Ｍｉｓｓｉｏｎ：２２「Ｆｉｎａｌｅ」

「急ぎでやってもらいたいんだけど、いい？」

「……ここに来たって事は訳ありなんだろ？こっちは金さえ貰えりゃいい……で、何をするんだ？」

どのような街にも、裏はある。
金でＡＣを修理してくれる替りに、情報は決して漏らさない………裏の整備工場の一つ。
そこに、あの新型を持ち込んだってわけ。

「装甲の張替えと……エンブレム入れてくれる？図案はコレ。３時間くらいでいける？」

「……２５００００。それ以上は負からんぞ。」

「ＯＫ、これでいい？足りなきゃ後何枚かあるけど？」

クレジット情報を登録したカードを渡す。
読み取り機で読み込んで金額を確認すると、受付の男はカードを返してきた。

「足りない？姉さん、寝惚けた事言ってるな………自分の稼ぎくらい把握しとけよ……引いといた。３時間後、来てくれ。」

「頼んだわよ。」

それだけ言うと、私はそこを後にする。


カフェに入り、端末を繋ぐと、呼び出しを掛ける。
数分後、相手から連絡が帰ってきた。

「元気？生きてた？」

『生きてなきゃどうやって答えるってんだ？』

知人のレイヴン……ランカーじゃないけど、実力は折り紙付き………そして、彼は………『管理者』に睨まれてる。

「……きな臭い話とか来た？」

『……まるでここに居るような言い方だな……ああ、来てる。ネスト本部に設置された浮遊機雷の除去だとさ……なぁ、アンタなら受けるか？コレ……』

「正直、パスしたいけど………ま、覚悟決めなさいよ。どうせ、受けたんでしょ？何時やるの？」

『嫌な言い方だな、マリィ………今夜だ。１８時には始める。なぁに、そう簡単にやられるつもりはねぇよ。終わったら一杯やろうぜ。』

「いいわね。じゃ、また来週にでも連絡するわ……頑張って。」

『………ああ、じゃあな。』

………先日、クローム、ムラクモ、共に政府からの締め付けがあった。一応、まだ社名は残ってるが、あれじゃ事実上解体だ。
変わったパーツを作ることで有名だったプログテック社は倒産し、主任研究員他、大勢のスタッフが行方不明になっている。
…………『管理者』の独断だね。全く、虫唾が走る。
今度は、全く違う相手との回線を開く。

『………君か。どうした？帰ってくる気になったのか？』

「答えはＮＯ。正直に答えて、�ｂQ……今稼動してるのは何番？私にちょっかい掛けた馬鹿は。」

『現在、�ｂR・ラナ＝ニールセンと�ｂV・ハスラーワンが復旧中、私と�ｂSは待機中だ………君の言っている件はフォート・テクニカのことか？技術関連は�ｂUの担当だ。』

２機故障中？そりゃまた………ナインボールが弱いわけよね。結局は、さ。
所詮、戦闘機械のデッドコピー、単調で間抜けだからねぇ。

「６番か………直通端末はあったかしら？」

『第４ナインボール生産機構………アイザック＝シティの南西５km.の所にある。』

「………随分素直に教えるのね？いいの？機能停止が増えると負担が多くならない？」

『２機も待機している理由は分かるかね？本来、３機動けば、我々の仕事は不可能では無いのだよ。』

「そう………じゃ、１と６が止まっても良いわね？」

『�ｂUは自業自得だ………私の愛しい『娘』に手を出したのだからな。だが、�ｂPは止まるかね？』

「多分ね。もう、管理される時代は終わりって事じゃないかしら？」

『……３機で仕事をこなす事は出来るが、手間はかかるな……いいだろう。もし�ｂPが止まるような事があるなら、私達は再生計画のフェーズが進んだことを認め、静観する事としよう……』

「それでいいんじゃない？…………じゃ、そろそろ切るわ。ありがと……『父さん』。」

『マリィ……帰ってくる気は無いのか？』

「……悪いけど、もう人形には戻れないもの……そうね、気が向いたら様子くらいは見に行ってあげるわ。」

『そうか………その時を楽しみに待つとしよう。では、気を付けて行き給え。』

唐突に切れた……ホント、人間味溢れるコンピュータだことで。
仕掛けるべき相手も分かった………正直、１機１機相手にするのは嫌だったからね。独立して世界を動かしてるのは分かってたから、あの件に関わってたヤツだけは虐めてやる。
もう、『管理者』はいらない……人類は十分に発達したんだから。


出来上がったばかりのＡＣに乗ると、目的の場所近くまで運んでもらう。
新しい乗機、クリムゾン・ウィドウ………ジェフ＝カールトンの最後にして最高の機体だ。
ホントにプラス専用機か戦闘機並みの反応の良さ………私が、自分のリミッターを解除して操作するには丁度いい。
どうせナインボールの１０機や２０機、蹴散らしてやるわよ。


