

　　　――ＢＬＯＯＤ　ＴＹＰＥ：ＢＬＵＥ　１７ｔｈ　ＡＮＧＥＬ――

　　　「いえ、パターン青。間違いありません！使徒です！」

　　　「……くっ。やはり」

　　　モニターには４号機に守られるようにドグマへと降りていくカオル。

　　　「目標は第四層を通過、なおも降下中！」

　　　「だめです、リニアの電源は切れません！」

　　　「目標は第五層を通過！」

　　　「セントラルドグマの全隔壁を緊急閉鎖！少しでもいい、時間を稼げ」

　　　身を乗り出して指示をだす冬月。

　　　「マルボルジェ全層、緊急閉鎖。総員退避。総員退避！」

　　　次々と閉められていくパイプと通路。

　　　「まさか……ゼーレが直接送り込んでくるとはな」

　　　「老人は予定を一つ繰り上げるつもりだ。我々の手で」

　　　ヴゥン……。

　　　「人は、愚かさを忘れ……同じ過ちを繰り返す」

　　　「自ら贖罪を行わねば人は変わらぬ」

　　　「アダムや使徒の力は借りぬ」

　　　「我々の手で未来へと変わるしかない」

　　　「碇。君は良き友人であり、志を共に目指した仲間であり、理解ある協力者だった。初号機による遂行を願うぞ」

　　　ズガァァァン！！

　　　「装甲隔壁はエヴァ４号機により突破されています」

　　　踏み潰される隔壁。エヴァの前には隔壁など無意味だ。

　　　「目標は第二コキュートスを通過！」

　　　「エヴァ初号機、弐号機に追撃させろ」

　　　「……はい」

　　　「いかなる方法をもってしても、目標のターミナルドグマ侵入を阻止しろ」

　　　「あの女が使徒！？」

　　　「そうよ、アスカ」

　　　あの女……最初から裏切るつもりでシンジに……！

　　　「……行こう、アスカ」

　　　シンジの呟きにコクリと頷く。

　　　……使徒。人の形をした。

　　　――……追いかけてきてね、シンジ君。じゃないと、皆死ぬわよ――

　　　わか、ってる。サードインパクトを、起こさせるわけには行かない。

　　　全ての迷いを断ち切るかのように、シンジはレバーを引いた。

　　　「エヴァ初号機、弐号機降下開始！目標を追撃中！」

　　　「初号機及び弐号機、第四層に到達。目標と接触します」

　　　下に続く通路。そこに４号機と彼女が見えた。

　　　……いたっ！

　　　「ふふっ……ようやく来たのね。」

　　　「渚ーーーッ！！」

　　　「あらあら……招かざるお客様がみえてるわ。４号機、彼女を足止めして」

　　　弐号機に襲い掛かる４号機。

　　　「こんのォォォォォォォォォォッッッ！！！」

　　　プログナイフを同時に出して切りあう。同じ動きでこう着状態に陥る弐号機。

　　　そんな彼女をあざ笑うかのようにカオルは一人、最下層を目指して降りる。

　　　「弐号機、４号機と交戦中！」

　　　「初号機は？」

　　　「目標を追撃中！」

　　　「止まれぇぇぇぇっ！」

　　　少しでも足止めするためプログナイフをカオルに投げつけるシンジ。

　　　だが、それは金色の壁に遮断される。

　　　「Ａ・Ｔ・フィールド……！」

　　　「そう、彼方達リリンはそう呼ぶわね。なん人にも侵されない聖なる領域……心の光。
リリンも分かっているんでしょ？Ａ・Ｔ・フィールドは誰もが持つ心の壁って」

　　　くすくすとした笑い声。いったい何がおかしいのか。

　　　「…………カオルッ！」

　　　「やっと呼び捨てで呼んでくれたわね……嬉しい。じゃあ、行きましょう……」

　　　祈るように目を閉じるカオル。

　　　ズゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウン！

　　　突然の衝撃がネルフを襲う。

　　　「どうしたの！？」

　　　「これまでに無い強力なＡ・Ｔ・フィールドです！」

　　　「光波、電磁波、粒子も遮断しています！何もモニターできません！」

　　　「目標、及びエヴァ３機共にロスト！パイロットとの連絡も取れません！」

　　　全ての計測システムが不能に陥る。

　　　もはやこちらから連絡を取ることも、彼らの様子を探ることも出来ない。

　　　「まさに結界か」

　　　……シンジ君、アスカ。

　　　ギャリリリリリリリリリ！

　　　プログナイフ同士がぶつかり激しい火花が飛ぶ。

　　　……これ、アタシの動きをトレースしてる！？

　　　初号機とは随分離れてしまった。じりじりとした焦り。

　　　あの女と、シンジを二人っきりにさせてはいけない。

　　　それは確信的なもので。

　　　これ邪魔っ！邪魔なのよッ！

　　　「アアアアアアアアアアアアアアッ！」

　　　もう一度プログナイフを振り下ろす弐号機。そして同じく４号機も。

　　　だが、その４号機のプログナイフを逆の手で受け止める。

　　　痛っ……！

　　　手に平に突き刺さるナイフ。そして痛み。

　　　そのままナイフごと手を掴んで４号機に攻撃させないようにする。

　　　「消えろォォォォォ！」

　　　プログナイフを渾身の力で４号機に突き刺した。

　　　めりこんでいくナイフ。その時、またしても衝撃波のようなものが撫でた。

　　　……な、何！？

　　　「状況は？」

　　　「Ａ・Ｔ・フィールドです」

　　　「ターミナルドグマの結界周辺に、さっきと同等のＡ・Ｔ・フィールドが発生」

　　　「結界の中へ侵入していきます！」

　　　「新たな使徒！？」

　　　「ダメです確認できません！……あ、いえ、消失しました！」

