「……今日も、特に変わった事は無い、か」
ネルフ本部へ向かう地下鉄の中、冬月は新聞に目を通し、１人呟く。
第３新東京市の朝の光景は……いつもと変わらなく始まる。
冬月から少し離れた所で、青葉とマヤが、荷物を抱えたまま世間話をしている。
リツコは、冬月の近くに座っていた。
「副司令、今日はお早いですね」
リツコが冬月に尋ねる。
「碇の代わりに市の評議会に出ねばならんのでね……雑務は全部私に押し付けおって。『ＭＡＧＩ』が無かったらお手上げだよ……」
冬月は憮然とした表情を浮かべた。
「だが、実際には市政も『ＭＡＧＩ』がやってくれるからな。我々は指針だけ示せばいい……そんなもんさ」
「そうなんですか。まさに科学万能の時代ですね」
冬月の話に、マヤが感想を漏らす。
「そう言えるかもしれんな……ところで、赤木君。今日は零号機の実験だったかな、そっちは？」
「ええ。本日１０３０（ヒトマルサンマル）より、第２次稼働延長試験の予定です」
「そうか、よろしく頼むよ」
そう言って、冬月は紙面に目を戻した。
第拾四話 静止した闇の中で
ネルフ本部……エレベーターに乗っているミサト。
向かってくる足音に眼を向け、苦い顔を作ると『閉』のボタンを押す。
慌てて駆け寄り、強引に扉を止める加持の姿があった。
「チッ……」
ミサトが舌打ちする。
「こんちまた、御機嫌ナナメだね」
加持は、年寄り臭く腰を叩きながら話しかける。
しかし、ミサトはムッとしたままだ。
「……来た早々アンタの顔見たからよ」
「つれないねぇ……」
加持は、ミサトのセリフに苦笑した。
「定時連絡？」
第壱中学の校門……授業が終わり、家に帰る生徒の姿がちらほらと見える。
通信機をカバンから取り出そうとしているマナに、ユウカが尋ねる。
「そうなの。お仕事しないと……」
マナは通信を始めた。
しばし会話をしていたが、急にマナの態度が変になる。
どうやら、途中で話が途切れたようだ。
「どうしたの、マナ？」
「うーん、急に通信が切れちゃったの……どうしたのかなぁ？」
２人は、揃って首を傾げた。
エレベーターの中、突然止まったことを訝るミサトと加持。
「変ね……事故かしら？」
「赤木が実験をミスったのかな？」
照明の消えたエレベーターの中、２人は途方に暮れた。
それは、リツコがスイッチを入れた瞬間に起きた事だった。
「主電源ストップ」
「電圧０です」
その場にいた研究員や技術部スタッフは、一斉にリツコを見た。
「……あ、あたしじゃないわよ……今回は……」
痛いほどに視線を感じながら、リツコはそう言った。
「予備回線はどうした?」
発令所に、冬月の声が響き渡る。
「ダメです！予備回線、繋がりません！」
「生き残ってる回線は?」
「全部で１．２％！２５６７番の旧回線だけです！」
青葉が状況を報告する。
冬月は、思い切った指示を下す。
「生き残ってる電源は全て『ＭＡＧＩ』とセントラルドグマの維持に回せ！」
「それでは、全館の生命維持に支障が……」
「構わん、最優先だ！」
ユウカ、レイ、アスカ、マナの四人は、無人ゲートの前にいた。
誰のＩＤカードも受け付けない状態のゲートに、アスカが痺れを切らした。
「もーっ、どうなってんのよ！」
レイはベンチに腰掛けると、ポケットからカードを取り出してそれをつぶさに見つめる。
「レイさん、何やってるの？」
ユウカは、レイの肩越しに、その手元を覗き込んだ。
「……これ、緊急マニュアル。ユウカさんも見る？」
そう言って、レイはベンチの隣を指す。
ユウカは、そこに腰掛けてレイと一緒にカードを見た。
発令所……自力で脱出してきたリツコとマヤは、状況を青葉から確認していた。
「正・副・予備の３系統が同時に落ちるなんて考えられないわね……」
「そうですね。通常の停電なら、５分程で復旧しますからね」
リツコの呟きにマヤが応える。
そして、全員の眼が司令席に向かった。
「やはり、ブレーカーは落ちた……と言うより、故意に落とされたと見るべきだな……」
ゲンドウは、冷静に告げた……
「さて、ネルフの連中……今頃大慌てで復旧作業に勤しんでいる事だろう」
国連軍の管制室。
戦自の高官達がモニターを見ながら話している。
「復旧の様子から、内部情報を得る。なかなか面白い手だな」
