「おっはよぉ、ユウカちゃん。ん〜、今日も美味しそうなお味噌汁♪」
「おはようございます、ミサトさん。……朝から缶ビールですか？」
穏やかな朝。
ミサトは、自分で冷蔵庫から缶ビールを取り出し、口を開ける。
食卓には、焼き魚と味噌汁、御飯が並んでいる。
ミサトは、缶ビールを片手に、味噌汁を口にした。
「あれ？ユウカちゃん、おだし変わった？」
「はい、こないだリツコさんがお土産でくれた鰹だしです」
「……」
レイは、何も言わずに食事を口に運ぶ。
彼女の前だけ、サラダが山盛りに用意してある。
ドタドタと走る音が聞こえる。
「ねぇ、ユウカ。ボディソープ無いんだけど」
「ちょっと待って、今行くから」
顔を出したアスカに応えて、ユウカが一緒に風呂場へ行く。
ミサトは、その様子を目で追って呟く。
「ホントに、ユウカちゃんって、我が家のお母さんね」
レイは、黙々とサラダを減らしていた。
ネルフ本部・実験室。
３人のパイロットは、試験用プラグの中にいた。
そして、制御室……ミサトとリツコがシンクロテストの様子を眺めている。
「ミサト、今日は御機嫌ね」
「ふふん、わっかるぅ〜」
気分よさげに鼻歌まで出るミサトに、リツコが訊いた。
「その原因、もしかして加持君？」
「……何でアイツの名前がここで出てくるのよ」
途端に不機嫌な顔になるミサト。
「あら、違ったの？」
「違うわよ。それより、どう？テストの具合は」
ミサトが話をすり替えようとする。
マヤが、その思惑に乗るかのように、嬉々とした声を挙げる。
「３人とも高いレベルで安定してます。いい兆候ですね」
「レイが６０強でユウカちゃんとアスカが８０足らず、か。まあまあ良さ気でない？」
ミサトが感想を漏らす。
リツコは、若干不満そうに見ている。
『ミサトさん、テスト、もう終わりですか？』
ユウカが尋ねる。
「そうね……リツコ、まだ続く？」
「いえ、今日はもういいわ」
「ってことよ。３人とも上がって」
ミサトの合図に、３人が答える。
『はい、解りました』
『了解……』
『もう終わり？あっけないわねぇ』
彼女たちの乗るプラグの排出処理が始まった。
ロッカールーム。
着替える３人の少女。
「ユウカ、最近調子いいじゃない」
「アスカには敵わないって」
ユウカとアスカがそんなことを言い合っている。
レイは、ユウカの後ろに近付いて声をかける。
「ユウカさん、先、帰るから」
「え？あ、レイさん。うん、分かった。アスカは？」
「んー、ちょっと行きたいとこあるから、寄り道してくわ」
「そっか。私も買い物とかしてくから、少し遅くなるね。晩御飯の支度、帰ってからでいい？」
「アタシは構わないわ。レイは？」
「私もそれでいい」
アスカとレイが了承したのを見て、ユウカは買う物を考え始めた。
帰りのバスの中、買い物袋を抱えたユウカは外の景色を眺めていた。
流れるように移り変わる街の灯り。
（綺麗だなぁ……）
その表情は少し淋しげでもあった。
第弐拾壱話 引き裂かれる闇
３日後……早朝から、第３新東京市は異変に襲われていた。
それは、朝日の中に、染みのように湧き出した。
白と黒のストライプに模様取られた巨大な球体……この世界のモノとは思えない、異質な存在。
突如現れたそれは、何をするわけでもなく、只そこに浮かんでいた。
非常警報が発令され、ネルフのスタッフも次々と集められていた。
発令所にミサトが飛び込むなり、状況を確認していく。
「富士の電波観測所は？何も言ってこなかったの？」
「探知してません。直上にいきなり現れました」
「パターン”オレンジ”。ＡＴフィールド反応無し」
ミサトはリツコに尋ねる。
「新種の使徒？」
「さあ……今の段階では何とも言えないわね。『ＭＡＧＩ』も判断を保留しているし」
「パイロットを待機させて。総員、第一種戦闘配置」
そう言って、ミサトは司令席を仰ぎ見る。
ゲンドウの様子は一切変わらない。
ミサトは、それを了承と受け取った。
３時間後、謎の物体の様子は全く変わらない。
「どうする気、ミサト？」
「……こっちから仕掛けてみるしかなさそうね。いいわ、エヴァンゲリオン発進！」
ミサトが出撃命令を下す。
３機のＥＶＡが、物体から若干離れた位置に現れる。
『まぁったく、出番まで随分待たせてくれるわね』
『初期配置につきました』
