Ｍｉｓｓｏｎ：３　「Ｌｏｃｕｓｔ」

『マリィさん、どうです、調子は。』

「んー、それなり、かなぁ。」

今日は、フォート・テクニカの試験場に来ている。ダミー・ターゲットを用意して、
高速形態での移動中の大型火器発射時の衝撃や、その機体に対する影響を測定するとかで、
左肩にＷＣ−ＧＮ２３０を装備した状態で動かしてるんだ。
しかし、制限重量で抑えてるおかげか、予想より反動が少ない。でも、
この後、大型ロケット砲（ＷＲ−Ｌ２４）に付け替えて、同じテストを行うらしい。
かったるいけど、それが契約だしねぇ。
ちなみに、今、ユーリちゃんはいない。静かなところでレポートを作成しているそうだ。
そんな訳で、ジェフとやり取りしてる。

「思ったより、軽いね。普通に動いてるよ。」

『まあ、そうじゃないと、僕も困りますけどね………』

そりゃ、困るでしょ。だから、テストするんだけどね。

『そろそろ、ロケットに換装しましょうか。』

「うん、そうだね。……んじゃ、その間一休みしていい？」

『そうですね、休憩室でゆっくりしていて下さい。』

お許しも出たし、羽伸ばしてくるか……………


あの後、ロケット砲とスラッグガン（ＷＣ−ＳＴ１２０）でのチェックを行って、
ようやく解放されることになった。すぐに帰る気にならないので、休憩室でコーヒーを飲んでると、

「あら、マリィさん。まだいらしたんですか？」

「あ、ユーリだ。」

「…………それって、どうゆう意味です？」

ちょっとムッとしてる。ま、当たり前か。

「いや、今日は見てないなと思ったんで。別に悪気とかないんよ。」

まだムスッとしたまま缶ジュースを手にして、ユーリは私の横に座ると、缶を開けて一口。
私も飲みかけのコーヒーをまた口に運ぶ。
少しの間二人とも黙りこくったまま、飲み物だけが減っていく。