目標地点から少し離れたところで下ろしてもらう。
時間は……１６時を過ぎた所………仕掛けるのは１８時……ネスト本部で戦闘が始まり、�ｂPが対処を始めてからだ。

「……仮眠、取るか………」

ＡＣのジェネレータを停止し、コクピットの中で目を閉じる。
タイマーで１８時前に起動設定しておけば良いよね。
じゃ、お休み〜。


低い唸りが体全体に響く……ジェネレータが動き始めたんだ。

「……行くか……」

ＡＣを立ち上がらせる。
このＡＣは、重量級の２脚型。全てのパーツがオリジナル。
右手には結構距離の出るレーザーライフル、なんだが、ＫＡＲＡＳＡＷＡほどじゃないけどかなりパワーがあるのを確認してる。
しかも、切り替えで火力がかなり落ちる代わりに連射出来るようにもなる………状況に応じてってのは、どうもニーズに合わせてってよりは、ジェフの基本的な発想みたいね。
左手は、ブレードの他に何かあるらしい………これも切り替え式だ。何だろう？
頭部にもレーダーやセンサーが内蔵されている。けど、チャチな肩レーダーより全然上だ。範囲以外は圧倒的に優れてる。
その代わり、背中には武器じゃないパーツが積まれてる。どうも、何か入ってるような気がするんだけど、コレも不明。
一応、説明はするつもりだったらしいけど、その時間はもう永遠に無い…………

「なぁに、彼のことだもん、いざとなりゃ役に立つさね。」

そ、今までも、驚かされることはあっても、その所為でピンチに陥った事等、一度も無かったんだから……


一見工場のように見える建物………これが、『ナインボール生産機構』……大都市の郊外に数基ずつ存在している。
このアイザック＝シティに対しては５基……管理するのは基本的に『管理者』１つ……今は�ｂUが管理している………
入口のシャッターはしっかりと閉じられ、開きそうに無い。

「ま、こんな時は慌てず騒がず………叩き斬る！」

ブレードを一閃、シャッターを切り裂き、開いた隙間から手を入れて無理矢理抉じ開ける。
割と広い通路だ………ＡＣなら数機は並んで通れる。ナインボールには必要無いんだけど。どーせ単機でしか出ないんだから。

…………………………グォォォォォォォォォォォォォォ…………………………………………

ん？何だ？まだ遠いけど、かなり響く………聞き覚えがある………エンジンの排気音………それも、かなりのパワーだ。

…………グォォォォォォォォォォォォォォォォォォ…………

段々大きくなってる………ナインボール以外に隠し玉があったってか！？

グォォォォォォォ………

チッ！いったん出るか！
ウィドウを急速後退させる………ここで、曲がれ！
無理矢理後退しながら、外に出た直後に曲がりつつ更に下がる………さあ、出て来い！

グォン！

な、戦闘機！？………いや、サイズが違う………何よ、コイツ！
黒と赤のカラーリング……まるでナインボール………まさか！？

『………驚いたか？滅多な事ではお前は驚かないからな………』

「�ｂU………じゃ、これもナインボールなの！？」

くそ、ナインボールは見た目こそ通常パーツなのに、こいつは完璧にオリジナル機体じゃん………すまん、人の事言えないや。

『先日、これの１番機が落とされてしまったのでね、ちょっとばかり手を加えることにした………お前に勝てるなら、この世の何人もこれの前に平伏すだろう。』

結構、買ってくれること……その余裕、後悔させてやるからね！
とは言え、かなり速い……正直、ロックオンなんて出来やしない………勘で撃っても良いけど、当てるのは難しい。
せめて天井でもあれば………言っても仕方ない。

『では、ゆっくり遊んでくれたまえ…………そうそう、お前の相手の名……ナインボール＝セラフ・アズラエルだ。まあ、お前の事だ、死ぬことは無いだろうがな。』

「………直接操作しなくていいの？単調なパターンじゃ、私には勝てないわよ。」

『当然、分かっている。会話が出来なくなるので、今のうちに言っておこうと思っただけだ……戦闘モード、起動……ターゲット確認……これより、排除を開始する。』

……来るか。
洒落にならないな……私の………今の私では限界か……自己暗示でスタートするのはそれ程難しくない……ここんとこ、戻り過ぎてたからなぁ。
ただ、この子がいけるか………いけるような気がしてきた……機体がピーキーになってるはずだ、この、クリムゾン・ウィドウは………
このレバー、黒と黄のテープが巻かれた………機能変化レバー。
手を掛け、トップカバーを外して始動スイッチを入れる。