『配置完了』
３人の返事が聞こえた。
「とりあえず、３人とも現状維持……いいわね」
ミサトは、更に静観を指示した。
『何でぇ?こっちからつついてみればいいじゃん』
「とりかえしのつかない事態だけは避けたいの……目標近くの兵装ビルを展開、攻撃を開始して」
物体の近くにある兵装ビルから、機銃が、ミサイルが、降り注ぐように放たれる。
しかし、物体には全く効果がないようだった。
「ミサトさん、少し近付いてみましょうか？」
『……そうね、全機距離を詰めて頂戴』
ユウカの提案に、ミサトも同意して行動指針を立てる。
初号機は拳銃、零号機は大型ライフル、弐号機は手持ちの斧……スマッシュ・ホークを構えながら距離を詰める。
『武装から考えても、初号機が先鋒……零号機は線上に移動できるようにして、弐号機も接近して。こっちからの指示があるまで攻撃はしないでね』
「分かりました。初号機、接近します」
『零号機、了解』
『弐号機も接近開始するわ』
『アスカ、ユウカちゃん、気を付けてね』
ミサトの声には、僅かながら不安気な気配が伺える。
ユウカは、近付きながら思考を巡らす。
（呑み込まれるところまでは『彼』の記憶にあるけど……ハッキリ言って、呑み込まれたくないなぁ）
予定のポイントにたどり着くユウカ。
「ミサトさん、予定の位置に着きました……レイさんとアスカは？」
『零号機は配置完了、弐号機がちょっと遅れてるわ。くれぐれも指示があるまで待機よ、いいわね』
「分かりました」
ユウカが拳銃を構えて、物体の傍のビルに隠れている。
物体を直線でねらえるポイントに、零号機が待機していた。
『お待たせ、そっちが撃ったらすぐに出るわ』
アスカから通信が入った。
「うん。それじゃ……初号機、攻撃します！」
初号機がビルの影から滑り出て、拳銃を撃つ。
１発、２発、３発……物体に吸い込まれていく。
そして、その姿が薄れていく。
（……来る！）
ユウカが思った瞬間、初号機の足元に影がにじみ出た。
『消えた?』
『パターン”青”！使徒です！初号機の直下です！』
ユウカは影の範囲から初号機を離れさせる。
影の出現と共に、球体が突如現れる。
「距離を離します！」
叫びながら、広がり続ける影を避けるユウカ。
『ちょっと、何なのよ、コイツ！』
アスカがスマッシュ・ホークを構えたまま、その場に釘付けになる。
『攻撃します』
レイがライフルの引き金を引く。
銃弾が使徒に吸い込まれる。
『攻撃、効果ありません！』
『使徒の位置が下ってどうゆうこと?センサーちゃんと動いてるの?』
日向が、使徒の反応がおかしいことを告げると、ミサトが疑問をリツコに問いかける。
『急に分かるわけないでしょう?』
リツコが叫び返す。
使徒は、また消えかかっている。
「……レイさん！逃げて！」
使徒の姿が消えると、今度は零号機の足元に影が生まれた。
零号機は、ユウカの言葉に従って動き始めていたため、やはり、影から逃れられる。
『何で分かったの?』
ミサトがユウカに尋ねる。
「……多分、明確な行動に反応してると思ったんです」
『明確な行動？』
ミサトの声に、理解してない雰囲気がある。
リツコが口を挟んだ。
『あくまでも条件反射で行動しているってことね』
「そう思います」
『それじゃ、攻撃出来ないじゃない?』
「そう……なりますね」
その間にも、使徒の影はビルを幾つか呑み込んでしまった。
目前の使徒は、不気味に存在している。
アスカには、それがまるで、徴発しているかのように見えた……『どうせ、何も出来ないのだろう？』と。
『もういいわよ！とにかく、あの影に触れる前にブッ倒せばいいんでしょ！直接攻撃なら有効かも知れないし……って事で、アスカ、突貫します！』
痺れを切らしたアスカが、使徒に向かってスマッシュ・ホークを振りかざして攻撃する。
球体にスマッシュ・ホークの刃が触れる直前、その姿が消え失せる。
『また……どこいったのよ?』
「アスカ、危ない！」
初号機が弐号機の腕を取って、位置を入れ替える。
その位置には、使徒の影が生まれていた。
『ユウカさんっ?』
レイが叫ぶ。
初号機は、足首から下を影に呑み込まれていた。
『ユウカ、掴まって！』
アスカが弐号機の手を伸ばす。
ユウカは、そこに強大なＡＴフィールドを発生させて、弐号機を跳ね飛ばす。
