「最近、寒くなってきたね」
葛城家、日曜日の朝。
ユウカは、洗濯物を取り込みながらベランダから部屋に戻ってきた。
アスカが何の気なしに言う。
「そうね。こっちはずっと暖かいって聞いてたんだけどね」
「そうだよねぇ……どうしたんだろ？」
ユウカが首を捻っていると、起きたばかりのレイが居間に入ってくる。
「……おはよう、ユウカさん、アスカ」
「おはよう、レイさん」
「おっはようさん」
レイがいつもの席に座ると、ユウカが朝食の支度を始める。
「何で、こんなに寒くなったのかなぁ」
食事しながら、ユウカがそんなことを言いだす。
「さぁてね。さ、お出かけしようかな」
「ユウカさんは？」
アスカが軽く伸びをしながら言いだし、レイはユウカに尋ねる。
「うーん、買い物にでも行こうかな？」
ユウカが首を傾げると、レイが少しはにかんだように言う。
「私も、一緒に行くわ」
「そっか。じゃ、片付け終わったら一緒に行こうね」
ニッコリと微笑むユウカ……レイは、コクンと肯いた。
街に出ると人々の服装がいつもより厚めに見えるし、空気もなんとなく冷たく感じる。
ユウカ達の服装も、長袖になっている。
吐く息も白い。
「ううぅ……寒いよぉ」
「そうね」
レイは、割と平気そうに見える。
そんなレイを横目に、ユウカはマフラーを巻きなおした。
「変な気候だよね……」
「確かに、異常だわ」
「何でみんな平気なんだろうね」
「さあ。分からないわ」
２人は、寒い中を歩いていく。
その頃、ゲンドウは緊急に人類補完委員会に招集されていた。
「さて、今回の件だが、全くのイレギュラーとなる……だが、サード・インパクトだけは防がねばならない」
「左様、今、アレを起こされるのは困るね」
「碇……この件、上手く処理してくれるな？」
「我々も、可能な限り援助しよう……」
ゲンドウは、重々しく口を開く。
「……『雪』を司るもの（シャルギエル）の突然の来訪、ですか……いいでしょう。それこそがネルフの本分ですから……」
「……頼むぞ、碇」
「今回は、どのような手段を使うことも厭いませんよ。構わないでしょうね」
ゲンドウがキールに尋ねる。
「本来の仕事に影響が出ないなら、許可しよう」
「……ありがとうございます」
ゲンドウを除く人影が消え失せ、彼だけがそこに残る。
そして、その部屋から出たゲンドウを、冬月が待っていた。
「何の話だったんだ、碇？」
「……向こうから、イレギュラーの処理を押し付けてきた。情報を集めさせてくれ」
「フム……分かった、やっておこう」
「頼む……」
ゲンドウはそれだけ言い残すと、司令室へと消えた。
「最近、寒くなってきたね」
葛城家、日曜日の朝。
ユウカは、洗濯物を取り込みながらベランダから部屋に戻ってきた。
アスカが何の気なしに言う。
「そうね。こっちはずっと暖かいって聞いてたんだけどね」
「そうだよねぇ……どうしたんだろ？」
ユウカが首を捻っていると、起きたばかりのレイが居間に入ってくる。
「……おはよう、ユウカさん、アスカ」
「おはよう、レイさん」
「おっはようさん」
レイがいつもの席に座ると、ユウカが朝食の支度を始める。
「何で、こんなに寒くなったのかなぁ」
食事しながら、ユウカがそんなことを言いだす。
「さぁてね。さ、お出かけしようかな」
「ユウカさんは？」
アスカが軽く伸びをしながら言いだし、レイはユウカに尋ねる。
「うーん、買い物にでも行こうかな？」
ユウカが首を傾げると、レイが少しはにかんだように言う。
「私も、一緒に行くわ」
「そっか。じゃ、片付け終わったら一緒に行こうね」
ニッコリと微笑むユウカ……レイは、コクンと肯いた。
街に出ると人々の服装がいつもより厚めに見えるし、空気もなんとなく冷たく感じる。
