「誰も受けない依頼・・・か。」

　採掘施設を占拠していたテロリスト達を一掃して、戻って来たが
　未だに「輸送トラック奪回」の依頼は残ったままだ。
　なんで、この依頼がいつまでも残っているのか不思議に思ったが、
　どうも企業同士が互いに牽制し合っていて手が出せない状況らしい。
　
　まったく困ったもんだ。誰かとっとと片付けてくれればいいんだが。

依頼の選択

依頼内容	報酬
砲台施設破壊	--------
不法占拠者再排除	１９０００Ｃ
輸送トラック奪回	２００００C


「ほう、依頼が二つ、そのうち一つは俺を名指しか。
　俺の名も売れてきたってことかな。」

　思わず笑みが浮かぶ。
　新たに増えた依頼のうち「不法占拠者再排除　１９０００ｃ」は、前回、一掃した
　馬鹿どもの仲間が、わざわざＭＴを集めて、俺にリターンマッチを申し込んで
　きたっていう、なんともご苦労な話だ。
　こういう奴らは少し焦らしてから行くに限る。今回は残念な気もするがパスだな。

　「砲台施設破壊　報酬：ＡＣ用パーツ」もろくでもない依頼だ。
　ターゲットとなる砲台施設の場所の都合上、いつものように輸送機で
　投下してもらうしかないわけだが、遠距離攻撃用の砲台が睨んでいる前で、
　悠長に降下するのを待ってもらえるとも思えん。
　最悪の場合、輸送機ごと墜ちる可能性すらある以上、今回はパスだ。

　・・・そうなると「輸送トラック奪回　２００００ｃ」しかない。
　ま、いつまでも放置しておいても気分が悪いし、な。

　俺は結局、「輸送トラック奪回」を引きうけることにした。



依頼	輸送トラック奪回		依頼主	クローム
前払報酬	０Ｃ		成功報酬	２００００C

アヴァロン・バレーに向かった我が社の輸送トラックが、ナッソトンネル付近で 通信を絶ったままになっている。 様々な推測はできるが、積荷の新型の毒ガス兵器を狙った、テロ組織の犯行で ある可能性が高い。そうなればガードに任せられるレベルではない。 大至急現場に向かい、トラックの捜索にあたってくれ。妨害するものがあれば 全て排除しろ。 ただし、車両の安全が最優先だ。それを忘れんようにな。 もう一つ。この事件を知らん一般車両が現場を通行する可能性もある。 それらの車両を破壊した場合、補償金に相当する金を報酬から引かせてもらう。 では、頼んだぞ。

作戦領域	ナッソトンネル内部
敵戦力	不明

成功条件	輸送トラックの発見および安全確保
作戦参加条件	ＡＣの機体の評価が”ＰＯＯＲ”であること


「・・・嘘だらけの依頼文だな。」

　大至急と言うわりには俺が引きうけるまで放置されていたし、
　ガードに任せられるレベルでない、というがＰＯＯＲレイヴンを指定している。
　車両の安全が最優先と言うが、車両を動かすための術は与えず、
　出現した敵は全て排除しろ、と言う。

　新型の毒ガスって話だが、そいつが洩れたらクローム社だって
　痛い話のはずだが、一般車両の通行止めすら、この後に及んでも
　行わない。

　クロームに喧嘩を売ろうってテロリストなら、恐らくムラクモの支援を
　受けているはず・・・。

　こいつは、何か裏取引があったと見るのが妥当だな・・・。

　ま、いいさ。俺は俺なりに仕事をやるだけ。
　結果として、依頼主の意に添わなくてもそれは俺のせいじゃない。
　そういうもんさ。

戦闘開始

『トラックの積み荷は毒ガスです。』

「ＯＫ、ＯＫ、俺はその大事な積み荷を見つけて守ればいいんだろ。」

『その通りです。このミッションは極秘のため、交通規制は行われていません。
　そのため、一般車両が通行していますが、破壊された分については報酬から
　減額されますので・・・』

