「まったく、リプトンの奴、遠慮せずに飲みやがって！」

　思わず、不満の声がこぼれる。
　前回、ほとんど無傷で依頼をクリアしたことで懐に余裕があった俺は、
　リプトンに一杯、奢ってやることにしたんだが・・・。
　最近、飲みにいってなくてすっかり忘れてた。奴が底無しだ、ということを。

　・・・おかげで貯金が減っちまった。あぁ、もちろんその金額はレイヴンとしての
　口座とは別だから、仕事に支障はない・・・。ガード時代に貯めた金だったんだ。
　これからは注意しないとマズいな。
　借金地獄に陥るレイヴンなんて洒落にならん。

依頼の選択

依頼内容	報酬
所属不明MT掃討	１２０００C
セキュリティメカ排除	１７０００Ｃ
採掘施設奪回	１８０００C


「追加された依頼は１件・・・か。」

前回の残り2件を含めて３つの依頼を見比べてみたが、”セキュリティメカ排除”は
集中管理システムで的確な布陣を行い、排除対象に対してミサイル、ロケット弾による
飽和攻撃で粉砕するのが売りの”暁”。フォートガーデン自慢のシステムが相手だ。
とてもじゃないがやる気がおきん。
”採掘施設奪回”はタイガーモス（飛行兵器）×２、タンケッテＭ（ホバーマシーン）×５。
飛行兵器の動きについていけるか、これも不安が残る。なにせ、ＦＣＳを変更した
ばかりだ。慣れるためにも今回はこの依頼は見送ることにする。
”所属不明ＭＴ掃討”はビショップ×８機の殲滅。敵の数の多さが気になるが、追いつめる
下水道の地形からみて複数からの集中攻撃は受けずに済みそうだ。
俺はそう判断して、「所属不明ＭＴ掃討」のほうを引き受けることにした。
ちなみに依頼内容はこうだ。



依頼	所属不明ＭＴ排除		依頼主	アイザックシティガード
前払報酬	０Ｃ		成功報酬	１２０００C

先ほどアイザックシティの下水道内で、所属不明のＭＴ数機が発見された。 連中は調査に向かったガードを一方的に攻撃し、現在も逃走している。 統率された動き、逃走に移る手際。どうにも、ただの犯罪者とは思えん。 だが、このまま放置しては我々の面目はまるつぶれだ。 そこで下水の一斉探査を行い、奴らを一ヶ所に追いつめる。 そこで待ち伏せし、叩いてもらいたい。

作戦領域	アイザックシティ 下水道内
敵戦力	二足MT　　　　×８機

成功条件	敵全破壊
作戦参加条件	ＡＣの機体の評価が”ＰＯＯＲ”であること


「また、ビショップか・・・。」

　ガードが標準装備としているＣＭＴ。それが８機。確かにガードじゃ
　手に余る相手だろう。同程度の戦力、同じ機体で戦えば、消耗戦に
　なっちまう。それはガードの仕事じゃない。
　ガードの基本戦術はあくまでも数の優位を確保して、相手を撃破、
　又は撤退させることだから、な。
　全滅しちまったら、明日から市民の治安を誰が守るのか、って
　奴らはいつでも、そう考える。
　かくいう俺も、そうだったからな。文句は言えん。

「横幅が狭い下水道でビショップ。効果的な運用は無理だな。」

　ビショップには飛行能力がない。だから集中攻撃するなら横に並べる
　しかない。だが、こんな狭いところでそんなことをしたら、グレネード系を
　相手が持っていた場合、まとめて撃破されてしまう。
　それを防ぐためには、各機は距離を開けるのが常識だが、
　戦闘力で劣る側が機体を分散配置したら各個撃破されるのがオチだ。

「負けることはないが、必ず反撃は食らう・・・か。」

　基本的に同じ戦闘パターンを８回繰り返すだけ。とても簡単だ。
　だが、逆にいえば８回、同じくらい被弾するということも意味する。

　戦えば必ず全滅する・・・それがわかっていて”奴ら”は戦闘を選ぶ
　だろうか？　俺は自問自答した。

戦闘開始

　後ろの隔壁が閉ざされロック音が響く。
　前方にはＡＣが並ぶなら2機が限度という狭い下水道が続いている。
　今のところ、敵の出現する兆候はない。
　ＡＣはアイドリング状態にしているとほとんど音を出さない。
　おかげで、無機質なＦＣＳの微かな作動音だけが耳につく。

・・・戦闘前のこの妙な静けさはなかなか慣れるもんじゃないな。

「こちらガード。予定通り敵を追い込んだ。後は任せたぞ。」

　予定から少しだけ過ぎた頃に通信機から連絡が入った。
　確かに遠くからＣＭＴ独特の駆動音が聞こえてくる。

　”シャドウボイス”にはレーダーは搭載されてないから、な。
　どうしてもこういった原始的な方法に頼るしかないわけだ。

　さて、恒例の降伏勧告を行うか。

「所属不明のＣＭＴを操縦している者達に告ぐ。この道は通行止めだ。
　通りたければ、ＡＣを相手に勝つしかないが、考える頭があれば
　ＡＣ相手にビショップで戦おうなんて考えないよな？
　１分だけ時間をやる。今すぐ投降しろ。無益な殺戮は俺の趣味じゃない。」