ユウカ達の服装も、長袖になっている。
吐く息も白い。
「ううぅ……寒いよぉ」
「そうね」
レイは、割と平気そうに見える。
そんなレイを横目に、ユウカはマフラーを巻きなおした。
「変な気候だよね……」
「確かに、異常だわ」
「何でみんな平気なんだろうね」
「さあ。分からないわ」
２人は、寒い中を歩いていく。
その頃、ゲンドウは緊急に人類補完委員会に招集されていた。
「さて、今回の件だが、全くのイレギュラーとなる……だが、サード・インパクトだけは防がねばならない」
「左様、今、アレを起こされるのは困るね」
「碇……この件、上手く処理してくれるな？」
「我々も、可能な限り援助しよう……」
ゲンドウは、重々しく口を開く。
「……『雪』を司るもの（シャルギエル）の突然の来訪、ですか……いいでしょう。それこそがネルフの本分ですから……」
「……頼むぞ、碇」
「今回は、どのような手段を使うことも厭いませんよ。構わないでしょうね」
ゲンドウがキールに尋ねる。
「本来の仕事に影響が出ないなら、許可しよう」
「……ありがとうございます」
ゲンドウを除く人影が消え失せ、彼だけがそこに残る。
そして、その部屋から出たゲンドウを、冬月が待っていた。
「何の話だったんだ、碇？」
「……向こうから、イレギュラーの処理を押し付けてきた。情報を集めさせてくれ」
「フム……分かった、やっておこう」
「頼む……」
ゲンドウはそれだけ言い残すと、司令室へと消えた。
第弐拾話 真夏に降る雪
ネルフ本部、『赤木研究室』……リツコが端末を操作する横で、ミサトがコーヒーを啜っていた。
「現在の異常気象に関する調査?」
「ええ、そう。司令からの勅命。そのうち、そっちにも話が行くと思うけど？」
ミサトが驚いたように訊くと、リツコはあっさりと答える。
「……それで、リツコ先生はどう見る？」
「気象の件？それとも、司令の真意かしら？」
「……とりあえず、急に寒くなった原因の方。何か分かった？」
期待を込めた眼でリツコを見るミサト。
「現状では、こちらに向けて北から徐々に接近中。範囲は、大体第３新東京市全域を覆えるくらい。かなりの大きさの雲が、近付いてくるって事かしら」
「何か、もの凄く怪しい雲じゃない？」
「ええ、そうよ。何らかの電磁効果が働いて、精密探査が不可能。分かっているのは、それが雪雲だって事と、風の影響をほとんど受けない事かしらね」
「……使徒かしら？」
「その可能性は、およそ７割……一応、特異な自然現象って線も捨てられないわ、今のところはね」
リツコは、自分でサーバからコーヒーを注いだ。
ミサトは、顎に手を当てて考え込む。
「それで、作戦部長はどうするの？ミサト」
「……まずは、雪の対策かしらね。でも、ここ十数年、日本に雪なんて降ってないから、まともに準備出来ないかも知んないわねぇ」
「ＥＶＡの方は簡単な作業で対処出来るから、安心していいわよ」
「頼むわよ、いざって時は……」
ミサトは軽い感じで言った。
葛城家のエアコンは、暖房で稼働している。
この街には珍しく、両用のエアコンだ。
アスカは、１人で部屋にいた。
（寒いのは嫌い……ドイツを思い出すから……イヤなことを思い出すから……）
ベッドの上で、毛布にくるまった。
「ただいま〜、アスカ帰ってる？」
「ただいま……」
ユウカとレイが帰ってきた。
アスカは部屋から出る気はなく、声すらも出さなかった。
「帰ってないのかなぁ……でも、靴があるからなぁ」
「寝てるのかも」
レイがポツッと呟く。
ユウカはなんとなく納得したようで、それ以上、アスカに干渉するのを止めた。
２人が他の話を始めたのを聞きながら、いつしかアスカは眠りについていた。
窓の外に、白いモノがちらついている。
