あの命を賭けた戦いの日々から、既に１５年の月日が流れようとしていた……。

「碇カスミの戦い」第弐拾六話　まごころを、君に
　　　　　　　　　　　　　　　　作・スニフ

「んふふ〜ん♪」
ＮＥＲＶ本部の廊下を鼻歌まじりで進み行くのは、元ＥＶＡ弐号機パイロット、惣流・アスカ・ラングレー博士その人である。長身でグラマラスな体を白衣に包み、朱金の髪をなびかせて歩くその姿は、ＮＥＲＶ本部の男性職員の憧れの的となっていた。
かつて１４歳だった頃の彼女は、兄と慕う男性と前髪の形を同じにしていた。そして今の彼女は、姉と慕う女性のかつての髪型とまったく同じにしている。身体の線を強調したファッションも、作戦部にいた頃のミサトを思い起こさせた。

アスカはリツコの後を継ぎ、ＮＥＲＶ技術部の部長を勤めている。もちろん、使徒と戦っていた頃とは技術部の役割りも変化し、ＮＥＲＶの独占しているオーバー・テクノロジーを民間に活用するための研究を行う場所となっていた。
ゲンドウは相変わらずＮＥＲＶの総司令を勤めていたが、リツコは野に下って一介の研究員となっていた。そして勇退したコウゾウの代わりに、ミサトが副司令を勤めている。
リョウジは技術管理部と言う部署の長に収まり、ＮＥＲＶの持つ技術の悪用を監視したり産業スパイの暗躍を未然に防いだりなど、相変わらず影の仕事を担っていた。
ちなみにカスミは技術部第５課特別プロジェクト・チームの長となり、レイはその助手を勤めているが、これは対外的には閑職扱いのポストだった。

