後書きのオマケ話

　ゼーレ本部、広大な議長室において、立派な作りの椅子に腰掛けた
　キールは、怪しげなローブを纏ったまま、ゆっくり話を続ける。

「お前の怒りを感じるぞ、カヲル」

「な、何を…」

「危険な実験に付き合った挙句、試みは失敗。
　彼らの勇敢な試みは実を結ぶことはなかった」

　本当に哀れんでいるのか怪しいほど淡々と語る。
　その、ある意味、他人事のようにも聞こえる口調が
　カヲルの神経を更に逆撫でる。

「…」

「ワシが憎いか？　例え”人”としてであろうと、
　ここにある武器を取れば、簡単に命を取れよう」

　　キールは手元にある光剣を軽く叩いて闇へと誘う。
　　連行されてくる途中に奪われた赤木印の未来武器だ。

「…」

「迷っておるな？　何を躊躇う必要がある？
　お前が手を血に染めたとて、知られねばよいではないか？
　ＮＥＲＶ本部に量産機が向かう今となっては、
　もはや、お前の大切な者達の命は風前の灯火。
　…全て…終わりだ」

「…」

　カヲルの視線が光剣へと流れる。

「怒りに心を任せることを躊躇うことはない。
　今、大切な者達を守れるのはお前だけなのだ。
　…どうする？　若き使徒よ」

　　大型スクリーンには、９機の量産機がＮＥＲＶ本部へと
　　到着しつつあることが見て取れる。

　　僅かの逡巡を経て、カヲルは光剣を意志の力で取り寄せて
　　光刃をキールに向けて振り降ろす。


　　　バチバチバチバチ


　　カヲルの光刃は寸前で、赤き光刃に止められた。

　その刃の持ち主は、赤いサングラスをかけた漆黒長身髭面の男。

「そうだ、怒りに身を任せよ。
　碇を打ち倒すがいい。己が未来を阻む者を殺すのだ」

　子供が泣き出しそうな笑顔を浮かべてキールが煽る。
　激しい怒りがカヲルの心に荒れ狂い、破壊衝動に駆られた。
　…それでも、辛うじて若き使徒は踏み止まった。

「僕は、”義父さん”とは戦いたくない、そこを退いて下さい！」

　　懸命な願い。呪われた運命に抗おうとする強い意志が見える。
　　普段は少しズレたところのあるカヲルだが、こういった、有る意味、
　　”青年の主張”的な台詞を言わせるとハマるものがある。

　　だが、少年の真っ直ぐな心も、刃の向こう側にまでは届かない。

　　　ふっ

「…お前は、人の闇を知らぬのだ。
　全てをキール議長に委ねるがいい。
　暗黒面へと導いて下さるだろう」

　長身の男は揺らぐことなくそう言い放った。
　本部には、部下達も、レイも、そしてシンリもいるだろうに、
　まったくそれを気にする素振りすらない。




「僕の”義父さん”は死んだわけだ…」

　カヲルは悲しげに呟いた。微妙に強調することを忘れずに。
　照明効果もあいまって、苦悩する少年の妖しい魅力が倍増してる。

　ゲンドウの頬がぴくっ、と動いた。




「お前に、義父さんと呼ばれる筋合いはない」

　　ブン！

　かなり本気に赤い刃が叩きつけられ、カヲルは彼方へと飛ばされる。
　



　　ごつんっ

　いい音がして、オープンセットの壁が人型に凹んだ。



「お父さん！！！　今、寸止め忘れてる！！」

「…ふっ、問題ない」

　撮影機材の後ろから見ていたシンリが思わず口を挟んだ。
　カメラを構えていた加持が呆れて、ディレクター席の冬月を見る。

「いやはや、これも予定のうちですか？」

「…まったく親子揃って面倒を増やしおって」

　１回、２回かならともかく、こうも繰り返されれば堪忍袋の尾が切れる。
　…どうも、撮影はまだまだ長引きそうだった（^^;）

　えと、まぁ、その…笑って流してください〜。
　真面目なストーリーばかり書いていると、ついこんな話が書きたくなるんです。
　そういえば…同じ、心を闇に誘う、という点でも、ロード・オブ・ザ・リングは
　秀逸な出来でしたね。
　あれくらい、ルーカス監督も上手く描ける人なら、面白さも倍増したでしょうに。

　最初の三部作、どうも上記シーンの主人公の葛藤部分がこう…
　内面が伝わってこないのですよ、うん。

　もちろん、三部作、どれも大好きですし、毎週、５００円の冊子も買ってる
　人なんですけどね、私ってば（笑）