誰よりも早く起きたユウカは、外の景色に目を奪われた。
「すっごぉい……真っ白だぁ」
深夜に降ったのだろうか、雪が辺りを覆い尽くし、今もまだ粉雪が降り続けている。
気温も低い……ユウカは、寒さに身震いした。
「うぅ〜っ、寒い……朝食にはスープ付けようっと」
ユウカは台所に向かった。
雪は、降ったりやんだりを繰り返している。
ユウカ達は、学校までの道を歩いていた。
踏みしめる雪の音が、キュッキュッと聞こえる。
「何か、歩く感じが変だね」
「うん……」
「アンタ達、もしかして雪って初めて？」
感心したように話すユウカとレイに、アスカは驚きの表情で問いかける。
「うん、実物見たの初めて。レイさんは？」
「私も……」
レイが頷くのを見て、ユウカはアスカに問い返す。
「アスカは見たことあったの？」
「まぁね。あっちじゃそれ程珍しくも無かったわ」
「うわぁ〜、すっご〜い」
思いっ切り感心するユウカの態度を見て、アスカは苦い表情を作った。
「……何か、バカにされてる気がする」
「私、本気で感心したんだけどな……」
ユウカが呟いた。
アスカは、全く気にせずに歩き出す。
教室に着くと、生徒の数は大体３分の１くらいだった。
「休み、多いね」
「来れないんじゃないの？アンタ達の様子からすると、ここ数年、雪なんか降ったこと無いみたいだから、交通が麻痺してるんでしょ」
アスカが面白く無さそうに言う。
「おっはよぉ、ユウカ、綾波さん、アスカさん」
「お早う、ユウカさん、綾波さん、惣流さん」
マナとマユミが連れ立って近付いてくる。
「おはよー。ねぇねぇ、マナとマユミさんは雪、初めて？」
「私は初めてだけど」
「私は、父の転勤先で何度か見てます」
マナとマユミがユウカの質問に答える。
「へぇ……マユミさんも初めてじゃないんだ」
「ユウカ……アンタ、いい加減聞いてる方が恥ずかしいから止めなさいよ」
アスカがイライラしたように言い放つ。
ユウカ達は、何も言えなくなってしまった。
第一作戦室……ミサトは、１人で考え事をしていた。
（あれが、『アダム』……”最初の使徒”……あれと使徒が接触すると、サード・インパクトが発生する、か……）
ミサトの指に挟まれたペンが、机を不規則に叩く。
「……何にせよ、今は使徒殲滅が急務よね……それでも、いつかはアタシにも知る機会があるのかしらね……」
「あ、葛城さん……こんなとこにいたんですか」
日向がミサトの姿を見つけ、中に入ってくる。
「どーしたの、日向君」
「司令が、葛城さんを呼んでますよ」
「……そう、ありがと」
ミサトは、淡々とした態度で返事をすると、ゆっくりとその部屋を出ていった。
結局、学校は休校……遅れてやってきたトウジ達、数名の男子生徒と共に、ユウカ達は雪遊びに興じていた。
最初は渋っていたアスカも、いつの間にか参加している。
何名かに別れて、雪合戦が始まっていた。
レイとマユミだけが、少し離れたところでみんなの様子を眺めていた。
「綾波さん、ユウカさんと一緒に住んでるんですよね」
「ええ、そうよ……」
マユミは、言うべきかどうか考え、それでも、重い口を開いた。
「ユウカさん、最近、何か変わったことでもあったんでしょうか？」
「どうして？」
「今のユウカさん……無理して笑ってるように見えるんです」
「無理して……」
レイも、確かにそれを感じていた……ただ、それを直接は聞けなかったのだった。
あの日、ユウカが母親の墓参りに行った、その時からだった。
レイは、いつかユウカが話してくれるだろうと、黙っているつもりだった。
「私達で、何かしてあげられる事って無いんでしょうか？」
「ユウカさんがそう言わない以上は、何もないわ」
「そう……ですよね」
２人は、それきり黙り込んでしまった……
