第０４話 セキュリティメカ排除
「働かざるもの食うべからず、と。」
前回のテロリスト殲滅後、何らかの動きがあるものと期待してたんだが、
奴らにも事情があるらしく、平穏な日々が続き、面白くないことこの上ない。
暇な世の中じゃ、レイヴンは生きていけない。
どっかの馬鹿が壊滅しない程度に騒ぎを起こしてくれれば、俺の
懐は温かくなるし、市民は脅威が駆除されたときに平和のありがたみを
噛締められるし、依頼をしてくるスポンサーも問題が解決して嬉しいわけだ。
みんなが幸せになれるのに、なぜ奴らは動かないんだ
騒ぎを起こすのは奴らの存在意義そのもののはずだろ？
物騒な考えに耽っていたところで、机上のコンソールから依頼の受信を
知らせる警告音が鳴った。
依頼の選択
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依頼内容 |
報酬 |
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輸送トラック奪回 |
２００００C |
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セキュリティメカ排除 |
１７０００Ｃ |
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採掘施設奪回 |
１８０００C |
「緊急依頼が１件追加、か。」
相変わらず、フォートガーデンシティのセキュリティメカは制御を離れ暴れまわって
いるらしい。市民の生活が脅かされること甚だしい。
集中管理システムのイカレぐらいによるが、そろそろ片付けたいところだな。
採掘施設奪回の話は、しばらくは放置しておいても問題なさそうだ。
誰も見てない採掘施設だろ。暇な時に掃討すればいい。
で、今回追加された輸送トラック奪回の話だが、耐弾性の欠片もなさそうな
輸送トラックの安全を確保しろってのはかなり厳しい。
だいたい、毒ガス兵器ってのが気に入らん。相手のせいにして破壊するのも
悪くない。
俺は３つの依頼を比べて緊急性が高く、片付けたほうがよさそうな依頼という
ことで、「セキュリティメカ排除」を引きうけることにした。
ちなみに依頼内容はこうだ。
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依頼 |
セキュリティメカ排除 |
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依頼主 |
フォートガーデン・ガード |
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前払報酬 |
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成功報酬 |
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我々が管理している市の保安システムが何者かの手によって破壊され、
各地域のセキュリティメカが暴走を始めた。犯人の正体は今のところ不明だ。
全ガードが事態の収拾に向かっているが余りにも被害範囲が広いため、
完全には対応できていない。そこでレイヴンの諸君に増援を頼みたい。
各地区のセキュリティメカをすべて破壊してくれ。
付近住民の避難は既に完了している。一切遠慮はいらん。よろしく頼む。
なお、各レイヴンの担当地区詳細について依頼受理後に改めて通知する。 |
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作戦領域 |
フォートガーデンシティ全域
※各レイヴンの担当地区は
依頼受理後に通知 |
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敵戦力 |
セキュリティメカ
※機数は地区により異なる |
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成功条件 |
担当地区のセキュリティメカ全破壊 |
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作戦参加条件 |
ＡＣの機体の評価が”ＰＯＯＲ”であること |
「契約を行いますか？ Ｙ／Ｎ」
俺が「ＹＥＳ」を選択すると、それから何分も発たずにメールが到着した。
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発信：フォートガーデン・ガード
件名：セキュリティメカ排除 における貴殿の担当地区について
現在、我がフォートガーデンシティの全セキュリティメカは暴走状態にあるのは
知っての通りだ。しかし、中央コンピュータの制御システムとのリンク状態は
地区ごとに差があり、地区によって、スタンドアロン状態の場所もあれば、
集中制御システムがほぼ稼動中のところもある。
そこで、今回、契約を受理したレイヴン５名には、以下の地区で
セキュリティメカを掃討してもらいたい。
作戦開始は２１：００。各地区を結ぶゲートは２４：００まで完全閉鎖する。
１．中央地区 難易度Ｓ 集中制御システムがほぼ稼動中 暁５０台
担当レイヴン：バルタザール ＡＣ名：ファフニ−ル
２．工場地区 難易度Ａ 集中制御システムがほぼ稼動中 暁６０台
担当レイヴン：ヴォルフ ＡＣ名：フェンリル
３．中央シャフト 難易度Ｂ 集中制御システムが稼動中 暁５２台
