「ユウカさん、行って来ます……」
レイが、キッチンにいるユウカに声をかけた。
「あ、どこ行くの？」
「……本部。今日は帰らないから……」
そう言うレイは、少し残念そうな顔だった。
「分かった、気を付けてね」
コクンと頷くと、レイは出ていった。
ユウカは一つ伸びをする……と、部屋から出てきたミサトが声をかける。
「あら、退屈そうね」
「へ？あ、ミサトさん……」
とたんに真っ赤になるユウカ。
「見てたんですか？」
「ま、ね。そんなに暇なら、一緒に出かけない？」
「え？今日、お仕事なんじゃ……」
「そーよ。でも、あなたに関係ない事でもないし、いいでしょ」
「……？何ですか？」
「それは後のおったのっしみ〜」
ミサトは、いつも以上に軽い調子で答えた。
第六話 心と絆
「これが、私が倒した敵……」
先日の戦闘跡……使徒の調査を行うための仮設建造物が、丘を中心に建てられていた。
そこの一つに運び込まれた大型の機械と端末越しに、ユウカは使徒の姿を見ていた。
「なるほどね……コア以外はほとんど原形を留めているわ。ホント理想的なサンプル。ありがたいわ」
調査中のリツコが言う。
彼女が足場から下りてくるのを待って、ミサトが尋ねる。
「……で？そこから何か分かったのかしら？」
「見ての通りよ」
リツコが操作する端末のディスプレイには、”６０１”と表示されていた。
「……何これ？」
「コード”６０１”……解析不能を示すコードナンバー」
「……結局、何も分かんないってこと？」
「そうね。でも、解ったこともあるわ……使徒は、粒子と波、両方の性質を備えた光のようなモノで構成されているの。その固有波形パターンは、構成素材の違いはあるけど、９９．８９％まで人間と酷似しているの」
「それって……」
ユウカがふと眼をそらすと、ゲンドウの姿が見えた。
コアを調べている、その掌は焼け爛れているように見えた。
（レイさんを助けた時の……）
「何見てるの？」
ミサトが不意に声をかける。
「え、あ……えーと、父の手に火傷みたいなモノがあったんですけど、ミサトさん理由知ってますか？」
「火傷？アタシは知らないけど……リツコ、知ってる？」
「ユウカさんが来る少し前、起動実験中に零号機が暴走したの……そのことは聞いてるわね」
「はい」
「……その時、プラグ内にパイロットが閉じこめられてね……司令がそれを助け出したの。過熱したハッチを素手でこじ開けてね……あの火傷はその時のものよ」
「へぇ、司令が自分でねぇ……ちょっと意外ね」
ミサトが感心したように頷く。
「そんなに、レイさんが大事だったんでしょうか？」
「それは当然だわ。ＥＶＡのパイロットは、その時点では２人だったんだもの」
「でしょうね。あの人には、私達は大事な”駒”でしょうから……」
「そんな言い方するもんじゃ無いわ、ユウカさん。態度にこそ現さないけど、司令はあなたのことを大事に思ってるはずよ」
「赤木博士……優しいんですね。父のこと、よろしくお願いします」
そう言うと、ユウカは踵を返してその部屋を出ていってしまった。
「……なんか、父親にトラウマかなんか持ってんじゃない、あの子……」
「そうかも、知れないわね……」
２日後、ネルフ本部……
本部内、実験施設のオペレーション・ルーム。ゲンドウ、冬月、リツコの姿が見える。
メインコンソールにはマヤが着き、ミサトとユウカも少し後ろの方で様子を見ている。
「これより、零号機再起動実験を行う。レイ、準備はいいか？」
『はい』
「始めろ」
レイの返事を確認したゲンドウは、実験開始の指示を出した。
「第一次接続開始」
「主電源コンタクト。稼働電圧臨界点を突破！」
「パイロット、零号機と接続開始」
「パルス及びハーモニクス正常。シンクロ問題無し」
「オールナーブリンク終了。中枢神経素子に異常なし」
次々飛び交う言葉。零号機の起動準備が整っていく。
オペレーターのカウントダウンが始まる。
冬月だけが、視線を外して内線の受話器を耳に当てた。
「零号機起動しました。引き続き連動実験開始します」
「碇、未確認飛行物体が接近中だ。おそらく、使徒だろう」
冬月が全体に聞こえるように言う。
ゲンドウは、中断を指示、初号機の発進準備を命じた。
「ユウカ、行け」
「はい……」