「奴等に一泡吹かせてやるチャンスだな……」
「先日は、痛いところを突かれた形になってしまったからな……」
ニヤニヤしながら、彼等は話を続けていた。
そこへ、警報が鳴り響く。
「旧熱海方面から、移動物体を確認！」
「「「「何だと?」」」」
彼等の驚愕の叫びがその場に広がっていった……
司令席、空調が止まり、熱が籠もり始めていた。
ゲンドウと冬月は、一見、変化無いように見える。
だが、その足は、水の入ったバケツに入っていた。
「温いな……」
「……ああ」
冬月が漏らした言葉に、ゲンドウは微かに頷いた。
そして、さらに呟く。
「本部初の被害が使徒ではなく、同じ人間にやられたものとは……やりきれんな」
「やはり、対人設備の不備が原因だな……老人共に捻り出させるか？」
「……無事に生きていればな……」
冬月の言った言葉を頭の中で反芻しながら、ゲンドウは言った。
「真っ暗でよく分かんないわねぇ……」
懐中電灯で照らしながら先頭を歩くマナの後ろで、アスカがぼやいた。
「次、左……」
レイがポツリと言う。
「……綾波さん、間違いない？」
不安げにマナが尋ねる。
最後を歩くユウカは、黙り込んだまま後を付いていく。
「ええ、その先に、空調の点検坑があるわ……」
「空調かぁ……」
マナが呟いた。
何とか立って歩ける程度の通路を、４人の少女が進んでいた。
先頭のマナが、後の３人を制止して、曲がり角の先を見に行く……
「かなりよくないわね……」
一回戻ってきたマナは、この後、どんな音がしても、呼ぶまでは来ないように言う。
「……何でよ、答えなさいよ」
アスカが問う。
「いいから、私の言う通りにして……」
それだけ言って、マナは角を曲がって行った……
マナの目の前には、３人の特殊作業用の服を身に着けた男達がいた。
その内１人が、マナの接近に気が付く。
「……仕方ない。大人しくして貰うか……」
そう言って、手を伸ばす。
マナは、左手に隠し持っていたワイヤーを、伸ばされた男の手に巻き付け、思いっ切り引いて体勢を崩させる。
「な?」
そして、浮いた顎を爪先で蹴り上げた。
さらに、すかさず懐に潜り込んで、鳩尾に肘を打ち込む。
頽れる男を捨て、残りの２人を睨む。
「……チルドレンとは違うから油断してたが、コイツもネルフの人間か」
「始末した方がいいな……」
２人は、ナイフを抜いた。
マナは、身構える……
（連携されるとまずいなぁ……でも、ユウカ達には指一本触れさせない！）
１人が、身を屈めたままの姿勢で突進してくる。
（１人、か……早めにケリつけないとね……）
ギリギリで右にかわすと、右の拳を男の首筋に伸ばす。
その時……
「何をしているんだい？」
どこか緊張感に欠けた男の声が、残っている黒ずくめの後ろから聞こえた。
その男が振り向こうとした時には、顔面から床に押し付けられ、膝で首を折られた後だった。
「貴様もか！」
マナに向かっていった男は、そっちを振り向いた。
それが、彼が意識がある内に行った行動の最後だった。
マナの蹴りが、隙を見せた男の側頭部に入るまでの……
「もういいよ」
角の向こうから、鈍い音がいくつか聞こえていた。
ユウカ達は慌てて走っていく。
角を曲がった、その先には……
倒れ伏す怪しい男達と、その内１人をワイヤーで縛り上げるマナ……そして、もう１人の首筋を掴んでいる日向だった。
「日向さん？」
「やあ、ユウカさん。レイちゃんにアスカもいるんだ。どうしたんだい、こんなとこで？」
いつもの様に、ちょっと頼りなさ気な笑みを浮かべて、日向はテキパキと男の自由を奪っていく。
関節の外れる鈍い音がした……
「この人、強いのよ……」
マナがユウカに耳打ちする。
「そうなの？」
「うん、助けて貰っちゃったの」
日向は立ち上がると、ユウカ達の方に声をかけた。
「さて、僕は本部へ向かうけど、君達はどうする？」
「道、分かるんですか？」
アスカが疑わしげに聞く。
「一応ね。って落ち着いてる場合じゃなかった！使徒が接近してるって通達が出てるんだ……急がないと！」
日向は、今までの落ち着きを捨てて、早口で捲し立てる。
「急ぎましょう」
レイが落ち着き払った口調で言うと、その場にいる全員が頷いた。
ＥＰＩＳＯＤＥ：１４ Ｔｈｅ Ｄａｙ Ｔｏｋｙｏ−３ Ｓｔｏｏｄ Ｓｔｉｌｌ
