「へぇ、バンドなんてやるの……」
夜、葛城家……ミサトは缶ビールを片手に、ユウカの話を聞いていた。
基地へ行くローテーションは、ユウカを出来るだけ行かせないようにしている。
何せ、葛城家の食卓事情は彼女が一手に担っているのだから。
そんなわけで、アスカはすでに眠りについており、レイは本部で待機中だった。
「ええ、トウジ達に押し切られちゃって……」
「楽しそうねぇ……大学の頃思い出しちゃうわ」
「そんなわけで、明日も学校に行きますから」
「そっか。うん、頑張ってきなさい」
「は〜い。それじゃ、明日早いんで、もう寝ます。お休みなさい」
「お休み〜」
ミサトに挨拶して、ユウカは布団に潜り込んだ。
翌朝、ユウカは１人早起きして、食事の準備をする。
今日は普通のお弁当が二つに、作り置きの食事が２人分。それと、沢山のサンドウィッチを入れたバスケットと、６人分はありそうなおかずを入れたタッパーをテーブルの上に並べた。
「んっと……『ミサトさん江、お弁当、レイさんの分もあります。持っていってあげてください。朝食の準備もしてあります。今日もお仕事頑張ってください』っと。うん、間違い無さそうね」
置き手紙を読み直して文面を確認すると、それを弁当箱の一つに乗せて、大きなバスケットとタッパーを抱えて出かけていった。
「おはよ〜。もうみんな来てる？」
ユウカは音楽室のドアを開けて挨拶する。
「お早う、ユウカちゃん」
「ケンスケ君、トウジは？」
トウジの姿が見えないので、ユウカはケンスケに尋ねた。
「今頃大慌てで家を出た頃じゃないかな？」
「……遅刻ぅ?しょーがないなぁ。で、山岸さんは？」
「図書室。ウチのガッコの図書室って、一応休みの日も司書さん来てるから。借りてた本返してくるってさ」
「そっか。じゃ、軽く調律しとこうかな」
そう言って、ユウカはチェロをケースから出して準備をした。
じきにマユミも戻ってきて、３人で練習を始める。
それから、１時間ほど経って……
「いや〜スマンスマン……すっかり寝坊してもうた。悪いなぁホンマ」
ギターを背負ったトウジが現れた。
「おっそぉい、トウジ。そんなことしてると、昼抜きだぞ」
「ホントに遅いね。早いとこ準備して音合わせしよう」
ユウカが茶化して、ケンスケは正論を言った。
４人揃ったところで、全員合わせての練習を再開した。
昼食の準備に、タッパーとバスケットを用意し始めたユウカ。
その時、この場所には珍しい声が聞こえた。
「よっ頑張ってるな」
「青葉さん？」
ユウカが音楽室の入り口に振り返ると、青葉がギターを持って現れた。
「どうしたんですか？」
「葛城さんに頼まれてね。ユウカちゃん達がバンドの練習してるから、見てやってくれってさ」
「そうなんですか。青葉さん上手だから、トウジのテク、鍛えて下さい」
「そうだね、トウジ、教えて貰いなよ」
「ほんなら、よろしくお願いしますわ」
頭を下げるトウジに、青葉が軽く笑いながら言う。
「俺の特訓は厳しいぜ」
「うひゃあ、一つお手柔らかに頼んますわ」
トウジが戯けた感じで悲鳴を上げる。他のみんなは、大笑いしていた。
第拾八話 福音を呼ぶための資格
そして……文化発表会前日。
「いよいよ明日やなぁ」
トウジが音を合わせながら言う。
「ああ、準備も整ってるし。ま、最後の通し練習しておこうか」
ケンスケがキーボードの配線を確認している。
ユウカは、緊張した面持ちのマユミに声をかけた。
「頑張ろうね、山岸さん」
「あ、うん」
その時、あまり大きくないが、確かに爆発音が聞こえた。
「何や?」
「事故かな？」
トウジとケンスケが窓に貼りついて遠くに目を凝らす。
マユミが、苦しそうに膝をついた。
「山岸さん、大丈夫?」
ユウカが慌ててマユミの傍に行く。