二つの青い半透明の四角錐を底面で合わせたような姿の飛行物体が飛んでくる。
「目標、芦ノ湖上空へ侵入！」
「ＥＶＡ初号機、発進準備完了！」
ミサトは、少しばかり悩んだ。
（いきなり、初号機をぶつけて大丈夫かな……でも、出撃は司令の指示だし、従うしかないか？……）
そして、決断すると、出撃命令を出す。
「ＥＶＡ初号機、発進！」
ミサトの号令に、ＥＶＡが固定台から射出される。
「赤木博士……」
『何、レイ？』
「零号機は発進しないんですか？」
『零号機はまだ戦闘には耐えられないわ。待機してなさい』
レイは、コックピットの中で祈るように手を合わせる。
（ユウカさん、無事でいて……）
青葉の見ているモニターの中に、使徒の接合面の光が見えた。
そして、モニター上に特殊な数値が表示される……
「目標内部に高エネルギー反応！」
「なんですって?」
「周縁部を加速！収束していきます！」
「まさか、加粒子砲?」
初号機が地上に出る。
ユウカは、コックピットの中で考えていた。
（えーと、確か……そうだ、集中しないと……）
『だめっ！よけて、ユウカちゃん！』
使徒が光った瞬間、エネルギーの奔流がＥＶＡの前にあったビルの上部を瞬間に蒸発させ、ＥＶＡをも包み込む。
（くっ……きつい……耐え……きれない）
「戻してっ！早くっ！」
ミサトの叫びに、ＥＶＡが発進口から回収される。
完全に収納されてから、使徒の攻撃が止んだ。
「目標沈黙！」
「ユウカちゃんは！」
「生命反応、低下してます！」
「初号機、第７ケイジへ回収！」
「救護班に救急措置の用意させて！アタシもケイジへ行きます！」
ミサトは、指示を出して、慌ててケイジへ向かう。
「緊急状態？何があったの？」
レイは、コックピットから出た。
本部内には、慌ただしい雰囲気が漂っている。
その流れに飲み込まれないように、レイは発令所へ向かった。
そこで、慌てて飛び出すミサトとすれ違う。
「葛城一尉？……」
「あ、レイ！あなたは発令所にいなさい！いいわね！」
レイが発令所に入ると、嵐のような騒ぎだった。
その会話の端々から、ユウカが使徒の迎撃に失敗したことを理解した……
（ユウカさん……私、何の役にも立たなかった……）
苦い思いが、レイの胸の中に広がっていった。
使徒は、街の中央に来ると、下端から棒のようなモノを下ろした。
「使徒は何を始めたの?」
「ジオフロント内、ネルフ本部に向かい穿孔を開始しています！」
リツコの問いに、日向がモニターを見ながら答える。
「……まさか、ここに直接攻撃を仕掛けるつもりなの……」
「赤木博士……」
突然呼びかけられて、リツコは驚くようにそちらを振り向いた。
「レイ……どうしたの？」
「出撃します……」
「何言ってるの！出来る訳ないでしょう！」
リツコはヒステリックに叫ぶ。
「……いいから、待機してなさい」
それだけを言うと、リツコは情報の整理に戻っていった。
ダミーの接近や自走砲の攻撃をことごとく退ける使徒。
ネルフ本部・第一作戦室……作戦部スタッフが集まって、使徒について話し合っている。
「これまで採取したデータによりますと、目標は一定距離内の外敵を自動排除するものと推測されます」
「エリア侵入と同時に加粒子砲で１００％狙い撃ち。近接戦闘は無理というわけね……で、その敵さんのＡＴフィールドは？」
「健在です。相転移空間を肉眼で確認できるほど強力なものです」
「攻守ともにほぼ完璧、まさに難攻不落の空中要塞ね。で、問題の筒は？」
「直系１７．５Ｍの巨大なドリル状のブレードがネルフ本部に向かい穿孔中……現在、第２装甲板まで到達しています」
ペンで頭を掻きながら、ミサトが尋ねる。
「本部への到達予想時刻は？」
「明日午前０時６分５４秒です。その時刻には２２層すべての装甲防壁を貫通してネルフ本部へ到達するものと思われます」
「あと１０時間足らずか……」
ミサトは、手元の端末から、リツコに連絡を入れる。
「……赤木博士、初号機の状況は？」
『胸部第３装甲まで融解……機能中枢をやられなかったのが不幸中の幸いね。３時間後には換装終了よ』
「そ……零号機は？」
『再起動に問題は無いわ。ただ、フィードバックに誤差が残ってるの……実戦は無理ね』
「初号機パイロットの容態は？」