　いきなりオペレータの声が途切れる。
　ディスプレイに「電波障害」の文字が見える。
　通信はできないってことか・・・好都合だな。

　それにしても、妨害装置まで持参とは、”奴ら”も本気ってことか。

　　思わず陰惨な笑みが浮かぶ。

　・・・そうでなくちゃ、俺の獲物じゃない。

　ガシャガシャガシャガシャ

　軽量級ＭＴ特有の高速移動音が狭い通路内に響く。

　ＦＣＳにはさっそく１機、ロックオン表示されてきた。
　予想以上に素早い動きだ・・・並のＭＴじゃない。

　こんなのと遣り合いながら毒ガス満載のトラックを守る？
　・・・無理だな。

　とにかくまずはトラックの発見だ。

　そのままシャドウボイスを進めると、２つの通路が狭い分離帯を挟んで
　繋がっている場所まできた。

　中央分離帯を跨いで右奥のほうを見ると、大型トラックが停車しているのが見える。

　あれか・・・

　パン、パン、パン

　俺が大型トラックに気を取られている隙をついて、左側から軽量ＭＴが
　素早く接近し、銃を撃ちこんで来た。

「少しは遠慮しろ！　このテロ・・・！！！」

　俺はシャドウボイスを左側に旋回させてＦＣＳで相手を捕らえるが
　その姿を見て、一瞬、言葉に詰まる。

　有明・・・ムラクモ社の量産型警備用ＡＣだ。
　当然だがテロリストなんぞが使える機体じゃない。
　しかも、素早い動きで巧みにＦＣＳを掻い潜って攻撃を仕掛けてくる。
　こいつら、まさかムラクモ社直属のガードか！？

　そういうことか・・・クロームも面白いことをしてくれる・・・
　なら、やってやるよ　徹底的に。

　パン、パン、パン、パン

　有明の素早い動きとハンドガンの拡散し撃ち込まれる弾の前に
　俺は回避を諦めて、シャドウボイスを背後の壁に密着させて
　脚を止めて、正面から撃ち合う。

　パン、パン、パン、パン・・・ドゴォォォン

　パルスライフルとハンドガンの撃ち合いが続き、装甲の薄い
　有明は、俺が壁を背負っていることもあって死角に回りこむ
　ことができず、そのまま体力勝負の戦いをするはめになり、
　爆発四散した。

「こっちは腐っても標準型ＡＣだ。耐久力勝負なら負けないぜ。」

　そのまま、少しずつ通路沿いに輸送トラックに接近していくと、
　ＦＣＳに２機の高機動兵器の反応が出る。
　この速度からして、さっきの有明の仲間に違いない。

　このまま輸送トラックの近くで戦うのは癪だがどうするか・・・？
　そこ時、俺の頭に名案が浮かんだ。
　妨害電波のせいで通信装置が使えない状況、それを最大限に利用してやる！

「前方を移動中のテロリスト！　どこでムラクモ社の警備用ＡＣを
　盗んで来たのかしらんが、ＡＣ相手に喧嘩を売るほど自惚れてる
　わけじゃないよな？　わかったらとっととママの元にでも帰んな。」

　わざわざ、指向性スピーカーを使って、相手のＡＣだけに聞こえる
　ように挑発をする。

『所属不明のＡＣ！　このエリアはムラクモ社の警備下にある。
　無駄な抵抗はやめて投降しろ。　ＡＣを停止させない場合は
　撃破する。』

　お、いいねぇ。そういう真面目な態度、嫌いじゃないぜ？

『わざわざ、警備部隊の真似をしたって、俺はお前達がテロリストだと
　知ってるんだ。下手な芝居はそれくらいにしておくんだな。
　それに俺も貴様らに大人しく、そのトラックをくれてやるほど
　お人よしじゃない。
　そのトラックが欲しけれゃ、こっちに来な。遊んでやるぜ？』