　俺は相手からの返事を待った。

「・・・我々は企業の犬に屈服などしない。正義は我々にある！
　同士諸君、我々の意思が決して武力に屈することがないことを
　ここに示そう。例えここで屍となっても、我々の意思は決して
　絶えることはないのだ！」

「「「「「「「おぉ」」」」」」」

　ほぅ、同士諸君ときたか。俺は笑みを浮かべた。
　そうだ、こいつらこそ、俺が”排除”する奴らだ。

　あまりの嬉しさに俺は、彼我のロックオン距離の違いをすっかり
　忘れて、無造作に距離を詰めていた。

　ガン、ガンガン、ガン、ガンガン

　シャドウボイスがロックオンするより前に、１機目のビショップからの
　射撃が俺を出迎えた。リプトンの言葉をふと、思い出す。

　　　ＦＣＳのロックオン距離は短くなる。注意が必要だぞ？

　くそ、ビショップのほうがロックオン距離が長いとは誤算だったぜ。

　俺はそのまま撃たれながら距離を詰めてパルスライフルを叩き込む！
　互いに被弾するが装甲の弱いビショップが１０発程度ですぐに炎上する。

　ＡＰ８１３６　パルスライフル１６９／１８０

「相手のほうが射程が長い・・・か。損傷が増えるな。」

　急に奴らの通信量が増える。恐らく、射程距離の違いを仲間同士で
　連絡し合っているんだろう・・・通信は暗号化されていて、
　傍受しても意味のある言葉としては聞こえない。
　さすが、俺の獲物達だ。

　前進していくたびに相手からの先制射撃を浴びながらも、その都度、
　反撃を繰り返し、1機ずつ確実に撃破する。

　ＡＰ７４６０　パルスライフル１３７／１８０

「ふぅ・・・予想よりダメージが大きいな。」

　前方を見ると、細い通路が続いている。ＭＡＰシステムを開くと、
　Ｌ字に曲がった先が、ここと同じように開けた通路になっている。

「待ち伏せには絶好の場所・・・か。」

　シャドウボイスを通路通りに進める。予想通り、通路内では
　ほとんど回避する余地がない。
　俺は機体を相手のほうに向けた状態で折れ曲がった通路の
　手前に停止した。

　何をしているのかって？　そりゃ、横にスライド移動して敵を捕らえた
　瞬間に射撃を行って撃破する作戦なのさ。
　なにせ、複雑な動きはまだできないからな。こういうふうに事前に
　段取りを考えておかないと、うまく戦えない。

「こんにちは、とぉ」

　俺は軽口を叩きながら、機体をスライド移動させて相手にパルスライフルを
　叩き込む。もちろん、相手は俺の動きを予想していたらしく、２機のビショップ
　が集中攻撃をかけてくる。

　ガン、ガン、ガン

　位置関係がよかったのか、相手の1機は同士討ちを恐れて射撃を
　全力でできなかったようだ。俺は手前から順に撃破していった。

　ＡＰ６９４０　パルスライフル１１７／１８０

　隔壁の向こうでＣＭＴが動いている音が聞こえる。
　1機は派手に、1機はほとんど動いていないようだ。

「？」

　どんな場合も動くことで被弾率を下げるのは基本中の基本だ。
　それをしない理由・・・そんなものがあるのか？

　シャドウボイスを隔壁の前に移動させ、音から相手の位置を予測、ＦＣＳで
　ロックオンしてから、隔壁を開く！

　ガン、ガンガン、ガン、ガン、ガン

　２機のビショップが盛大にマシンガンを乱射してくる。・・・が1機はほとんど
　動かず、もう一機が派手に動いて気を引こうとしているかのようだ。

「・・・」

　俺は手前でうろつく目障りな奴から順に撃破していった。所詮、ビショップは
　ＡＣとは比較にならないほど装甲が薄い。いい動きはしていたが、敵と
　呼べるほどではなかった。パルスライフルを避けることもできず、2機の
　ビショップは炎上した。

「作戦目標クリア、システム通常モードに移行します」

　　シャドウボイスのコンピュータが律儀に戦闘終了を告げる。

　最後の1機がやけに動きが鈍かったことを不審に思った俺は、
　今は残骸となっているＣＭＴの近くにシャドウボイスを移動させた。

　パルスライフルで穴だらけにされ炎上四散したＣＭＴの残骸。
　特に興味を引くようなものは・・・・・・あった。
　半分、炭化しているが、明らかに大規模通信用のケーブルが
　ＣＭＴの残骸から壁面を走る無数の通信用ケーブルの一つに
　接続されている。