「冬月、任せる」
「碇？どうするんだ」
「ＥＶＡの様子を見に行く。場合によっては、手動で発進させる必要もあるからな」
「……分かった」
ゲンドウは、冬月に発令所を任せると、ケイジに向かった。
そこではすでに、リツコと技術部スタッフが、可能な限りの作業を進めていた。
「しかし、パイロットがいませんが……」
「気にする必要はない。彼女等は必ず来る」
そう言って、ゲンドウは自分も手伝いながら、発進準備を進める。
「司令は、使徒が来る確信でもあるんですかね？」
スタッフの１人が、リツコに聞いた。
「さぁ……でも、万が一って事はあるものよ」
その時、空調から、何かが動く音がした。
「何かしら？」
リツコが音のした方を振り向く。
ガタン、という音がして、空調の金網が落ち、ユウカ達が落っこちてくる。
「「「きゃあ」」」
ユウカ、アスカ、マナの順で落ちて、その上にレイがフワリと乗る。
日向が顔だけ出して、様子を見る。
「大丈夫かい？あ、赤木博士。現在、使徒が接近してるって警告がありました！」
「そう。司令の判断は間違っていなかったわね」
リツコは、パイロットの方を向いて言う。
「発進準備は出来ています。すぐにプラグスーツに着替えて！」
「「「はい」」」
ユウカ達は着替えるために、その場を後にした。
「それで、日向君……何を持ってきたの？」
「……潜入しようとしていた不審者です。３人いたんですが、彼女たちに危害が及びそうだったんで、自分の判断で１人処分してしまいました」
「そう……仕方ないわね。それじゃ、自分の仕事に就いて頂戴」
「分かりました……ところで、葛城さんは？」
「……行方不明よ。電源が止まった時に、どこかに閉じ込められてるんでしょうね」
「そうですか。じゃ、発令所に向かいます」
日向は、急いで発令所に向かっていった。
『初号機、パイロット搭乗しました。弐号機、零号機も完了です』
無線から、マヤの声が聞こえる。
リツコは、ゲンドウの方を振り向いた。
ゲンドウは徐に告げる。
「各機、自力で拘束具を強制排除！出撃しろ！」
３機のＥＶＡが拘束具を無理矢理引き千切って動き出す。
蜘蛛に似た、逆さの半球の胴体を持つ使徒は、第３新東京市の中心部にやってきた。
そして、胴体の下部にある眼としか見えない部分から、まるで涙のように、黄色い液体を真下に向けて流し始めた。
それは、道路を、装甲版を溶かしていく。
その頃、３機のＥＶＡは、射出口を自分の手足で登っていた。
『まぁったく、あちこち振り回されて、冗談じゃないわね』
先頭を登る弐号機のアスカが愚痴る。
「仕方ないよ、事故なんでしょ？……この停電」
殿を務める初号機のユウカが答える。
（さて……この使徒って、確か溶解液を出すだけのような……）
記憶を探るユウカは、今回の使徒を思い出す。
『そろそろ、曲がるわ』
レイが注意を促す。
別の射出口への連絡坑が見えてきた……
身を屈めて、横に移動するＥＶＡ３機。
明かりが見えてきた時、アスカが言った。
『よっしゃぁ、出口発見！』
『でも、発進口が開いてるとは思えないのに、明るいのは不自然だわ』
レイが注意を促す。
「……それなら、ちょっとだけ覗いてみたら？」
ユウカが考えを口にした。
『そうね、そうしましょ』
アスカは軽く答えて、弐号機の頭を射出口に出し、上を見た。
そこには、何かに吊り下げられたような物体が、僅かな青い空から判断できた。
その物体の底部に付いた『眼』が、弐号機の方に微かに動き、流れ出る液体が集中して垂らされた。
『うわきゃぁ！』
意味不明な悲鳴を上げて、弐号機が急に引っ込んでくる。
その後を、黄色い液体が流れていき、下の方から、何かが溶けるような鈍い音と、変な色の煙が上がってきた。
『……目標は、酸のような液体を出すようね』
『こっち睨んだわよ！気持ち悪い！』
レイは状況を冷静に分析し、アスカは感想をがなり立てた。
（また……少し変わってる……どうすればいいかな？……）
『何か、方法を考えましょう』
『誰かが引きつけるとか？あの酸の強さ次第じゃん、それ』
「そうだね……とりあえず、ＡＴフィールドで止められるかどうか試してみる？」
『オッケ、やってみよ』
アスカは軽く答えると、再び射出口に出て、ＡＴフィールドを展開した。