世界の名声を浴びてるアスカとは対照的に、カスミは未だ無名の研究員のままであった。しかし、今日と言う日を境に、状況は一変するはずである。十数年来の親友の快挙に、アスカのニヤニヤは治まりそうになかった。
「どんな顔してんのかしらね〜、アイツ。今頃はレイと熱い抱擁を交わしてる真っ最中かしら？　…『よくやったわ、カスミ』『ううん、レイちゃんのお陰よん』…とか何とか言っちゃって！　ケケケ！」
廊下でいきなり１人芝居を始めたアスカを恐れて女子職員が逃げ出したのだが、すっかりご機嫌になってしまっている彼女はそれに気付かなかった。
アスカはカスミの研究室まで来ると、勢いをつけて飛び込んだ。
「カスミぃ〜〜、レイぃ〜〜、おめでとう！！」
………
………
アスカの予想に反して、物静かな研究室ではレイが１人、ぽつんと紅茶を入れているところだった。思わず固まるアスカ。
「？　どうしたの？」
「はぁ〜〜〜ん！？　どうしたの、じゃないってーの！！　アンタ、今日のニュース見てないの！？」
「見てないわ。さっき起きたばかりだもの。…昨日はカスミと、ほとんど徹夜で今後のプログラムの検討をしてたから」
寝不足気味のところにアスカのハイ・テンションに付き合わされ、レイは少しムッとしていた。
「カスミはっ！？」
そんなことはお構いなしに、アスカが大声で喚き散らす。
「仮眠室。まだ寝てるわ。…天使みたいな寝顔だった…」
そう言ってぽっと頬を赤らめるレイ。相変わらずだった。
「んだぁ〜〜〜〜〜！！　世界中が大騒ぎのときに、当事者だけが呑気に寝てんじゃない、ってーの！！　今すぐ起こせ！！　そんでメールぐらい見ろぉぉぉ〜〜〜！！」
アスカのこめかみの血管はよく破裂しないものだと感心しながら、レイは端末を立ち上げた。
「うぅ〜〜、アスカうるさい〜〜」
研究室の奥の仮眠室からふらふらとゾンビのような足取りで現れたのは、今日の主役となる予定の碇カスミ博士その人だった。
カスミもレイも、ＥＶＡのパイロットをやっていたあの頃から髪型は変えていなかった。成長の遅かった２人は、結局小柄で童顔のまま大人になってしまったこともあり、１４歳の頃から何ひとつ変わっていないように見える。
また、２人とも白衣の下は、ひらひらの付いたカントリー調のワンピースだ。周りから散々口を出されたにも関わらず、少女趣味の中身も変えることは出来なかったらしい。
「おはよう、カスミ」
「おはよう、レイちゃん」
抱き合っておはようの口付けを交わす２人。その呑気な光景に、アスカのイライラは最大限に膨らんでいた。
「さっきも誰か来てなかったぁ〜？」
起きたばかりの、カスミの間延びした声。
「副司令よ。カスミが寝ていることを告げたら、すぐに帰って行ったわ…」
そう言ってレイは、アスカを意味ありげな視線で見た。
「ミサトも来たんだ？　ったく、どうせならこの馬鹿叩き起こせばよかったのに！」
「うぅ〜〜、アスカ酷い〜〜」
「…」
のんびりと抗議するカスミと、嫌味が通じず嘆息するレイ。と、その２人の後ろで立ち上がったばかりの端末から、メール着信音が次々と鳴り続けた。
「わ、何ぃ〜？」
２人が端末の前に集まるのを見て、ニヤリと笑うアスカ。
「メール着信……３２９件！？」
「……あなたね？」
とがめるような視線で振り向いたレイに、アスカは再び血をたぎらせた。
「んだぁ〜〜〜〜〜！！　アタシはストーカーかっ！？　一緒に送られて来たニュースを開きなさい、ってーのっ！！」
カスミは言われるままに端末を操作して、そのままレイと共に絶句した。
「ふふん、ど〜お？　アタシがここに来た意味、やっとわかったみたいね」
「嘘……嘘だよ、こんなに早く……」
カスミの脚は小さく震えていた。
「…そんな……間違いではないの？」
レイの声も少し掠れ気味だ。
「今アンタ等と共同研究してる、プリンストンの連中が再調査中よ。あと６時間後には新しい報告が送られて来るはずだわ」
端末の画面には、顕微鏡で撮られた元気に動き回る微生物のムービーが映し出されていた。それはどこにでもいるような平凡なシアノ・バクテリアだ。だがニュースには、こう但し書きが加えられている―――セカンド・インパクトの爆心地から５０ｋｍの海域で採取された、生きたままの生物―――と。
再調査を行っていると言っても、これは既に配信されたニュースだ。信頼度が高いことは明らかだった。
「これで人類は、セカンド・インパクトから本当の復興を始めることができるわ…」
アスカの言葉に、カスミは驚いたように振り向いた。
「わ、私…」
「なぁ〜にシケた面してんのよっ！？　アンタの研究の成果が実ったんじゃない！」
そう、カスミの率いる特別プロジェクトの目的は、死の世界となった元南極大陸の海域の再生であったのだ。先程の大量のメールは、世界中の研究室とマスコミからの祝電と問い合わせだった。
モニターを熱心に眺めていたレイは、やがて優しげな笑みを浮かべた。
「おめでとう、カスミ。…よかったわね」
その言葉に驚いたカスミは、今度はレイに振り向いた。そして弱々しく首を振り続ける。
「ううん………違う、違うモン。レイちゃんやアスカやお義母さんや……みんな、みんなが助けてくれたからだモン……」
そう言ってはらはらと涙を流すカスミ。その姿は小柄で童顔だと言うこともあり、１４歳の頃の彼女を思い出させた。
自分の予想を裏切らなかった展開に、アスカは柔らかく苦笑する。
「１番頑張ったのは文句なくアンタだわ……。胸を張りなさいよ、たまには」
「カスミ……あなたは、自分の夢を果たせたのよ。…よくやったわね」
「うぅ〜〜〜〜、レイちゃぁ〜〜〜〜ん！！」
レイの胸に抱き着いてカスミは泣き出した。レイとアスカはイタズラっぽく顔を見合わせた後、優しげな視線でそんな彼女を見守った。