　　　データがぷっつりと掻き消えるモニター。

　　　……消えた？使徒が！？

　　　いったいなんなのよ！

　　　「くっ……」

　　　ターミナルドグマ、最下層ジュデッカ。

　　　ゆっくりと降り立つ初号機。結界が張られた時に彼女を見失ってしまった。

　　　慌てて周囲を見回すと遠ざかる彼女の姿。

　　　浮いて進むカオル。その先には……。

　　　最後を守るドア。彼女がそれを見ただけでロックは解除される。

　　　「最終安全装置、解除！」

　　　「ヘブンズドアが開いていきます……」

　　　いつでも自爆させられるようにキータッチを準備している日向。

　　　「日向君。その必要は無いわ」

　　　「葛城さん！」

　　　「信じましょう。あの二人を」

　　　磔にされたリリスの目の前を静かに浮くカオル。

　　　その頭上には……彼女を冷たく見下ろすレイ。

　　　「ふふっ。やはりリリスね」

　　　その白い巨人。顔は仮面で覆われていて、素顔を窺い知る事は出来ない。

　　　そこに……初号機がやってくる。

　　　「……使徒」

　　　「そう、彼方達の敵よ」

　　　対峙する、カオルとシンジ。

　　　「さあ、その手で私を殺して」

　　　「なっ――！」

　　　「そうしないと、人間は死んでしまう。滅びの時を免れ、未来を与えられる生命体は一つしかえらえばれない……」

　　　「…………」

　　　「……くすっ。本当に優しいね。こんな時にも躊躇するなんて」

　　　「カオルさん、あなたは……」

　　　「本当は、ここで彼方に殺されたい……。でも、それをさせたくない。これが矛盾……」

　　　「――――」

　　　かみ締めるように呟くカオル。

　　　「でも、彼方は倒さなければならない。私を」

　　　……そう。彼女が使徒なら、倒さなければ、ならない。

　　　でも、目の前には人が。人間が。

　　　「さあ、殺して……」

　　　…………長い、葛藤。

　　　だけど、初号機は動いてはくれなかった。

　　　「もう……もう……なんて酷い人。私を抱いてくれなかったのに」

　　　「……俺は……」

　　　「最後くらい……私の言うと通りにしてほしかったな……」

　　　「…………」

　　　沈黙。

　　　「ふふっ……ダメね。シンジ君とアスカさんの絆……強いね。私なんかじゃ壊せないくらいに」

　　　「……！？」

　　　雰囲気が……変わった？

　　　「希望は人の数だけそんざいする……かぁ。彼方達なら未来をつかめるかもしれない」

　　　「カオル、さん……」

　　　「私の目的は、彼方の気持ちを私に向かせて、そして最後は彼方に殺させる。彼方を傷つけるために」

　　　「…………そんな……」

　　　「ゼーレ。彼らのシナリオを本来の方向へ強制的に修正するために、私は来たのよ」

　　　「……ゼーレ」

　　　「ネルフを裏で操る組織。そして破滅を呼ぶものたち」

　　　「破滅を……？」

　　　「そう。使徒ではなく自分達でサードインパクトを起こそうとしているの」

　　　「……なんのために？」

　　　「自分達の都合のいい世界をつくるためよ」

　　　ズガァン！

　　　４号機を踏み倒して弐号機。

　　　「シンジーーっ！そいつから離れてっ！」

　　　「良かったわね。アスカさん。あなた、凄く愛されてる」

　　　「……えっ？」

　　　「だって押し倒しても拒絶されちゃったし。私」

　　　「な！」

　　　「……シンジ君と仲良くね」

　　　「あ、あんた……！」

　　　「使命がどうでもよくなるくらいに、好きになっちゃったから」

――だから自分で消える――

　　　光……。そう光に包まれていく彼女。

――今度は、人間に生まれますように――

　　　そんな、カオルの願いが。

　　　聞こえたような……気がした。

　　　そして、彼女は消え去った。

　　　忽然と。

　　　最後の使徒は消え。

　　　第三新東京市に風が吹く。大きな……大きな風が吹く。

　　　次回、「この世の全てに、愛を」

To be continued……

　　　後書き

　　　多角的にやばい描写ですんません……。

　　　しかし、ついに終わりに近づいてきました。

　　　シンジ君を本当に好きになったから、ゼーレを裏切った彼女。

　　　４号機は確か白金色だったはず（笑）

　　　稚拙な小説ですが、もう少しお付き合い願えれば助かります。

　　　〜おまけの次回予告〜

　　　カオル「今回の私の（色々な☆）活躍……ちゃんと見てくれたかな？」

　　　アスカ「ちょ、ちょっと……」

　　　カオル「さて、次回のストーリーだけど」

　　　アスカ「なんでアンタが予告やってるのよ！」

　　　カオル「またしても私。つまりカオルが大活躍☆」

　　　アスカ「あんたの出番はおわったのよ！」

　　　カオル「ハイパーチルドレンとなった私が、ばったばったと敵をなぎ倒す」

　　　アスカ「もう出ないのよ！」

　　　カオル「次回、新世紀EVANGELION・Another 第弐拾話「帰ってきたカオル」見てね」

　　　アスカ「そんなタイトルじゃなーーーーーーい！」

　　　……元ネタ分かった人、メールください（笑）喜びます（笑）

感謝の言葉：

使徒は滅びた…その結果は同じ。
けれど、過程は異なり、それは、多分、意味のあること。

　使者は去り、未来を決めるのはヒト自身…。

さ、続きが読みたいと思った人は感想メールで催促しましょう♪