「マリィさん。あんな態度ばかりだと、いつか刺されますよ。」

「結構怖いこと言うね。」

「本音ですよ。ホント、気を付けた方がいいです。」

「それじゃ、ユーリ自身はどうなの、刺し殺したい？」

キッとこっちを睨み付けて、ユーリは立ち上がりながら怒鳴った。

「だから、そうやって茶化すのを止めて欲しいって言ってるんです！」

そう言われても、今更、自分自身で変われないと思ってるし。
まぁ、私のことを思って言ってくれてるのは分かるんだけどね。

「そう、私は好きだけど。じゃ、帰るね。」

私も立ち上がり、荷物を持って更衣室の方へ歩き始める。うーん、まだ睨んでる。怖いねぇ。

カーン、ガラガラッ！

おや、缶をクズ籠に投げ込んだね。かなり怒ってると見た。結構直情的だなぁ、彼女。


着替えを終わって、社員専用口から出ると、ユーリが待っていた。
まだ御機嫌斜めな顔してるよ、この子。

「そんじゃ、お休み。」

そう言って帰ろうとすると、

「…………時間、ありますか？」

何だろうね、いったい。

「よければ、この後お付き合い願えませんか？」

声が固いよ、ユーリちゃん。お姉さんはこんなシチュエーション好きじゃないのよ。

「ゴメン、疲れてるからパス。家に帰って寝るわ。」

さすがに諦めるだろうな、今回は。っと思ったのに……………

「それでしたら、お邪魔させて頂きます。いいですね。」

……………マジ？それ。そうまで言われたら断りきれる言い訳もないし、

「ん、いいわ、来なさいよ。」

って言うしかないよね。

「それじゃ、行きましょう。」

思ってたより行動力があるって言うか、猪突猛進って言うか…………


「とりあえず、上がって。」

「お邪魔します。」

丁寧な挨拶だね。彼女はソファーに座った。

「何か飲む？って言ってもアルコールしかないけど。」

冷蔵庫を覗いたが、本当にビールしかないんでやんの。

「いただきます。」

あ、そう、飲むの。大丈夫かなぁ？テーブルの上をパッと片付けて、
ビールの缶を４，５本並べる。あ、手に取ったと思ったらもう飲んでるし…………


「……………マリィひゃん。ちゃんと聞いてまふか？」

ろれつが回ってないじゃないの。目も据わってるし、顔だけじゃなくて手や足まで
真っ赤になってるんだけど。飲み過ぎだよねぇ。もー完璧な酔っ払いだよ。

「………もひもーひ、聞いてるんれふかぁ？」

「はいはい、ちゃんと聞いてますって。」

こうなると、逆らわないのが一番。
しかし、彼女、普段から鬱憤とか結構溜まってるんじゃないのかねぇ。

「……いいれふか？人間ってのはれふね、一人れは生きていけないんれふよ………」

と言われても、レイヴンって大半は一人で生きてるような人種だし、
私なんて、さらに一人で生きてる時間が長かったし……………ね。
かといって、今、口にするのは自殺行為だし、どうしましょうかね。

「………ん、もう無いれふよ。おかわり…………」

と言ったかと思うと、テーブルに突っ伏して寝息を立ててるし……
……しょうがない、とりあえずベッドに寝かせておくか。


ぷうっ、スッキリした。ようやくシャワーを浴びて気分をスッキリさせると、端末を開いてみた。
新しい依頼が入ってる。どれどれ……………
まず、タイトルは『輸送物資奪取』と『輸送部隊強襲』か。あれ、似たような依頼のタイトルだけど……、
とりあえず内容を確認しましょうか。

『輸送物資奪取』の方は、依頼主：イヅモマテリアル………ムラクモの直系か。
確か重金属を扱う会社だけど、ってことは『物資』の中身は鉱石かな？
え、と………アヴァロン＝バレーからアイザック＝シティへ輸送される物資を奪取するため、
輸送車の護衛部隊を殲滅し、輸送車を確保して貰いたい。護衛はレプラコーン・戦闘ヘリが２機に、
戦車のヤグアルとセントーアが４台ずつ。それと、機種不明のＡＣか。
確かに、それなりの腕を持つレイヴンがそれなりのＡＣを使えば一人でも出来る内容だ。
しかし、昨日はこの依頼なかったし、そのくせ、今夜が実行日じゃ誰が受けるんだろ、
これ。あと６・７時間の内に受けないと間に合わないし。
えっと、報酬は３７０００Ｃ（コーム）か。高いな。高過ぎる。何か裏があるな、これは。
もう一つはどうだろう？

『輸送部隊強襲』ね、こっちはＲ＆Ｇインダストリーってなってるけど、確かクローム系列だったような。
で、内容は…………………あれ、もしかして、対象って同じ部隊？
襲撃予定地点も、対象部隊編成も、時間まで一緒。
違うのは、目的が輸送車も含む完全殲滅って事…………こっちの報酬は３５０００Ｃか。
どっちも内容と比べて高いけど…………
ん？そうか、これって、最初から、他の勢力の妨害を計算に入れてるんだ。
多分、アヴァロン＝バレーかアンバー＝クラウンあたりのレイヴンが護衛に付いてるはずだ。
機種不明のＡＣってことは、逆にクロームやムラクモの純正じゃない、一般のレイヴンが
組んだＡＣということになる。その上に、片方が邪魔をする可能性も捨てられない。
クロームとムラクモの仲の悪さは誰でも知ってるし。正規の部隊を失う危険を犯すより、
レイヴンを使って、失敗しても知らぬ存ぜぬを決め込む気だ、これは。いつものことだけど、ね。