「若干の衰弱が見られますが、その他の面に関しては許容範囲内です。現在は薬で眠っています」
「……状況は芳しくないわねぇ」
困り果てたようなミサトに、日向がジョークのつもりで言う。
「それじゃ、白旗でも揚げますか？」
「……ナイス・アイディア。でも、その前にやれることはやっておかなきゃね」
ミサトは不敵な表情を浮かべた。
「……チョッチ考えがあるのよ……後悔はあの世でしても仕方ないもんね」
ＥＰＩＳＯＤＥ：６ Ｐｕｒｅ
「……高エネルギー収束帯による、目標のレンジ外からの超長距離からの直接射撃。目標のＡＴフィールドを中和せずに一点突破します」
「随分大胆な作戦だな、葛城一尉。『ＭＡＧＩ』の判断は？」
冬月がミサトに尋ねる。
「賛成２、条件付賛成１で、可決されました」
「……それで勝率８．７％か」
「現状では最も高い数字です」
それまで黙っていたゲンドウが口を開く。
「反対する理由は何もない。存分にやりたまえ」
「了解しました。つきましては、日本政府との折衝をお願いします」
「ふむ、で、作戦名はあるのかね？これだけの規模の作戦だ……」
冬月が、概要書を見ながら口を開く。
「はい、『ヤシマ』作戦と呼称致します」
「意味はあるのかな？」
「はい、『屋島』の合戦に習い一点を打ち抜くことと、『八州』、すなわち日本全土から必要な電力を集めることから、その両方の意味を兼ねて名付けました」
「そうか、ではよろしく頼むよ」
「はい、失礼します」
ミサトは部屋を出ていった。
それを待って、冬月がゲンドウに尋ねる。
「碇、初号機の敗退……分かっていたんじゃないのか？」
「何故、そう思う？冬月」
ゲンドウは眉一つ動かすことはない。
「”アレ”の記述、知らんとは言わさんぞ」
「敢えて口にする必要もあるまい」
そう言うゲンドウの口元は僅かに歪んだ。
「……ん、んん……」
ユウカは眼を覚ました
「ユウカさん、大丈夫？」
レイが眼を向けた。その眼は、瞳以外も赤くなっていた。
「あ……レイさん」
「食事、目が覚めたら食べるようにって……」
「食事？」
「６０分後には出発だそうよ……」
「ん……分かった」
ユウカは上半身を起こすと、トレイの上の食事を口に運ぶ。
「……今度は一緒に出撃するの」
「……うん」
「……６０分後、また来るわ」
レイはそう言って部屋を出た。
「……対処、考えておかないと……」
ユウカはポツリと呟いた。
二子山・朝日滝付近……延々と連なる電力供給車。
そして、その山頂……ミサトとリツコが、ユウカとレイに作戦を説明する。
「これがポジトロン・ライフル。戦自研で開発中だった物をネルフで徴発し組み立てた物……」
「計算上では、ここからでも使徒のＡＴフィールドを貫くに足るわ」
「急造だから野戦向きじゃないのが難点なんだけどね……そこで、この盾……」
「こちらも急造だけど、元はＳＳＴＯの底部で超電磁コーティングされているわ」
「一応、例の目標の攻撃にも１７秒は耐えるって寸法」
ミサトとリツコが交互に話す。
神妙な面もちで聞いているユウカとレイ。
「分担は……ユウカちゃんが砲手、レイは防御を担当してもらうわ。これはシンクロ率の問題でそう決めたの。いいわね」
「「はい」」
「ユウカさん、陽電子は地球の自転・地場・重力の影響を受け直進しません。誤差の修正は機械で行うので、貴女はテキスト通りに照準マークが中央で揃ったら引き金を引くだけです」
「あの……もし一発目が外れたらどうするんですか？」
「二発目を撃つには、銃身の冷却やヒューズ交換、電力の再充填等で２０秒はかかるわ。その間予想される攻撃をかわせないとアウト。その時はレイに盾になって貰うしか無いわね」
ユウカは記憶を辿る。
（なら、一発で仕留めるしかないってこと？……出来るはず無いよね……）
「それじゃ、時間よ。２人とも指定位置で待機」
「「はい」」
２人が、仮設ブリッジへ移動する。
「ミサト……今の気分はどう？」
「大丈夫……そう思わなきゃ、作戦なんて立てられないわよ」
硬い表情のまま、ミサトはリツコの問いに答えを返した。
「レイさん、聞いていい？」
「何？」
ユウカとレイは、仮設ブリッジの上で、明かりの消えていく街を見下ろしていた。
「……レイさんは何でＥＶＡに乗るの？」
