ピー、ピー

　　――受信者閲覧確認機能付メール――
　　送信者はザムシティ・ガードか。

「なになに…、ほぉ……向こうからの御指名とは」

　　メールの内容自体は簡潔なものだった。
　　俺が前に片付けた不法占拠者どもの仲間を排除してくれ、と。

　　他のレイブンが受けないんで、泣きついてきたらしい。

　　難儀な話だ。

　　だが、俺もガード出身、彼らの苦労もわからんではない。
　　わざわざ添付されてきた暗号キーを使って、俺は依頼内容を
　　表示してみた。

依頼の選択

依頼	不法占拠者再排除		依頼主	サムシティ・ガード
前払報酬	０Ｃ		成功報酬	１９０００Ｃ

以前当シティ東地区の廃工場を占拠していた奴らの残党が現れた。 どこからかき集めたのか１０機近くものＭＴを持ち出し、再び工場内に終結している。 連中は、以前自分達を痛めつけたヤツを出せと喚き散らし、暴れまわっている。 ガードの武装でもうどうにもならん。 すまん。君のＡＣでは荷が重いのはわかるが、奴らをなんとかしてくれ。

作戦領域	ザムシティ東地区旧第３工場施設
敵戦力	改造作業機械　　　　　　　×２機 中古ＭＴ　　　　　　　　　　×１０機

成功条件	不法占拠者の全排除
作戦参加条件	ＡＣの機体の評価が”ＰＯＯＲ”であること


「ほぉ…合計１２機とは豪勢じゃないか」

　　今度は、開けた場所で、ビショップ１０機ときた。
　　１機ずつならＡＣにとっては大した敵じゃないが、一度に…となると
　　話は大きく変わってくる。

　　…俺は、シャドウボイスの搭載コンピュータから、前回のＭＡＰ情報を
　　表示させて、敵の配置状態を推測してみた。

　　　一度に…２〜５機といったところだな。

　　戦力は纏めて配置すればいい、というものではない。
　　余りにも密集させれば、同士討ちの危険性も高まる。
　　どうしても、ある程度のスペースは空けなくてはならないのだ。

　　　前回、俺が戦った時のデータは洩れてると見ていい。

　　　…とすると。

「いけるか…」

　　俺はある作戦を思いつき…依頼を受けることにした。
　　この業界、名前が売れるのも悪くは無いが、ケチがつけば一発で終わりだ。
　　ＭＴ、しかも旧式のビショップ相手に逃げたとあれば、
　　次からの依頼にも響いてくる。

　　それに、多分、俺の作戦は成功する。
　　そんな確信があった。

戦闘開始

「遅かったじゃないか、貧乏レイヴン！
　命が惜しくて、ケツ捲って逃げ出さなかっただけ褒めてやるよ」

　姿はまだ見えないが、ドスを精一杯利かせた歓迎の挨拶が
　俺を出迎えてくれた。

「弱い犬ほどよく吼える。
　せいぜい、言ってろ。
　ま、これも手続きだ。一応、聞いておこう。
　貴様らの行為はシティの治安上、禁止されている。
　大人しく機体を停止して投降しろ」

「は！　馬鹿言ってんじゃねー！
　ダチが殺られて、そのまま泣き寝入りするなんざ、
　小便臭いガキだってやんねーぜ」

　　くっ、くっ、くっ

　　喉の奥底から込み上げて来る笑み。
　　…そうだ、そうでなくては、貴様らに価値はない。

「よく言った！　ならば、俺は俺の仕事をやるだけだ。
　…貴様ら、全員、排除してやる！」

　　笑い出さないように自制しながら、俺は戦闘開始を告げた。

　　多数のＭＴが奏でる駆動音、振動が響く。
　　レーダーを搭載していないシャドウボイスでは、正確な位置はわからない。
　　しかし、俺は、事前に検討した位置で、相手がこの先で十字砲火ゾーンを
　　設定しているだろう、と確信していた。

　　近づいてこないのが何よりの証拠だ。

　　ゆっくりと接近し、夜の闇に微かに見える敵影を探る。

　　　ビンゴ！

　　奴ら、シャドウボイスのＦＣＳ距離を考慮して半包囲陣形をとっている。
　　まぁ悪くは無い。奴らが設定した位置に突入すれば、蜂の巣になる。
　　ＰＯＯＲ機体では耐え切れたとしても、深刻な被害を受けるだろう。

「だがな…ＡＣの戦いはそれだけじゃないんだよ」

　　ＦＣＳが反応しない遠距離…しかし、動きのない目標なら目視照準でも当る。
　　俺は僅かに見えるビショップの機影に対して、ロックオン距離外から
　　パルスライフルを叩き込んだ！