さぁて、どっちを取る？折角の依頼だ、それに、ブラッドウィドウはもっと使い込まないといけない。


出撃も決まったし、機体の装備を直しておこう。
頭も腕も手持武器も前回の出撃と同じ、ＨＤ−０８−ＤＩＳＨ、ＡＮ−２５、ＷＧ−ＸＦｗＰＰｋにＬＳ−３３０３だ。
レーダーも同じＲＺＴ−３３３、左肩の装備をリニアガン（ＷＣ−ＬＮ３５０）から
チェーンガン（ＷＣ−ＣＮ３５）にする。ヘリがいるので連射系の武装は使い勝手がいいからね。
ＦＣＳは距離よりサイトをとって、ＦＢＭＢ−１８Ｘに変更した。後々、ミサイルを付けた時も使えるし。
今回は最初から四脚のままで行こう。ただし、高速移動用の四輪で、だ。
普通の依頼を受けたことをジェフに連絡しておく。これは、義務って奴だ、と思うんで。
ついでに装備変更もお願いしちゃおう。

「…………って訳で、使ってみるけど、いいよね。」

『そうですね、実戦で四輪の機動がチェックできるのはありがたいですし。
それじゃ、機体は組み直しておきます。それと、ユーリ君にも連絡しておかないと……』

「あ、いや、今回は、出来るだけ痕跡を残すなって依頼なんで、
あのデカいのが来ると跡が残るんで、自分だけで行くわ。
後で通話以外のデータ読んで貰えばいいでしょ、ね。」

いや、まさか、ユーリがここで酔っ払って寝てるなんて言えないっしょ。
それに、ここで起こして「行きます」って言われたって、二日酔い２００％の人に
オペレーターさせるほど命知らずじゃないからね、私は。

『そうですか………分かりました。それじゃ、データの方よろしくお願いします。』

そんなこっちの事情も知らないジェフは、素直に信じてくれた。
やっぱし、少しは疑えよ、って言いたくなるけどね。


うーむ、まだ起きない。昨夜帰ってきたのが２３時。それから飲み始めて、
ユーリがつぶれたのが２時頃。で、今は1２時。真っ昼間ってヤツだ。
無理に起こしても仕方ないし、置き手紙でも置いて、ブラッドウィドウを取りに行きますか。


『レイヴン、聞こえますか？本隊は１時間後に到着の予定です。
それまでに、初期護衛部隊及び、おそらく、予想される増援を全て殲滅して下さい。
その後、本隊が到着するまでの輸送車の安全を確保して下さい。お願いします。』

「……………了解。」

まったく、イヅモの人も言いたいこと言ってくれる。結構大変なこと要求してるよ、それ。
まあ、文句言っててもしょうがないので、大人しく従いましょうか。
そろそろお客さんも到着するみたいだし。

「ちょっと寂しいかね。静かだと。」

この機体、ブラッドウィドウに乗ってから、いつも誰かの声が聞こえてたんで、
今日はちょっと勝手が違うな。ま、そんなことで調子を崩すほどデリケートでも無いけどね。
レーダーに青い点が映った。…………二個か。
事前情報通りならレプラコーンの筈だけど………
………遠距離用のミサイルの方が当たりだったかな？

ゴオォォォォォォォォン……………！！

ん？爆発音………戦闘が始まってるってことは、Ｒ＆Ｇが雇ったレイヴンが仕掛けたって事か。
なら、のんびり見物って行きたいけど、そうもいかないやね。出ますか、こっちも。


出遅れたってのもあるけど、派手な奴だね、Ｒ＆Ｇ側のレイヴンは。
まあ、輸送部隊のＡＣも健闘してるようだけど。こっちもだけど、まあ、真っ赤なＡＣだこと。
アンバー＝クラウンのランカーじゃなかったかな？それと、こっちはサブアリーナのクル・ウイかな？
確か前に試合見たけど、あのミサイルはパスしたいな。
予定通りにヘリにチェーンガンを当てて叩き落とす。
１機はクル・ウイの垂直ミサイル（ＷＭ−ＳＭＳＳ２４）をくらって落ちている。
戦車もそのミサイルで４・５台吹き飛ばされてるみたいだし、奇襲としては、完璧に成功してるみたいだ。
おー立派立派。
ターゲットの輸送車が吹き飛んでないのはこっちにとっては好都合だけど、ワザとなのかな？
クル・ウイが向こうで護衛のＡＣと遊んでる間に、こっちも手早くＰＰｋで残りの戦車を片付ける。
結局、出遅れたのが得になったみたいだけど、どうかな？