酸がＡＴフィールドに触れ、貫通する……
『うひゃおぅ！』
またもよく分からない叫びをあげながら、弐号機が戻ってくる。
『だ、ダメじゃん！』
『ＡＴフィールドで酸を包んでいるみたい』
『ったく、あの蜘蛛擬き……むかつくわね！』
『蜘蛛？』
『そうよ。細い足で胴体を支えてるように見えたもん。蜘蛛でいいわよ！』
レイとアスカが意見を交わす横で、ユウカは１人、考え込んでいた。
（そうか……それなら、下からはじき出してやる！）
「私が先行する」
『『ユウカ（さん）?』』
ユウカの宣言に、アスカとレイが驚く。
『無茶言ってんじゃ無いわよ！アイツにはＡＴフィールド効いてないのよ?』
『ユウカさん、何か策があるの？』
アスカが怒鳴り、レイはユウカの真意を聞こうとする。
「このままじゃ、私達何も出来ないで終わっちゃう……それくらいなら、無理にでもアイツを押しのけてやる。私なら、危ないの慣れてるから大丈夫だよ」
『……アンタ馬鹿ね……１機でやれるモンじゃないでしょ！』
『３機だったら、１機あたりの負担が減る。その方が合理的よ、ユウカさん』
「アスカ……レイさん……よし、やろう！」
『このアスカ様にまっかせなさい！』
『行きましょう』
３人は同時に頷くと、まず初号機が、そして、弐号機と零号機も射出口に出る。
初号機がＡＴフィールドを全開にして登っていく。
弐号機、零号機もＡＴフィールドを上方に展開しながら登る。
使徒の出す液体が、雨のように３機のＥＶＡに降り注ぐ。
「やっぱり！全部がＡＴフィールドを抜けてくるわけじゃない！」
確信は無かった……使徒の能力が予想を大きく上回っていたら、賭は失敗だった。
だが、ユウカは賭に勝った。
使徒は、ＡＴフィールドに穴を穿つことは出来ても、全体を消すほどの能力は持っていないようだった。
『これならいける！』
『ユウカさん、すぐ追いつくから！』
下から、弐号機と零号機が登ってくる。
ユウカは、初号機を使って、下から身体全体で押し上げる。
この距離では、ＡＴフィールドは役に立たない。
流れ出る液体を全身に浴びつつ、射出口の縁に片手を掛けて、その『眼』を押す。
弐号機が、さらに零号機が同じように使徒を押し上げて……ひっくり返した！
もがく使徒を横目に、３機のＥＶＡが地上に出る。
『今度はこっちの番よ！』
アスカが吠える。
『目標確認、殲滅します』
レイが淡々と告げる。
「これ以上、勝手にはさせないからね！」
ユウカがキッパリと言い放つ。
初号機と弐号機はプログナイフを引き抜き、零号機は装備していたパレットライフルを構えた。
３機のＥＶＡが距離を詰める。
その時、使徒が突然、元の状態に戻る。
脚の力を利用して、更にひっくり返ったのだ。
『何よコイツ！』
『……どうするの、ユウカさん』
「もう一度、ひっくり返そう！」
その言葉を合図に、ＥＶＡが散開する。
使徒は、胴体の眼状の模様から光の矢を打ち出した。
「くっ、こんなことまで出来るの?」
ユウカは、そう呟きながら、光を避ける。
だが、背面全体に及んだ溶解液のダメージは、その動きを鈍らせていた。
完全に避けられなかった光は、当たった部分を灼く。
「ウァァァァッ！」
今まで我慢していた分まで、痛みが神経から伝わる。
ユウカが苦痛の叫びを挙げて、初号機は膝をつく。
『コイツっ！いい加減にしろォ！』
弐号機が、光を回避しながら近付き、使徒を蹴り上げる。
『許さない……ユウカさんを傷付けた！』
零号機が逆さになった使徒の『眼』にパレットライフルの銃口を押し付けて引き金を引いた。
発射音が響いて、使徒の体中に穴が開き、内側から光を漏らして爆発した。
十字型の光の柱がそこに立つ。
『ユウカ、アンタ大丈夫?』
『ユウカさん、返事して！』
焦ったように声をかけるアスカとレイ。
初号機のコックピットの中、ユウカはその声を聞きながら、意識が薄れていくのを感じた……
「予備電源、回線確保！最低限の生命維持機能復帰！」
「いや、移動設備から復旧してくれ」
「よろしいんですか、副司令？」
青葉の報告に意見を挟む冬月に、日向が問いかける。
「うむ、そろそろ碇がこっちに帰ってくるだろうしな」
冬月はそう言って、次の指示を考えていた。
エレベーターの中、加持に肩車をして貰って、ミサトは天井の非常口を開けようと苦心していた。