と、ドアが開いた。
そこに立っていたのは、線の細い、どこかカスミの面影を持った中学生の少年だった。その姿を認めると、レイは迎えるような笑顔になり、アスカは何故か頬を染めた。カスミは少年の来訪に気付かないのか、まだレイの胸で泣き続けている。
「あれ？　姉さん、どうしたの？」
１５も年上の姉が泣いてる姿に、彼は目を丸くした。
「あ、シンジ……」
「アスカが虐めたの？」
「んだぁ〜〜〜〜〜！！　馬鹿シンジ！！　アンタはアタシを何だと思ってるのよっ！？」
「だ、だって…」
「ち、違うの、シンジ。姉さん、嬉しくて泣いてたのよ」
カスミは慌てて涙を拭うと、シンジに向かって微笑んでみせた。
「それで、今日はどうしたの？　学校は？」
「今日は土曜だよ」
「あ、そか。研究室にこもってると曜日の感覚がなくなっちゃうね」
「姉さん、これ、母さんから」
そう言うとシンジは、鞄から数枚のＭＯディスクを取り出した。
「それ、私が頼んでたデータだわ。ありがとう、シンジ」
レイが笑顔と共にディスクを受け取った。用事を済ませると、シンジは３人の大人を見渡した。
「それで、嬉しいことって何？」
その問いに、何故かレイは頬を染め、カスミは涙を滲ませ、アスカは胸を反らした。ますます混乱するシンジに、アスカがビシッっと指を突き付けた。
「聞いて驚きなさいよ！　アンタの姉さんが！　トップとなって推進してた地球再生計画が！　ついに成果を実らせ始めたのよっ！！」
「……ふーん…」
「あ、アンタ馬鹿ぁ！？　何冷めたリアクションしてんのよっ！？」
「だ、だって…」
「まあまあ、いいからアスカ、感動を強要しないであげて」
カスミが苦笑しながらシンジを庇うように立ちはだかると、アスカはさらに頬を膨らませた。
「あ、でも姉さんのやって来たことが認められた、ってことだよね」
「うふふふ、私が喜んでたのは、そんな小さなことじゃないわ…」
小さく苦笑した後、カスミは慈愛に満ちた視線を遠くに投げ出した。
「これで…この地球が、また力強い命を生み出せる星に戻るの……。すべての生命体がその恩恵を受けることができる、この星本来の姿に戻るのよ……。こんなに嬉しいことってないわ…」
そう言うと、カスミは熱狂的な溜め息を漏らした。涙の乾き切ってない瞳はキラキラと輝き、頬が上気させたその姿は艶っぽく、その場の人間の心をとりこにした。
しばらく皆と一緒にカスミに見とれていたアスカは、我に返ると再びシンジにビシッと指を突き付けた。
「よ〜〜し、馬鹿シンジ、明日の日曜はアタシに付き合いなさい！」
「何でさ？」
「アンタ、マジで馬鹿ぁ！？　アンタの姉さんのお祝いを買うのに付き合え、ってーの！！」
「あ、そっか。別にいいけど…」
「よしっ！　決まりだからね！」

シンジがカスミの研究室を去ると、頬を赤らめたアスカと、ニヤニヤ笑うカスミとレイが残された。
「……何よ？」
「んふふ、べっつにぃ〜」
「カスミをダシに使うなんて……」
「ななな、何がよっ！？」
「よかったね、シンジとお買い物に行けて♪」
「シンジは未成年よ？　節度ある付き合いをお願いね」
「ばばば、馬っ鹿じゃないの！？　何でアタシがあんな中学生とっ！！」
「あれぇ〜〜？　そんなこと言っていいのかなぁ？」
「……渚カヲルが恋人と別れたらしいわ」
その話にはアスカだけでなく、カスミもきょとんとした顔で振り向いた。
「カヲル君の恋人って、いつだか街で会ったときに一緒にいた男の子だよね？」
「ええ。彼が前に赴任していた学校の生徒」
元チルドレンの中では、カヲルだけがＮＥＲＶを離れ、普通の高校教師となった。久しぶりに会ったカスミ達は、最近移動で女子校へ赴任させられたカヲルから愚痴に付き合わされたのだが、内心ではいたいけな少年が彼の毒牙にかかる確率が減ったことに安堵していた。
「ま、アイツ、変態っぽいトコあるしね。逃げられたんでしょ？」
アスカが肩をすくめてみせる。
「そんな呑気な話をしてて、いいの？　彼の好みって、繊細な少年だと言っていたのに…」
「あはは、ウチのシンジみたい」
「シンジは繊細って言うより、情けないだけよねぇ〜〜」
「あ、アスカ酷ぉ〜〜い！」
アスカのからかいに、姉馬鹿のカスミは、ぷっと頬を膨らませる。そんな平和な光景にレイは……
「この前渚カヲルが家に来たとき、シンジに色目を使っていたわ…」
Ｎ２兵器並みの爆弾を落とした。
蒼白となって振り向くカスミとアスカ。
「れれれ、レイちゃん、それホント！？」
「ばっ、なっ、あンの馬鹿ぁ〜〜〜！」
「もしかすると彼、シンジに近付くために恋人と別れたのかも…」
「ああああ、アスカ、シンジが変な道に走っちゃったらどうしよう！？」
自分のことは思い切り棚に上げて狼狽えるカスミ。
「あんな変態野郎にアタシのシンジを獲られてたまるか、ってーの！！」
………………
「あ、認めた…」
「……」
唖然とするカスミと、ニヤリと笑うレイ。アスカは我に返り、昔自身が着ていたプラグスーツの色よりも真っ赤になった。
「なっ、ばっ、アンタ卑怯よっ！」
「いえ、今のは自爆だわ」
「んふふふ、だってアスカって、バレバレなんだモン」
「むぅ〜〜〜〜」
「アスカってショタコンだったのねぇ…」
カスミが頬に手を当て、しみじみと呟いた。
「アスカにフラれた男の人達、どう思うかしらね」
レイもポツリと言う。
「うっさい！　アタシだって何であんな、あんな……」
頭を抱えて苦悶するアスカ。
「しょうがないよ。シンジ、あんなに可愛いんだモン」
（姉馬鹿ね…）
満面笑顔のカスミに、心の中でそっとツッコミを入れるレイ。

