「予定通りですか？ここまでは」
ネルフ本部・司令室……イスに座る男に、少しは慣れたところに立つもう１人の男・加持が、目の前に座るゲンドウに尋ねる。
「ごく一部の例外を除いてはな」
何の気も無しに答えるゲンドウ。
「”人類補完計画”、『アダム』、そしてＥＶＡ……例外は命取りになりゃしませんか？」
「何事にもイレギュラーはある。全て修正可能な範囲の出来事だよ」
「ならいいんですがね……」
「もちろん、君の行動も含めてだ」
ゲンドウは試すように加持の顔を見る。
加持は素知らぬ顔をする。
そして、ゲンドウは話し出した。
「もちろん、有能な人材は無辜にはせんよ」
「どんな強固なダムも、壊れるのはほんの小さな亀裂からと言いますね」
「それが？」
「……もし、司令がその亀裂を見つけたとしたら？……」
ゲンドウは少しの間待って、語った。
「見つければ、必要な修正を加える……それだけだ。行っていいぞ」
「それじゃ、失礼します」
加持は司令室を出ていった。
ゲンドウは、その背を見送って１人呟く。
「私にとっては、全て些細な出来事に過ぎんのだ……ユイ……ユウカは予想以上によくやってくれているよ……もうすぐだ、ユイ……」
葛城家、朝。
「ングングング……ぷっはぁ！やっぱ朝はビールに限るわね！」
「朝だけじゃないじゃないですか……」
朝っぱらから缶ビールを手にしているミサトに、朝食の支度をしながらユウカが一言言う。
「んもぅ〜、ユウカちゃんたら冷たいわねぇ」
「別にいいんですよ、私は。こないだみたいにスカートが入らないって大騒ぎするのはミサトさんですから……」
「うっ……」
ユウカのきつい一言に絶句するミサト。
その間にも、レイは黙々と食事を続けていた。
その時、ドタドタと走る足音がする。
「ちょっとユウカ、シャンプーどこよぉ?」
アスカがバスタオル一枚で駆け込んでくる。
「あれ？脱衣所に置いてなかった？」
「あったら聞きになんて来ないわよ！」
「そっか……ちょっと待って」
そう言うと、ユウカは風呂の方に消える。
「ゴメン、アスカ……奥の方にしまってあったわ」
そんな声が聞こえる。
アスカは急いで脱衣所に戻る。
「全く、ユウカちゃんさまさまよねぇ。彼女がいないと、ウチのこと分かんないもんねぇ」
ミサトがポツリと漏らした。
「うわぁ……洗い立ての髪に風が気持ちいいわぁ」
アスカはかなり御機嫌で、両手を広げてくるくると回ってみせる。
「楽しそうだね、アスカ」
「そりゃね。朝からこう気分いいと、何でも出来そうよ」
ユウカは、思わずレイと顔を見合わせる。
「本人が良ければ、それでいいのよ」
レイはポツリと言い放つ。
「そんなモンかなぁ……」
ユウカはちょっと首を捻る。
「お早う、ユウカさん」
「お早うさん」
「やあ、お早う」
下駄箱で、ヒカリやトウジ、ケンスケ達と会った。
「お早う、ヒカリさん、トウジ、ケンスケ君」
「Ｇｕｔｅｎ Ｍｏｒｇｅｎ（グーテンモルゲン）、ヒカリ！」
「……お早う」
ユウカ達も挨拶を返す。
揃って教室へ移動する。
「そういや、みんな知ってるかな？今日、また転校生が来るんだってさ」
ケンスケが話を始める。
「この御時世に、わざわざこの街に越してくるなんて、ほんま酔狂なヤツやなぁ」
トウジが呟く。
「理由なんて、人それぞれだよ。私だって、アスカだってマナだってそれぞれの事情で来てるんだよ」
ユウカがそう言うと、少し離れた後ろから声がする。
「そぉよぉ。事情ってモンがあるのよ。……ってことで、みんなお早う」
マナが小走りして寄ってくる。
「……なんや、みんなして。ワシが全部悪いんかい?」
トウジがそう言うと、全員が頷いた。
第拾七話 災いを齎（もたら）すもの
第壱中学・２−Ａの教室。
担任の老教師が、１人の少女を連れて入ってくる。
「起立！礼！着席！」
ヒカリが号令を掛ける。
