アリーナレイヴンに直接きたＡＣのテスト依頼。
長期に渡る運用試験、その目的は何か？
中堅企業フォート・テクニカが自力で独自のＡＣを開発できたのは何故か？
重装２脚なのに、轍の跡・・・。
まぁ、ＡＣですから脚部パーツを交換してテストしていただけかも
しれませんけど、気になる部分ですね。
「まずいなぁ、ブースター使い過ぎたかな？」
警告音がコクピット内にやかましいほど鳴り響く。あーうるさい！考えることすら出来ないじゃないのっ！
それにしても、この夜間市街地ってのはやりづらい。しかも、くそ生意気にステルスなんて使いやがって、
あー、腹立つ！
このアリーナの対戦場は只でさえ視認しづらいってのに黒っぽいＡＣなんぞ使ってるし、
その上レーダーに映んないってのは卑怯だよねぇ。ま、ロックオンは出来るけどさ………
なんて考えてると、ガツン！と衝撃が走った。これって………やっぱし、被弾！？
旋回中も揺れる揺れる。しかも追いつかないし………墜ちたな、コレは……はぅぅ……
まいった。こんな時は何を言われるか、大体見当つく。控室のドアを開けると、
そこにいた連中の顔がニヤついてた………
「よっ、また派手にやられたな。」
「ドやかましいわ、ボケ！！」
顔見知りのレイヴン達とそんな言葉を交わしながら、私は伸びた紅い髪を掻きむしった。
「おーお、その口の悪さじゃ、折角の美人が台無しだぜ。」
「そうそう、その癖もな。」
しつこいのが二人、さらに声をかけてくる。あーっ、鬱陶しい！
「うっさい、蹴るぞ！」
そりゃ、確かに自分で言うのも何だけど、割と外見は好い方だと思う。
でも、こんな所ではそんなの関係ないし。
うーむ、ムカつき度ＭＡＸ。これはやっぱ飲むしか………
とりあえず、控室に備え付けのクーラーボックスからビールのミニボトルを出して、
口を開けるのももどかしく、一気に飲み干すと、控室を出た。
思い切りドアを叩き付けるように閉めて……
「………あなたがミス・マリィ＝ブレイクですか？」
私が控室を出ると、いきなり後ろから話しかけてきた男がいた。
「………そうだけど、何の用？」
はっきりいって、私の気分は最悪だった。何せ、腹立つ負け方をしたばかりだったから。
「ケンカなら買うわよ。今、機嫌悪いからね。」
そう言って、声の方に振り返った。そこに居たのは、いかにも研究者風の男だった。
ボサボサになった金髪、ちょっとだらしない襟元、まさしく、研究一筋って感じで
自分の身の周りにまったく気を配らないタイプだ。人の良さそうな顔して、
まぁ、好感は持てるけどそれだけかなってとこか。って、品定めしてんじゃないけど。
「い、いや、ケンカじゃなくて、その、えーと、ざ、残念でしたね。」
焦ったように歯切れ悪くなったその男に、ちょっとだけ気分が戻ると、
「そんじゃナンパ？だったらパス１ね。」
と軽くウィンク混じりに答えてみる。すると、おぉ、さらに汗かいちゃって。
「え、あ、い、いや、その、ナナナ、ナンパなんて、そんな………」
あらら、真っ赤になっちゃって。そろそろからかうの止めてあげようか。
「それで、用件は何？つまんないことなら帰るけど。」
「あ、そ、そうでした。あのですね、ぜひお願いしたいことがありまして………」
ふーん、何だろ？
「そう。でもどこから居場所なんてききつけたの？」
「それは、レイヴンズ＝ネストに、本人に直接依頼したい、と言ったら、
アリーナに出場中だと教えて貰いまして。」
そうか、ネストか。レイヴンズ＝ネスト、私達レイヴンが所属する組織だ。
レイヴンに仕事を斡旋してくれる所だけど、普通はアクセス・ナーヴを介してだけ聞く名前だから、
珍しいね。直接のオファーなんかも斡旋するんだ。
「そ。じゃ、とりあえずここじゃ何だから、どっか落ち着けるとこ行きましょ。」
「は、はい、そうですね。それじゃあお食事でも。」
「ありがと。当然奢りよね。」
そう言うと、腕を組んで歩き出す。ま、私みたいな美人と一緒に歩けるなんてラッキーよね、この人も。
「え、ええ、まあ………」
耳まで赤くしちゃって、うーん、からかいがいあるわね、この人。
「………マリィさん、そろそろよろしいですか？」
もうお腹いっぱいで、いい加減、気が抜けてきたとこで、彼、ジェフ＝カールトンがそう切り出してきた。