他の護衛も完全に沈黙して、後はあの赤いＡＣだけだ。
まあ、任務の邪魔、と言う意味ならクル・ウイも一緒だけど。
とりあえず輸送車かーくほっと。しっかり眼の前に居座ってやろう。

『そこの四脚！何してんだ！』

おや、どうやら、お二人さんともこっちに気付いたらしい。
お互いに牽制しながら、こっちに近付いてくるよ。

「お疲れさん。とりあえず、輸送車は確保してるけど？」

『こっちはそれを破壊するのが仕事なんでな。どけよ、それとも一緒に消えるか？』

まあ、セリフだけのことはある装備だ。垂直ミサイルが二門に腕武装の
デュアルキャノン（ＡＷ−ＤＣ／２）、火力は圧倒的だからね。
いや、強烈だわ、まともに喰らったら、ね。
それに対して、アンバー＝クラウンのＡＣはプラズマライフル（ＷＧ−ＸＣ４）と
スラッグガン（ＷＣ−ＳＴ１２０）といった装備だ。全体的にそこそこな感じ。
それでさっきまでクル・ウイとやり合ってたんだから結構な腕だね。
赤い龍のエンブレムが決して誇張じゃなく、実力を表してるようだ。

『どうなんだ、おい。どくのかどかないのかハッキリしろ！』

随分苛ついた声だ。ハン、情けない。自分の残り弾数がないって言ってるようなモノでしょうが。
情けないヤツだね。ま、武器腕なんて元から弾数無いからね。
それに比べて、赤いＡＣの方は落ち着いたモンだ。余計な事は一切話す気がないらしい。
まあ、武器腕じゃ無い以上、ブレードもあると思っていいはずだね。

「どかないよ、って言ったら？」

いつもの癖で聞いてみる。

『…………くっ、う、うるせぇ、どきやがれ！』

底が浅いね。こんなヤツ、苛めるのも勘弁してやるか。

「そんなこと言ったって、貴方、もう残弾少ないんでしょ。今なら見逃してあげるわよ。
まさか、私とそっちのＡＣまで粉砕して輸送車を壊せるほどは無いはずよ。
そうじゃなきゃ、とっくに撃ってるよね。」

『……………グッ……………』

大当たり。その不安を隠すために散々吠えまくってたんだ、ホント情けないヤツ。
もう一押ししてやろう。

「こっちは、貴方のおかげでほとんど弾を撃ってないの。分かる？坊や。」

逆上して暴れる危険も無い訳じゃなかったけど、アリーナの戦いを見た限り、
大丈夫だと思った。案の定、さっさと逃げていった。
別に追いかけてとどめをさすほどの相手でもないし、放っておこう。
それより、こっちの方だ。実力は未知数………おそらくは、強いレイヴンだ。
悪いけど、真面目に勝負はしたくない、少なくとも今は。


しばらく睨み合いの状態が続いた。
……ん？レーダーに多数の機影？時間は！そうか………もうそんな時間なんだ。

「どうする？こっちの増援が来たけど。」

スピーカーで呼びかける。どれほどの実力があっても、補給無しの連続戦闘は
避けたいハズだ。多分ね……

『分かった、こちらの負けのようだ。大人しく引かせて貰う。』

正しい判断だ。やっぱり実力者だね、この人。

『俺の名はアリュマージュ、こいつはコンビュスシオン。あんたの名は？』

「マリィ。この子はブラッドウィドウ。」

『そうか、アンバー＝クラウンに来ることがあったら、この決着をつけよう。』

「いつか、行ったらね。」

そう言って、彼は向こうの方に去って行った。いやぁ、結構怖かったね。
もし、彼が物資を諦めて攻撃を仕掛けてきてたら、やり過ごせる自信は無かったな、
マジで……………
あぁ、有明と狭霧だ。本当に援軍だったんだ。時間的には少し早いか。
でも、助かったね。