眼鏡をかけた、大人しそうな、長い黒髪の少女が教壇にあがる。
少女の名前が黒板に書かれた。
「山岸、マユミです……よろしくお願いします」
「席は……そうですね……洞木さんの隣が空いてるかな」
マユミは、ヒカリの隣の席に座った。
「よろしく」
「こちらこそ、山岸さん」
その様子を眺めていたユウカ。
「転校生かぁ……」
（また……マナの時みたいに、何か起きるのかな……）
ユウカは呟きながら、そんなことを考えた。
昼休み、ユウカは借りてた本を返すために図書室へ向かった。
珍しいことに、彼女１人きりである。
返却の手続きをした後、読みたい本を探して書架の間を歩いていた。
そして……誰かとぶつかり、相手は持っていた本を落とした。
「「あっ」」
同時に声をあげる。
相手は、いきなり謝ってきた。
「ごめんなさい」
「え、あ、こちらこそ……大丈夫？」
「はい……あの、あなたは？」
「私？うん、平気だけど……」
ユウカがそう言うと、相手……マユミはようやく表情を和らげる。
「良かった……本当にごめんなさい。私、ボーっとしてて」
「あれ？あなた……」
「え？あ、確か同じクラスの……」
「碇ユウカよ。本拾うの手伝うね」
そう言って、ユウカがしゃがむと、マユミも慌てたようにしゃがみ込んだ。
「いいですよ、私のせいですから」
「１人だと大変でしょ？」
ユウカは微笑みかける。
「ごめんなさい、本当に」
「いいよ、そんなに謝らなくても」
「ご、ごめんなさい！」
マユミは更に謝る。
ユウカは、話を変えることにした。
「ねぇ、山岸さん。これだけの本１人で読むの？」
「はい。本が好きなんです。だって……」
「だって？」
「い、いえ、何でもありません。本当に済みませんでした」
「また謝ってるね……」
「済みません……あ……何だか、謝るの癖みたいで」
「ふふ、そうなんだ」
「そ、それじゃ……」
マユミは、恥ずかしげに急ぎ足で去っていった。
ユウカは、その背中を見送りながら思った。
（山岸さん……ほとんど目を合わせなかったな……他人と話すの、苦手なのかな……）
数時間後……ネルフ本部・発令所。
突如入った情報に、その確認作業が行われていた。
「受信データを照合、パターン”青”、使徒です！」
マヤが大声をあげ、青葉が入手情報を読み上げる。
「警戒中の観測機１１３号より入電。目標の移動速度、約７０！」
ミサトが号令を発する。
「総員、第一種戦闘配置！」
メインモニターに使徒の姿が映し出される。
「全く、いきなり現れて……もしかして、先日の騒ぎはコイツかしらね？」
「さあ。だとしたら、こちらの手の内はある程度理解しているハズだけど」
ミサトの言葉に、リツコが素早く反応する。
「一応、そう思って対処を考えた方がいいかしらね。碇司令は？」
日向が答える。
「目標の迎撃に関しては、葛城三佐に一任するということです」
少し考えて、ミサトが言い放つ。
「ＥＶＡ各機発進準備！」
各コックピットに、ミサトの声が響く。
『目標の能力は不明のまま。強羅絶対防衛線まで引きつけて、通常火器との連携で攻撃を開始。以後の行動及び、目標の能力への対処はその場での判断に委ねます。いいわね』
『そんなの、作戦でも何でもないんじゃない』
アスカが文句を言う。
『フォーメーションは？』
レイが尋ねる。
『そうね……初号機を前衛にして、零号機と弐号機は後衛からバックアップして頂戴。状況に応じて、その後は自由に対応してね』
『だから、それじゃ作戦じゃないじゃん！』
ミサトの指示に、アスカがつっこみを入れる。
「分かりました。とりあえず、やってみます」
ユウカが返事をする。
青葉からの報告が聞こえる。
『目標、進行速度変わらず。２７０秒後に強羅絶対防衛線に到達！』
『ＥＶＡ、発進！』
ミサトの声に、３機のＥＶＡが射出された……
それは、宙に吊り下げられた芋虫のような姿をしていた。