ピッ…………

『機動システム変更。Ｒ１からＲ２へ移行。ハイパー・ブースト機能ロック解除。ビームブレード機能ロック解除、ビームシールド展開機能開放。なお、まだ暖気が終わっていないので、Ｒ３レベルはまだ解除されません。』

コンピュータからメッセージが流れる。
ハイパー・ブースト？ビームシールド？何だそりゃ？ま、いい……使えるものに違いない！
今までライトが点ってなかった幾つかのボタンが光りだす……つまり、このボタンがそうだって事よね！
ブースターの横に点いたボタンを押す。

グン！

うあっ！な、何なの、この加速度……やば、壁にぶつかる！……点滅してる？もう一度押せば解除って事？ええい、ままよ！
押し込んだ途端加速が衰え、ホンの数瞬で止まる…………これでかわすのは何とかなりそう……ってミサイルか！
レーダーに移る光点………８発のミサイル………あっちは飛び回りながらミサイルを撃ちまくってくる………ムカつくほど鬱陶しい！
機体をジャンプさせながら振り向き、迎撃機銃に収める………追尾性能はあまり高くなさそうだ。幾つかはジャンプで、残りも何とか機銃で落とせた。

「………まだ続きがあるって言ったわね、このコンピュータ……いいよ、乗ってやろうじゃん！」

攻撃を回避し続ける……ミサイルしか撃ってこない以上、機銃と回避行動で何とかするしかない！
壁も利用すれば、何とかなる………けど、まだ出来ないか………

「……にしても、飛び回るだけが脳じゃないでしょ？他の武装は無いわけ？弾切れまで飛んでるってんじゃないでしょう？」

………ちょっとからかってみたり。
と、スッと地上に……降り立つ………人型かよ、おい。
こっちに向けられた左手、光が見える………ビーム兵器か！
かわし切れない……ん？そういや………どんだけ有効か分からないけど、シールド展開！

ガン！

………直撃よりはマシか………

ピッ……

ん？何？

『セカンド・ジェネレータ起動完了。Ｒ３レベル解放。リミッター解除可能。注意、リミッター解除は３分間有効。以降、４分間回復を待ちます。背部コンテナロック解除、オービット・ウェポンシステム起動。』

………全機能の制限を解除する？オービットって？………悩むのが面倒になってきた………いいよ。全部やってやる………ご自慢のアズラエルとやら、ぶっ潰してやるよ、�ｂU！
これが、そのスイッチか！
いっけぇ！

ウィィィィィィン！

機体が軽い……マジでいける！

「………反撃開始よ。あんたが消し去った人の思い……このＡＣで、味合わせてやる………いくよ！」

アズラエルは両手を交差させる………真っ赤な光………ブレード、光波！
喰らうか、そんなもん！ブースターの勢いが全く違う……悪いけど、余裕で避けられるよ。
ビームライフルを連射モードで撃つ………予想通り、変形して逃げた………でも、今なら追いかけられる。
ブースターを吹かし、一気に間合いを詰める………ついでだ！コンテナ解放！
背中のパーツからロケット弾みたいのが飛び出すと、アズラエルとほぼ同じスピードで飛んで………攻撃する？
追尾兵器、か………気を取られてる。今だ！
一気に背中に張り付き、翼の片方を狙って………斬る！
切り落とした鋼の翼が後方に飛んでいく…………

『……有り得ない……こんな……我々の技術より上だと……こんな……こんな事が……』

「………言いたい事は済んだ？…………消えなさい、�ｂU！」

ん？うぁ？パワーダウン？………チッ、エネルギー切れか！
…………ブースターはダメ、ブレードもライフルも機能停止………でも、機体は動く！
なら、やる事は簡単………どうせ背中に乗ってるんだ、一緒に、落ちてやるよ！
どうせなら……思いっきり踏みつける！

ガゴン！

落下が速くなった………ま、いいか………なんとか、なる、でしょ。

ゴグン！

くっ、衝撃が、キツい！
もう一度蹴りを入れて、ウィドウを浮かしつつ、アズラエルを地面に叩きつける！
とは言え、まだブースターが死んでる以上、着地の衝撃を吸収し切れない………

バキッ！

………ウィドウの右膝が折れた。ガクンと膝を地面に着く……アズラエルは？
見ると、起き上がろうとしている…………右腕がもげ、左の足首から先もどこかに消え失せている。が………それでも、動いている。

『………馬鹿な………バカな………バカ……ナ………』

まだ生きてるのか…………こっちも何も出来ない………とは言え、剥き出しになったパーツが見える……なら、おまけだ。
ハッチを開き、懐の拳銃を抜く………

「………いい加減しつこいよ。最後のプレゼントだ、受け取りな！」

バン！

正直、この距離で外すことは無い………私の撃った弾丸は、アズラエルのパーツの隙間に吸い込まれていく…………
目の前で、青白い火花が飛び散る………
少しして、爆発する………取り敢えず、終わりだね。