『な、何考えてんのよ?』
「いいから！早く離れて！」
すでに、初号機は胴体半ばまで影に飲まれている。
「早く、アスカ、逃げて！」
『アンタを置いて逃げられるわけ無いでしょ！』
「早く！」
ユウカは、ただ早く離れることだけを繰り返す。
こちらからの通信が届いていないことを、アスカは悟った。
「……ミサト、撤退命令出して」
『アスカ?何言ってるの?』
「とにかく、撤退するわよ！」
『まだ、ユウカさんが！』
レイが異議を訴える。
「アンタも下がるの！今のままじゃ、アタシ達には何も出来ないんだから！」
『ユウカさんを見捨てるの?』
いつになく感情的なレイ……アスカは、感情を押し殺して答える。
「今は、そうよ……ミサト、命令は？」
『……分かったわ、アスカ。作戦は失敗、零号機、弐号機共に撤収して』
苦しそうに、ミサトは撤退命令を下した。
レイは、どうしても諦めきれずに食い下がる。
「葛城三佐！」
『レイ、命令よ……』
「……ハイ」
（ユウカさん……どうして……ユウカさんを置いていくなんて……）
レイは、コックピットで唇を噛みしめた。
苦い血の味が、口の中に広がっていった。
ＥＰＩＳＯＤＥ：２１ ＡＷＡＫＥＮ
使徒は、夕方になってもその場に佇んでいた。
その近くを飛行するネルフのヘリコプター……所属は、作戦部の物である。
ミサトが、ハッチを開けて使徒を睨み付ける。
その横で、日向がラップトップの端末を操作していた。
「葛城さん、目標に特に変化は現れてません」
「そう……」
ミサトの声に、感情は全く籠もっていなかった。
ヘリから送られる情報がモニターに次々と表示される。
淡々とリツコは手元のボードに何かを書き込んでいく。
マヤは、そんなリツコの態度に、僅かながら不信感を抱いていた。
「マヤ、パターンＧ−１６を重ねて表示してくれる？」
「あ、は、はい！」
自分の思いに捕らわれていたマヤは、慌ててリツコの指示に従った。
仮設発令所。
要請したＵＮ軍の包囲配置が完了した。
ミサトが軍用の双眼鏡で使徒の様子を見ている。
「葛城三佐、攻撃準備完了です」
青葉が報告する。
「了解、待機させておいて」
「はい」
ミサトは、指揮車輌の外に出た。
不機嫌そうなレイ。
そして、その横に立つアスカ。
「何故、ユウカさんを見捨てたの？……」
「さっきも言ったわ。あのままじゃ、アタシ達に出来ることはない、って」
「そんなこと、分からないわ」
レイは、非難の眼差しでアスカを見る。
アスカは、その視線から目をそらした。
「分かるわよ……何か手があったら、ユウカがただ『逃げろ』なんて言うわけ無いじゃない……」
「それでも！……」
激高するレイ。
アスカは、視線を戻して、正面からレイと向き合った。
「いい加減にしなさいよ！悔しいのも、やりきれないのも、アタシだって同じなんだからね！」
「２人とも、そこまでにして、少し体を休めておきなさい」
ミサトが割ってはいる。
２人が黙り込んで、お互いに視線を外す。
その頃、ユウカは眼を覚ました。
「ん……と、もう、１２時間か……維持モードに切り替えてから、もうそんなに経ったんだ……」
欠伸混じりに状況を確認する。
ユウカは、初号機が使徒の影に呑み込まれてから、すぐに内臓電源を生命維持モードに切り替え、そのまま仮眠していた。
「……最近、疲れてたから、ちょうどいいや、って寝ちゃったけど……結構経ったな。さて、何か出来るかな？」
ユウカは意識の網を広げていく。
初号機の様子を掴み、そして、周囲の状況にまで意識を伸ばす。
引っかかる感覚は無い。
「空間がかなり広いな……ま、いいか。何となく分かるような気がするから、そっちに行こうっと」
探索のための意識を戻し、今度はエネルギーとして、初号機の内部電源に注ぎ込む。
十二分に動けるくらいまで回復させると、初号機を歩き出させた。
「こっちに行けば、必ずぶつかる……帰らなきゃ、みんなのところへ」
初号機はどことも知れぬ空間を進み始めた。
深夜、仮設発令所となったテントの中では、作戦会議が開かれていた。
「……今までの調査の結果から、あの使徒の本体は影の部分で、あの球体が使徒の影にあたると思われるわ」
「影が本体？」
ミサトが疑問を投げかける。
リツコは、更に話を続けた。
