Ｍｉｓｓｏｎ：２　「Ｇａｌｌｅｒｙ」

作業を初めてから２０分。下水道の中を、まだうろついている。とりあえず、あった端から叩いてるけど、
こっちはせいぜいジャヴェリンかビショップ�U、ミミー、悪くてもワスプクラスの軽量機ってとこを予想していたんだけど………
蓋を開けたらビックリさん。
オーガーにイーゲル、ファットボールド。こんなんじゃ、しまいにゃサガルマタか東雲、ライトニング辺りが
出てくるんじゃないの、これ。勘弁してほしいなぁ…………情報が間違ってる訳じゃないけど、
普通のテロリストじゃないでしょ、こんなの。テロリストよりは、どこかの傭兵に感じる。まさかね………
そろそろ、連絡入れておくか。

「ユーリ。聞こえる？」

『はい。何ですかマリィさん。』

うん、まだ通信状態はクリア。ダメージは少し。消費弾薬はほぼ６割。潰した機体数は１６っと、大昔ならもうＡＣＥってか。

「こっちは現在順調に進行中。ちゃんとモニターしてる？」

『ええ、こっちは問題なく記録してます。』

会話以外はね。会話だけはこうして話している時か、こっちで記録用のレコーダを動かした時だけ記録される。

「あっそ。」

そのくせ、戦闘内容は気にしてないのね。とは言っても、実際に戦わなきゃこの気分は分からないんだろうけど。

『それより、予想より消費してる弾数が多くないですか？』

あ、一応気にはしてるのね。

「まあね、思ってたよりゴツいヤツが多くてね。ホントもてる女はツラいわ。」

『……………その冗談、つまらないですよ。』

うぐっ、キツい！この娘、性格悪いんじゃないの？まったく、潤いの一つや二つあったっていいじゃない。
ほんの軽いジョークでしょうに。

『口に出てますよ、今の。』

「え、ホント？」

『はい。』

あうっ、やっちまっただよ。どないしようか？

『潤いをもとめるのはいいとは思いますけど、あまり余計なことは言わない方がいいですよ。』

「へーい。」

むう、反論できる状況じゃないな、これは。大人しく従っておこう。
っと、レーダーに反応？またお客さんだ。

「ゴメン、また後で！」

『あ、マリィさ…………』


通信機のスイッチを切ると、レーダーを再確認する。左前方から二機、前の曲がり角の先、か。距離は、３０００………
近いな。でも、間に合う！
降着姿勢に入ると、肩のリニアガンを用意する。ロックオン！後は出てきた瞬間に撃てる限り撃ち込むのみ。
そろそろ、………………………来た、Ｆｉｒｅ！！　弾丸を立て続けに５発叩き込み、武器を切り替えて急速後退！
ＰＰｋを撃ち込んでとどめを刺すと、もう一機に向かって、っとジャンプ！
すぐブースターをカットして落ちながら打ち込み、着地と同時にダッシュ、ブレードで切り抜ける！　そのまま走り抜けると、
振り返りざまにＰＰｋを打つ。４発ほど打ち込むと、ようやく黒煙を上げ静かになった。また、オーガーだよ、これ。
１２発か、撃ち過ぎたかもしれない。
一息ついて、通信機を入れる、と……………

『大丈夫ですかっ！無事なんですかっ！返事して下さいっ！マリィさん、ねぇっ！』

おーお、結構焦ってるし慌ててるよ。

「だ〜いじょ〜ぶだよ〜。心配してくれてありがとね。」

『…………………っ。』

うーん、さっきの感じからすると、めっちゃ怒るだろうな、多分。彼女、真面目なタイプみたいだし……

『ど、どうして、いきなり通信を切っちゃうんですか！』

「そうだよね、大事な機体が壊れちゃまずいもんねぇ。」

うぅむ、我ながら悪い癖だとは思うけど、ついからかっちゃうのよねぇ。

『そんなことより、人の命の方が大事に決まってるじゃないですか！！』

いやぁ、やっぱしね。そう言うとは思ったのよ。

「はいはい、分かったから、大きい声出すの止めてくんない？」

『……………っ！だ、誰がそうさせてるんですかっっっ！』

「ゴメンね。」

こんな時は素直に謝っておくに限るね。

『……分かってくれればいいです。でも、二度とあんなこと言わないで下さい。』

結構この手のタイプって扱いやすいのよね。ま、今度は口にしないけど。

「ハイ、了解。でも、ヤバい時はいきなり通信切ったりするけど。」

『…………出来るだけ止めて下さい。』

そうきたか。ならば、

「出来るだけ、ね。」

ホントに可愛いやね、素直な反応で。私が男ならほっとかないよ。


『地図ではそろそろ未探査地域がなくなります。』

こっちでも分かる、そのためのお皿頭だし。でも、構造的には怪しい所がまだ残ってるんだよね。
そう、この壁の向こう側。いわゆる連絡通路ってヤツだ。本坑よりは狭いが、作業用のＭＴが
十分に歩ける程度の幅はある。私なら、ここに入ってやり過ごすことも考える。
つまりは、この中も調べようと思うのだ。ただし、レーダーに反応は無い。
いたら、ＡＣと考えるべきだろう。でも、ま、行くしかない、か。
横の壁にブレードで穴を空けると、その中へ歩を進める。通信状況は良くないな………