「８機のＣＭＴが得た情報は、彼らの命と引き換えに送信された後・・・か。」

　思わず笑みを浮かべる。

　俺は無造作にケーブルに照準を合わせてパルスライフルを１発、
　発射した。敵ＣＭＴと通信ケーブルを繋いでいた痕跡はこれで
　消滅した。

　何の為にそんなことをしたのかって？
　野暮なことは聞くなよ。”排除”するための下準備さ。

　残ＡＰ　６４２０／８３９６　パルスライフル　９８／１８０

収支決算

俺はＡＣをガレージに戻して、”シャドウボイス”から降りる。

「よぉ、前面をマシンガンで盛大に撃たれまくったようだな。
　こいつは高くつくぞ。」

「仕方がない。まさか、ＦＣＳのロックオン距離があれほど短くなるとは
　予想外だったし、な。」

「ＦＣＳ、元に戻すか？」

「いや、サイトの大きさ、ロックオンの早さはやはり重要だ。このままで
　しばらくは続けることにするさ。」

　雑談をしながら、リプトンが調査して、機体修理費を
　含めた明細書を寄越してきた。

	詳細	金額
収入金額	成功報酬	１２０００
	特別加算	０
支出金額	弾薬清算	０
	機体修理	−２４９３
	特別減算	０
合計		９５０７
口座残金		１９５７５


「まぁ、こんなもんか。」

　俺の感想に疑問を抱いたのかリプトンが不思議そうな顔を
　している。

「・・・なぁ、前にこの程度の修理費用で嘆いていたのに、今回は
　それだけってのはどうしたんだ？　なにか良いことでもあったのか？」

「・・・いいこと、か。確かにそう言えるかもしれん。」

　俺はまだ見ぬ獲物を見据えて笑った。

「どうでもいいが、その笑い方、やめたほうがいいぞ。
　いい感じがしない。」

「気にしないでくれ。それより、パルスライフルを交換してくれ。
　やはり、威力があったほうがいい。」

「ＯＫ。短時間で敵を撃破できれば被弾率も下がる。そうすれば、
　俺も奢ってもらえる回数が増えるってわけだもんな。」

　そういいながらリプトンは屈託のない笑みを浮かべた。

　・・・誰がお前に奢るか！

　俺の心の叫びが奴に聞こえてくれればいいんだが。

右腕武器


更新前	ＷＧ−ＸＰ１０００	４６０００　Ｃ
更新後	ＷＧ−ＸＰ２０００	６１５００　Ｃ（＋１５５００）


口座残金は４０７５Ｃに減っちまったが、攻撃力は１．４倍になった。
リプトンの言う通り、敵を撃破しやくなることだろう。
当然だが、機体評価は９７２４、”ＰＯＯＲ”のまま、維持できてるぜ。

後日談

「凶悪武装集団撃破、ガード側の作戦が成功し損害も軽微・・・か。」

　俺はアイザックシティガードのお偉方が作戦成功を胸を張って
　説明している画面を眺めながら、呟いた。

　確かにガードの被害は軽微・・・撤退しようとしている相手を牽制
　して追い詰めただけなんだから当然だ。

「敵戦力を細い通路に追い詰めてレイヴンに各個撃破させたことで
　ほぼ理想的な殲滅戦ができたものと自負しております。」

「レイヴンのＡＣがかなりの損傷をした、と聞いていますが？」

「ＡＣだからこそ損傷レベルで済んだのです。ガードのＣＭＴでは
　損害はもっと増えていたことでしょう。」

　・・・そりゃそうだ。あの通路でビショップを運用したら、１対１の
　戦闘になっちまう。良くて相撃ち。悪けりゃ、負けるところだ。

　それにしてもイヤな奴らだな。殲滅した敵をより脅威的に見せる
　ためにＰＯＯＲ　評価のＡＣなんぞを投入したくせに、よく言うぜ。

「よ、ラッド。笑うか怒るかどっちかにしたらどうだ？　少し・・・いや、
　かなり変な奴に見えたぞ。」

　そう言いながら、リプトンが酒をもってくる。もちろん、グラスは二つだ。

「・・・？俺、笑ってたか？」

「あぁ、なんともいえん笑い方だった。そうだな、獲物を見ている肉食獣
　みたいって言えばぴったりかもしれない。」

「そうか、・・・そいつはいい例えだ。」

　俺はそういって注がれた酒を一気に飲み干す。
　ガードの作戦報告は聞いていて気分が悪くなるものだった。
　だが、俺は楽しくて仕方がなかった。今回の依頼で”排除”した奴らは
　どう考えても、何らかの組織に所属している・・・しかも主戦力じゃない。

　”排除”できる奴らが俺を待ってる・・・そう思えば、思わず笑顔に
　なるのも仕方がないだろ。



　結局、リプトンが持ってきた酒は俺の奢りってことになっちまった。
　・・・注意するつもりだったんだが、やられたぜ。
　俺には楽しそうな表情をしているリプトンの笑顔が、一瞬、悪魔の
　ように見えていた。

次回予告

「Ｒ」から、新たな依頼が１つ追加されたが、ラッドの選んだ依頼は
「セキュリティメカ排除・・・１７０００Ｃ」だった。

次回、第０４話「セキュリティメカ排除」、こうご期待♪