「そう。直径６８０ｍ、厚さ約３ナノメートルのね。その極薄の空間を内向きのＡＴフィールドで支え、内部は”ディラックの海”と呼ばれる虚数空間……多分、別の宇宙に繋がってるんじゃないかしら？」
「小難しいことはパス。で、何をしようっての？」
「初号機のサルベージよ。方法はこう……現存するｎ２爆雷を全てあの影に投下、と同時に２機のＥＶＡでＡＴフィールドを使って使徒の虚数空間に１０００分の１秒だけ干渉、その時の爆発エネルギーで”ディラックの海”を破壊、使徒を殲滅し、初号機をこちら側に引きずり出す。ってところね」
「随分、無茶に聞こえるんだけど……パイロットは大丈夫なの？」
ミサトの表情に険が入る。
「……生命の保証は無いわ。初号機のサルベージ自体を優先します」
リツコは、感情など存在しないように、機械的に言う。
パン！と小気味いい音が響く。
ミサトの手がリツコの頬を叩いた音だった。
「パイロットの生命の保証は無い?ふざけないで！碇司令やアンタがそこまで初号機に拘るのは何故？ＥＶＡって何なのよ?」
ミサトが声を荒げながらリツコに詰め寄る。
リツコは視線を逸らして答える。
「貴女に渡した資料が全てよ」
「ウソね」
ミサトは吐き捨てるように言った。
「……どちらにせよ、他に出来る作戦は無いわ。それとも、貴女に初号機を救い出して、その上使徒まで殲滅できる良い案でもあるの？」
今度は、ミサトが黙り込む番だった。
「そんな作戦、どうして引き受けたの、ミサト?」
アスカがミサトのジャケットを掴んで叫ぶ。
レイも、驚愕の眼差しを向けていた。
「……リツコが言うとおり、他に何も思いつかないからよ……ただ救い出すには、あの使徒の能力は危険すぎる。殲滅だけ考えても、初号機は失うことになる。一応、初号機の救出と使徒の殲滅を同時にこなせそうな作戦である以上、やらざるを得ないわ」
「……ユウカさんが助かる確率は？」
「限りなく０に近い……でも、０じゃないそうよ」
考え込むアスカとレイ。
アスカがふっきれたように話す。
「……いいわ。可能性が０じゃないってんなら、ユウカの強運を信じて、やってやるわよ！」
「……絶対に、ユウカさんは無事に助ける」
２人は、強い決意を秘めた眼で、ミサトを見つめる。
「……最悪、あなた達自身だけでも、無事でいてね」
「何言ってるのミサト。帰るときは、４人で帰るのよ！」
「ユウカさんと、アスカと、私と、葛城三佐……みんなで帰るの」
「……そうね……アタシが弱気じゃダメよね……」
アスカとレイに、心の強さを見せつけられた格好のミサト。
２人から顔を背けて、こぼれる涙を拭った。
２機のＥＶＡが、使徒を挟むように立つ。
初号機の強制サルベージ作戦がいよいよ開始される。
「ＵＮ軍、攻撃体勢に入ります！」
青葉の声が、指揮車内に響き渡る。
「カウントダウン、開始」
ミサトが号令を掛けた……その時、使徒の本体・地上の影に異変が起きた。
「……感じる。目に見えないけど、ここなら壊せる……」
すでに赤く染まり始めたＬＣＬの中で、ユウカは意識を集中していた。
見えないＡＴフィールドを感じ取り、そこに近付いたのだった。
彼女の力は、あの日……相互換実験を境に、更に強くなっていた。
「無理矢理、壊すしかなさそうだな……さぁ、もう少しで帰れるよ、一緒に頑張って……」
後半の言葉は、初号機に優しく語りかけるように呟いていた。
『グゥオォォォォォォォォォォン！』
初号機の顎部拘束具が外れ、咆吼を挙げる。
ＡＴフィールドが生まれ、それはやがて右の拳を覆い尽くす。
初号機が右手を大きく引いて、真っ直ぐに突きだした！
それは、ＡＴフィールドごと、使徒の体を貫いた。
『何か聞こえる……』
レイがコックピットで呟いた。
『……何か、動物の声みたい』
アスカも似たようなことを言う。
指揮車の中では、全員が異変に注目していた。
地上の影に亀裂が走り、血のような液体が噴出した。
球体は、模様を失い、闇のような黒一色となる。
「何が起きたの?」
ミサトが思わず呟いた。
「まさか……そんなこと、あり得るハズが無いわ！」
リツコが驚愕の叫びを挙げる。
『グォォォォォォォォォン！』
咆吼が聞こえた……
影と共に、その上に浮かぶ球体にも亀裂が走る。
それは、内側から何かで叩かれたような感じを受ける。
そして、球体から腕が……初号機の右腕が現れた。