「ユーリ、一応連絡坑も調べるから。その間、通信出来ないんで切るね。」

『はい、気を付けて。』

「戻ったら乾杯しようね。」

『何にですか？』

そうだなあ………………

「初仕事の成功ってことでどう？」

『いいですよ。でも……………』

ん、言いよどんでる。何だろう？

「でも、何？」

『一緒に夜を過ごされる殿方とかいらっしゃるんじゃないんですか？』

「………………………は？何だって？」

まさか、彼女がこんなこと言うなんて、お姉さん、悲しいっ！！

『ふふっ。冗談ですよ。』

「……………おい。」

『先程苛められたお返しです。』

言ってくれる。まったく、どうしてくれよう。

「ま、いいや。用意しといて。じゃ、後で。」

『あと、通信可能になったら、すぐに連絡してくださいね。絶対ですよ！』

…………まだ、さっきの根に持ってるな。


入ってみたのはいいけど、暗いなここ。ＭＡＰを見ると真っ直ぐな通路しかないみたいだし、四脚にしとこうか。


通常の四脚の移動形式もあるといってたんで、その状態にしてるんだけど、しかし、何でＣｒａｗｌｅｒ−Ｍｏｄｅなんだろ？
確かクローラーって「這う」とかいった意味なんだけどなぁ。まあ、いいか。私が気にしたって仕方ないし。
しばらく走らせると、本坑から離れるような道がある。下水道をうろうろしてた時の反応は全部潰してきたんだから、
いるとしたらこの奥しかないね、もう。
そう考えてる内に、レーダーに反応がでた。一機か………マズそうだな。
一機ってことは自信があるってことだもんね。さぁ、鬼が出るか蛇が出るか……


『まさか、レイヴンが相手とはな。』

スピーカを入れたのか。でも、声は変えている。用心深いヤツだけど、さて、腕はどうかな？
機体はスパイトフル…………をいじってるな。ま、始めましょうか。やらなきゃならんのだしねぇ。

「怖じ気づいた？でも、悪いけど消えてもらうわよ。」

まずは、軽いジャブ。反応みてから対策でも決めましょうか。

『フン。こちらもＡＣだ。簡単には死なせんぞ。』

言い終わらない内に、あちらさんはパルスライフルを構えた。これもＷＧ−ＸＰ１０００を改造した物みたいね。
銃を構えた以上は、命のやり取りしかない。あれ、………でも、こいつの構えって？

「どっかで、会ったことない？その構え見たことあるんだけど。」

言いながらも、リニアガンを準備する。後３３発か。ＰＰｋも４０無いし、斬るのが一番確実なんだけど。近付けるかな？

『アンタが勝ったら教えてもいいが、まあ無理だろうな。行くぞ！』

くっ！思ったより速い。それでも左右に動きながらリニアガンを打ちまくり、少しずつ距離を縮める。
肩武装を撃ちながら動ける分、四脚に変形しておいて正解だった。リニアガンなら、少しだけど衝撃が加えられる。
揺れてくれれば、その間は楽に動ける。もちろん、向こうだってそんなことは承知してる筈だから、
動いて避けようとするだろうが、その間は攻撃は散発的になる。結局は強烈な一撃を受けた方の負けだ。
相手の武装はパルスライフル。連射性・威力共に優れた武器の一つだが、ジェネレータの負荷が大きくなるのが欠点だ。相手もそれを踏まえて、小刻みなジャンプやダッシュが多い。でも、アンタの動きの癖は…………直ってない。
外部スピーカを切って………………

「ゴメン………」

一言だけ呟くと、タイミングを微妙にずらして着地ポイントに３発叩き込む…………
相手があいつなら、１発目は直前で機体を横へ滑らせてかわし、２発目もいきなり逆方向へのステップを踏む。
そこで、彼は３歩目はかならず半歩だけ進み…………そして、構えた銃を撃つのだ。
私は、その３歩目に賭けた。癖が直ってないのなら決して避けられない所に、タイミングに、
３発目が届くように弾を撃ったのだ。
予想通り、スパイトフルはよろめき………私は、ブースターで機体を一気に飛び込ませて、一閃！
コアの下をまともに切り裂いた。