そんな騒ぎの中、研究室のドアが再び開いた。
「あら、みんな揃ってるわね」
「「ミサト（さん）！」」
「副司令」
女性用の士官服にまとめた髪。ミサトもこの１５年の歳月で、落ち着いた大人の女性へと成長していた。
「さっき廊下でシンジ君に会ったけど、彼、ここに来てたのね」
ミサトはアスカの顔を一瞥すると、すぐに納得顔で頷いた。
「…何でわかるのよ？」
「だってアスカ、顔真っ赤じゃない」
そう告げるとニヤリと笑う。
「み、ミサトにもバレてるしっ！」
「アスカ、自分の気持ちを隠してるつもりだったの？」
「バレバレなのに」
「気付いてないのはシンジぐらいなものだわ…」
「むぅ〜〜〜〜〜〜」
アスカは益々顔を赤らめると、呻くことしかできなかった。
「それでミサトさん、どうしたんですか？」
「そうだ、忘れるトコだったわ」
アスカをからかうことに夢中になっていた彼女は、自分の用事を思い出すと、カスミとレイに居ずまいを正して向き合った。
「カスミ、レイ、本当におめでとう」
「ミサトさん…」
その一言で涙の乾いたカスミの瞳は、再び潤んでしまった。
「そして……本当に、本当にありがとう」
そしてそれは、ミサトも同じであった。セカンド・インパクトの地獄を間近で目撃した彼女にとって、今回のニュースは万感たる思いがあったのだ。
「もちろん、アスカもね」
「あ、アタシ！？」
神妙な顔つきになっていたアスカは、その言葉に慌てる。
「そうだよ。だってアスカも忙しいのに、色々手伝ってくれたじゃない」
「ええ、そうよ。だからありがとう、アスカ」
「だ、だってカスミのやってること考えたら当たり前じゃん、そんなの」
アスカが照れ隠しでそっぽを向くのを見て、ミサトの笑顔はさらに深くなった。
「……ホントに、あなた達は私の誇りだわ…」
そうしみじみと語るミサトの目には、自分の前に並んだ３人の科学者が、プラグ・スーツを着ている少女の姿に見えていた。
幾度とない絶望的状況から這い上がって来てくれた３人。当時のミサトはこの３人の上官になれたことに、何度感謝を捧げたことだろう。
そして今回も、この３人は大きな仕事を成し遂げてくれたのだ。ミサトが誇りに思う気持ちに、少しの偽りもなかった。
「記者会見では、堂々と胸を張ってね」
「き、記者会見！？」
カスミの目が丸くなる。
「アンタ馬鹿ぁ？　ニュースの重大性を考えたら、そんなの当ったり前じゃん！」
世界の表舞台に場慣れしているアスカが呆れた。
「そっか、そだよね？」
冷静に事態を把握すると、途端にカスミの落ち着きがなくなった。相変わらずの小心さに、３人は苦笑するしかない。
「うぅ〜〜、どうしよう？」
「こらこら、今から緊張しないの」
「ったく、いつになっても頼りないんだから」
「そんなところも可愛いわ…」
しかし、レイもレイで相変わらずだった。思わず嘆息するアスカとミサト。
「カスミ、記者会見には私も司令も出るんだから、そんな負担に思わないで。世界中の研究室に協力を要請するためにも、今回の情報公開は大事、でしょ？」
「は、はい」
覚悟を決めたのか、カスミは顔を引き締まらせた。
「それじゃ、祝賀会やなんかのスケジュールもこっちに任せて。あちこちに引っ張り回さないで済むように、ちゃんと手配はするから」
「は、はい。あの…」
「ん？」
「スピーチの時間は短かめでお願いしますね」
その言葉に吹き出すミサトとアスカ。こうして２人の来客は、自分達の仕事をこなすためにカスミの研究室を引き上げて行った。