ＥＰＩＳＯＤＥ：２０ Ｗｈｉｔｅ Ｆｅａｒ
雪が降り始めてから、すでに１週間が過ぎようとしていた。
積もった雪は２ｍから３ｍ……第３新東京市はその機能の８割を停止し、人々はよほどのことがない限り、１歩も外に出なくなっていた……いや、出れなくなっていたのだ。
事ここに至って、市民のシェルターへの避難が３日前から始まっていた。
捗らなかった避難作業は、今朝、ようやく終わりを迎えたのだった。
但し、ネルフの職員達だけは、本部に泊まり込みになっていた。
例外中の例外として、ユウカ達３人だけが、自宅待機だった……ユウカは、部屋の窓から外の景色を眺めていた。
「これが、銀世界ってヤツか……綺麗だけど、なんか淋しいね」
「……そうね」
隣に並んで立っていたレイが応える。
「このまま、雪で埋もれたらどうなるんだろ？」
「その前に、何かすると思うけど……」
「誰が？」
レイの言葉に、ユウカが聞き返す。
「赤木博士とか……」
「そっか……そうだよね」
そう言いながら、ユウカは外の景色に眼を奪われたままだった。
「結果は？」
リツコの元に来るなり、ミサトは単刀直入に尋ねる。
「もう１週間も停滞している雪雲なんて、自然現象じゃないわね。おそらくは使徒……でしょうね」
「いつもと違って断定的じゃないわねぇ」
「測定機器が全て通用しないもの……不確定情報だけの判断しか出来ないなんて、科学者としては、不本意極まりないわ」
リツコが溜息を漏らす。
「使徒がジャミングしてるってこと？」
「ええ……『ＭＡＧＩ』に現状で手に入る限りの情報を打ち込んで出させた、比較的まともな予測データならあるわ。これで何とかして、葛城作戦部長殿」
「……ＥＶＡの出撃準備と出撃口の確保、やっといて」
そう言いながら、ミサトは紙束を抱えてリツコの研究室を後にした。
街の上に居座る黒雲。
技術部の指導のもとに、手の空いているネルフ職員が総出で、射出口からの雪の排除を行っていた。
「冗談にもならねぇな……俺、雪掻きって初めてだぜ」
「俺もだ……そうは言っても、上の命令だし、やるしかないだろ？」
「ああ……早いとこ、あん中にいる使徒を、彼女達にやっつけて貰わねぇとな」
作業を行っている男達は、そんなことを話しながら手を動かしていた。
「とりあえずは、予測ポイントに向かって３機同時にポジトロンライフルで攻撃。雪雲さえ消せれば、光学情報から対策を立てられるから、戦闘を続行するかどうかはその時点で判断します。３人とも分かった？」
格納庫前、ミサトはユウカ達パイロットに、現段階での状況と作戦案を伝えた。
３人が頷き、出撃準備に入る。
その後ろ姿に、ミサトは呟いた。
「ゴメン……こんな作戦しか、今の状態では立てようもないの……」
結局、子供達に頼ってしまう……そんな自分を、ミサトは情けなく思った。
『そのまま、撃ち落とすってのはダメなのかなぁ……ユウカ、どう思う？』
「……分かんないけど、今までの使徒って、射撃が有効じゃないよね」
『そうね……』
アスカの質問にユウカが答え、レイが相づちを打つ。
『しょーがない、ミサトの言うとおり、とりあえずは雲を払い飛ばすか』
「そうだね、そうしよう……」
そう言いながら、ユウカは『彼』の記憶を手繰る。
（無い……こんな使徒、いなかった……どうすればいいの？）
今までの戦闘と違い、ユウカの心に漠然とした不安が鎌首を擡げていた。
３機のＥＶＡが、強制的に道路に積もった雪をどけた発進口から、地上に出現する。
「それにしても、目標の行動目的がどうもハッキリしないのよねぇ……リツコ、どう思う？」
「今は雪を降らせる程度だけど、もし、目標の冷気操作能力が絶対零度まで落とせるとしたら……」
「絶対零度?」