　俺の言葉に答えず、奴らはトラックの周囲から離れようとしない。

　・・・そういうことなら・・・まぁ、仕方がない、よな？

　パス

　一発、トラックにわざと着弾させる。
　当然、ＦＣＳの射程外だが、固定目標くらい、目視でも当てることくらいできる。

「そんなにがっちり守られちゃ手が出せねーなぁ。
　”仕方がないから”、奪われないようにトラックは撃破に決定だ。」

　そのまま、今度は少しだけずらしてパルスライフルを乱射する。

『貴、貴様、このトラックに毒ガスが入っているとわかってそんなことを
　しているのか！　契約違・・』

　・・・やっぱ、そういうことか。
　情報は駄々洩れ、ただでくれてやるわけにもいかんから、
　奪取しようという姿勢だけ見せて、その場は丸く納めようってことか。
　で、俺はそのための生贄。

　もっとも、俺はそんなモノになる気はさらさらない。

　パス、パス、パス、パス

　俺は適当に狙いをつけて、遠距離からトラックの周囲に
　弾をばら撒く。

「鬼さんこちら、手の鳴るほうへってか？　おらおら、とっとと
　こっちに来ねーんなら、毒ガスだろーが、何だろーが
　”不幸な事故”が起きちまうぞ。　あん？」

　俺の半分以上本気の挑発に、やっと乗ったのか
　２機の有明が味方に増援の依頼をしながら、近付いて来た。

『このレイヴンはイカれてる！　全機、前方のＡＣを撃破しろ！』

　パン、パン、パン、パン

　次々に奴らのハンドガンが拡散弾をばら撒き、そのうちの
　何発かがシャドウボイスに着弾する。

「やっとやる気になったか、テロリスト達！　そんな距離で撃ったって
　拡散弾が当たるわけがないだろ！？　やる気がないなら撃っちまうぞ。」

　そう言いながら、俺は慎重にシャドウボイスの位置を壁沿いに
　動かし、射線軸上からトラックを外す。

　パス、パス、パス、パス

　散発的な射撃を繰り返して明らかに増援を待っている前方の
　有明に対して、俺は慎重にＦＣＳでロックオンをしては、パルス
　ライフルを撃ちこみ、１機ずつ確実に撃破していく。

　パス、パス、パス、ドォーン

　かなりの時間を稼がれたが、２機の有明は爆発炎上した。

”敵、増援を確認。ＡＣ２機です。”

　シャドウボイスが敵ＡＣの駆動音を察知して通知してくる。

「仲間はたったいま、鉄屑に変わっちまったぞ。
　もう少し速くくりゃ、助かったかもしれんが、残念だったな。
　お悔やみの言葉を申し上げますってか？　ははは。」

　わざとらしく笑い声をあげて挑発する。

『この・・・ＰＯＯＲレイヴンの癖に生意気なんだよ！』

　わざわざ、止せばいいのに律儀に増援で現れた有明２機は
　俺のほうに突っ込んできて、高機動を駆使して弾を回避しつつ
　ハンドガンを乱射してくる。

「ＰＯＯＲ・・・、俺も随分、有名になったもんだ。」

　挑発に乗って雑な動きをしつつ、無闇に射程距離ギリギリで
　拡散弾をばら撒くだけの奴らなど、シャドウボイスの敵じゃない。
　俺は、さっきと同じようにＦＣＳで狙いを付けてパルスライフルを
　叩きこみ・・・奴らは仲間の後を追った。

”作戦目標クリア、システム通常モードに移行します”

　哀れな”テロリスト達”は滅び、俺は依頼を忠実に終えた。
　依頼主もさぞかし喜んでくれるだろうさ。

収支決算

俺はＡＣをガレージに戻して、”シャドウボイス”から降りる。

「どうしたんだ？　こりゃ拡散弾の集中攻撃でも受けたみたいに
　機体がボコボコになっちまってるじゃないか。」

　・・・有明５機と戦って生きて帰って来ただけでも
　誉めて欲しいくらいだ。

「・・・ま、色々あったのさ。」

　俺はそう答えて、格納庫に放置してある椅子に腰掛けた。
　リプトンが調査して、機体修理費を含めた明細書を寄越す。

	詳細	金額
収入金額	成功報酬	２００００
	特別加算	０
支出金額	弾薬清算	０
	機体修理	−１２９６
	特別減算	０
合計		１８５０４
口座残金		３５８５６