『只今、第３新東京市に緊急避難命令が発令されました。市民の皆さんは速やかに指定のシェルターに避難して下さい。繰り返します……』
マナが音楽室に駆け込んでくる。
「ユウカ、出撃だって！アスカさんはもう本部に行ったから速く移動して！」
心配そうな視線をマユミに向けながら、ユウカは立ち上がった。
「マナ、山岸さんの事お願い！急いで避難して！」
そう言って、ユウカは駆け出していった。
「ユウカ、頼むでぇ！」
「活躍、期待してるからな！」
トウジとケンスケが、走っていくユウカの背中に声をかける。
ユウカは、振り返らずに、ただ、片手を挙げて答えた。
ネルフ本部、第一発令所。
「中央ブロック、および第一から第七管区までの収容完了！」
「政府、及び関係各所への通達完了しました！」
日向と青葉が状況を報告する。
「民間人と非戦闘員の退避は？」
「突然の襲来だったので、まだ混乱してます！」
「急がせて、戦場は市街地のど真ん中よ！」
ミサトが次の指示を考える。
「アスカ、ユウカちゃん、いい？零号機は発進済、あなた達もすぐに出すわ。目標に威嚇射撃を行いつつ誘導。その間に民間人の避難を完了させます。ＥＶＡ、発進！」
『このアスカ様を騙すなんて、やってくれるわね！絶っ対許さないんだからね！』
アスカがコックピットで吠える。
ユウカは黙ったままで、考えを巡らす。
（明日……出来るかなぁ、文化発表会……折角みんなで一所懸命練習したのになぁ）
そして、初号機と弐号機は発進した。
市街の中央部、使徒はそこで変形した。
兵装ビルの間に収まり、楕円状になった球体から無数の針を伸ばしたその姿は、蚕が造る繭の様だった。
「何、アレ……？」
『分からない……』
ユウカがポツリと漏らした問いに、レイが答えた。
『目標の行動が予測出来ないわね。命令があるまで、各自その場で待機。……長丁場になるわね……』
『ミサト、ナガチョウバって何？』
ミサトがふと言った言葉に、アスカが反応して聞き返す。
『明日の朝がキツイって事よ』
ミサトはうんざりしたように言った。
ネルフ本部・第一発令所。
メインモニターに映し出されているのは、夕焼け色に染まったビルの中に佇む、使徒の繭だった。
見た目には一向に変わった様子は無かったが、機械はその中に起きているであろう異変を捉えていた。
「か、葛城さん……いえ、葛城三佐！」
「何が起こったって言うの、日向君？」
上擦った声をあげた日向に、ミサトが説明を求める。
「し、信じられません、目標の質量が増加していきます！」
「質量が?まさか?……センサーの状態は？数値的に合ってる？」
「全センサー正常！測定誤差でもありません！」
「そんな、いきなり質量が増えるなんて、異常すぎるわよ！」
日向とミサトのやり取りに、リツコが口を挟んだ。
「確かに、物理法則に反しているわ……でも、考えられることは一つあるわね」
「何よ、リツコ？」
「あくまでも仮定だけど……おそらく、使徒はあの中で成長しているわ。まるで、蝶が幼虫から蛹を経て成虫へと変わるようにね」
「そんなこと……」
「あり得ない話じゃないわ。使徒は自己修復機能と、敵対する相手や環境に応じた適応力を持っている……おそらく、その延長線上の能力ね。こないだ、侵入してきた使徒とも共通点があるわ」
「どこがよ？」
「”成長”する事よ……前はマイクロマシンから知能回路へ増殖しながら”成長”したわ。そして、今回は直接出現し、戦闘を経て、さらに”成長”しようとしている……」
「そんな……だとしたら……」
リツコはキッパリと断言した。
「ＥＶＡの攻撃方法に対する能力を身に着けているはずよ」
そして、質量の増加が止まった時、何かが割れる音が聞こえ始めた……
３機のＥＶＡの前で、繭状の物体が内側から破壊され、中から、蜂か蝶に似た、異形の怪物が姿を現した。
