構想２年、やっと掲載開始となりました。
これくらいのテキスト量が一回の掲載分としては丁度いいですね。
レイが登場するのはＣパート辺りかな。
次回はちょっとシリアスなシーンです。
ま、親子の出会いだから外せないんですけど、ちょっと暗め。
「来い ゲンドウ」
一言だけ書かれた手紙。
３年ぶりに父から届いた手紙一つで、あっけなく叔父夫妻の家での生活は終わった。
同封されていた”葛城ミサト”と名乗る女性からの指示。
箱根モノレールの駅前で１０：００…ということになっていた。
ボクは、荷物を置いて、同封されていた”葛城ミサト”の写真を頼りに探してみる。
…いない。
あたりは不自然なほど静かで、擦れ違う人すらいない。
何もすることがないせいか、最初に写真の女性を見た時の疑念が浮かんできた。
綺麗な人だけど、大きなバストを誇示するようなポーズと、胸元にマークを付けて
”ここに注目♪” なんて書きこんでいるところも怪しい。
何を考えて、こういうのをボクに送ってくるんだろう…？
それに…この人、父さんの何？
３年前に最後に見た父の姿と、性的魅力を全面に押し出すような態度の女。
…はやくも、心は曇り空に変わっていた。
--―＊――
１０：００に待ち合わせ…のはずだったのに、第三新東京市の完全に
制御された道路交通事情と、世間一般の効率の悪い道路の差を忘れてたせいで、
３０分ばかし、すっぽかしてしまっていた。
「…まっずいわ、かなり遅刻しちゃったじゃない！！！」
愛車を徐行させながら、駅前をざっと眺める。
大きな荷物、旅行者風の服装の中学生…あの子ね。
バスターミナルの近くで、旅行用カバンを椅子代わりに腰掛けている子。
白い柔らかそうな袖の長い上着とキュロット、大き目の帽子が避暑地に
向かう女の子のような雰囲気を醸し出している。
肩で綺麗に揃えられた黒髪、華奢な体つき…事前の情報通り。
碇ゲンドウの子、サードチルドレンと呼ばれる存在。
…碇シンリに間違いない。
外見から過去の経歴まで調査された報告書をダッシュボードに押し込む。
バックミラー越しに、映る自分を見て身嗜みをチェック♪
「やっぱ、最初の印象って大事だものね♪ さーて…」
私は、注意を喚起するためにクラクションを鳴らした。
--―＊――
プップー
「？」
目の前に赤い色の派手なスポーツカーが停止し、サングラスをかけた
黒髪の女性がクラクションを鳴らして、こちらを見ている。
「碇シンリさん？ 遅れてごめんなさいね。迎えの約束をしてた葛城ミサトよ。
済まないけど、ここ、ながく停車できないの。乗ってくれる？」
用件だけ手短に伝えて、その女性はサングラスを外して微笑んだ。
年の頃は２０代後半、女性にしては体格はいいほうかな？
丁寧に手入れされた長い髪が綺麗。
身体の線がでる服も、ごく自然に着こなしていて嫌味なところがない。
…写真よりいい感じ。
「は、はい、よろしくお願いします」
とりあえず挨拶をして、荷物をトランクに入れて助手席に乗り込んだ。
葛城さんは手馴れた運転で父のいる第３新東京市へと車を進める。
「ところで、シンリちゃん、シンリくん、どっちで呼べばいいかな？」
葛城さん、ちゃんとマナーを守ってくれる…いい人みたい。
※セカンドインパクト以降、急増したIntersex（男性、女性と一概に
断定できない身体的特徴を持つ）の人々に対して、２０１０年から
日本政府は男性、女性と別の性別、中性を制定している。
「まだ、決めてないですから、好きなほうで呼んでください」
「そう。それじゃ、私はシンリちゃんと呼ぶことにするわね」
「はい」
…聞かなくちゃ
「あの、葛城さん。…その…」
「ミサトでいいわ、で、何が聞きたいの？」
「ミサトさんって父とどういった関係ですか？」
「あなたのお父さんは私の職場の上司なのよ。で、今日は私が代行で迎えにきたわけ」
「あの、プライベートの関係のほう…なんです…けどぉ…」
ボクがプライベートと言った途端に、それまで澄ました表情をしていたミサトさんが
ちょっとだけ嫌そうな表情に変わったのを見て、声が小さく途切れる。
「私と碇司令は、た・だ・の上司と部下よ。それ以外は何もないわ」
なんだか、ショックを受けているように見えるけど気のせい？
プライベートに頼まれたんじゃないのに、ボクを迎えにきたということはお仕事？
中学生と関係があるような職業…
…教師、講師って感じじゃない。上手く言えないけど、どこか普通の生活とは違う雰囲気。
第二東京市に似たような雰囲気の人がいた気がする。そう…繁華街によくいる人達。
ミサトさんは斡旋業関連の人？
……父さんは”平和を守る大切な仕事”をしているんじゃなかったの？
「…シンリちゃん、ちょっと、シンリちゃん、聞いてる？」
気が付くと、目の前でミサトさんが顔を覗きこんでた。