「思ったより安く済んだな。」

　俺はさっき、ミッション終了後に通信した時のオペレータの
　慌て振りを思い出して、歪んだ笑みを浮かべた。

「・・・なぁ、ラッド。もう少し、こう、気分よく笑えないもんか？
　見てて気分がいいもんじゃない。」

「あん？　そうかい？　まぁ、今回は仕方がない。
　まぁ、それなりに楽しめたが、なにせ、依頼主に面白れーことを
　されたんで、な。」

「・・・面白いことかい？」

　俺はリプトンの問いに、嘲るような笑みで答えた。

後日談

ガレージで昼寝を満喫していた俺にリプトンの奴が
妙な記事を見せつけて来た。

　謎の標準型AＣ１機ｖｓ軽量型ＡＣ５機、トンネル内での謎の死闘！

　・・・そんな見出しで始まるネットで流れるゴシップ記事だ。

「・・・何だ、これ？」

　極秘作戦のはずだったが、さて？

『交通規制の行われていない深夜のトンネル内で、謎のＡＣ達が
　ドンパチやらかした、とその時、道路を通行していたＡ（仮称）さんその他
　から、貴重な情報提供がありました。
　我々の突撃レポーターが数時間後に現地に到着したところ、大きな
　残骸はありませんでしたが、散乱する細かいＡＣパーツの破片類、
　壁面に着弾している弾痕から、おおよその状況を推測しました。
　片方のＡＣは目撃者証言と弾痕からパルスライフルの武装をしており、
　残り５機のＡＣは全てハンドガンのみの武装であったと予想されます。
　パーツから推測すると５機は、ムラクモ製ＡＣである可能性が高く・・・』

　・・・随分、跡から推測できるもんじゃないか。
　まったく、クロームもムラクモもネットのゴシップ記事くらい
　止めておけばいいものを・・・。

「この記事に出てるＡＣ、ラッドだろ？」

「ノーコメント。」

　仕事上の話をぺらぺら話したら命がいくつあっても足りない。

「じゃ、一言だけコメントをくれ。
　この記事にあるムラクモ製ＡＣ5機。なんで、１機のＡＣに負けたんだ？
　圧倒的に有利なはずだろ？　戦力差から言ったって。」

　リプトンが不思議そうな表情をしている。
　本当に技術屋として興味があるようだ。

「・・・適材適所。軽量ＡＣは動き回れる広い場所で運用するのが基本だ。
　記事にある狭いトンネル内じゃその強さは発揮できん。
　だいたい通路じゃ一度に襲いかかることもできない以上、戦力の逐次投入に
　なっちまう。
　軽量ＡＣが狭いトンネル内で少しずつ攻めたって、標準ＡＣにゃ勝てん。」

「ふむ、なるほど。」

　納得顔で去って行くリプトン。
　俺は、メンテナンス作業を始めるリプトンを眺めながら
　ひさしぶりの穏やかな時間を楽しんでいた。

次回予告

「Ｒ」から、新たな依頼が１つ追加されたが、ラッドの選んだ依頼は
「砲台施設破壊」だった。

次回、第０７話「砲台施設破壊」、こうご期待♪

ひさしぶりの更新となりました。
うーん、８ヶ月ぶりの更新・・・間が空き過ぎですね。
まぁ、今回の戦いは見ての通り、お子様向けの戦術を駆使して
ラッド君は戦いました。
敵の動きを説明できるように脚色しましたがいかがでした？

次回はラッド君の運命的な出会いのお話になります。
もちろん、本人はそんな気はなかったのですが・・・。