嵐が過ぎ去った後のような静けさに取り残された２人。実を言うと、カスミもレイも、まだ夢の中にいるような感覚でいた。
２人きりになったことで、先程のニュースをさらに強く意識してしまう。
「私……まだ信じられない……」
「ええ…」
「ホントに……ホントに……」
そう言いながら、カスミはまたもや涙を滲ませた。
「レイちゃん、私のほっぺ、つねってみて」
「わかったわ…」
レイはそっとカスミの頬に手を当てると、その言葉に優しいキスで応えた。
「レイ、ちゃん…」
「しっかりして、カスミ。私達の仕事は、これで終わりではないわ…」
カスミがハッとした顔になる。レイの紅い瞳を見つめながら、急速に現実感が訪れて来るのを自覚した。
「そう…そだよね。しっかりしなくちゃ、私」
柔らかな笑みを浮かべて頷くレイ。２人の関係は、ＥＶＡを駆って命懸けの戦いをしていた日々から、何も変わってはいなかった。
「レイちゃん……これからも、私のこと助けてくれる？」
「当たり前だわ。私達はずっと一緒。それが私の喜び…」
「ありがとう、レイちゃん…………大好きだよ」
「私もよ…」
そして甘い口付けを交わすと、２人は仕事の顔に戻った。
「さ、みんなのところに行こう？　プリンストンのチームの報告が来る前に、私達は私達のやれることをしておかなくちゃ！」
「ええ」
そしてカスミとレイは、白衣を翻して研究室を後にした。

地球の再生が具体化したことで、ＮＥＲＶ本部は興奮のるつぼと化していた。廊下を進む２人に、あちこちから祝いの声があがる。そんな熱狂の中で、何故だかカスミはＮＥＲＶのマークにも使われている、ブラウニングの詩の一節を思い浮かべていた。
『神は天にまし、カタツムリは地を這う―――すべて世はこともなし』
欠けた魂はそのままに、愛し合うことで弱い心を支え合う。
それはかつて天使との戦いの中で、自分達の答えを見つけた人々が、再び神の寵愛を取り戻した瞬間だった。

（おわり）


後書き

終わりました……長かった、ホントに……。
（って言うか、もっと長いお話書いてる人はたくさんいらっしゃるんですけどね）

改めて読むと、本当にご都合主義だな、と思います。
ＮＥＲＶの面々だけでなく、ゼーレさえも味方にしてしまったカスミ。こんな簡単に人同士がわかりあえるなら、戦争は起こったりしませんよね。
本当に人同士が理解し合うのは難しいことです。僕だって人に裏切られた経験もあるし、話の通じない人が本当にいることも知っています。
でも僕は、それでもこの話をこんな形で終わらせました。
諦めからは何も生まれないし、信じることをやめてしまったら動くことさえ出来なくなってしまうからです。
本当のハッピー・エンドはフィクションの中にしか存在しませんが、でも僕らはそのハッピー・エンドを思い描く力を持っています。そのことは、僕にとっての希望なんです。
僕らは弱いから争い合ってしまうけれど、弱いから支え合うこともできるのだと思うんです。
―――そう、カスミとレイのように。

何だか固い話になってしまいました（＾＾；
冗談半分で書き始めた物語が、こんな物になるとは自分でも思っていませんでした。

最後に、何度も更新が止まったりしたのに、こんな駄文を見捨てず最後まで読んでくれた人達、本当にありがとうございました。

感謝の言葉：

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