「…！！！！！！」
ガツッ
反射的に逃げようとして、窓に頭をぶつけてしまった。
あまりに勢いよくぶつかったせいで、ミサトさんが目を円くしてる。
…駄目…落ち着かなくちゃ…
「そんなに驚かなくたっていいじゃない？」
座席に深く座り直して、軽い口調で話を濁してくれる。
「あ、あの、ごめんなさい。何を話してましたっけ？」
ボクも、少し離れて姿勢を直して話を戻す。
「私とあなたのお父さんの関係。ま、それはこの際置いておくとして。
お父さんから何か貰ってない？」
ボクは、父から貰った手紙の袋を全部、渡した。
入っているモノを確認していたミサトさんが、父さんからの手紙を見て顔を顰めた。
…どうして？
必要なことだけ、欲しかった言葉だけが書かれていたのに。
無駄な言葉なんて要らない。
「ＯＫよん。じゃ、これ読んでおいて」
確認し終えて、代わりにパンフレットを渡された。
”ようこそ、ＮＥＲＶ江”と書かれたシンプルな冊子。
「父の…会社の案内資料ですか？ なぜ、読んでおく必要があるんです？」
「あなたに関係することなのよ。詳しい話はお父さんから聞いて」
それまでの会話と違って歯切れが悪い。
…資料を見てみると、人類を守るための活動をしている会社…みたい。
少なくとも中学生を斡旋するようなお仕事じゃない。
とりあえず、安心。
でも、何から人類を守るのか書かれていない。
会社の支店が世界中にあって、本店が第３新東京市にあるって書かれてる。
でも社員の人数も活動内容も規模も白紙。
…これで本当に国家公務員？
パンフレットを見たボクは、どうしても”ミサトさん＝斡旋業の人”という
考えを捨てることができなかった。
ミサトさん、国家公務員って雰囲気じゃないし。
「…父が、なんでボクを呼んだのか知ってますか？」
漠然と感じた不安。…単に親が子を呼び寄せるだけなら、
あんな会社のパンフレットなんて見なくてもいいはず。
「それは、お父さんに直接、聞いたほうがいいわね」
「これから父に会えるんですか」
３年間、思い描いていた未来…ズレ始めてる現実。
どうしても緊張で口調が固くなってしまった。
「苦手なの？、お父さんが？」
ミサトさんが優しい表情をしている。
自分の中にある想いと重ね合わせるかのような問い。
「苦手…というほど知りません。離れてましたから」
「そう」
…３年前に少しだけ会ったのを最後に、父さんとは手紙のやり取りも電話もしたことはない。
叔父夫妻の口座には定期的に入金されていたから忘れられたわけじゃない、とは信じてたけれど。
父さん…なぜ呼び寄せたの……？
「シンリちゃん、帽子は丁寧に扱ったほうがいいわよ」
「え、帽子？」
胸元を見てみると、帽子はすっかりボクが強く握り締めて
皺くちゃになっちゃってた。
--―＊――
「…ミサトさん、どこに向かっているんですか？」
帽子についた皺を直していると、自動操縦でカートレインの荷台に
自動車が固定され、地下へと通じるトンネルを下降し始めた。
「第３新東京市の地下に存在するジオフロント、世界再建の要。
人類の砦となるべきところ。あなたのお父さんや私が働いている職場よ」
しばらくして、急に視界が開けた。
地下深くに降りていたはずなのに、眼下には広大な森林が広がっている。
どっちを見ても、視界を遮る壁が遥か彼方にあることを除けば、地上と何も変わらない。
天井から生えてる逆さになったビル、陽光で広大な空間を照らす集光施設。
地下に存在する第二の世界、ジオフロントだった。
ボクたちの乗ったカートレインは壁面のレールを伝って、
森林の中央に位置するピラミッドのような形の建物に向かっている。
「砦？…何と戦う砦ですか？」
「今は”敵”としか言えないの」
”敵”という単語に、僅かに混ざる憎悪…。
でも、不思議と漠然とした物言いだった。
「こんなに綺麗なのに…」
眼下に広がる森林は、閉ざされたジオフロントにあるからには人工林のはず。
でも、第二東京市の森よりも生命の輝きに満ちた眩しい雰囲気に満ちてる。
「気に入ったなら、暇な時に散歩してみるといいわ。
いろんな動物が放されているから結構、楽しいわよ」
「はい」
さっきまでの雰囲気を霧散させて、ミサトさんは話題を切り替える。
ボクも動物は好きだから、自然と笑顔で答えていた。
父さんと会える
期待と不安で胸がドキドキ。
３年ぶりの再会、それが持つ意味をボクは、それほど深くは考えていなかった。
Ver2.00 2004/4/5 YOKO
構想２年、やっと掲載開始となりました。
これくらいのテキスト量が一回の掲載分としては丁度いいですね。
レイが登場するのはＣパート辺りかな。
次回はちょっとシリアスなシーンです。
ま、親子の出会いだから外せないんですけど、ちょっと暗め。