ただ、その胴体部は、節の部分は繋がっていない……
「ミサトさん、なんか、全然動かないんですけど……」
『……とりあえず、パレットガンの有効射程まで近付いてみて』
「はい」
初号機は、ゆっくりと使徒に近付いた。
使徒は、まったく反応を示さない。
『ユウカ、どうなのよ？』
アスカがイライラした口調で話しかけてくる。
「……動かない……とりあえず、撃ってみますか？」
『……いいえ、迎撃装備を起動させるわ。３人とも現状維持』
ロープウェイ型機銃や山腹のミサイル陣地が展開され、使徒に攻撃を開始する。
使徒は、淡い光の壁……ＡＴフィールドを張って、その火力を無効化する。
そして、体を伸ばして攻撃する。
『エグい体してるわねぇ』
アスカがイヤそうに感想を漏らす。
使徒は、更に体の節の一つを飛ばして迎撃設備を破壊する。
『遠距離も対応してるのね……』
ミサトの溜息が聞こえた。
「……接近戦を仕掛けてみます」
『気を付けて……』
レイが心配そうに声をかける。
「ん、ありがと。援護よろしく」
初号機はさらに近付いていく。
接近戦距離に入った瞬間、使徒は体の一部を飛ばしてきた。
「きゃっ！」
初号機は慌ててＡＴフィールドを展開し、それをはじき返す。
その間に、使徒が近付いてきた。
「交戦開始します……」
（さあ、どうしようか……とりあえず……）
初号機は、パレットガンを撃った。
使徒は、それを体をくねらせて回避する。
さらに、その動きを弾みにして、攻撃をしてきた。
初号機はその攻撃を避ける。
「結構、強いです……距離を取ります！」
ユウカは、初号機を下がらせる。
使徒は、少しだけ距離を詰めてきた。
その時、警報が聞こえた。
「何?……」
『民間人を戦闘エリア内に確認！』
「人？……あ、あれは……山岸さん！」
『こっちでも確認したわ。一番近いのは……ユウカちゃん、彼女を救出。その後、速やかに後退して』
「分かりました！」
ミサトの指示が飛ぶ。
ユウカは、マユミをかばうために、一瞬使徒から目をそらした。
使徒は、その隙に体の一部を飛ばして攻撃する。
その一撃は、初号機のアンビリカルケーブルを切断した。
『初号機、アンビリカルケーブル破損！内部電源に切り替わります！』
『まずいわ！レイ、アスカ、初号機の撤退を援護して！』
日向の報告を聞き、ミサトが新たな指示を出す。
零号機と弐号機が構えていたパレットライフルを撃ち、使徒を牽制する。
その間に、ユウカは戦闘エリアから初号機を離脱させ、マユミを安全な所に下ろした。
「使徒は?」
『初号機はそのまま撤退して！目標は零号機と弐号機で処理するから！』
「でも……」
ミサトの命令に不満げな声を出すユウカ。
『アンタは大人しく下がって、ケーブルでも直してなさい！』
『私達だけで大丈夫よ、ユウカさん。だから、命令に従って……』
「……了解。初号機、下がります」
明らかに、自分を安心させるためのセリフだと分かったが、ユウカは、アスカとレイの気持ちを酌んで素直に下がることにした。
「目標、消滅しました！」
「爆発もしないで？」
マヤの報告に、リツコが疑問を抱く。
「……ＥＶＡは撤収。第一種戦闘配置解除。警戒だけは続けて」
ミサトは、作戦終了の判断を下した。
「……リツコ、何だか不満そうね」
「殲滅したと思う？」
リツコに向き直ってその様子を見たミサトは、軽い気持ちで尋ねたところ、逆に質問を返された。
「……正直、まだだと思うわね」
「引き際の良さは、先日の『ＭＡＧＩ』に潜入した使徒の知能レベルなら納得いくわ」
「じゃ、リツコセンセは同一の使徒だと？」
ミサトは、少々茶化しながら尋ねる。
「あなたもさっきそう言ってたじゃない？」
「アタシのは仮定よ……って、そっちもか」
「ええ、使徒の個体識別なんて出来てないから、断定なんて不可能なのよ」
リツコは、疲れたように言い放った。