「ちょっとぉ、加持ィ、しっかり支えてよ！」
「葛城……少し太ったんじゃないか？」
「な……アンタ、何言い出すのよ！」
「ば、おい、暴れるなって?」
その時、エレベーターが動き出した。
「何?」
「お、おい、葛城、動くなって?」
バランスを崩してしまった加持は、ミサトを肩に乗せたまま倒れてしまった。
エレベーターはすぐに停まり、ドアが開く。
そこには、リツコとマヤがいた……
「情けない……」
エレベーターの中では、ミサトと加持が重なるように倒れていた。
リツコは顔を顰め、頭を押さえた。
マヤがその後ろで、ポツリと言う。
「不潔……」
小高い丘、横たわるユウカと、その両脇で心配そうに見守るアスカとレイ。
遙か眼下には、明かりの消えた第３新東京市が広がり、空には、夜の闇が覗いていた。
「静かねぇ……」
「……」
アスカが呟く。
「たまには、こんなのもいいわね……」
アスカは寝そべって空を見上げた。
街に、明かりが灯り始める。
その光景は、何か、幻想的にさえ見えた。
「う……ん」
ユウカが身じろぎをして、眼を覚ました。
「ユウカさん、大丈夫？」
レイが心配そうに覗き込む。
「……ん、レイさん？あ……うん、もう平気……」
ユウカが身を起こして、その眼に街を収める。
「綺麗ね……」
「そうね。いいもんよねぇ」
「ええ、そうね」
ユウカが漏らした言葉に、アスカとレイが相づちを打った。
「御一考願えませんか？」
ゲンドウは、委員会の男達に告げる。
「確かに、人為的な災害だったな」
「君達でなんとか出来なかったのかね？」
男の１人がゲンドウに尋ねる。
「削減された対人設備予算が、この結果を招いたのです。その隙をついて潜入しようとした戦自の特殊部隊も身柄を確保しました」
「……分かった。特別に予算を組む」
「ありがとうございます。では……」
席を立とうとするゲンドウ。議長のキールは、その背中に声をかけた。
「碇よ。計画の状況はどうなっている？」
「ささいな遅れは出ていますが、何とか修正できる範囲です。すべては、シナリオ通りに進みますよ」
それだけ言い残してゲンドウは去っていく。
そして、男達は話し合いを始めた。
「ふん、予算をどうやって追加するんだ？」
「今回の件は、戦自に原因がある。ならば、その元である日本政府に支払って貰うさ」
「前回、あの街を壊した責任も含めてか？」
「それで良いだろう。余計な金を吐き出させて、こっちで掌握してしまえば済む」
「では、今回の臨時招集はこれにて閉会する」
男達が姿を消した。
そして、キールが１人呟く。
「碇よ……そろそろ、釘を打たねばならんようだな」
あとがき
出だしの停電するまでの流れ、ネルフ側の状況は、全然変わらないです。戦自が手を下しているのは、全くのオリジナルですが。
マナは、対人戦闘の訓練をしっかり受けてました。でも、さらに、対人戦闘技術が高い人物がいます。
いや、他に人がいないもんですから、日向君には少々ガンバって貰いました。
ネルフ本部には、対人設備予算が追加で割り振られます。
映画の様にすんなりとは入れなくなりました。
次回は、これ以上ないほどの巨大な敵……ささいな希望など無惨にうち砕く使徒。
その使徒に、いかなる方法を持って立ち向かうのか……
次回、『奇跡の価値は』。
お楽しみに。
作成日付：２００１／０１／０６
改稿日付：２００１／０２／０５
感謝の言葉：
日本政府・・・終わりましたね。
自分達のことしか考えず、短絡的な思考でやった挙句の果ての末路。
誰も哀れんですらくれないでしょう。
さてさて、いつも下っ端、その１としてしか印象がない日向くん。
なんと戦闘技術に長けていたんですね、驚きました。
ＴＶ版より作戦部もまともな人材がいるようで、ちょっとだけ安心ですね。
さて・・・次回は、「恐怖の大王」ですが、どうなるんでしょう？
『彼』の記憶があっても、あんまり状況が変わらない気もしますし・・・。
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第１５話「奇跡の価値は」に進む。
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