リツコは淡々と予測を語る。
「実際にはそれほどはいらないわ……あの目標の持つ物理攻撃力で破壊できる程度まで物体を凍結できればいいんだもの」
「それって、どのくらい？」
「そうね……明確な数字ではないけど、マイナス２００度前後ってところじゃないかしら」
「……先に生物が滅ぶわね、その温度……」
「本当に出来るとは言ってないわよ」
「……アンタが言うと、妙な真実味があるのよ」
「かもね」
ミサトとリツコの目は、メインモニターに向けられた。
「ＥＶＡ、攻撃を開始します！」
日向の声が、発令所に響いた。
ＥＶＡが、同時にポジトロンライフルを雪雲に撃ち込む。
３条の光が、雪雲を貫き、引き千切る。
そして、３角形の板に２本の紐を付けたような……カイト（西洋凧）に似た姿をした使徒が現れた。
『光学観測、開始します！』
『反応”青”、間違いありません、使徒です！』
『レイ、気を付けて！』
ミサトの声が飛ぶ。
使徒は、２本の紐状の触手をしならせる。
零号機がハッとしたように宙を見上げ……その瞬間に弾き飛ばされた。
『なっ、コイツ、速い！』
アスカがポジトロンライフルを撃った。
使徒は風に舞う落ち葉のように、フワリとその衝撃を受け流す。
『見た目より俊敏よ、２人とも注意して！』
フワフワと宙に浮く使徒。
『使徒を中心に、気温が下がり始めています！』
『大気中の水分が凍り始めました！』
『このぉぉぉぉぉぉっ！』
弐号機が撃つポジトロンライフルの光も、使徒は器用に避けてみせる。
使徒の触手は、ユラユラと動き……それが、弐号機の方に向いた。
「アスカ、来るよ！」
『分かってる！』
弐号機が横に動こうとするが、どうもその動きは鈍っているように見える。
「アスカ！」
ユウカの眼には、弐号機が白っぽくなっているように見えた。
『何で?ちゃんと動きなさいよ！』
しかし、誰の目にも弐号機の動きが遅いのが分かる程になっていた。
アスカの焦れたような声が聞こえる。
そして、弐号機の両腕は、いつの間にか貫かれていた。
『うっくぁぁぁぁぁぁぁぁっ！』
アスカの悲鳴が、ユウカの耳に響く。
初号機がライフルを向けた時には、使徒は弐号機の腕を切り裂いた後だった。
「強い……なんて強いんだろ……」
ユウカは、呟きながら攻撃を行う。
使徒の触手は目に止まらない速さで動くが、ユウカの意識には次の位置が”視えて”いたため、何とか避けることは出来た。
しかし、使徒が近付くたびに、初号機が動きにくくなっていく。
ユウカが初号機の腕を見ると、装甲に霜が降っていた。
「……?ＥＶＡが凍ってく?」
『ユウカちゃん下がって！作戦を立て直すから！』
「分かりました、ミサトさん」
牽制の攻撃をしながら、ユウカは初号機を収容口から撤退させた。
ブリーフィングルーム、作戦部と技術部の面々が集まっている。
冬月も、その場に顔を出していた。
「正直、洒落にならないわね……」
ミサトが溜息と共に呟く。
「一定距離まで近付くと冷気を発生させて、ＥＶＡの運動能力を低下させる。そうでなくても、あの尾のような２本の触手が厄介ね」
「ＥＶＡの装甲を破壊できるだけの硬度と、異常なほどの速さを持っています」
リツコのぼやきを、マヤが補足する。
「でも……ユウカさん避けてましたよね、葛城さん」
日向が、思い出したように言う。
「あの子、勘が鋭いからね……」
「普通じゃないのよ」
ミサトとリツコは、何の気無しに言う。
「では、お手上げかね、葛城三佐？」
冬月が疲れたように言葉を放つ。
「……いえ、零号機と初号機の２機を出撃させます」
「どんな作戦か、説明してくれないか」
冬月はミサトに、先を促す。
「初号機で目標を引きつけて、零号機で狙撃しようと思っています……理由としては、初号機は実際に目標との近接戦闘が可能と思われるからです」