その答えに、ミサトも考え込んだ。
ＥＰＩＳＯＤＥ：１７ Ｈｉｄｄｅｎ Ｓｕｂｓｔａｎｃｅ
「３人ともご苦労様、よくやってくれたわ」
ミサトが、ユウカ達にねぎらいの言葉をかける。
「ま、ね。あの飛んでくるのさえ気を付ければ大した敵じゃなかったわね」
アスカが自慢げに言う。
ユウカはその横で苦笑していた。
「とりあえず、一件落着って言いたいところだけど……」
ミサトが言葉を濁す。
「まだ、何かあるんですか？」
ユウカが尋ねると、ミサトは重い口を開いた。
「……少なくとも、アタシとリツコは、まだ警戒が必要だと感じてるの。だから、あなた達は明日から……いえ、今夜から１人ずつ交代で待機して貰うことになるわね」
「じゃあ、私今夜残ります」
ユウカが言うと、ミサトが照れ笑いを浮かべた。
「いや〜、ユウカちゃんは明日以降にして欲しいかななんて……いない時の準備してから泊まって欲しいのよ」
「はぁ……」
「って事で、レイ、いいかしら？」
「了解……待機します」
レイは素直に頷いた。
「じゃ、２人は早く帰ってゆっくり休んで頂戴」
「んー、今日は疲れたわね」
「ホント、アスカお疲れさま」
本部からの帰り道、ユウカはアスカと２人、ブラブラと歩いていた。
「でも、アスカ……あの使徒、強くなかった？」
「べっつにぃ〜。大した相手じゃなかったわよ」
「そっか……１人だと、強いなって思ったんだけど」
ユウカは首を傾げた。
アスカは、少し前に進んでから振り返る。
「もう終わったことなんて気にしても仕方ないって。それより、今夜は何食べさせてくれるの？」
「ほぇ？あ……考えてなかった」
「しょうがないわねぇ……ま、いいわ。任せるから、美味しいもの作ってよね」
アスカは、一瞬呆れた顔をしたが、すぐに普段通りの表情に戻ってそう言った。
ユウカは照れ笑いで誤魔化そうとしていた。
夕食が終わって、ユウカはペンペンと一緒にお風呂から上がった。
ペンペンを冷蔵庫に返すと、自分たちの部屋に行く。
布団の上で、ユウカは考え事を始めた。
（『彼』の知らない使徒だった……私、勝てるのかな？……ううん、ここで立ち止まれない……まだ、終わるわけにはいかないもの……）
軽く寝返りをうつ。
（山岸さん、昔の頃の『彼』に似てる……自分に自信が無くて、周りのことばかり気になって……もっと、仲良くなりたいな……）
そんなことを考えている内に、いつしかユウカは眠りについていた。
ユウカは、早起きして弁当作りを始めた。
「これが私ので、これがレイさん。こっちがミサトさんで、後、アスカにケンスケ君……と。うん、オッケー。じゃ、先にネルフ行って、届けておこうかな」
アスカに置き手紙をして、ユウカは本部へ向かった。
発令所傍の休憩室に行くと、リツコだけがいた。
「リツコさん、お早うございます。ミサトさんは？」
「お早う、ユウカさん。ミサトなら仮眠室よ。言伝なら替わりに聞いて置くけど？」
コーヒーを入れたカップを手に、リツコは少し眠そうな顔で答える。
「えーと、お弁当持ってきたんですけど、どこに置いておけばいいですか？」
「『ミサト』用って張り紙でもして、そこに置いておけばいいわ」
「そうですか……レイさんは待機所ですか？」
「レイ？……そうじゃないかしら？」
「分かりました。行ってみます」
ペコリと頭を下げると、ユウカはパイロットの待機所へ向かっていった。
その途中で、冬月とすれ違う。
「おや、ユウカ君お早う。今日はどうしたのかね？」
「はい、ミサトさんの陣中見舞いです。これから、レイさんにも挨拶していこうかなって思って」
「そうか……ところで、学校の方はどうかな？」
「楽しいです。あ、急がないと遅刻しちゃうんで失礼します」
「うむ、気を付けてな」
ユウカは小走りに去っていった。
冬月は、その背中を、優しい眼差しで見送っていた。
「レイさん、いる？」