「絆……だから……」
「絆？」
「そう……」
（そう、絆……大事な人……失いたくない人との……）
「私には他に何もないもの……もし、ＥＶＡのパイロットを止めてしまったら……私には何も無くなってしまうもの……」
（あなたの側に……居られなくなるもの……）
「……レイさん」
「時間よ。行きましょ」
「……うん」
２人はコックピットの方へ歩き始める。
「ユウカさん……」
「え？」
「今度は私が守るから……」
「……頑張ろうね」
「……ええ」
指揮車輌の中、モニターの時計が、０時を刻む。
「時間です」
「了解。ユウカさん、日本中のエネルギー……あなたに預けるわ」
『はい』
パネルに電力の接続ラインが表示されている。
「『ヤシマ』作戦、スタート！」
ミサトの号令と共に、様々な報告が飛び込んでくる。そのどれもが、現状の順調な進行を告げていた。
「最終安全装置解除！」
ミサトの掛け声を受けて、日向がユウカに言う。
「撃鉄、起こせ！」
初号機が撃鉄を引く。
「全エネルギー、ポジトロン・ライフルへ！」
「目標に高エネルギー反応！」
マヤの声が上擦る。
（気付かれた？いえ、それでも、先に撃てば……勝機はある！）
ミサトは、素早く状況を判断した。
「発射！」
ミサトの号令で、初号機がライフルを撃ち、使徒も閃光を放つ。
双方の光条が中間点で絡み合い、着弾点をずらしてしまう。
「きゃああああっ」
指揮車が揺れる。
全てのモニターがノイズで乱れる。
「二射目……準備……」
ユウカは冷静にヒューズ交換を行う。
（充電……間に合わせないと……）
ユウカの『力』が、ライフルに注ぎ込まれていく。
だが、使徒はそれを待つ気はなかったようだ……
「も、目標に再び高エネルギー反応！」
「早い！初号機は?」
「射撃ポイントを維持、第二射の準備中です！」
使徒は、無情にも、加粒子砲を放った。
軸線上に零号機が入る。
盾に当たった光は、それを少しずつ溶かしていく……
「……守る……絶対に……」
（ユウカさんは、私が……今度こそ！……）
その思いも空しく、盾は融解し続ける。
『レイさん、どいて！』
ユウカが通信越しに叫ぶ。
それと同時に零号機が崩れ落ちる……
倒れ伏す零号機の後ろから、ポジトロン・ライフルが火を噴き……初号機の放つ光条は、使徒が放った３度目の光によってねじ曲げられた……
「そんな……連続で撃てるなんて……」
「戦闘中にも能力が上がるの?」
ミサトとリツコの、絶望に満ちた声……愕然とする指揮車の面々……それは、本部発令所も一緒だった。
「碇、これは予想外だな……」
「問題ない。ＥＶＡを信じていればいい……」
ゲンドウは一言、全体に聞こえるように言い放った。
「レイさん……待ってて……すぐ、迎えに戻るから」
ユウカは、ＥＶＡを走らせた……使徒は、加粒子砲を放つ。
だが、その軌道が”視える”ユウカは、初号機を左右へジャンプを繰り返させて回避する。
ある程度進むと、逆に使徒は射撃を止めた。
「無茶よ、あんな動き……」
リツコは、驚愕の思いを口にする。
「内蔵電力、あと３分切りました！」
「ＥＶＡ初号機、シンクロ率……１２０％越えました！」
「……リツコ、使徒が加粒子砲を撃つの止めたわけ、解る？」
ミサトは、沈黙に耐えられず、リツコに尋ねる。
憶測を返すリツコ。
「……近すぎると自分にも影響があるからじゃないかしら？」
「それじゃ……まだ、奥の手があるってえの?」
後数歩で格闘戦が出来るほどの距離……使徒は四角錐の接合部にブレード状の光を出現させ、それをＥＶＡに向けて、捻りつつ伸ばす。
突き出される、一本の光のドリル……その切っ先がＥＶＡに届く直前、それはＥＶＡの左手に握られ、止められた。
そのまま払い除けるように左手を振り、その光を引き千切る。
ＥＶＡが右の拳を振り上げると、使徒は、加粒子砲を発射した。
強烈な光がＥＶＡを包み込んでいく。
ＥＶＡの拳の前に、幕のような光が生まれ、使徒の接合部に突き刺さる。
「ウォォォォォォォォッ！」
ユウカの掛け声と共に、使徒の後面にヒビが入る。
何かが割れるような音がして、そのヒビが弾け飛んだ。
高熱にさらされ、その表面が溶け掛けている零号機が、ゆっくりと起き上がる。
「……初号機は？」