最初に思った通り、彼は技術者だった。会社の名前は、フォート・テクニカ。
そろそろ中堅どころって噂の工業系メーカーで、まあ、ＡＣの部品を扱ってるところ。
でも、そんな所の技術屋さんが何の用だろうか。
「んー、何だっけ。」
ちょっち、そら惚けてみる。
「え、あ、いえ、その、お願いというか依頼したいことがありまして………」
やっぱり口ごもりながらも、そんなことを言う。
「依頼？どんな？」
まあ、御馳走にもなったし、聞いてあげようか。
「え、ええ、あのですね、ある機体のテストをして戴きたいのですが？」
「テスト？無人機の相手でもするの？」
実は、合法・非合法を問わず、この手の仕事は少なくない。新しい武器を発表前に
実戦テストを行うとか、機体パーツの耐久性を特殊な環境下で試験するとか 、
各企業はそんな事を秘密裏に行うようにしている。それをこのように、
その場限りの契約でやらせるのが普通だ。
中には、正式な依頼としてネストに上げる場合もあるけどね。無人機ってのも
そんな依頼の中にあったんだけど。それかな、と思って口にしてみた。
「いえ、うちの社で作ったパーツの実用・耐用試験をお願いしたいんです。」
「ふーん。でも、それなら私よりも、あの試合で勝ったヤツにでも頼んだ方がいいんじゃないの？
壊しちゃまずいんでしょ、そーゆーのってさ。」
はっきり言って、かなりオイシイ仕事だと思う。大抵、そのパーツか、それに相当する品物を
手に入れることが出来る。しかも、契約期間中はそのメーカーから機体の補修サービスが
格安で受けれたりするし、そこの絡んだ依頼を優先的に廻してもらえたりするのだ。その代わり、
定期的に報告する義務と、何より、完全に壊してしまうわけにはいかないので、ある程度機体が
痛んだら即撤退、ってなことになって依頼を放棄する可能性もあるので、それを厭わない性格のヤツか、
腕利きでないと、出来るもんじゃない。
かく言う私は、面倒なのが嫌いで、しかも、壊さずに済ませるなんて程自惚れちゃいないし。
そんな意味も含めて、そう言ってみたけど………
「いえ、先日の試合を見て、ぜひお願いしたいと思ったのです。」
あら、嬉しいことを言ってくれる。でも………
「何で？自分で言うのもアレだけど、私の乗り方ってかなり荒っぽいよ。結構、今までも
ダメにした機体多いし。整備屋に嫌われてるレイヴンのワースト３に入ってるし。」
うぁ、しまった、余計なことまで言っちゃったよ。マズいよなあ。そう思ってると………
「いや、そんなことないですよ。多少無理な扱いをしてもらわないと、テストになりませんからね。」
………………なんか、こんだけ持ち上げられると、もの凄く疑わしくなるよねぇ。
「んー、やっぱパス！」
うん、そうだ！怪しいもんね、こんな話。止めよう、受けちゃいけないよね。そう思ってると………
「………そう、ですか………残念です…………」
う、ホントに残念そう。なんか悪いことしてる気分になっちゃうなぁ。
「あ、あのね、ちょっと待って。やっぱし、少し考えてみるから。」
彼は顔をパッと輝かせた。うーん、喜怒哀楽の激しそうな人だ。こんな人を見てると結構楽しいかも。
どうしよっかな〜。
「今答えないとダメかな？」
とりあえずそう尋ねると………
「あ、それでしたら、ここにメールを送って下さい。」
そう言って、連絡先のアドレスを教えてくれた。
「じゃ、気持ちが決まったら連絡するから。」
と言って席を立つと、
「分かりました。いい返事を期待してます。」
うーん、ホントにどうすっかな、返事の内容。
「…………ん、……む……………」
ダルい、あんまり良くないことがあった次の日はいつもこうだ。やっぱし、帰ってから飲んだヤケ酒が
利いてるのかな？つまりは、二日酔いってヤツ。つらいなぁこれは………
とりあえず、シャワーでも浴びるかな。ボーっとした頭で浴室に向かうと、寝汗と気分の悪いのを
一気に流す。
サッパリして出てくると、途端に昨夜のことが思い出される。返事か………
あまり時間をかけてもしょうがないし、今日中には連絡しようかな……？
でも、とりあえず、ネストからのメールでもチェックしてみよっかな？
急ぎのオイシイ仕事でもあればいーなーって思った……………けど、ロクなもんじゃないわね、
今上がってるのって。これなら、昨夜のヤツ、引き受けるか。