『……………フッ、運のいい…ヤツだ。まさか……流れ弾を喰らうとは、な…………』

「名前、教える気になった？」

スピーカを入れ直して、意味の無い質問を投げかける。答えは解ってるけど…………

『………………………悔しいから、教えねぇ……よ………………』

黒煙を上げるスパイトフル。今コアを開けば、命だけは助かるかも知れないけど、
おそらく……いや、絶対に出てこないハズだ。私の知ってる男なら…………

『……もし…アンタに…戦士としての誇り……が分かるなら……とどめをくれ………』

「いいよ、ザック…………お別れだね。」

『………？何で……俺…の名……を？そう……か、アンタだった…のか………』

彼も気が付いたのか、私のことに………私は右手のＰＰｋを構えた。

『………………速く……楽…にしてく…れ。ウィドウ…………』

随分懐かしい名前で呼んでくれたもんだね。２年ぶり、くらいか…………
人に呼ばれることはもう無いと思ってたけどね………

「Ｂｙｅ………」


一筋の閃光が、火を噴き出したコアを捉える。そして、大音声と共に爆発、四散する。
黒煙を前にレコーダーのスイッチを入れ、終了の報告を吹き込む。

「依頼遂行、現時点を持って終了。帰投する。」

悪いけど、涙の一つも出やしない。薄情な女だね、私も…………


モードをＲｏａｄｅｒに切り替えて、急いで進入口へ戻る。とりあえず、冷たい飲み物でも欲しいところだしね。
しばらくして、通信機を入れるのを思い出す。これはもしかしてまずいかも…………

「ユーリちゃん。終わったよ。」

『……………随分、長かったですね。』

ヤバい、声に怒気が含まれてる………

「どうしたの、機嫌悪そうじゃない。」

軽いノリで振ってみるけど……

『通信切ってから、もう４０分も連絡無しで、しかも、１０分位前からこっちのレーダーに捕捉できているんですけど。』

あら、こりゃまた、つれない態度。また失敗しちゃったね、お姉さんは。

「まあ、まあ、機嫌直してよ。これからもつき合い長いんだし。ね。」

『……………とっとと帰ってきて下さい。』

折れたか。よし、せいぜい急いで戻りますかね。


輸送用コンテナに機体を落ち着けると、コアから出る。空気が気持ちいい。何せ、１時間以上も乗ってたんだし。
コアの中って気密性高いから、長く乗ってると空気が澱んでくるのよね。

「お疲れさまです、マリィさん。」

ユーリがそう言って、手に何か持って近付いてくる。缶ジュースかな？冷たいと嬉しいな。

「はい、缶コーヒーでいいですか？」

「うん、いいよん。ありがとね。」

差し出された缶を受け取り、タブを押し込んで…………と、ユーリも同じように缶を開けた。

「んじゃ、仕事の成功を祝して………」

「「乾杯。」」

缶と缶を打ち合わせて、それから一気に飲み下す。冷たいコーヒーがおいしい。生きてなければ味わえない楽しみだ。
そう、生きてなければ…………

「どうしたんですか？何か問題とかありましたか？」

心配そうにこっちを見てるユーリ。そうだね、終わったことを気にしちゃいけないやね。

「大丈夫、疲れただけよ。明日になれば元通りだから。」

そう、明日になれば。また、レイヴンの生活が始まるのだから………

最後は重くなりましたが、今回は最初の実戦として、割と無難な戦闘でしたね。（笑）
実際にこんなミッション、シナリオにあったら、最後の方ですよね。ごつくて堅いのがたくさんいて、
（しかも、ファンタズマとマスターオブアリーナのＭＴが混ざってるし）最後は訳アリな話です。
しかも、かなり淡泊な書き方で。
まあ、まともな戦闘を書くとかなり長くなりますからね。
戦闘シーン嫌いじゃないですし。そのうち、アリーナ戦の時に長めの話でも。
お馴染み、章題ですが、普通は画廊とか、観客の意味で使われるこの言葉。
今回は回廊・柱廊の意味で使っています。英和辞典を引けば載ってますので、お疑いの方はご確認下さい。
それでは、次のミッションをお楽しみに。

なんとも骨の折れるミッションになっちゃいましたね。
無難・・・ＡＣならレイヴンズネスト並に強い敵がうじゃうじゃですけど。（＾＾；）
ＡＣの機動・戦闘パターンってかなり癖がでますよね。
よく知ってる人なら、その動きで誰かわかるほど。
マリィさんも、なんだか過去はいろいろあるようですが・・・。
なんとなくユーリとマリィの仲がいい感じ♪