「ユウカさん、どうしたの？」
レイが顔を上げると、ユウカが待機所に入ってくるのが見えた。
「お弁当、作ってきたの。お腹空いたら食べてね。今夜には交代だから……ウチに明日の分用意して置くからね」
「……うん」
レイは素直に頷いた。
ユウカは満足そうにレイの手に弁当箱を乗せる。
「レイさんが食べれるように、お肉入ってないからね」
「ありがとう……」
レイは、愛おしそうに手の上の弁当箱を見ている。
ユウカは、一つ欠伸をすると、体を伸ばす。
「んんーっ、いつもよりも早起きしたからまだちょっと眠いや。じゃ、私学校行くから、交代の時にね」
「行ってらっしゃい……」
レイは、ユウカに軽く左手を挙げて振る。
ユウカは、満面に笑顔を浮かべて待機所を後にした。
いつもと違い、朝から商店街を通るユウカ。
本屋の前を通りかかった時、知った顔を見た。
「あ……？」
相手も気付いたようだった。
「山岸さん、お早う。本買ったの？」
「ええ、昨日図書室で借りた本、もう、みんな読んじゃったから」
マユミは、ちょっとはにかんだように答える。
「ふぅん、本読むの好きなのね」
「だって、本っていろんな事を教えてくれるから……碇さんは本を読んだりしないんですか？」
ユウカはちょっと考えてから答える。
「うーん、割とよく読む方かな……」
「良かった」
マユミが笑みを浮かべた。
「どーして？」
「だって、同じ趣味の人がいると思うだけで、楽しくなるじゃないですか」
「あはは、そうかもね」
２人は、歩きながらそんな話をしていた。
突然、マユミの足が止まる。
「山岸さん、どうしたの？」
マユミは、その声が耳に入らなかったように、聞こえないように呟く。
「私が私じゃないみたい……何これ、何なの？」
「山岸さん、大丈夫?」
ユウカが駆け寄って、肩を抱く。
マユミは、急に意識が戻ってきたように言う。
「あ、いえ……何でもないから……」
「本当に？学校着いたら保健室行こうか？」
「ううん、もう大丈夫だから……」
マユミが言うことを完全に信じたわけではないが、これ以上は迷惑かと思い、ユウカはその話を止めることにした。
その後は、本の話をしながら、２人は無事に学校に着いた。
２日後の昼休み、教室でユウカがボーっとしていると、トウジが声をかけてきた。
「なあ、ユウカ。ちょっとええか？」
「何、トウジ？」
「お前、何か楽器出来るか？」
「？チェロ弾けるけど？」
「よっしゃぁ！」
いきなりガッツポーズを取るトウジに、ユウカが慌てて声をかける。
「ちょ、ちょっとトウジ、どうしたの？」
「よっしゃ、話して聞かせたる。来週、文化発表会があるんやけどな……ケンスケとワシと後数人でバンドでもやろか思うてな、ユウカ、お前も加わって貰うで」
「いいけど……名前は？」
「聞いて驚け。その名も、『地球防衛バンド』や！」
「あ、そう……曲とかは決まってるの？」
「それはケンスケ次第や」
無意味に胸を張るトウジ。
ユウカは苦笑するしかなかった。
「ちゅうわけで、放課後音楽室に集合やで。ええな！」
そう言って、トウジは席に戻っていった。
放課後、音楽室。
「……ふぅ」
演奏を終えて、ユウカは安堵の息を漏らした。
「よっしゃ、もう完璧やな」
「いや、何か足りないよ。ユウカちゃんもそう思うだろ？」
トウジが満足そうな顔を見せるのに対して、ケンスケは首を捻っている。
「……正直に言っていい？」
「いいよ」
「この歌詞だと、ボーカルは女性の方がいいんじゃない？」
「ワシじゃ不満なんかい！」
ユウカの意見に、トウジがキレる。
「トウジが悪いんじゃなくて、歌詞に男の声が合わないって言ったの」
「そうだね。やっぱりボーカルの女の子は必須だよ」
「……ユウカが歌うんはダメなんか？」
「私？弾きながらは歌えないよ。そんなに器用じゃないもん」
トウジの問いかけに、ユウカは即答する。
「それじゃ、誰か捜さないとね」