担当レイヴン：三日月 ＡＣ名：クレッセントＩｂ
４．第一住宅地区 難易度Ｃ スタンドアロン状態で稼動中 暁１０台
担当レイヴン：ファルコン ＡＣ名：ヴィジランティ
５．オフィス地区 難易度Ｃ スタンドアロン状態で稼動中 暁１２台
担当レイヴン：ラディカルドッグ ＡＣ名：シャドウボイス |
「おい、おい、ランカーレイヴンが３人もいるじゃないか。」
そう。バルタザール、ヴォルフ、三日月。３人ともランカーレイヴンとして
名を連ねている凄腕の奴らだ。
彼らにいくらで依頼をしたのか知らんが、それだけガードの連中も確実に
この騒ぎを収拾したいということだろう。
確かに集中制御システムの元で稼動する「暁」は強い。例えるなら狼に
率いられた羊の群といったところだ。
シティを監視する無数のカメラとそれらから得られるデータを元に目標の
動きを予測するシステム、そしてその指示に忠実に従って動く手足としての
攻撃ユニットである”暁”。
１番〜３番までの地区は確かにランカーレイヴンが担当するのが妥当だろう。
台数も残りの地区に比べてかなり多いこともあるし、な。
で、駆け出しのレイヴンである俺と聞いたこともないレイヴンのファルコンって
奴は、どーでもいい烏合の勢と化している奴らを掃討するってわけだ。
「ま、適材適所って奴だな。」
俺はシャドウボイスの待つガレージへと向かった。
戦闘開始
”戦闘システムを起動します”
いつもなら最低６台以上の”暁”が相手の回避行動まで予測した
上でロケット弾、ミサイルを完全に同期をとって撃ってくるんだが、
今の奴らはてんでバラバラに動いているだけ。
夜間、しかも外出禁止令がでているため、動いているのは”暁”と
”シャドウボイス”だけだ。
これなら奴らの動きは予測しやすい。全ての攻撃は俺に向かって
放たれるとわかっているのだから。
「メインストリートに間を空けて分散配置状態、か。２、３機ずつ
まとまっているだけ、この前のアホな世間知らず達より
賢いといえるな。」
”暁”は効果的な飽和集中攻撃を実現するためにほとんどの機能を
コントロールセンター側に移してしまっている。
おかげで”暁”は極めて高いコストパフォーマンスを実現している。
だが、それは高価なコンピューター、ＦＣＳなどを削っているからだ。
コントロールセンターからの制御が切れてしまえば、”暁”は
移動機能を持った砲台・・・それも動的目標を無差別に砲撃する
ような役立たずになってしまうことも意味していた。
ヒュー〜
独特の飛翔音を伴って、近くにいた暁がシャドウボイスに向かって
ロケット弾を放ってくる。周囲にいたほかの奴らもこちらを察知
したのか、ミサイルを発射してくる・・・が、
ドーン
・・・味方の背中にミサイルを直撃させやがったぞ、あの馬鹿。
ＦＣＳの機能が極限まで削られてるせいで、仲間の”暁”が
射線上にいても、”シャドウボイス”をロックオンしたら、
平気で攻撃してくる。
・・・当然、途中にいる”暁”にその攻撃はＨＩＴするわけだ。
「集中制御システムもこうなると、ただのゴミだな。」
散発的に発射されてくるロケット弾も、効果的な予測射撃が
されることを前提とした低価格ミサイルも、俺がシャドウボイスを
横にスライド移動させるだけで外れてしまう。
「横歩きだけで回避できるとは、住民が見たら飽きれるところだぜ。」
シャドウボイスが放つパルスライフルが１台、また１台と
的確に炎上させていく。
ドォォォーン！
６台目まで順調に破壊できたが、７台目に攻撃を仕掛けている
最中に、死角の方向、遠距離から放たれたミサイルを２発
被弾してしまう。
「・・・油断したか」
目の前の”暁”を破壊して、俺に被弾させた次の”暁”をＦＣＳで
捉える。やはり不意をつかれなければ驚異とはなり得ない。
奴らが装備するミサイルなど、撃たれてから回避しても、
間に合うのだから。
結局、そのあと１発、ロケット弾を被弾したものの、残り４機の
”暁”もそれまでの奴らと同様に鉄屑へと変わった。
「ギャラリーもいない・・・相手は犯罪者でもないただの自動機械。
まったくつまらん依頼だったぜ。」
俺はシャドウボイスをガードのいるビルへと向かわせる。
かなり早く片付いたんだ、他のレイヴンたちの活躍を見学させて
もらおうってことさ。
収支決算
俺はＡＣをガレージに戻して、”シャドウボイス”から降りる。
「よ、ラッド・・・どーしたんだ、浮かない顔してんな。
機体はほとんど傷ついてないのに、上手くいかなかったのか？」
俺は機体から降りて、手近にある椅子に腰掛けた。
「いや。依頼は余裕で終わらせたさ。機体、綺麗だろ。」
「そりゃな。俺としては大助かりだ。で、どーしてそんなシケた顔を
してんだ？」
俺は黙ってシャドウボイスの交信データをディスプレイに表示させる。
「なんだいこの映像は・・・、お、こりゃ、バルタザールのファフニ−ルじゃ
ないか。いい動きをしてるな。暁の放つミサイルの雨がほとんど当たらない
なんてさすがランカーレイヴンは伊達じゃないってことか。」
俺は黙って懐から取り出した煙草を口に咥える。
火気厳禁なガレージ内なんで火はつけないが。
「感動しちまうくらい見事な機動回避、射撃だろ。」
「で、お前さんは実力の差を思い知らされて不貞腐れているって訳かい。」
「好きに言ってろ。」
・・・そう、映像に映るランカーレイヴンたちの動きは俺の常識を遥かに
越えていた。四方から発射される無数のミサイルを寸前で回避し、
逆に包囲していた暁は味方の放った攻撃を受けて次々と機能を停止
していく。