『何よアレ。アレが正体?』
アスカが不満げな声を出す。
レイは相手をジッと見つめている。
ユウカは、今一つ、相手の事を掴みきれずにいた。
（やっぱり、全然『知らない』使徒だ……）
目の前の使徒は、手近にいた零号機に近付いていく。
『ユウカちゃん、アスカ、零号機が目標と交戦を始めるから、直ちに援護して！』
『はいはい』
「分かりました」
ミサトの指示に応じて、初号機と弐号機が使徒の方に向かっていった。
「でも、どうするの？アスカ」
『どうせ、見かけ倒しよ。ま、軽く遠距離攻撃で様子見ましょうか』
「うん、分かった」
アスカの案に従い、初号機と弐号機は使徒にパレットライフルを撃ち込む。
見た感じ、効果が薄いように見えた。
『気を付けて下さい！目標を示す幾つかの数値が、測定値０を示しています！』
『何のこと？』
マヤの警告に、アスカが尋ね返す。
リツコが、それに答えた。
『つまり、今あなた達の前にいる目標は、実体でもあり、そうでもないの』
『何それ？じゃアタシ達、幻を相手にしてるって言うの?』
『でも、攻撃は本物よ』
アスカが文句を言うと、レイが一言付け加えた。
『そんなこと、アンタに言われなくても分かってるわよ！』
その間にも、使徒は周囲を確認しているようだった。
そして、ある方向へと動き出す。
それは……
『あの方向……』
『学校じゃない！』
「まさか?」
確かに、使徒は第壱中学へと向かっていた。
そして、その時点ではまだ避難できなかった生徒達が学校にいた。
『避難が終わってない?どうして！』
『避難ルート上に目標が停止していた為です。まるで、そうなるのが当然の様に……』
『人質のつもり？』
ミサトの呻くような声が、コックピットに響いた。
音楽室の窓から、ケンスケが状況を見ていた。
「こっちに来る！」
「何やて?それじゃ、全然動けないやないか！」
「あいつ、俺達を盾にしてるんじゃ……」
「きったないヤツやなぁ！」
そんなことを言い合うトウジ達の後ろでは、マナが懸命にマユミのことを介抱していた。
「大丈夫、山岸さん。必ず、ユウカ達がアイツをやっつけてくれるからね」
「私……何か……私の中に……何かいる……」
マユミは、聞こえないほどの微かな声で呟いていた。
ＥＰＩＳＯＤＥ：１８ Ｎｅｖｅｒ ｓａｙ ｄｉｅ！
使徒は、中学の前に居座ると、上体部の触腕状の部分に付いている円盤に似た部品を回転させながら伸ばす。
そこに生まれた光の刃が初号機に向けて放たれた。
「な、嘘ッ！」
ユウカは慌てて回避しようとするが、その速度についていけなかった。
刃が、初号機の首の後ろを掠めていく。
鈍い衝撃が、コックピットのユウカを揺すった。
『警告。ＬＣＬ浄化装置に異常発生。浄化ユニットの交換を要求する』
コンピューター合成の警告メッセージが、コックピットに流れた。
「あ……」
『ユウカちゃん、弐号機と零号機で目標をくい止めるから、その間にエントリープラグの修理を受けて！』
「そ、そんなこと出来るんですか？」
『大丈夫、ユニットの交換だけだから１０分もあればいいわ。そうでしょ、リツコ』
『そうね。今、作業用トレーラーをそっちに行かせるから』
ミサトとリツコが説明してくれた。
アスカが割り込みで通信を入れる。
『いいから、こっちはアタシ達にまかせときなさい！』
弐号機と零号機は、使徒に対して威嚇射撃を行う。
ユウカは、ミサトの指示に従い、初号機を下がらせた。
目の前で、エントリープラグの修理が行われている。
戦闘の音は、座り込んで作業の終了を待つユウカの耳に、嫌でも入ってくる。
「碇さん……」
誰かの声に、ユウカが反応して振り向く。
そこには……マナの肩を借りて、マユミがいた。
マユミは、そこから１人で近付いてくる。
目前まで来たマユミが口を開く。