うーん、地上に出るのは久しぶりだね。結局、アドレスをもらった次の日に連絡して、
３日後の今日、訪問することになったのだけど、入り口は私達が住むアイザック＝シティの
郊外にある地上施設だと教えて貰った。なんか、それだけでも面白そうだ。
普段は地下都市に暮らしているんだから、外に出るだけで楽しくなっちゃう。
「よく来てくださいました。本当に有難う御座います。」
「いえ、そんな、たいしたことしたわけじゃなくて、というか、その………」
こんなに改まって挨拶されると、気恥ずかしいモノがあるよね。数日前に会ってるのにねぇ。
「本当に、お引き受けいただいて、感謝のしようもありません。」
「そ、それより、どんなことすればいいの？詳しい話は全く聴いてないわけだし。」
向こうのペースに呑まれっぱなしだなぁ、どうも。
「そうですね、それでは、実物を見てもらいながら説明しましょうか。」
ようやく、お目にかかれそうだけど。とりあえず、期待しましょうかね。
「………………ねぇ、まだ着かないの？もう、１時間は歩いてるんだけど………」
長いっ！外から見たより、全然長いっ！通路に若干の傾斜が着いているらしく、
段々下に降りてるのは解るけど、それにしても、長すぎるっ！いいかげんにせんかいっ！
「そうですね、そろそろ…………」
「着くの？」
そう言われると、向こうの方に大きな扉のようなモノが見えてきた。ここなのね。やっと着いた。
やっと少し休める、そう思った時、
「ええ、移動用のカーゴに着きます。」
「へ？」
我ながら間抜けな声だとは思うけど、そんな声しか出せなかった…………
「………どうして、ここまで厳重なの？はっきし言って、やり過ぎじゃないの？」
とりあえず、落ち着いた気分になったところで、ジェフに気になってたことを尋ねてみた。
「あまり大きな声で言えないんですが、要するに機密情報の保守、という奴です。」
「機密情報ねぇ。それにしても厳重すぎるような………」
まだ納得できずに首を捻っていると、
「さあ、お待たせしました。格納庫に着きましたよ。」
彼の声に気がつくと、カーゴがいつの間にか止まっていた。外に降りてみると、
そこはまるでアリーナのＡＣ待機所のようで、その広さに思わず圧倒されてしまった。
しかも、ここはフロア全体を見下ろせる。二階？二階層ある？真ん中ブチ抜きで？
「な、………何よ、このだだっ広い空間は…………」
「機動力のテストには、どうしてもある程度の広さが必要なんです。」
「………？……機動力ってことは脚部パーツのテストなの？」
確かに下を見ると、床面の土の上に轍の跡がある。………ん？あれ？轍？ってことは車輪がある？
それって………
「車輪って、ＡＣの脚部には無い……よね。」
補助用の小さいのがある脚部（タンク）もあるけど、こんな深い轍は出来っこない。
しかも、この跡の付き方は四輪の動きだ……………つまり………
「ＭＴ？それとも車輪型の脚部？」
「いえ、これを見て下さい。試作ＡＣの２番機です。」
ジェフの指さす方を見た私は、声さえ出せず、驚くことになった。そこには………
「これ………って、……二脚…………よね。それも…………重装型の………」
色の塗られていない、金属色そのままの、それは紛れもない人型のフォルム。
見たことのある腕と頭、そして、今まで見たことの無い脚と……コア。
「そう、このＡＣに乗っていただきたいのです。」
………これが、私とこのＡＣとの出会いだった。
確か、前に、管理人には「俺は見てるだけ。」と言ったような気がするんだけど。
なんか書いてるし、しかも女性の一人称だし、柳川鍋 さんに謝辞を捧げつつ、
とりあえず、できるとこまでやってみるかね。いや、まったく。
ちなみに、章題の「Ｆｉｒｓｔ Ｒｕｎ」とは、映画や舞台の「封切り興行」のことです。
「そんなの知ってるよ」と言われる方もおられますでしょうが、一応念のため。
以上、私事と愚痴混じりの挨拶ですが、よろしければお目汚し下さい。
アリーナレイヴンに直接きたＡＣのテスト依頼。
長期に渡る運用試験、その目的は何か？
中堅企業フォート・テクニカが自力で独自のＡＣを開発できたのは何故か？
重装２脚なのに、轍の跡・・・。
まぁ、ＡＣですから脚部パーツを交換してテストしていただけかも
しれませんけど、気になる部分ですね。