　　　パス、パス、パス、パス、パス、ドゴォォォォオン

「ば、馬鹿な！！！」

　　馬鹿はお前達だ。機体性能表だけが全てと思ってるんだからな。

　　　ガチョン、ガチョン、ガチョン、ガチョン

　　…ＦＣＳがロックできないことに業を煮やした１機が不用意に近づく。
　　それを見逃すほど俺は甘くない。

　　　パス、パス、パス、パス、パス、ドゴォォォォオン

「まるで素人だな。地獄でダチが泣いてるぜ」

　　　バババババババ、バババババババ

　　射程距離外から２機も先制攻撃で失ったことで焦ったのか、
　　残った３機のビショップが接近しつつ、マシンガンを撃ち始めた。

　　…壁や鉄骨に阻まれてほとんどが届かないが、
　　距離を詰めてくるのを止めることはできない。
　　俺の弾だって、地形で止まるのはどうしようもないからな。

「死ね！　死ねぇ！！！」

　　死の恐怖に焦っているのか、３機の距離は微妙に違う。
　　俺は、機体を横移動させながら、パルスライフルを撃ちこみ、
　　僅かな時間差はあるものの、全てを撃破した。

　　ドゴォォォン

「これで、５機！　大口叩いた割に大したこたーねーな」

　　僅かな嘘を交えて、挑発する。

　　先ほど、近距離で撃ちあって３機を撃破したこともあって、
　　シャドウボイスは、１０００以上のＡＰを失ってる。
　　先に２機、倒してなければ、かなりの被害を受けていただろう。

「アニキ、話が違うじゃないか！」
「馬鹿ヤロウ、てめえ、逃げる気か！」

　　多分…無線封鎖したんだろう。
　　１機のビショップが戦闘領域外へと歩き出すのが見えた。
　　遠くからスピーカーに乗って、罵倒の声が響く。

　　　…俺に喧嘩を売っておいて逃げるってか？

　　パス、パス、パス、パス、パス、ドゴォーン

　　俺は目視照準で、仲間の支援が得られない位置に移動した馬鹿が
　　炎上するまでキッチリ、パルスライフルを叩き込んだ。

「さぁ、これで残り６機。
　全員、ちゃんと地獄に送ってやる。
　安心しろ。…アフターケアは万全だ」

　　共用周波数に乗せてのリップサービス。
　　自然と、高揚した気分が声に含まれる。

　　　この世に害しかなさない馬鹿どもが、減っていく。
　　　しかも、減らしていくのは、この俺だ。

　　実に気分がいい。

　　　馬鹿共は死ぬことでこれ以上、人に迷惑をかけない。
　　　俺は、馬鹿が排除できて正義感もこの上なく満足だ。
　　　市民も、平和な生活が戻ってきて嬉しい。
　　　企業とて、テロリストがいなくなって清々するだろう。

　　な、皆、ハッピーになれる。
　　だから――

「だから、安心して、仲間の後を追って消えろ！」

　　今まで出てきたのは、全部ビショップ。
　　…ということはビショップは残り４機。
　　WK-750R（作業用ＭＴ）が２機。

　　もはや、奴らに勝ち目はない。
　　例え、残った機体で同時攻撃してきたとしても。
　　そして、この先で、同時に６機が配置できる場所はない。

　　奥へと道を進むと案の定、壁を盾に、左右に１機ずつ
　　ビショップが現れた。

　　どちらかを撃てば、片側から一方的に撃たれる。
　　まぁ、悪くは無い。戦力さえ十分ならば。
　　しかし、腰が引けているのか、残り４機の距離が遠い。
　　――それでは話にならない。