ケンスケがまとめようとする。
「しゃーない、それぞれで当たってみよか……」
トウジが半ば諦めたように言った。
翌日の放課後、ユウカはトウジとケンスケを連れて図書室にいた。
「「お願いします！」」
トウジとケンスケが揃って頭を下げる。
「でも、私なんか……」
マユミは、困った顔で、ユウカの方を見る。
「私からもお願い。無理にとは言わないけど……」
ユウカも両手を合わせて軽く頭を下げる。
「分かりました……恥ずかしいけど、私なんかで良ければ……」
マユミは、恥ずかしげに顔を伏せながら答えた。
トウジとケンスケは手を取り合いながら喜んでいる。
その様子を見て、ユウカは満足そうに微笑んでいた。
音楽室に戻ったユウカ達は、早速マユミに歌って貰った。
マユミは、ユウカ達が何も言わないので、不安に思い声をかける。
「あ、あの……」
「……感動や、ワシは今までこれほど泣ける歌を聴いたことないで！」
「すごい逸材じゃないか……」
「ホント、とっても上手いね……」
３人が感想を漏らす。
全員が誉めてくれるのを気恥ずかしく感じて、マユミは頬を染める。
「照れくさいですね、人前で歌うのって……」
「よぉっしゃぁ！機材の調整して、もう一回や！」
トウジがアンプの電源に手を伸ばした。
それを見たケンスケが慌ててトウジを止める。
「ダメだよ、トウジ。アンプの電源を入れる時はボリュームを下げてからじゃないと。下手すると、スピーカーが壊れちゃうんだからな」
「お、おお、スマンな。ついあの歌に感動しっぱなしでな」
そして、ユウカ達は練習を開始した。
あとがき
さて、今回は、セガサターン（懐かしい）ソフトの『新世紀エヴァンゲリオン ２ｎｄ Ｉｍｐｒｅｓｓｉｏｎ』を元に構成しています。
タイトル及びサブタイトルも、そのソフトからの流用です。ご勘弁の程を。
今回の使徒、前回のマイクロマシンな使徒の本体です。この「想いを受け継ぐ者」では、そう設定することにしました。
理由ですが、第一に、そうすることによって、この話（セガサターン版）が入れやすくなること。つまり、使徒の数自体が変わらなくなることです。
第二に、この世界（想いを受け継ぐ者）では、「（作者自身の）基本的に、使徒はＥＶＡによってのみ殲滅される」という信念がありますので、人間のプログラムごときに倒されるなどあってはならないこととしているからです。
実際に、このゲームをやられた方はどの位いるのでしょうか？作者自身はやってます。
戦闘シーンは、色々なパターンを混ぜ合わせながら書きました。
使徒の能力は、この時点では変わってないのですが、ユウカは『知らない』相手ですので、扱いに困ってますね。
ゲームをやられてない方、イメージ、上手く伝わってますか？伝わらないなら、私の実力不足です。
次回は、この話の後半……完結編をお送りします。
次回、『福音を呼ぶための資格』。
特殊な能力を持つ使徒に、ユウカ達はどう戦うのか？
そして、使徒と転校生の関係は？
作成日付：２００１／０１／１５
改稿日付：２００１／０２／０５
感謝の言葉：
マユミちゃんの澄んだ唄声、ユウカの誘いで一歩踏み出した
感じがしますが、発表会、ちゃんと行われるといいですね。
それにしても、イロウルからの繋がりは秀逸ですね。
この使徒との戦いの行く末と、マユミちゃんの今後の身の振り方に
要注目でしょう。
さ、続きが読みたいと思った人は感想メールで催促しましょう♪
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第１８話「福音を呼ぶための資格」に進む。
作者のＡＢＣさんへの感想メールはこちら（abebeabebe@ksn.biglobe.ne.jp）まで。
読者からの反響は作者のやる気を湧き出させます。
続きが読みたい人は、感想メールを送りましょうね。