「狙撃……か。しかし、ＡＴフィールドはどうする？それに、この気候で使える狙撃銃があるのかね？」
ミサトは、ここぞとばかりに声を大にする。
「幸い、技術部で新型の大出力ライフルを開発したと聞いてます。ＡＴフィールドは、初号機に中和させます」
「待って、ミサト！アレはまだテストも済んでないのよ?」
「現状では、これが多分、ベストよ」
リツコが動揺する。だが、ミサトは譲らなかった。
冬月が溜息を一つついて、決定する。
「……碇に訊いても言うことは同じだろう。葛城三佐、任せる」
「分かりました。赤木博士、再発進と大出力ポジトロンライフル改の準備お願い」
「……終了まで、４５分よ」
「猶予を含めて、６０分後に作戦を開始します。総員、急いで！」
ミサト達が慌ただしく出ていく。
１人残った冬月は、ポツリと呟いた。
「痛いイレギュラーだな……上手くいってくれよ」
「あーあ、弐号機が無事なら、アタシが行くんだけどな」
「アスカ、腕……大丈夫？」
ユウカが心配そうにアスカの顔を見る。
「ちょっと痺れてるだけよ、大丈夫だって」
フィードバックのダメージと、極度の温度低下によって、アスカの腕はギプスで固定されていた。
「良かった……じゃ、行って来るね」
「負けたら、承知しないからね！」
ユウカは、その言葉を背に、軽く右手を上げて応えた。
『ユウカさん、少しの間、お願い』
「大丈夫。しっかり引きつけておくから」
『……無理、しないで』
「……ありがと、レイさん」
ユウカはコックピットに落ち着くと、思考をまとめる。
（一番いいのは、あの尻尾を掴まえる事だろうな……”視えて”るうちは、多分大丈夫……よし、やってみよう）
決心すると、ユウカは深呼吸した。
『時間よ、ユウカちゃん。悪いけど……陽動と中和、しっかりね。レイ、チャンスは１回きりと思って』
「了解です」
『了解……』
ミサトが、作戦を確認する。
ユウカとレイは、素直に従った。
『先に、零号機を発進して、ポイント取り。そしたら、初号機を発進させるわ』
「いつでも、いいですよ」
そして、１０分が過ぎ、ミサトが号令を掛ける。
『……オッケー。ユウカちゃん、いくわよ。ＥＶＡ初号機、発進！』
初号機は、地上に向けて、射出された。
地上に出た初号機の前に、使徒が少し高度を下げてきた。
それでも、使徒の位置には、手は届かない。
触手が、唸りを上げて初号機に襲いかかってきた。
ユウカは、出来るだけ時間を稼ごうと考えていた……
山裾に現れた零号機は、巨大なライフルを構える。
『加速器、同調スタート！』
『電圧上昇中、過圧域へ！』
次々と入る、オペレーターの声。
それも、レイの耳には届いていない。
ライフルのスコープ越しに、レイの眼は初号機だけを見ていた。
使徒の攻撃を避けながら、距離を保って使徒の位置を固定する初号機。
いつ当たってもおかしくないほどの速度で繰り出される攻撃を、ギリギリでかわし続けるのを見て、レイの気持ちは焦る。
（まだなの？……早く……）
「まだ？……」
つい、口に出てしまう焦り。
そして……
『最終安全装置、解除！』
『全て発射位置！』
初号機の右腕に触手が絡みつく。
サイトが、使徒を中心に捉えた。
「狙撃、開始します！」
焦れたような声で、レイが言う。
ライフルの引き金を引く零号機。
「クッ……」
レイが歯を食いしばると同時に、反動がコックピットを揺らす。
強大なビームの光が使徒へ向けて伸びていった。
右腕を囚われた初号機。
その腕は、アッという間に凍らされる。
「クッ……凍らされたら、やられる！」
意識を右腕に集中して、完全に凍り付くのを避ける。
その時、ユウカは、彼方の山裾が光ったのを見た。