包囲し集中飽和攻撃をしていく暁の戦略が、常識を超える回避能力の
せいで逆に同士討ちを招いてしまっているのだ。
当たりそうな弾道の攻撃もコアの迎撃銃が撃ち落したことで生まれた
僅かなエリアに機体を滑りこませることで、ほとんどが回避される。
常に２０発ちかいミサイルが飛び交う状況ではレーダーはほとんど
役に立たない。だが、ランカーレイヴンはまるであらかじめ、
示し合わせたかのように暁の破壊行動を淡々とこなしていくのだ。
結局、僅か１０分程度で、ほとんどの暁は稼動不能状態に陥っていた。
上には上がいるって奴だな。
俺は改めてレイヴンの駆るＡＣの恐ろしさを思い知らされた気がした。
俺が交信データを眺めている間にリプトンが調査して、機体修理費を
含めた明細書を寄越してきた。
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詳細 |
金額 |
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収入金額
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成功報酬 |
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特別加算 |
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支出金額
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弾薬清算 |
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機体修理 |
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特別減算 |
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合計 |
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口座残金 |
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「これからもなるべく損傷は少なくしてくれると助かる。
とりあえず、ミッション成功を祝って乾杯といこうか。」
俺はランカーレイヴンたちの映像を眺めながら、薦められるままに
グラスを空けていった。
・・・まったく、ぜんぜん酔いがまわらん。
後日談
ガードの人間を維持・管理していく費用をカットして、安い
機体（暁）を効果的に集中制御することで、多大な成果を
あげてきたフォートガーデンシティのガードシステム。
だが、崩壊はあっけなく訪れる危険性も併せ持つことを
市民は認識することになった。
特にスタンドアロン状態の”暁”がほとんど戦力として
役立たないことが判明してしまったために、
現行のガードシステムを廃止して、ガードによる治安維持
方式に切り替えるべきだ、という意見まで再浮上してきている。
「この間から暴走してたフォートガーデンシティの
ガードシステムの特集番組か。」
報道番組を見ていた俺の隣にリプトンがきた。
「あぁ。なんだ、リプトンは”暁”なんぞに興味があったのか？」
俺の言葉にさも心外だ、という顔をするリプトン。
「当たり前だろ？ こちとらＣＭＴやＡＣを整備するのが仕事だ。
”暁”みたいな装甲版を付けただけのランチャー付き自動車
なんかが蔓延るようになったら、仕事がなくなっちまうだろ。
気にもなるさ。」
「言われて見りゃ、商売敵みたいなもんだったな。」
「まぁ、そういうわけさ。もっとも、”暁”２０台が的確な布陣と
周囲を埋め尽くすほどのミサイルやロケットをＡＣに
ぶっ放して破壊したシーンは今でも気に入ってはいるんだ。」
リプトンが言っているのはテロリストに雇われたらしいＡＣ・・・
重量人型でマシンガンを付けてる、まぁそこそこの
強さを発揮する程度の奴がフォーガーデンシティに
現れた時の話だ。
確か、合計１００台近い”暁”がＡＣに対して牽制を行いながら
狭い地形に追いつめ、包囲した２０台の”暁”が一斉に
ミサイル、ロケット弾による飽和攻撃を行ったはずだ。
俺もラストの飽和攻撃シーンしか映像では見てないが、
周囲見えなくなるほどの噴煙をあげながらＡＣに殺到する
大量のミサイル、ロケット弾はなかなかの迫力だった。
ＡＣも半分近くは回避してたみたいだが、なにせ発射される
量が桁違いだったこともあって、粉々になってしまってた。
拳大より大きい破片はなかったからな・・・。
「ランカーレイヴンクラスに対しては効果が薄いのと、集中制御
システムが稼動してない状態では役に立たないことが問題に
なってるらしい。
なんでも、ガードの増員と、ランカーレイヴンとの長期契約を
結ぶって話に落ち着くんだと、さ。」
「そいつはいい。まさにテロリスト様々って奴だ。稼動するＡＣが
増えてくれりゃうちの台所事情も好転するからな。
ラッドは長期契約はしないのか？」
俺はリプトンに嘲るような笑みで応えた。
「馬鹿言え。それじゃ、俺を待ってるテロリスト達のところに
行ってやれねーだろ？」
次回予告
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「第０５話 油田施設奪回」に進む。
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