続いて、左腕も現れ、亀裂を大きく広げていく。
『グォアァァァァァァァァン！』
初号機が、球体を内側から真っ二つに引き裂きながら、咆吼と共に出現した。
『これがＥＶＡ……アタシ、こんなのに乗ってるの？……』
恐怖の入り交じった声をアスカが出した。
レイは、表情無く見据えている。
「何てモノをコピーしたの、私達は……」
リツコが半ば呆然として呟いた。
「ＥＶＡがただの『アダム』のコピーなんかじゃ無いことは分かる。でも、ネルフは、碇司令は、使徒を全て倒した後、何をする気なの？」
ミサトは、自問する……その答えは、すぐに出ないことだけはハッキリしていた。
『……ハァ……ハァ……初号機……使徒を……殲滅しました……』
ユウカの声が無線機を通して流れる。
だが、誰も答えられなかった……
ただ、ユウカの生還を祝福するかのように、朝日がさしていた。
完全に動きを止めた初号機。
エントリープラグの中、ユウカはついに意識を失った。
病院のベッドの上、ユウカは眠っている。
あれから２日……まだ眼を覚まさない。
傍らで心配そうに見守るレイ。
アスカは、窓辺に立って、そんな２人を見つめていた。
「……んん……」
身じろぎをした後、ゆっくりと眼を開けるユウカ。
「ユウカさん！」
レイが、ユウカの右手をギュッと握りしめる。
「ユウカ！」
アスカが駆け寄ってきた。
「……あー……お早う、レイさん、アスカ」
ボーっとした状態ながらも、笑顔を作るユウカ。
レイは、掴んだ手を自分の頬に寄せて感触を確認し、アスカはそのまま抱きつく。
「ふぁ？どうしたの？２人とも……何かあったの？」
２人の様子を訝るユウカ。
「何でもない……」
「そ、何でもないよ……おはよ」
姿勢を変えることなく答えるレイとアスカ。
ま、いいかと思い、ユウカは、一言だけ言う。
「お腹空いたね」
レイとアスカは、それを聞いて思わず顔を見合わせる。
そして、レイは微笑みを返し、アスカは大笑いした。
「やっぱり、無理だったね」
巨大な爆発の跡地、ここは、ほんの数秒前までネルフ第二支部があった所だ。
今は、プラグスーツを着た少年が１人、その中心に立っているだけ。
「『リリン』の力では、こうなるのが分かり切っていたんだけどね」
少年は、ゆっくりと辺りを見渡す。
その銀色の髪は風になびき、その真紅の瞳は、何も映していないかのようだ。
「さて、通信状態が復旧する前に帰ろうか」
そう言うと、少年の姿は薄れていった。
あとがき
今回は、ＴＶ第拾六話『死に至る病、そして』を元に書かれています。
使徒は、同じ動きはしません……結果、アスカを助けるために呑み込まれてしまいました。
「暴走はしない」のが、この作品の中での約束事ですので、ユウカには自力で帰ってきて貰いました。それでも時間だけは経ってしまいましたが……
それにしても、疲れてるから寝てしまうとは……呑気ですね。
ラストの部分、オリジナルアレンジです。
ネバダの、ネルフ第二支部……実験の結果、消滅してしまいましたが、では、その爆心地と思われるところにいた少年とは誰なんでしょう（笑）？
様々な事情により、ＥＶＡ参号機が本部に配属され、新たなパイロットが選出される。
それは、ユウカ達がよく知っている人物だった。
次回、『四人目の適格者』。
では、また、お会いしましょう。
作成日付：２００１／０１／２６
改稿日付：２００１／０２／０５
感謝の言葉：
えっと・・・最新の改訂版を戴いたのは３月２日ですので・・・。（＾＾；）
のんびりした日常風景、いいですね。
射撃の効果がないのをみて、「直接攻撃なら効果があるかもしれない」と
アスカが語ってましたが打撃力、という意味以上の何かがあるんでしょうか？
ちょっと、謎な部分な気がしました。
自力で帰ってきたユウカちゃん、疲れたといって寝てますが・・・
余裕の表れなのでしょうか・・・？
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第２２話「四人目の適格者」に進む。
作者のＡＢＣさんへの感想メールはこちら（abebeabebe@ksn.biglobe.ne.jp）まで。
読者からの反響は作者のやる気を湧き出させます。
続きが読みたい人は、感想メールを送りましょうね。