使徒がＡＴフィールドを展開する。
「させないっ！」
ユウカは、初号機のＡＴフィールドを利用して、使徒の展開したフィールドに干渉、中和させる。
光の槍が使徒に突き刺さり……閃光が、使徒と初号機を飲み込む。
光の十字架が天を突き、残っていた雲が完全に吹き散らされた。
数日ぶりの太陽が、第３新東京市を照らす……
「目標、完全に消失しました！」
「零号機は撤収。初号機の状況は？」
「……無事です！」
「そう……じゃ、初号機も撤収して」
そう言って、ミサトは安堵の溜息を漏らした。
発令所は、ＥＶＡの撤収と、事後処理のために騒がしくなる。
「どうした、碇？……気にくわないのか？」
「……別に、この程度のこと……後は頼む、冬月」
ゲンドウは、どこかしら不機嫌そうに席を立った。
冬月は、１人呟く。
「……どうも、ユウカ君と何かあったようだな……２人きりにさせるべきでは無かったか……」
闇の中、男達が集まる。
「御苦労、碇」
「……大したことではありません」
「今回の件、完全にイレギュラーだ」
「うむ、計画の遅れ……若干の考慮をしよう」
「これからも、上手くやってくれよ、碇」
「了解しました……シナリオのままに」
ゲンドウが、男達が消える。
１人、キールだけが残った。
「碇よ、お前の好き勝手にやらせるつもりは、もう無いぞ……」
その後ろには、細身の人影があった……
弐号機のケイジの前、アスカは１人、弐号機を見つめていた。
「……情けないなぁ……」
自嘲するアスカ。
「アスカ、帰ろ」
ユウカが後ろから声をかける。
半眼でそっちを見るアスカ……ユウカとレイが、少し離れたところに立っていた。
「……そうね、帰ろうか」
気持ちを切り替えて、アスカは歩き出した。
あとがき
今回は、完全なオリジナルです。
メインタイトル、「真夏に降る雪」……違和感のある言葉を選んだ結果です。
サブタイトル、「Ｗｈｉｔｅ Ｆｅａｒ」……直訳、「白い恐怖」。実際には、恐怖でもなかったですね。
雪雲に潜み、強力なジャミングを行う使徒。その姿は、ゲイラカイト（古い）に似ています。
倒し方としては割とオーソドックスに、ＥＶＡで使徒のＡＴフィールドを中和し、もう１機で攻撃、です。
中和されなければ、使徒のＡＴフィールドはほとんどの攻撃を寄せ付けませんから。
次回予告……攻撃をものともしない、闇のような球体の使徒。
その脅威は、やがてＥＶＡにも及び……
次回、『引き裂かれる闇』。
ユウカの運命や、如何に……
作成日付：２００１／０１／２４
改稿日付：２００１／０２／０５
感謝の言葉：
常夏の大三新東京市に降り注ぐ雪。
少しなら幻想的な風景でしょうけど、２、３ｍも積もったら邪魔なだけですね。
使徒に撃破されてしまったけど、アスカがあんまりショックを受けてないのが
救いでしょうか。
ユウカ＆初号機が強いせいで、怖さは少なかったですが、実際には
かなりの強敵だった気がします。近付くだけで動きが鈍るんじゃ、
初号機の非常識さ以外に勝ち目がありませんから。
レイとマユミはユウカの変化に気がついたようですが・・・。
ユウカの側から何か言うっていう状況には簡単にはならない気がしますね。
今後の子供達の心の動きにも要注目でしょう。
さ、続きが読みたいと思った人は感想メールで催促しましょう♪
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第２１話「引き裂かれる闇」に進む。
作者のＡＢＣさんへの感想メールはこちら（abebeabebe@ksn.biglobe.ne.jp）まで。
読者からの反響は作者のやる気を湧き出させます。
続きが読みたい人は、感想メールを送りましょうね。