「お願い……私を、私を殺して！」
マユミの言葉に、狼狽するユウカ。
「な、何言い出すのよ。どうして……」
「判るの……私の中に、あの怪物がいる……あの怪物の魂がいるの！」
「そんな……」
「判る、判るのよ！だから……殺して！早く私を！」
「そんなこと、出来るわけ無いじゃない！」
「だって！……だって、私、嫌いだから。人に迷惑を掛けるのも掛けられるのも、勝手に心を覗かれるのも、覗くのも……そんなの嫌だから。そんな、自分も嫌だから。このままじゃ、もっと自分が嫌いになるから！」
膝をついて、泣きじゃくるように話すマユミ。
ユウカは、しゃがみこんで、そっと話しかける。
「やっと、本音言ってくれたね」
「……？」
顔を上げて、不思議そうな表情を見せるマユミ。
「好きとか嫌いとか、良いとか悪いとか、自分以外の考えなんて、教えて貰わなきゃ分かんないよ……だから、山岸さんの本音が聞けて嬉しい……でも、ダメだよ……殺して、なんて」
「……どうして？」
「死んじゃったら、好きも嫌いも無くなっちゃうんだよ。”想い”を残したまま、二度とやり直せない人だっているのに……生きなくちゃダメだよ」
そう言いながらユウカはマユミを立たせる。
「作業、終了。再起動の準備を始める！」
作業員が大声を出す。
「マナ、山岸さんのこと、頼むから……山岸さん、早く避難してね。あの怪物は……使徒は、私が必ず倒すから」
そう言い残して、ユウカは足早にエントリープラグの方に走っていった。
『ユウカちゃん、生徒達の避難も完了したわ。近くのビルから好きな武器持っていって！』
ミサトが、現況を説明する。
「分かりました。すぐに援護に向かいます」
初号機が動き出し、戦闘エリアに入る。
『随分のんびりしてたわね、ユウカ』
「アスカ、お待たせ」
（でも、どうやったら倒せるかな？）
攻撃をしながら、初号機は少しずつ使徒に近付く。
だが、使徒は攻撃の影響を全く受けていないようにしか見えない。
零号機と弐号機が、武装の交換の為、後方に下がった。
初号機と使徒は、睨み合うような状態になった。
その時、ユウカの視界の片隅に、ビルの屋上に立つ影が見えた。
「あれは……まさか、避難してなかったの?」
通信が入ってくる。
『ユウカちゃん、霧島さんが何か謝ってるけど、そっちで何かあったの?』
「すいません、ミサトさん……後で説明します！」
ユウカは、初号機をビルの方に走らせた……
マユミは、表情を失ったまま呟く。
「嫌なの……人の心を覗くのも、覗かれるのも……勝手に心の中に入り込まれて。私の中に入ってこられて……嫌なの。嫌だと思う自分も嫌なの……」
そう言って、マユミはビルの端から宙に踏み出した……
初号機の右手が、優しくマユミを受け止める。
「私、生きてるの？」
マユミが、自分の状況を確認する。
ユウカが、スピーカー越しに話しかける。
「死んじゃダメだよ……やり直したくっても、二度と出来ない人だっているんだよ。どんなに辛くても、生きていれば良いことだってあるハズなのに、死んだらおしまいなんだよ！」
ユウカの心には、マユミと『彼』が重なって見えていた。
生きていて欲しい、ただ、それだけをユウカは願って、話しかけていた。
そして、マユミをそっと開けた路上に横たえる。
「エリア内に、新たな反応を確認！」
「照合終了、パターン”青”……使徒です！」
マヤと青葉の報告に、ミサトは慌てる。
「まさか、新しい敵?」
「いえ、反応は現在の目標と同一座標上です！」
青葉が手元のモニターで確認する。
「そう、そう言うこと……」
「？リツコ、何か分かったの？」
リツコが満足げに頷いたのを見て、ミサトは質問した。
「あの目標は、自分のコアを分離して、今ユウカさんが助けた少女の中に潜ませていたのよ。ところが、それが危険になったと判断して、一つに戻ったんだわ。だから、反応が重なっているのよ」