零号機が辺りを見渡す。
使徒に右手を刺したまま動きを止めている初号機が見えた。
「ユウカさん……」
零号機が山を下りていく。
ギリギリまで移動して、電源を外し、第３新東京市のビルのケーブルに繋ぎ変えて、初号機に近付いていく。
レイが眼にした初号機の表面は、前面を起点に、装甲の継ぎ目もハッキリしない程に溶けていた。
「ユウカさん！」
頸部の装甲板を引き剥がし、初号機のエントリープラグを強制排出させる。
それを手で引き抜くと、壊れ物を扱うように丁寧に地面に下ろす。
「ユウカさん！大丈夫?」
エントリープラグのエジェクション・レバーに手を触れる。
「……っ！」
高温が、プラグスーツを通してもその掌を灼く。
それでも、レイはレバーを廻し、非常用ハッチを開ける。
「ユウカさんっ！」
意識を失い、インテリアを揺り篭のようにして眠っているかのように見えるユウカ。
ソッと手を伸ばすレイ。
その時、ユウカが細い息を漏らした……
「……ん……」
「ユウカ……さん……」
安堵の溜息をこぼすレイ。
「よかった……」
「……あ、レイ……さ……ん……」
薄く眼を開けたユウカ。
そして、ユウカはレイに向かって微笑む。
「ユウカさん……大丈夫？」
「ん……大丈夫」
そう言って、気怠そうに左手を挙げる。
「……ごめんなさい……私……あなたの役に立てなかった……」
「そんなこと……ないよ……」
ユウカは、ゆっくりと上体を起こした。そして、インテリアから下りようとして、姿勢を崩す。
レイがスッと肩を入れて支える。
「終わったね……」
肩を借りて立ったユウカが、そう話しかける。
レイの頬を、一筋の涙が伝わる。
「……私、こんな時、どんな顔すればいいか……わからない……」
レイがポツリと呟く。
ユウカは、優しく尋ねる。
「今、どんな気持ち？」
「……多分、嬉しいと思う……」
「だったら……笑えばいいと思うよ……」
そう囁くと、ユウカはもう一度微笑んだ。
レイも、つられるように、微かに笑みを浮かべた……
少女達に、沢山の大人達が近付いてくる。
「この結果も、予想外だな……」
「いや、修正誤差範囲内だ……」
「この状況、老人達がうるさいぞ」
「囀らせておけばいい。直に、何も出来なくなるさ……」
「レイはどうする？」
「……なんとでもなる。冬月、この件は私の問題だ……」
「そうか。ユウカ君に嫌われんよう、気を付けるんだな……」
冬月とゲンドウの会話は、そこにいた誰にも届かない。
あとがき
初号機が、結果的に溶かされて、レイがユウカを助け出します。
でも、レイに微笑みを教えるのはユウカの仕事でしたね。
２人の絆……かなり深くなりそうです。
『ヤシマ』作戦、本来は、「屋島」の意味なのだそうですが、「八州」（日本全体を現す古語）説もあるそうです。私自身も納得してしまったので、両方の意味を兼ねた、としました。いかがでしょうか？
今回の使徒……能力が変化しています。加粒子砲の高速連射・ブレードの方向変化、かなり戦闘慣れしています。
でも、こいつを殴り倒すってのも凶悪なＥＶＡですねぇ。
全体がエントリープラグ、座るところはインテリアで、挿入されて、稼働している状態がコックピットと、私は認識しております。明確な区別があったら、教えて下さい。
企業が作った、対使徒用の兵器……だが、それは予想に反して暴走を始める。
ミサトは、自分の命をも懸けて、それを止めようとする……
次回、『人の造りしモノ』。
どうぞ、御期待の程、よろしくお願いします。
作成日付：２０００／１２／２０
改稿日付：２００１／０２／０５
感謝の言葉：
ラミエル、強いですね。加粒子砲の持続発射後に、すぐに速射して
弾道を変えられるなんて・・・。
初号機もドロドロに溶けちゃってしばらくは出撃不可状態が続くようですが
農協ロボ編はレイ＆零号機の活躍シーンが期待できる・・・かな？
さ、続きが読みたいと思った人は感想メールで催促しましょう♪
トップページに戻る。
第０７話「人の造りしモノ」に進む。
作者のＡＢＣさんへの感想メールはこちら（abebeabebe@ksn.biglobe.ne.jp）まで。
読者からの反響は作者のやる気を湧き出させます。
続きが読みたい人は、感想メールを送りましょうね。