『レイヴンご苦労様でした。報酬は既定の口座に振り込んでおきます。』

オペレータからの通信が入った。依頼は終了だ。さて帰るかね、我が家へ。


「………ファァァ……眠い。」

機体をジェフに預けた後、ようやく帰ってきた。あれ、鍵掛けてない………か、
何せ、ユーリ置いてったんだもん。ま、いいか。盗られて困る物なんて無いし。

「あ、マリィさん。お帰りなさい。」

え、あれ？何？何なの？

「………………ユーリさん。まだ居たの？」

「居ましたよ。だってゆっくり休ませてもらったんですもの。」

「でも、普通、気が付いたら帰るんじゃないの？」

「鍵を開けたまま帰るわけには行きませんよ。
ついでに、今夜ももう遅いので泊めて下さい。」

にこやかに言ってんじゃないよ、このお嬢さんは。今日は絶対に飲ませない！！
って思ったら…………おい、勝手に冷蔵庫漁ってるし………………

「さあ、飲みましょう。」

うるるるるる〜。今夜も地獄なのね……………


ちなみに、救急パックの中の睡眠効果のある鎮静剤を混ぜたビールを飲ませて、
さっさと寝かしつけたことを報告しておく。

いや、なんか、最後は情けない終わり方になってますね。登場人物の暴走も出てしまったし、
いやぁ、酔っ払い・特に絡み酒ってイヤですね（笑）。
最初はこんな娘にするつもりじゃなかったのに、この後どうしましょうかねぇ。
まあ、その分戦闘シーン等は軽めになってしまいましたが。どうでしょうか。
次回はどのような話になるか、全然まだ思いも付きません。
今回、こちらの都合で、既存のレイヴンを二人ほど出してしまいました。
ＡＣクル・ウイに乗るフライ・アウェイ。こちらは、マスターオブアリーナのサブアリーナで出てきます。
垂直ミサイルを使うって設定でしたので、そこから、自分のことが一番大事で無理はしない性格にしました。
もう一人は、知っている人は知っている、プロジェクト・ファンタズマの
アリーナ第８位・コンビュスシオンを駆る、「皇帝」の弟子、アリュマージュです。
作中では、冷静で腕の立つ、一流のレイヴンとして登場願いました。
彼らとは、それぞれ、いつかは戦わないといけません。逆に、この先ミッションにおいて、
手を組むレイヴンもいるはずです。その為の試金石になりました。
いつもの、章題ですが、「Ｌｏｃｕｓｔ」は、蝗（いなご）です。今年は、アフリカの方で大量発生したそうです。
ＫＯＥＩの「三国志」の初期の作品で知っている人もいるでしょう。「作物」を食い荒らしてしまう、怖い存在です。
この、食い荒らすところを、「奪い去る者」として、使いました。
誰が、何を、奪い去るのか。または奪い去ったのか。
では、また、その内にお会いしましょう。

３者３様の目的で衝突する・・・ありそうでなかったシチュエーションですね。
ＡＣでもこういうミッションがあれば面白いでしょう・・・次回作・・・うーん？（＾＾；）
酒が弱いのに飲んじゃうユーリちゃんにも困ったものですが、適当に
あしらうあたり、マリィさんの経験を感じさせますね。

今回はマリィさんの作戦勝ちでしたが、次回以降どうなるんでしょう・・・？
続きが楽しみ〜。さ、続きが読みたいと思った人は感想メールで催促しましょう♪