「つまり、何なのよ」
「今まで戦っていたのは、いわば使徒の影武者ね。これからは、攻撃がまともに通用するハズよ」
「目標、体色が変化しました」
マヤの報告が入る。
「今度は何しようってぇの……」
「そればかりは、見なくては分からないわね」
使徒は、触碗の先端から光る刃を伸ばして、初号機に向かっていった。
『計測終了！ＡＴフィールドの刃です！』
その、マヤの言葉の間にも、使徒は初号機に斬りかかっている。
ユウカは、その太刀筋を予測して避ける。
（”視える”……次はこっち……次は下から……右上……左……）
『初号機、シンクロ率２００％突破しました！』
真上から振り下ろされる刃。
初号機は、その刃を両の掌で挟み込んだ！
「速さも、方向も、全部分かってれば何とかなるモンなのね……」
ユウカは、半信半疑で白刃取りを行ったのだが、どうやら成功したことに、安堵の溜息を漏らす。
『ユウカちゃん、ナイスよ！』
ミサトの快哉の声の間にも、初号機と使徒との力比べになる。
受け止めた初号機を、使徒が押し込んで斬ろうとする。
ユウカは、その反動を利用して、使徒を投げた！
使徒は、ビルを越えて飛ばされる。
『目標、ＡＴフィールド展開……視認できるほどの強固な物を張りました！』
淡いオレンジの光の壁が使徒の前に現れた。
そして、その色が濃いブルーに変わる。
「何かな、アレ？」
ユウカは、地面に置いていたパレットライフルを拾うと、使徒めがけて撃つ。
その弾丸がＡＴフィールドに触れると、波紋を起こして消失する。
『？ＡＴフィールド、反応が強くなりました』
『攻撃のエネルギーを吸収するのかしら？』
リツコの言葉が聞こえた。
「それじゃ、何も出来ないです！」
ユウカが思わず怒鳴ってしまう。
『そう言ってもねぇ。リツコ、何とかならないの？』
『アレがどれくらいのエネルギーを吸収できるか、ね……飽和させられればいいけど、これは難しいわね』
「飽和？要するに、耐えられないくらいの力で攻撃しろって事ですか？」
『……間違ってはいないけどね』
「そうですか……なら、やってみます」
ユウカはそう言うと、使徒に向き直った。
（思いっ切り『力』を込めてナイフで斬りつければ、多分勝てると思う……でも、失敗したら終わりかな……偉そうなこと、山岸さんに言ったくせにね……）
自嘲の笑みを浮かべると、ユウカはライフルを捨ててプログナイフを抜いた。
『お待たせ、こっからはこのアスカ様に任せなさい！』
『ユウカさん、待たせてごめんなさい』
弐号機と零号機が武器を構えて現れる。
「アスカ、レイさん……連続で攻撃を掛けたいの。手伝って」
『……何すりゃいいの？言ってみなさいよ』
『分かった……』
ユウカは口早に簡単な説明をして、援護を頼んだ……
『いよぉっし、喰らえぇーい！』
弐号機がポジトロンライフルを撃つ。
使徒のＡＴフィールドが波紋だらけになる。
『攻撃、開始』
零号機がパレットライフルの火線を一点に集中して撃つ。
ＡＴフィールドの色が、非常に濃くなり、眩いほどの青に輝く。
「初号機、行きます！」
ユウカが、その『力』をナイフに収束して、ＡＴフィールドに突き立てる。
使徒のＡＴフィールドが歪み、僅かにナイフが貫く。
「ウアァァァァァァァァァァッ！」
ユウカは、思いの全てを込めて、ナイフを更に突いた。
ＡＴフィールドが割れて、使徒の体にナイフが突き刺さる。
その瞬間、ユウカは全ての『力』を解放した。
使徒がもがき、やがて動きを止めると……爆発して光の十字架を大地に立てた。
演奏が好評の内に終了し、ステージから下りて、ようやくユウカは落ち着いた。
「うぅ、恥ずかしかったよぅ」