　　　バババババババ、バババババババ

「哀れだが……、自業自得だ」

　　　ドゴーン、ドゴーン

　　左のビショップを横移動しつつ撃破し、その間、
　　懸命に俺にマシンガンを撃ち捲っていた右の奴を潰した。
　　確かに撃たれたが大したダメージにもなってない。



「さ、残るは貴様らだけ、だ――お、おぃっ！！！」



　　　………俺は目を疑ったね。



　　残った４機…ビショップ２機、WK-750R（作業用ＭＴ）２機だが、
　　自動戦闘モードに切り替えて、乗ってた奴らがＭＴから降りて
　　逃げ出しちまった。

　　　カチャッ

「…ちっ、この根性無し共め！」

　　パルスライフルを逃げ出した馬鹿に向けるが、引き金を引くのは、
　　――僅かに未練はあったが――止めた。

　　俺はテロリストを排除したいんであって、人殺しがしたいわけじゃない。

　　他人は笑うかもしれんが、それが俺のポリシーだ。
　　最早、奴らに排除される資格はない…その価値はない。

　　それに、この領域の外は、ガードが包囲している。
　　逃げる場所なんざ、どこにもありはしない。
　　徒歩で移動したところで１ブロックとて逃亡できない。





　　ガチョン、ガチョン、ガチョン、ガチョン

「てめえらはとっとと消えろ！！！」

　　主のいない戦闘機械達が馬鹿正直に射程内に入った敵を
　　攻撃しようと、警戒モードで起動している。

　　…神経を逆撫でされることこの上ない。

　　俺は、ぶつけようのない怒りを奴らに叩きつけた。


　　　パス、パス、パス、ドゴォーン、ドゴォーン、ドゴォーン、ドゴォーン

　　連携戦闘もできず、単調に発砲するだけの奴らに遅れをとるわけもない。
　　大した手間もかからず、残りの敵だったものはゴミ屑になった。


『――レイヴン、ご苦労だった。
　さきほど逃亡した者は全員、逮捕した。
　後はこちらで引き継ぐ』

　　ザムシティ・ガードから通信が入る。
　　落ち着いた声だが、なぜか、無性に腹が立って仕方がない。

「任務終了！！！、後は勝手にやってくれ」

『ご協力に感謝する』

　憤慨した気分のまま、俺は事務的に会話を打ち切って帰路についた。

収支決算

「よぉ、ラッド、…どうしたんだ？」

　　ＡＣから降りてきた俺を見て、リプトンが顔を顰めた。
　　よほど、俺は不機嫌そうな表情をしていたらしい。

　　リプトンが書いた機体の修理伝票に乱暴にサインすると、
　　俺は、溜まっていた不平、不満をぶちまけた。

	詳細	金額
収入金額	成功報酬	１９０００
	特別加算	０
支出金額	弾薬清算	０
	機体修理	−２２３５
	特別減算	０
合計		１６７６５
口座残金		２５１３４


「なぁ、リプトン。
　テロリストなら、テロリストの美学があってしかるべきだろ？
　詳しいことは言えないが――」

　　…よほど腹が立っていたらしい。
　　俺は薦められるままに酒を一気に煽って話題を振った。
　　奥底にあった怒りの炎は、アルコールの力を借りて、
　　更に激しく燃え広がった。


　　　これまでの人生で経験したことがないほど…激しく。


　　…翌日、にこやかに渡された飲み代で、
　　俺の台所も火の車になった。

後日談

あの後、２通のメールが俺宛に届いた。



発信：ザムシティ・ガード 件名：テロリストの影 　先日はご苦労だった。 　再開発作業も、これで無事再開できる。 　連中への武器提供者だが、厄介なことに 　テロ組織「イミネント・ストーム」が、 　関わっていた可能性が高い。 　本来なら、本格的な調査を行わなければ 　ならないのだが、奴らでは相手が悪い。 　直接の事件でもない限り、関わるわけには 　いかん。 　理由はまぁ、色々とあるがな。 　ガードといえども、所詮は企業の歯車に 　すぎん。自分の首を締めるような真似を 　したくない。 　残念だが、そういうことだ。 　ま、これからもよろしく頼む。




発信：Ｒ 件名：クロームとムラクモ 　ザムシティでは地下都市開発のごく初期に 　建設された都市であり、現在では各地の 　再開発が進行しています。 　かつて、この地域はクローム社が権力を 　握っていたが、近年、ムラクモ社が 　その地位を逆転し、再開発計画も多くが 　ムラクモ社の主導で行われています。 　今回の事件にそのあたりの事情が絡んで 　いることは、想像に難くありません。 　それでは、また。


　面白くもない…その時はそう思った。
　が、しばらくして小さなゴシップ記事を見つけて
　少しだけ気分が晴れた。

　ザムシティの署長が、公費横領の罪で逮捕されたそうだ。
　なんでも、あの地区の再開発計画に使われるはずだった金に
　手を出していたらしい。

　詳しく調査されては不正が露呈する。
　だが、テロリスト達が暴れれば、いくらでもごまかしは聞く。
　…大方、そんなところだろう。悪くない。
　手頃な小悪党ぶりなところが特に、な。

「いい顔してるよ、署長さん」

　俺は記者達のフラッシュに囲まれている元署長を見て、
　惜しみないエールを送った。

次回予告

「Ｒ」から、新たな依頼が１つ追加されたが、ラッドの選んだ依頼は
「テロリスト撃滅　２２０００ｃ」だった。

次回、第１０話「テロリスト撃滅」、こうご期待♪

今度の更新は半年ぶり。（＾＾；）

「頂点を目指して」、「エヴァＩＳ」のどちらにもない部分で書いている話なので、
「ＰＯＯＲと呼ばれて」を書くのも楽しいです。

次の話も、読者の方からの反響があれば…その時に書きますね。（＾＾；）