「……お前も、ご苦労様。」

ウィドウを軽くポンと叩く……ホント、この子のおかげで勝てたんだもんね。
…………ジェフ、ありがと…………
ゆっくりと、私は地面に降りた…………


あれから３ヶ月………今は普通のＡＣに乗り換えている。
正直、物足りない気はするのだが、下手に使いまくって壊すのも忍びなくてねぇ。
それでも気にはなるので、時々は預けてあるとこに顔を出すようにしている。

「こんちゃー。皆さんお元気？」

「………いつもながらに、むやみやたらに明るいですね、マリィさん。」

む、小生意気な、ユーリのくせに。

「いいじゃん、別に。それとも何？私が明るいと迷惑でもかかるの？」

「迷惑はありませんけど、意味無く明るいのって、変ですね。」

「言うじゃない。今日はやけに突っかかってくるわね？」

「………そう思うんでしたら、もう少し小まめに顔出してください。」

「…………いや、用も無いのに来てもしょーがないでしょ。」

大体、普段は仕事してるのよ、私は。
アリーナに出たり、依頼をこなしたり、さ。

「それでも、時間を作れなくは無いんでしょう？」

「ま、そうだけど………ところで、今日は暇？」

「………泊まっても良いんでしたら、お付き合いします。」

ニッコリと微笑みながら怖いことを言うユーリ。

「……しゃーない、いいわよ、泊まっても。」

「ふふっ、終業まで後１時間ほどですから、見物でもして待ってて下さいね。」

………あの時はもう辞めちゃうのかな、と思ってたんだけど、何とかやる気を取り戻してくれたみたいだ。本当の所、ちょっと嬉しい。
何となく楽しそうに見える背中を眺めて、そう思った。

ピリリリリ………

ありゃ？何だ？
あ、通信機だ。

「はい？どちらさま？」

『どうもご無沙汰してました。カサイです。』

「あ……ホント、久しぶりですねぇ。どうしてたんです？」

『人事異動で忙しかったもので……いやぁ、参りました。』

「左遷されたの？」

『……マリィさんが私をどういう目で見てるのか分かったような気がしますが……聞かなかったことにしましょう。』

「あら、じゃあおめでとうなんだ。で、どちらへ？」

『営業の部長になりました。今までのようにお世話になることは少ないですけど、今度ともよろしくお願いしますね。』

「いえ、こちらこそ。そのうち、また食事にでも行きません？」

『いいですね。時間が取れたらまたご連絡します。では、今日は失礼します。』

「はい、それじゃまた。」

ふぅん、出世したんだ。
また奢って貰えるかな。

「マリィさん、どうしたんです？」

ユーリが戻ってきた。

「え？ああ、知り合いから……ま、たいした話じゃなかったわ。」

「………マリィさんって、結構嘘つきますよね。」

「世の中にはいい嘘とそうでない嘘があるのよ。」

しれっとしてそう言ってみる。
む、なんて目つきで人を見てるのかな、このお嬢さんは。

「………何か言いたそうね。」

「………はぁ………いいです。どうせ言い負かされるの目に見えてますから。」

いやな溜息のつき方ねぇ………

「それより、ちょっと手伝ってもらえませんか？前に言ってましたよね、大抵のＭＴは使えるって。」

「………言ったっけ？そんな事………」

いや、出来るけどさ。

「前に一緒に飲んだ時ですよ。いいから、早く来てください。」

しゃーない、行くか。

「はいはい、何でもやりますよ。」

のんびり歩き始めた………んだけど………
ん？あ〜あ、頬っぺた膨らませて。

「マリィさ〜ん、早く来てくださいってば！」

「はいはい、慌てなさんなって。パパッと終わらせてやるからさ。」

「……期待していいんですよね？」

「まぁね。」

さてさて、そんじゃ、ちょいと済ませましょうか。
…………今んとこ、世の中全て事も無し。
色々起きてはいるけど、少なくとも人間は生き続けてる………もう少しノンビリしててもいいけどね。

「もう、ホントに急いで下さいよぉ！」

ありゃ、ホントに怒ってるねぇ。

「分かった分かった。今行くって。」

私は軽い足取りでユーリの方へ進んでいった。

「Ｆｉｎａｌｅ」………最終幕。
どうもお世話になっております、ＡＢＣです。
何とか終わりを迎えました。
ひとえに、ＹＯＫＯ様とお読み下さった皆様のお陰です。
最後にうだうだ書くのもよろしくないと思いますんで、一言だけ…………

ありがとうございました。

一つの物語は終わり、そして世界は動き続ける。
マリィさんも自分の生きる道を見つけた…のかな。

ＡＢＣさん、執筆お疲れ様でした。

さ、読んだ人は感想メールを送りましょう♪