「なんや、それは。一番ノッてたのはお前やないか、ユウカ」
「恥ずかしいのを誤魔化してただけだってばぁ」
「いいんじゃない、無事に終わったんだし」
「そうですね……」
真っ赤になってるユウカをからかうトウジを見て、ケンスケとマユミは楽しそうだ。
「しかし、ミサトさんや青葉さん、見に来てくれてよかったよなぁ、トウジ」
「そうやなぁ。ワシのギターテク、カッコ良かったやろ」
「はいはい……」
格好着けたポーズを決めるトウジを見て、ユウカは呆れ顔をしている。
マユミが、そんなユウカに声をかけた。
「碇さん、ちょっといい？」
「何、山岸さん」
「うん、あの……話したいことがあるんだけど……ここだと……」
「……それじゃ、図書室行こうか」
そう言うと、ユウカはマユミの手を取って、その場を後にした。
文化発表会のため、人気のない図書室の隅。
ユウカは、窓から外を覗いている。
「碇さん、あの……」
「何？」
「……あの時、助けてくれてありがとう」
「……」
ユウカは何も言わずに外を見ている。
「碇さんのあの言葉、とても胸に響いたの……そうよね。死んでしまったら、もう何も出来ない。大好きな本も読めなくなってたんだよね」
「……」
「私、頑張ってみます。碇さんみたいに、強くなりたいですから」
「強くなんて無いよ……」
「碇さん？」
マユミが心配そうにユウカの顔を覗き込もうとする。
「碇さん、どうかしたんですか？」
「……ユウカ」
「え？」
ユウカは、マユミの方を振り返って、ニッコリと微笑む。
「下の名前。ユウカって呼んで、山岸さん」
「どうして？」
「私、友達には、みんなユウカって呼んでもらってるの」
「私が、友達？碇さんの？……」
「だ・か・ら・ユウカ。ユ・ウ・カ。いい？」
「……うん。分かりました……ユウカさん」
「よろしい。そんじゃ、そろそろ戻ろうか。トウジ達心配してるだろうし……行こう、山岸さん」
「あ、あの……」
マユミの手を引いて歩き出そうとしていたユウカは、急に呼び止められて振り返る。
「何？山岸さん」
「私のことも、名前で呼んでくれませんか？……あ、いえ、いいです、その……ごめんなさ……」
「ストップ！」
マユミがいつものように謝ろうとするのを、ユウカが大声で止める。
「え？ユウカさん、何ですか？」
「今みたいなことで謝らないでよ。マユミさんが悪い事した訳じゃないんだから」
「あ、名前……」
「さ、行こ。マユミさん」
「うん、ユウカさん」
２人は、笑いながら歩き始めた。
あとがき
今回も前回に引き続き、セガサターン（懐かしいなぁ）ソフトの『新世紀エヴァンゲリオン ２ｎｄ Ｉｍｐｒｅｓｓｉｏｎ』を元に構成しています。
タイトル及びサブタイトルも、またもや、そのソフトからの流用です。しつこいようですが、ご勘弁の程を。
日付が前日なのは、ちょっとした都合ってものです。お気にされないように……
ＡＴフィールドのブレードや、攻撃エネルギーの吸収など、複合化しています。
結局は、ハウリングを起こしたアンプみたいにＡＴフィールドを破壊され、殲滅されましたが。
次回は、ストーリー的には小休止。
裏側の人たちのお話です。
次回、『幻想と真相』。
そろそろ、本編から大きく逸れていく頃合いですね……
作成日付：２００１／０１／１９
改稿日付：２００１／０２／０５
感謝の言葉：
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第１９話「幻想と真相」に進む。
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読者からの反響は作者のやる気を湧き出させます。
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